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金色の妖精と金属の扉

 寝床から離れいつもの串焼きを食べながら街を歩くトウニ。

何か魔王宛に伝えられることを探してはいるものの、中々思うような出来事に出会うことがない。

その内また連絡員が来るのではないかと冷や冷やしつつ横切る人を警戒する日々を過ごしていた。

魔王に伝えるべきことは戦局を変えるようなことだとわかってはいるが、だからといって何を伝えたらいいのだろうかと悩み続けていた。


 途方に暮れた彼は近くの飲み屋に入り賑やかな空気に触れ、そうする内に悩みは一旦忘れようという気になっていた。

「なんかおすすめの酒ちょうだい」

「おう。どうぞー」

「ども。うまいっすね、これ」

「ああ。おすすめだからな」

「なんか魔王軍との戦いって硬直状態にある感じするんすけど、なんか面白い話しないすか?」

「面白いねぇ」

「お兄さんお兄さん、それなら東側に行ってごらんよ」

「街の東っすか」

「そ。今東部で小競り合いが起きてるんだがそこにあの金色の妖精が来てるらしいぜ」

「こんじき?妖精ですか、へー人間側にそういう人外いるんすねぇ」

「ちげーよ、お前知らねぇのか。空間を自由自在に飛び回る剣士だ」

「そうなんだ。さぞすごいんですなぁ」

「興味なさそうだな」

「メルヘンに浸ってる場合じゃないからねぇ」


「この辺かな」

トウニは噂を頼りに街の東部まで来ていた。

人間の戦力について知っておくのは自分のためになると先の報告で明らか。

なにより、トウニはこの妖精に興味が湧いていた。

先程興味がなさそうにしていたのは、人前で興味を持つことはその手の話を知りたいという印象を与えてしまい、繰り返せば自分がスパイだとバレかねないと考えてのことだった。

「考えすぎかもしれんけど、目立たないに越したことはないよな。うし、この辺なら見晴らしがいいからよく見える。戦場はあそこか。ドンパチやってんなー。ん?あれか!」


 やや離れてはいるものの、金髪が陽の光に煌めいているのが見える。

噂で聞いた通り、上に下に自由自在に飛び回っている。

跳ねるようにではなく、ふわりと舞うように相手を翻弄しているようだ。

何もないところを掴んで急に軌道を変えたり、くるりと反転して天を蹴っては宙を舞う姿は美しい。

しかし妖精が舞う度に相手は切り刻まれている。

とらえどころのない動きに惑わされ、魔王軍の兵達はなすすべ無く地に伏せていった。

「聞いた話だと五大将軍の2人をあの妖精がやったんだよな。それも2対1で。そいつらが弱かったのかあれが強すぎたのかわからんけど、危険な奴だってことはわかる。見てる分にはキレイでいいんだけどなぁ。さーて。なんか飽きてきたし、帰るか。あれが金髪の妖精ね。よしよし、覚えたぞ」


「この間のお酒まだある?」

「おう。おすすめ品だからな」

「いっただきまーす」

「よー、兄さん」

「うす」

「前に紹介した金色の妖精は結局見たのか?」

「いや、見てないよ。東部まで行くのちょっと距離あるし、なにより危なそうじゃん」

「面白いもんないかって言うから教えてやったのに」

「あはは、すまんす。おっちゃんこの人にこのお酒あげてよ。自分のおごりっす」

「おっ、気が利くじゃねえか。しゃーねーな、興味がありそうな話し、聞かせてやるよ」

「やったー」

「金属の扉って知ってるか」

「バカにしてます?」

「はっ、やっぱ知らねーか。よーし教えてやる」

「なんすかその金属扉って」

「どんなに距離があっても別の場所と繋げちまう金属の扉を作れる魔法使いがいるって話だ」

「どこでもな扉っすね。それあったら魔王のもとに行って首切っちゃえば終わりなんじゃ」

「ああ、けどやらねーのはそいつ自身はあんま強くないからだって言われてる」

「へー。ちょっと待った。それってその扉をくぐれるのはそいつだけってこと?」

「おお、よくわかったな」

「その魔法、意味あんの?」

「便利らしい」

「その人がね」

「面白くねーか?」

「オチがつくのが良くなかった」

「話はオチがなきゃダメだろ。ははは」

「漫才やってんじゃねーんすけど」


 ほろ酔い気分で店を後にしたトウニ。

報告までに何か情報を得なくてはならない。

だが、あまり有用そうな話は聞けなかった。

段々めんどくさくなってきた彼は今日の寝床を探すことにした。

どこでも寝られる。

彼はそれが自分の特技であり、そんな自分に満足していた。

路地を進み突き当りを登ると、左右が出っ張りに囲まれた寝るのにふさわしい場所を見つける。

「はぁー、今日はここで寝るかぁー」

頭上に見える町の明かりが星のように瞬いている。

天に広がる星に足を向け寝転がった壁はひんやりと心地よく眠気を誘う。

彼は妖精を思い浮かべていた。

「あんな風に自在に飛び回れたら楽しいんだろーなー。こっちはせいぜい壁に張り付く程度。これでいったい何をしろってんだろーな。まったく、妖精さんが羨ましいってもんだぜ」

そんなことを呟いている内に彼は眠りに落ちていった。


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