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適当に始める異世界転移  作者: Tongariboy
バケモノの宴2

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19/20

18. レンの野盗習性観察レポート


「あれか」


 日が昇り始めた荒野を走る硬い風。

無理に髪を撫でつけられ、レンは顔をしかめた。

虎は砂埃で目を細めている。

だな、と相槌を打ち、さっさと岩陰に身を隠してしまった。



 村から出て調査を開始した2人。

入り組んだ地形を見つけ、用心のためになるべく高所を進む。

そして奥まったところで怪しい集団を発見した。


 岩陰から伺う先には粗暴な男達。

連中は踊りながら楽しくやっている。

非常に怪しい。

そんな野盗達を見ながら虎は少し嬉しそうにしていた。


「ラッキーだな。思ってたより簡単に見つかったぜ」

「アジトがあるとしたらここくらいだからな。やけに嬉しそうだな」

「とりあえず、どっかのやばい組織とかじゃなさそうだから」

「どうして言い切れる」


 虎は得意気に答えた。


「だってさ、そういうヤバい奴ってぱっと見で何か違うってわかるだろ。上手く言えねーけど、こう、シュッとしてるっていうか」

「言いたい事はわかるんだが……なんかトウニと話しているような気分だな」

「たまーに村に来るんだよ。ちょっとヤバい奴が。何でか知らんけど、コソコソしてるから追い出してる」

「ふーん」


 エトセの虎といえば生粋の武闘派として名高い。

その戦闘力は黒墨に追随するといわれるほど。

実際のところは不明だが、偽りのない強さ。

レンは諜報員として調査しておくべきと考えた。

目の前のバケモノを陥れる算段をする。


「何にせよ、構成や装備などわかる範囲で調べておこう。潜り込む。気取られるなよ」

「安心しろ。伊達に虎なんて呼ばれてねーから」



 なるほど確かに。

意識しないと消えたように錯覚するほど、彼は見事に気配を隠していた。

潜入も出来る。

これは相当優秀なのではないか。

頭は特別回るわけではないが、要領は良さそうである。

ああ、トウニと取っ替えたい。

レンはそんな願望が膨れそうになるのを堪えた。


 さて、問題はどうやって虎を野盗とぶつけるか。

わざと見つかり、隠れて観察するか。

だが見抜かれるリスクもある。

虎のように場馴れした強者ならなおさらだ。

どうしたものかと彼女は思案を続けた。



 レン―――



 突然自分を呼ぶ声に辺りを見回すレン。

まさか見つかったのかと一瞬頭をよぎる。

しかしレンの名を知る者はほぼいない。


 つまり知り合いの誰かである。


 気配を頼りに探すが見つからない。

風もしやの音か?

と思っていたら、岩陰からひょこっと顔を出すネコ。

ニコニコしながら、おいでおいでしている。


 合点がいき、少し離れて野盗を監視する虎を見る。

ネコには気づいていない様子。

レンはそそそっと岩陰に近寄った。



「レン、どうしてここにいるの?」

「村長から依頼を受けた。危険な連中がいるから調査してくれとな」

「へぇ、村長から依頼。ふーん、上手くやってるわねぇ」

「そういうお前は何をしているんだ」

「さんぽ」


 ニタリと笑うネコ。

素敵な嘘にため息で返す。


「虎と一緒だなんて、楽しそうね」

「荒野でさんぽする程じゃないがな」

「うふふ、調査は順調なのかしら?」

「アジトらしき場所は見つけたから順調と言えるだろう。街に潜入してバケモノ調査するよりずっと楽だ」

「そうねー。彼らは簡単な相手だと思うわ」


 含みのあるものいいを訝しむ。


「その物言い、調べが済んでいるようだな」

「目に入ったからつい、ね。対処できそう?」

「もし村を襲ったらか? そうだなぁ、私だけなら問題はない。だが村の防衛となると事前準備がものをいうだろうな。それ次第だ」

「村人に被害が出ないようにしたいのね」

「その方が報酬がいいだろう。合理的だ」

「合理的ねぇ。だったら盗賊に襲わせて、村の物資を横からもらっていけばいいのに」

「そんな蛮族になどなれるか。私は、私は……なんだろう、この感覚」


 突然の頭痛に頭を押さえ、岩へもたれかかる。

ネコは手を出さない。

冷ややかな目。


「どうしたの?」

「いや、頭が急に……ぼーっとする。くっ、こんなこと初めてだ」

「そう。大丈夫よレン。直に収まるわ」

「あ、ああ。うっ……と、とにかく、人間を襲ってまで物資を得る必要もないだろう」

「ふふふ、そうね。じゃあがんばって」


 そう言うと、ネコはしなやかな動きで岩陰から姿を消した。




 青い顔のままレンはふらふらと戻る。

「花でも摘んできたのか?」

「荒野の希少な花を摘みに行くなどもはや別目的だろ」


 気の利かない気遣いをいなす。

詰め寄られると面倒なので話題を正面の野盗に移した。


「動きは?」

「ねぇよ。ああいう連中って毎日何してんだろうな」

「確かに。生産性のある事をしているわけでもない。しかし毎日集落を襲うわけでもない。そして都合よく現れる習性。ふーむ、真面目に考えると謎が多い。”野盗の生態”。論文に出来そうな議題だ」

「真面目に考えんなよ。適当に言っただけだっつーの」



 思いの外人数が多く、頭痛も酷いため、一旦引くことを決めた。



「ある程度の人数はわかったぜ。頭っぽい奴もいた」

「野盗の頭領か。よし、情報収集としてはまずまずだな。装備も大した事はなさそうだし、うっ」

「急に頭抱えて大丈夫か? なんか顔色悪いぞ」

「すまん、さっきから頭の痛みが酷くてな」

「マジか、頭大丈夫かよ」

「その言い方が頭にくる」


 これでもトウニよりましか?

と考えるといっそう頭が重くなるレンであった。





―――村に戻った2人は村長に報告した。

村から北西に数時間の所。

入り組んだ地形。

野盗と思わしい集団はそこに陣取っていた。


 数は数十人、武装は刃物や鈍器。

寝床などは見られず、そこらでざこ寝。

料理はしない。

だが常に誰かが食事をしている。

知性は低そう。

とにかく騒ぐ。

謎の踊りを踊る習性あり。

みんな意外と仲が良い。



 レンのレポートを読み終えた村長の口は半開き。

得意げな彼女を見てしばらく考えこんだ。

虎は、俺はこの辺で、と言ってどこかへ行ってしまった。


「いいのか?」

「ん? あ、ああ、構わない」

「そうか。野盗に関してだが、どうする?」

「経験による勘だが、この野盗は近い内にここに来るかもしれん」

「その兆候は特に感じないが」

「勘だよ。でだ、村の守りをちょっと補強したいから手伝ってもらいたい」

「わかった」

「よし。では私は村の状態を確認してくる。また後ほどな」


 そう言って村長はどこかへ行ってしまった。

1人取り残されたレン。

頭痛はだいぶ良くなっていた。

そしてトウニのことを思い出し、村の中を探しに行った。





 少し遡り、レン達が調査に行っている間のこと―――


 ぽかぽかと太陽が照らすエトセ村。

時折吹く強い風と朝日を浴びながら、トウニは村でゴロゴロしていた。


 彼は考えていた。

この村はダメだ。

なぜならば、世界から取り残されているからだ。

なぜだめなのか。

串焼きがないからだ。

そんなことありえるのか。

いやありえない。

そうだろう?

あなたはありえると思いますか?

目の前を通った人に目で問いかけるトウニ。

妙な視線に戸惑う村人は、目を合わせないように去っていく。


「どうした客人」


 そこへ現れたのは村長。

どうしたのかと問われて、この村に何もないからつまらない。

と素直に答えるほど野暮なトウニではない。

彼の表情を読み取った村長は、気さくに続けた。


「何にもないだろ?」

「そすね」

「ははは、正直だな。虎小僧が気にいるわけだ」

「トラっちですか」

「調査へ出る前にな。お前さんのことを親しげに語っていた」

「珍しいんで?」

「どうかな。人懐っこいやつだから珍しくはない」

「ほへぇー」


 のどかな村に吹く風が、今日は少し強い。

砂が舞い、居心地が微妙に悪いトウニ。

すかさず見抜く村長。


「家に来い。お茶くらいは出してやる」

「では遠慮なくー」


 その時。


 トウニの脳裏にレンの声がよぎった。

”いいかトウニ。簡単に相手の誘いに乗っちゃダメだぞ。頭を使うんだトウニ。ほいほいついて行っちゃいけなんだからな。わかったかトウニ、ついて行っちゃダメなんだからな、ダメなんだぞー”


 ふっ、と軽く鼻で笑う。

わかっているさ。

問題などない。

問題なのはこの砂埃。


 置いてくぞー、という村長に、あいー、と適当に答えるトウニ。

脳内のレンはあっという間に霧散してしまった。




 村長の家は狭かった。

昨日は気にしていなかったが、家具を始め、いたる所に傷がある。

床も軋んでいる。


「ああ、痛んでるだろ? 全部虎小僧がやったんだ。わんぱくなんだよあいつ」

「トラっちと一緒に住んでたんすか?」

「住んでたというか、よく預かってたんだ。保護者としてな。昔、俺が拾ったんだ」

「そっか。トラっち、よかったすね」

「そう思っていてくれたら嬉しい」

 

 村長は手際良く、かつ適当にお茶をいれた。

ほらよ、と出されたお茶はまずかった。


「この村をどう思う?」


 突然の問いにトウニは素直に応えた。


「なんもないっすね」

「そうだな。何も無い。なのに人はいる」

「それ、昨日老人たちから聞いたっす」

「そ、そうか。じゃあ、えーっと。あ、俺って昔は結構、名うての……興味なさそうだな」


 話題性の乏しいこの狭い空間。

茶をすする村長。

机の傷を目でなぞりながら、砂埃の方が良かったかもしれないと思うトウニであった。




―――そして調査から2人が戻ってきた現在。

トウニと合流したレン。

状況の確認を行う。

何か新しい情報はあるか、村の様子はどうだったか。

なんもなかったっす、という正確な答えに頭痛が蘇った。



 日が傾き始めたころ。

村長に呼ばれたレンとトウニと虎。

野盗の対策として、警備を強化するように指示を受ける。


「村を囲う柵に簡単に補強を行う。人の出入りが容易に出来ないように隙間を埋めるんだ。レンとトウニは北側。俺は西、虎は南だ」

「東はいいのかよ」

「そっすよ」

「いいんだ。全部固めたら出入りできないだろ?」


 ふーん、りょーかい、と2人は納得しても持ち場へと向かった。


 レンは村長を見つめている。

彼も見返した。

鋭い視線が交差する。

先に口を開いたのは村長だった。


「何か問題でもあるのかな」

「問題ではないが、あなたは……いや、なんでもない」

「言いたいことははっきり言った方がいいと思うぞ」

「……それもそうだな。この手のことにずいぶん手慣れているようだ」

「なんだそんなことか。周りを見てみろ。無防備でいられるほど優しい土地じゃないんだ」


 肩をすくめる村長。

はぐらかされている。

この男の素性がわからないまま、踏み込んで聞くのはリスクがある。

自分が持つ情報を嗅ぎ取られてしまうかもしれない。

だが、聞くタイミングがいつもあるとは限らない。

彼女は、ここで聞くべきだと判断した。


「確かにな。だがあなたは、教養があり、しかも虎の師匠だと聞いた。元は傭兵だったのか?」

「ははは。ま、そんなところさ。納得か? さあさあ、準備に移るぞ。そう遠くない内に来るかもしれんからな。出来ることはしておきたい。無抵抗の人間が襲われるなんて嫌だろ? それとも、人間の命に興味はないか?」

「いや、まさか。人の命は大切だ。うっ……また、頭痛が。き、北だったな、任せておけ」


 片手で頭を抱え、北へと向かうレンを静かに見守る村長。

「倫理を問うと頭痛を起こす、か。人としてはいい兆候だが、今は踏ん張ってくれよ」




―――その夜。


「あれか」


 荒野を走る硬い風。

無理にモヒカンを撫でつけられ、野盗は顔を喜ばせた。

フードの女は砂埃のせいでもなく、目を細めている。

あれね、じゃあよろしくねー、と言ってそそくさと夜に紛れてしまった。


「ふぅ、さぁて、パーティタイムといこうじゃねーかよっ!」


 メンチ切った野盗たちは、こっそり夜の荒野を進むのであった―――




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