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適当に始める異世界転移  作者: Tongariboy
バケモノの宴1 セレモニー

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02. その時、歴史が動いた


 いつもの串焼きを食べながら街を歩くトウニ。

報告できるものを探してはいるが早々見つからない。

その内に連絡員がまた来るのでは、と冷や冷やしつつ、横切る人を警戒する日々を過ごしていた。


 報告内容。

戦局に関わることと理解はしている。

だからといって何を伝えれば、と彼は悩み続けていた。



 途方に暮れた彼は、近くの飲み屋に入る。

賑やかな空気に触れる内に、悩みなんて一旦忘れようという気になっていた。

「なんかおすすめの酒ちょうだい」

「おう。どうぞー」

「ども。うまいっすね、これ」

「ああ。おすすめだからな」

「なんか魔王軍との戦いってぇ、硬直状態にある感じするんすけど、面白い話しないすか?」

「面白いねぇ」


 そこへ、ヒョイっと横に座るどっかのおっちゃん。


「お兄さんお兄さん、それなら東側に行ってみなよ」

「街の東っすか」

「そ。いま東部で小競り合いが起きてんだが、そこにあの《金色の妖精》が来てるらしいぜ」

「こんじき? 妖精ですか、へー、人間側にそういう人外いるんすねぇ」

「ちげーよ、お前知らねぇのか。空間を自由自在に飛び回る剣士だ」

「そうなんだ。さぞすごいんですなぁ」

「興味なさそうだな」

「メルヘンに浸ってる場合じゃないからねぇ」




「この辺かな」


 トウニは噂を頼りに街の東部まで来ていた。

人間の戦力について知っておくのは自分のためになると先の報告で明らか。

なにより、トウニはこの妖精に興味が湧いていた。

居酒屋で興味を示さなかったのは、それを繰り返せば自分がスパイだとバレかねないからだ。


「考えすぎかもだけど、目立たないに越したことはないよな。うし、この辺なら見晴らしがいいからよく見える。戦場はあそこか。ドンパチやってんなー。ん? あれか!」



 やや離れてはいるものの、金髪が陽の光に煌めいているのが見える。

噂で聞いた通り、上に下に自由自在に飛び回っている。

跳ねるようにではなく、ふわりと舞うように相手を翻弄している。

くるりと反転し、軽やかに天を蹴っては宙を舞う姿が美しい。


 しかし妖精が舞う度に敵は血にまみれていく。

敵とは魔王軍。

トウニにとっては味方である。

とらえどころのない動きに惑わされ、魔王軍の兵達はなすすべ無く地に伏せていった。


「聞いた話だと魔王軍の五大なんとかをあの妖精がやったんだよな。それも2対1で。そいつらが弱かったのかあの妖精さんが強すぎたのかわからんけど、危険だってことはわかる。見てる分にはキレイでいいんだけどなぁ。さーて。なんか飽きてきたし、帰るか。あれが金髪の妖精ね。よしよし、覚えたぞ」




 トウニは居酒屋に舞い戻っていた。

「この間のお酒まだある?」

「おう。おすすめ品だからな」

「いっただきまーす」


「よー、お兄さん」

「うす」

「前に紹介した金色の妖精は結局見たのか?」

「いや、見てないよ。東部まで行くのちょっと距離あるし、なにより危なそうじゃん」

「面白いもんないかって言うから教えてやったのに」

「あはは、すまんす。おっちゃん、この人にこのお酒あげてよ。自分のおごりっす」

「おっ、気が利くじゃねえか。しゃーねーな、興味がありそうな話し、聞かせてやるよ」

「やったー」


「《金属の扉》って知ってるか」

「バカにしてます?」

「はっ、やっぱ知らねーか。よーし教えてやる」

「なんすかその金属扉って」

「どんなに距離があってもだな、別の場所と繋げちまう金属の扉を作れる魔法使いがいるって話だ」

「どこでもな扉っすね。それあったら魔王のもとに行って首切っちゃえば終わりなんじゃ」

「ああ、けどやらねーのはそいつ自身はあんま強くないからだって言われてる」

「へー。ちょっと待った。それってその扉をくぐれるのはそいつだけってこと?」

「おお、よくわかったな」

「その魔法、意味あんの?」

「便利らしい」

「その人がね」

「面白くねーか?」

「オチがつくのが良くなかった」

「話はオチがなきゃダメだろ。ははは」

「漫才やってんじゃねーんすけど」



 ほろ酔い気分で店を後にしたトウニ。

報告までに何か情報を得なくてはならない。

だが、あまり有用そうな話は聞けなかった。

段々めんどくさくなってきた彼は今日の寝床を探すことにした。


 どこでも寝られる。

彼はそれが自分の特技であり、そんな自分に満足していた。


 路地を進み突き当りを登る。

壁の隙間に囲まれたいい寝床を見つける。

「はぁー、今日はここで寝るかぁー。ふぃー、ここ、頭が下の方がいいな」


 街の明かりが星のように瞬いている。

天に広がる星に足を向け、寝転がった壁はひんやりと心地よく眠気を誘う。


 彼は妖精を思い浮かべていた。


「あんな風に飛び回れたら楽しいんだろーなー。こっちはせいぜい壁に張り付く程度。これで何をしろと。まったく、妖精さんが羨ましいってもんだぜー」



 そんなことを呟いている内に、彼は眠りに落ちていった───





 目を開けるときれいな朝日が輝いている。

街を照らす光は、殺伐とした空気を一時忘れさせてくれる。

快い目覚め。

トウニは一日の始まりが素晴らしいスタートであることに満足し、腹ごしらえに向かった。



 出来ないことは仕方がない。

わからないことも仕方がない。

仕方がないのだから仕方がない。


 トウニはそう割り切っていた。

割り切ると苦しい課題の重圧はずいぶん軽くなる。

そうして毎日を健やかに過ごした。

街は相変わらず落ち着きはないが、慣れてしまえば活気に変わる。

彼はいつもの串焼きを楽しみつつ歩きだした。



 何かが起きる時。

多くの場合、気が軽くなり油断している時である。

最近覚えた大通りへ続く路地に入る。

突然、背後から声をかけられた。



「報告の時間だ」



 慌てふためくトウニ。

背後にはあの連絡員。

「おお、お久っす。い、いま、ここでですか?」

「そうだな、手間だが外に行くか。だが今は時間が惜しい。歩きながら話せ」


 トウニを突き飛ばすように押す連絡員。

しかし、もたつくトウニを追い越し、彼女は先を歩き出した。


「えっと、すごーく強い人たちがいるようで、金髪の妖精とか鉄のドアとか」

「そんな名だったか? こちらでも把握している。他には」

「えーと」

「前回の情報は良かった。お陰で大規模な作戦が動いている。もう引き返すことは出来ない。だがその最中、お前は何をしていた」

「いやぁ、情報って中々手に入らないものでして」

「だから現地に潜伏させたのだ」

「情報ってそんな簡単に取れるもんすかね。例えば、そういえばあなたなんて呼べばいいんです?」

「名前か。レンだ。レン・ラクインと呼べ」

「偽名じゃないですか」

「互いに共有した固有名詞であればなんでもいいだろう。周囲にバレなければいい」

「その名前じゃ正体バレバレっすよ」



 レンが立ち止まりトウニも止まった。

彼女は振り返ると同時にトウニの首にナイフを押し当てる。


「いい加減に誤魔化すのはやめろ。殺すぞ」

「そ、そんなことしていいんすか、情報元なくなっちゃいますよ」

「ああ。残念だったな。もうお前の存在価値はほとんどないんだ。今日はお前の情報次第で始末するか現場で判断するよう命じられている。今のお前の価値はその程度だ」

「そういうの、先に言わない方がいいすよ」

「最後に言うことがそれか。もう少し役に立つかと思ったのだがな」



 レンのナイフがトウニの首を切り裂く。



 そう思われた瞬間、街全体を揺るがすような轟音が響いた。

「な、なんですかね」

「これは……まさか、早すぎる!」


 彼女が驚いた一瞬の隙をついてトウニは逃げ出した。

路地は複雑に入り組んでいるが、土地勘が出来たトウニは上手く逃げる。

トウニを追うレン。

だが入り組んだ道に加え、先程の轟音で街中は混乱している。

彼女は思うように距離を詰められずにいた。


 しかし彼女は並の人間ではない。

状況を読み、悲鳴や叫び声の中を縫ってすぐに追いついてみせた。


 トウニの首を掴める距離にまで迫るレン。

慌ててトウニは横の路地に滑り込む。

後を追う彼女。

路地に飛び込むレン。

だがしかし、そこにトウニの姿はなかった。



「バカな、どこに行った?」

ありえない状況。

さてどうするか。

レンは想定外に直面したら、まず呼吸を整えることにしていた。


 周囲を観察する。

視界に入らない箇所はどこか。

物陰に入り込む余地があるか。

脇道の無い路地。

この視界の外には行けない。


 いや、1つある。

気づいた彼女は上を見た。

壁に目を走らせると、トウニはそこにいた。



 トウニは壁に吸い付くように張り付いている。

背筋から指先までをしっかり伸ばし、見るからに緊張した様子だ。


「お前、そんな能力があったのか」

「いやぁ、役に立たないと思って、言う必要もないかなって」

「その能力、どういったものなのだ?」

「た、ただ壁に張り付くだけっす。お一人様限定っす」



 観察は諜報員であるレンの得意分野。

トウニの髪、服などが壁に吸い付いている。

力の対象は、トウニが触れているモノである可能性が高い。


 そして、この力は重力操作のように思われる。

だとすればとんでもない能力だ。

それこそ、世界トップクラスの。


 冷静なレンは真相を確かめるべくトウニに質問した。

「お、おおお、お前、その力、どんな感じかもう一度言え。体感でいい。ちゃんと話せ」

「え? ああ、なんか壁が足元で空が地平線な感じで地平線が空って感じっす」

「わかるようなわからんような。だがやはり……だとするとこいつ……」



 トウニの能力がもし考えた通りなら、戦力として申し分ない。

その力がどの程度かにもよるが、しかしリスクもある。


 この男に魔王への忠誠心はない。

裏切る可能性は十分にある。

この情勢、新たに強力な敵が生まれることは避けたい。

ここで殺すべきか、それとも戦力として育てるべきか、彼女は悩んでいた。




───ずっと先の話。

彼女はこの時の決断を振り返ることがある。

トウニを活かそうとしたこと。

この決断が自分達の命運を大きく変えたのではないのか。

そう思わずにはいられなくなるのである───




 時は戻り、思考にふけるレンの耳に轟音が再度響き渡る。

「レンさん、これって何が起きてるんですか」

「ちっ、教えてやる。クゥエ殿だ」

「ああ、あの人。ここに来たのか」

「そうだ。魔王軍はこれから潜伏する。全軍だ」

「へー、あの時言った雲隠れをやるんすね」

「ああそうだ」


「だがその意にそぐわない者もいた。クゥエ殿はその筆頭だ。だが魔王様への忠誠は確かなもの。それ故に魔王様も悩まれたという。そして命じたのは囮だ」

「クゥエくんを?」

「他に誰がいる。戦って散ることを望む者は多い。彼らを引き連れたクゥエ殿がこの街に突撃をかける。その間に他の者たちは撤退し、潜伏する。ざっとこんなところだ」

「神風すか。見に行きません? 自分はすでに潜伏中だし、時間はあるっていうか」

「いいだろう。どのみち報告するつもりだったからな」




 街外れまで2人は来た。

魔王軍は相当な数で押し寄せている。

作戦は無く、ただの突撃。

無謀でしかない。

だがそこに勝機があるのでは、と思わせる存在がいた。

クゥエである。

彼はその大声と怪力で人間の防衛機能を著しく低下させることに成功していた。



「すごいっすね、相変わらずのデカい声。割と離れてるのにきついっす」

「そばにいる者はなぜ無事なのか。まあいいか」

「この感じだと、こっちの方は結構被害ありそうですね。人間側の方っす」

「だといいが。この街には《金色の妖精》や他にも強力な戦士がいる」

「へー」

「だがあの戦力だ。すぐ全滅とはならないだろう」

「串焼き屋さんは壊さないでほしいなぁ」

「お前なぁ」

「ん? あれ、なんすか?」

「何とはなんだ」

「クゥエくんに突っ込む黒い点が」

「黒い……点? あれは、まさか!」



 進撃を続けるクゥエら魔王軍。

そこに向かう1人の人間がいた。

真っ黒で長くクセのない髪の女。

重力に全く逆らおうとしないその髪が風に揺れると、まるで水に流した墨のようであった。


「あれはなんすか?」

「トウニ、きさまっ! この街にいてあれを知らんのか! あれは、あれは黒墨だ」

「クロスミさん? 知らんすね」

「パーなお前でもわかるように言ってやろう。あれは最強と名高いバケモノだ」

「うへー、人類最強ですか」

「違う。世界、最強だ。魔王様でさえ手を出すべきか悩むほどだという噂だ。これは⋯⋯残念だが、クゥエ殿では相手にならんぞ」

「まじか」

「まずい⋯⋯想定より早く動いたこともそうだが相手が悪すぎる。なぜ黒墨がここにいるんだ。北方に旅立ったと聞いたぞ」

「忘れ物、とか」

「くっ、ここで時間を稼げなければ潜伏に間に合わず、魔王軍の被害は増す。突撃したことが裏目に出たか。これは人間の猛攻を誘発する。元々それで勝てるのだ、意趣返しで来られたら終わりだぞ」



 レンは再び考えた。

あのバケモノを倒せる者は魔王以外にいない。

だが、もし可能性があるとすればこのトウニだ。


 この力を調べる価値はある。

自分が育てコントロールできれば魔王軍に勝機が、少なくとも状況の改善が見込めるかもしれない。

ささやかだが、希望が生まれるのでは。

彼女はそう考え、トウニを始末することを止めた。



「見ろ。クゥエ殿と黒墨がぶつかっている。どちらも格闘が主体。殴り合いだな」

「クゥエくん、押されてるね」

「怪力が強みなお方だ。ご自身の力を上回る存在に驚いているだろうな」

「でも楽しそうっすね。あの黒い方も」

「ふん、ああいう連中は本気で戦えるのが嬉しいらしい。私には理解できん」

「同感っすね」


 もはや見る価値はない。

戦場から目を離したレンはトウニの目を見据えた。


「直に勝敗は決するだろう。トウニ。聞け。お前は私と共に来い」

「もう、殺されないってことですよね?」

「一旦はな。この状況では仕方がない」

「仕方がないなら仕方がないすね」

「はぁ。これからどうなることか。せいぜい楽しみにしておけ」

「へいー」



 トウニは内心幸運だと思っていた。

金も尽きかけていたし、命を狙われることもなくなったと。

この幸運は朝日を見た時に決まっていたのかもしれない。


「お日様に感謝っすね」




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