そうだ、モーフトンへ行こう
キラキラ力を増したレンは結局モーフトンまで来てしまった。
金色対策は進まずどうやって街に入るか検討した結果、当然金色を連れて行くことはできないので仕方なくトウニにお使いを頼むことにしたレン。
「いいかトウニ。このレポートを渡すんだ。渡すだけだからな。余計なことは何も言うなよ?」
「ガッテンショウチ」
「ぜーったいしゃべるなよ、わかるな?」
「大丈夫っす。今後は寡黙なトウニの異名が響き渡ることでしょう」
「ああ不安だ、しかしこれしか今取れる方法がない。この、この忌まわしいキラキラさえなければ...」
「坊主にしたらいいんじゃないですか?」
「やだ」
「なんで」
「これでも女の子だもん」
「これでもって辺り、自覚あったんすね」
「自分の性別くらい当然だろう」
「じゃなくて横暴なとこ」
レンの手を借り寡黙になったトウニは彼女に託されたレポートを持ち、彼女が見えない場所で荷物をまとめ始めていた。
そんなトウニを見つけた金色が歩み寄ってくる。
「あらトウニ君はお出かけ?」
「ういっす」
「どうしたのその顔」
「変装っす」
「力技ねぇ」
「うす」
「さっきレンが探してたわよ」
「もういやっす」
「行ってきなさいな。きっと寂しいのよ」
「であるならば」
「荷物は見ててあげる」
「よろっす」
レンから諜報員との連絡方法を聞き荷物を背にトウニはモーフトンへ向かった。
モーフトンへ入った彼はまず指定された場所に行く、ということもなく久方ぶりの自由を満喫していた。
街を巡り目当ての店、モーフトン串焼き店を探し歩く。
ついに見つけた噂で聞いた串焼き。
まるで毛布や布団に包まれたかのような分厚い衣が特徴の串焼きに彼は満足し、ゆっくりと空を眺めた。
思えばこの世界に来てからもっとも自由な時間を過ごしているのではないか。
彼はそう思い横になるとそのまま眠りについた。
あくびを1つ、彼は起き上がる。
自由とは責任が伴うものである。
何もしなければ何も得られない。
そのままでいれば追い詰められるのは当然のことである。
しかしトウニにとっては細事でしかなく彼はブラブラし始めた。
いつものように串焼きを買いに行く。
「おっちゃん、どうもー」
「お、昨日の兄ちゃん。また来てくれたのか。待ってろ、もうじき焼けるからな」
「やった。この街ってなんか面白いものあります?」
「なんだ、ここ来たの始めてか」
「そうなんすよ」
「そうだなぁ。1つある」
「おお、聞きたいですな」
「それはなぁ、うまい串焼きがある」
「間違いないっすね」
「はっはっは!おし焼けたぞ」
「じゃあお代はここに置いときますー」
「おう、毎度あり」
「いただきまーす」
串焼きを頬張りながらまたブラブラと歩く。
この街は往来が賑やかで活気のある街だった。
3つに区分けされており西側は住宅地で東は商業が盛んである。
南は少し狭いが工場などが立ち並び、中心にいくほどそれらが混ざり合って活気に溢れている。
そして街の中心はホールなどの娯楽施設が多くある造り。
トウニはモーフトン東側の中心に近いところでのんびりしていた。
広場に来たトウニは芝生の上でゴロゴロして過ごすことにしていた。
伸びをすると最近の旅で疲れ切った身体が気持ちよくほぐされるような心地を得る。
遠くに目をやると大きな水柱が登っているのが見えた。
数人がその水に押し上げられており、どことなく楽し気な様子が伺える。
耳鳴りのように騒いでいる声も耳に届く。
「楽しそうじゃん。なんかのアトラクションかな。いいなぁ、こういうのんびりした時間って至福だ」
「そうだな」
「え?あ、薪割りさん」
「よう」
トウニの前に現れたのはかつて斧を担いで襲ってきたバケモノの王だった。
斧は持っておらず偶然街でみつけた知り合いに尋ねるような様子に特に警戒心もなくトウニは話しかけた。
「なんでここにいるんすか?」
「特にあてもなくフラフラしてたらこの街に着いたんだ。奇遇だな」
「とかいって追ってきたんでしょ?」
「なんだわかってたのか」
「レンさんが言ってましたから」
「そのレンはいないのか」
「外で待ちぼうけっす」
「なんでだ?もしかしてまたバケモノを避けるため?そういや冬の向日葵と噴水もここに来てるって噂だしな。それを警戒するのは当然か」
「全然違いますな。来ないのは今キラキラしてるからですな」
「何いってんだお前?」
「キラキラの妖精さんと一緒なんすよ」
キラキラはわからないが薪割りは妖精という言葉にピンときた。
だがもしそうなら、と一層わからなくなり彼は困惑した。
「それって金色のことか?お前らあいつと一緒にいるのか」
「そす」
「おいおい、俺が言うのもなんだがなんで一緒にいるんだ。どういう状況だよ」
「まぁ色々ありまして」
「お前らってほんと変わった奴らだな。ふーん、あいつもまさか。だとしたら見逃せんな。トウニ、能力の方はどうだ?」
「ふふふ。あの木を見ていてください」
トウニは木に近寄っていくと能力を使い木の側面を歩いていく。
薪割りは興奮気味にトウニの動きを見守った。
「おう。それで?」
「いきますよ。よっと。枝!」
「...しまったなぁ、斧持ってきてねーや。まあ枝を切り落とすくらい素手でもいけるか」
「いやいや!真っ二つとか、これ序の口っす!ここからがミラクルすよ!」
「ほんとかぁ?」
「そういえば斧戻ってきたんすね」
「ああ。降りてきた斧をしっかりと受け止めたんだ、俺は...アレも喜んでいたよ。本当によかった...」
「斧が喜んでるとか。気は確かか」
「お前のせいだろ。で、ミラクルって言うからには斧飛ばす以上のことが出来るようになったんだよな」
「もちろん。準備するのでちょっと待ってください」
「ふぅー、待つのは構わんが期待外れだったら真っ二つだからな」
「きっと期待通りですよ」
「よーし」
「じゃあ、ちょっと後ろ向いててください」
「こうか?」
「そす」
薪割りが背を向けるやいなやトウニはその場を去った。
その気配に気付いた薪割りはすかさず振り返りトウニを睨みつけながらその後を追う。
彼はトウニが騙そうとしたことに少なからず苛立つ。
しかしすぐにその表情は緩み彼の纏う殺意は霧散した。
「ははっ!おいおい飛んでるじゃねーか!」
「うっす」
トウニは地面と並行して自由落下していた。
あたかも空中を飛んでいるかのように。
「いいぞトウニ。今回のは面白かった」
「期待に応える男。それが四天王トウニである」
「四天王?魔王軍ってそういうの好きだよな」
「かっこいいんじゃないすか?」
「まぁ、悪くはないかな」
「ふふふ、この右目に宿ったよからぬ何かが今日も暴れ出す」
「...ちょっとついていけないがお前が魔王軍に属してるってことはよくわかった」
「そういえば自分お使いの途中でしたわ」
ふとカバンをみると蓋が開き中身が軽くなっていた。
来た方を見てみるといくつか自分の荷物が落ちている。
「まずいっす」
「どのくらい?」
「...余命数日」
「そのカバンに入っていたレンに託された大事なモノがない、と」
「お察しの通り」
「俺の要望に応えてくれたし手伝ってやるか」
レポートを紛失してしまい心底焦るトウニに見かねた薪割りは手伝うことにした。
2人は夕日が照らしだすまで探したが見つからず、トウニは自身の寿命が沈み始めた夕日の如く短いことを悟った。
「自分このモーフトンで余生を過ごすことを決めました」
「それは構わんがレンもここに来るだろ。どうするんだ?」
「新たに得た力、平行自由落下で逃げ続けるっす」
「トウニ、それは無理だと断言できるぞ」
「短い人生だった...」
「あの、トウニさんでしょうか?」
「そです」
「あ、おい」
「こちら落とされました?」
「あい」
「ですよね、お名前が書かれていましたので」
「おお、そうっす。自分こそがその名もトウニである」
「丁度お名前を呼ばれていましたので。見つかってよかったです」
「あざっすー。命の恩人ですわ」
「そうですか」
トウニはどこか冷たい空気は漂わせる親切な美女からレポートを受け取った。
しかし彼は気づいていなかった。
彼女が空気よりも冷たい殺気を放っていることに。
「おいトウニ」
「なんすか?今美女と楽しく未来設計について話してるので邪魔しないでほしいのだが」
「そいつ、お前らの言うバケモノだぞ」
トウニにとってはレンも含め周囲はバケモノばかり。
いまいちどう感じていいものかわからずにいたのでそのまま立ち尽くしていた。
この場でトウニを殺されてはつまらないと思った薪割りは間に入りその女、冬の向日葵を牽制する。
「薪割りさん、ごきげんよう」
「ああ。噴水とこっちに来てるって噂で聞いてたよ」
「匂いにつられて来てしまいました。当たりですか?」
「どうだろうな。こいつ魔王軍の匂いするか?」
「いえ。そのレポートからです。気になって中を読んでしまいました」
「プライベートの侵害をする美女に心外っす」
「なんだこれ」
そのレポートの表紙には大きく"見つけかたへ。トウニというフラフラしている男が落とした物です。これは私達の旅を記した大切な思い出の品です。拾いましたら彼へお返しください"と書かれていた。
「お前全然信用されてないな」
「そのようですね。確実に落とすと見込んでいたのでしょう。内容も差し障りのないものでしたよ」
「実は暗号化されているとか」
「そこまでは分かりません。ただこれ、金色さんが書いたんですか?魔王軍や金色さんやその男に加えてあなたまで。色々な思惑が混ざっていてどう判断すべきか迷っていまして」
「金色は確かに関わってるみたいだが、なんであれだとわかるんだ?」
「だってほら」
レンが書いたレポートには彼女と思われるデフォルメされた女の子の絵が挿入されていた。
そして絵が描かれた箇所の内容に沿って"ここがポイント"、"大事なとこよ"、"もー大変だったんだから"といったコメントが添えられている。
もちろんその子はとてもキラキラしている。
「そういえばキンイロさんにカバン見てもらってたっけ」
「レンが不憫に思えてきた」
「それで薪割りさん。その人は何なんですか?あなたが一緒にいるということはただの人間かもしれませんがそうでもない様子。いまいち状況がつかめないので説明をお願いします」
「ほぉ、俺に説明を求めるか。そんな義務はないんだがな、向日葵」
「では薪割りは魔王軍に付いたと噂されても構わないのですか」
「ははは、それも面白いかもな。だとしたらどうする。俺を殺してみるか?魔王軍が俺達をバケモノとひっくるめて呼んでいるが俺とお前じゃ格が違うだろ。雑魚が粋がるなよ」
「言ってくれますね。身についた力が少し優位なものだったからといって調子に乗っているとその内痛い目をみますよ」
そういう彼女の足元から氷が広がっていく。
「ひまわりパレード」
ひざ程の高さまで伸びた氷の向日葵が花畑の如く伸び薪割り達を囲いだす。
退路がある内に薪割りは手刀で振り払りつつ後方に飛ぶ。
レンに襲われ続けたトウニは磨いた本能でいち早く危険を察し薪割りより早く後方へ落ちていた。
「逃げられませんよ。それに下手に斬ると尖った茎が危ないですよ。ふふふ」
「ちっ、面倒なやつ。あーあ、斧持ってりゃもっと楽なんだがな」
「じゃ、薪割り師匠あとよろっすー」
と言って後方へ自由落下していくトウニ。
「あ、おい!ったく、お前のせいで逃げられちまったじゃねーか」
「想い人に避けられるとは悲しいですね。涙が流れないように凍らせてあげましょう」
氷の向日葵畑が広がっていく。
周りにある建物の壁や街灯など、そこにある全てのモノから縦横無尽に向日葵が咲き誇る。
見渡す限りの氷の世界でだた1人、違う色彩を放つ薪割りは呼吸を整え軽く身構える。
「いい加減舐めた口を閉ざしてやろう。いや、二度と喋らんように首をはねてやる。おい向日葵、仲良しの噴水も並べてやる。その間腐らんように氷で自分の棺桶でも作っておけ」




