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第十四話「長生き」

<――数多くの“願い人”からもたらされる膨大で深刻な願いに対し

全知全能の力と慈愛の心を持ち、時に厳しく時に優しく

“願い人”達の願いを叶え続けていたかれは……今日も今日とて

悩める“願い人”達の願いを聞き届ける為、その優しき心と耳を傾けていた――>


………


……



「神様、仏様、菩薩様……誰でも良いから頼みますッ!!


大体で構いませんから! どうかお願いです

二百歳位まで長生きさせて下さいッ!! ……」


………


……



「全く……良くも此処まで“良くある願い上位”が続く物だ。


基本的に君達人間は寿命の“折返おりかえし”を迎えた辺りから

体の様々な部位がおとろえ“生きて居るだけで精一杯”と成るのだよ?

……にも関わらず、何故不用意に長生きばかりを望むのか。


無論“死を望む”よりは何千倍も良い事なのだが

実際に“永きとき”を過ごしている私には全くもって理解出来ないし

そもそも……今、君はとても失礼な願い方をした。


君達人間からは決して“見えない存在”である以上

誰に頼み、誰に頼んではいけないとは言わない……だが

“誰でも良いから”とは失礼だとは思わないのかね?

例えば、君が願った願いに対し――


嗚呼、今日は画面モニターの調子が悪くて“願い人”の姿が見えないな……よし

誰に叶えても同じだろう。


――などと私が言い始めたら

世の中は見る見る内に混沌に包まれ……」


<――辟易へきえきとする程にもたらされ続ける“良くある願い”と

それを願った“願い人”の映し出された画面モニターへ向け

辟易へきえきとした表情を浮かべつつそう言ったかれ


だが――>


………


……



「お願いだ……神様仏様菩薩様。


俺は……俺は……ッ!!!

“ペロスケ”に先立たれたら……もう、生きて行く気力が付きてしまう。


だから……どうか頼みます。


俺の大切な家族である“ペロスケ”を……“犬年齢”で構いませんから

二百歳位まで長生きさせて下さい……」


<――病気のたぐいか、あるいは寿命であるのか

いずれであれ、間もなく訪れるであろう“永久の別れ”を思ってか

愛犬ペロスケ”の体をさすりながらすすり泣いて居た“願い人”

そんな“願い人”に対し、力無い声で数回、小さく吠えた彼の愛犬ペロスケ


だが、愛犬ペロスケの発した言葉の意味を知る由も無い

“願い人”は――>


「……そうだよな。


痛いよな……苦しいよな……ごめんな……ッ……

分けてやれるならいくらだって俺の寿命を分けてやる。


だから、俺を一人にしないでくれ……ペロスケ……ッ!! 」


<――“願い人”は愛犬ペロスケの“願い”をあやまった形でとらえて居た。


飼い主であり、家族であり、相棒でもある“願い人”に対し

愛犬ペロスケが本当に伝えたかった事。


それは――>


………


……



“アキラと過ごした時間……僕は幸せだったよ。


でも、何時かはさよならしなきゃ駄目な時もあるんだ

今日がその日だったって事……だけど、お願いだからもう泣かないで。


僕は、何時も笑顔で僕をでてくれるアキラが好きだから。


最期の最期に、アキラが悲しむ姿を見てお別れするのは嫌だから……”


………


……



<――この時

正しき形では届かなかったペロスケのメッセージ……だが。


最早もはや息をする事すら苦しいだろうペロスケはそれでも一切諦めず……


……尾を振り、愛嬌のある姿を見せ

“アキラ”を安心させようと……失う悲しみから“アキラ”を救おうとして居た。


そんなペロスケの健気な様子に一瞬、顔を背けた“アキラ”は


直後、ペロスケに対し――>


………


……



「……良し、ペロスケ!

明日はお前の大好きな“トゥルルン”をお前が食べたいだけ買ってくるぞ!

買って来た奴全部食べられる様に、今日は大人しくしてるんだぞ?

三〇本入り……いや。


“大容量! 六〇本入り”を買って来てやるからなぁ~っ? 」


<――そう言って満面の笑みを浮かべた。


後ろ手に拳を握り締め……悲しみを押し殺し

ただひたすらに、笑顔を浮かべ……優しい嘘をげたのだ。


一方、そんな彼らの様子を見て見て居たかれは――>


………


……



「……私が作り上げた動物の寿命は短過ぎたのだろうか。


本当に済まない……私も完璧では無い様だ。


だが……生命の時間に手を加えると言う事は、すなわ

世界の“ことわり”に亀裂を……」


<――と、葛藤をしていたかれの右側に

突如として黒い亀裂が入った――>


………


……



「な、なぁおまえ……そ、その……さ。


おまえが前に作った“借り”の事なんだけど……今日、返してくれないか? 」


<――黒き亀裂の中から現れた


“受話器”


其処から発せられたのは……“死神”の声であった。


だが、その声は妙に緊張をして居て――>


「……死神、済まないが

今は“願い人”への対応を考えていたんだ。


だが、私に彼の願いは叶えられそうも無くてね。


正直な所……」


「……待てよ。


その“願い人”の件で“借りを返して欲しい”って言うか……その……」


「……ん? 」


「いや……“ん? ”じゃねぇよ!!

俺の所為にすれば良いし、実際に俺も力は貸してやるから

あの飼い主と犬の寿命に“均衡バランスを取ってやろう”って言ってんだよ!!

何で理解わからねぇかなぁ~ッ?!

ホント、お前は真面目過ぎだって……」


「……ん? 」


「いや、だから“ん? ”……じゃねえってば!!

どうすんだよ?! ……早く判断しろっての!! 」


「わ、分かった……だが、本当に良いのか?


……その力を行使すれば死神キミの力は一時的に弱まり

冥府そちらを管理する為の労力と安定性が……」


「そんな事はどうでも良いから早く許可を出せっての! ……」


「あ、ああ……だがしかし……」


「“だがしかし”も“案山子カカシ”もあるか馬鹿ッ!!

俺が良いって言ってんだから早くしろってんだよこの真面目馬鹿ッ!! 」


<――直後

受話器越しに声を合わせ呪文を唱えた“二神”の力に

意図的な奇跡は“起こされた”――>


―――


――



「……ペ……ペロスケ……懐かしいのぉ。


“トロロン”が復刻するらしいぞぉぃ……あれは確か……


お前の……好物じゃったじゃろうて……」


「ワフッ……ワフッ……」


「おぉ……そうじゃったそうじゃった……あの日

嘘の様に若々しく成ったお前は……ワシが“約束”を果たすまで……

ワシの財布をんだまま離さんかったなぁ……


結局、ワシが根負けして――


“大きくなって新発売! 一二〇本入り”


――を買って帰ったのも覚えておるが

結局お前は……いつもより少し多めに食べただけじゃった。


昔から……欲の無い所が……お前の面白い所じゃったよ……」


「ワフッ……」


「……そうじゃのぅ。


何だか今日は眠いのぉ……あぁ、そうじゃ。


天国と言う場所があるのならば……ワシら二人は

“トロロン”食べ放題と……“梅昆布茶”飲み放題がええのぉ……」


「ワフッ! ……ワッフッ! 」


「あぁ……もう眠るとしようかのぉ。


さぁペロスケ、ワシの所に来るんじゃ……


もし、今直ぐに召されようとも……一緒に過ごせる様にのぉ……」


「ワフッ……」



――


―――


「……人間には“流行”と言う物に流されて動物を飼い

それが過ぎれば無責任に手放し

次の“流行”と成った動物を飼う者も居ると聞く。


だが……それまで飼われて居た動物ものに取って

最愛の者から突如として放棄され“保健所”と呼ばれる場所で

死を待つ事と成るおぞましいまでの恐怖を

そう言った者の頭では理解出来ないのだろう。


想像主たる私がその人間を作り違えたのかも知れないが、

それでも、私はその様な者ですら“傷つけよう”とは……


……“命を奪おう”とは思わない。


もし仮に、互いに言葉が通じていたならばそうは成らなかったのだろうか?

いや……たとえ言葉が通じていようとも

思いを“正確に伝える”事は何よりも難しいのだ。


そもそも……あのとき、君達二人から感じた“深い繋がり”は

言葉と言う壁を越え、互いを深い愛で包み込んだ。


その結果……死神かれに取っては一切の得も無い筈の“借り返し”として

顔を真赤にしてまで君達を救う為動いたのだ。


死神かれは……もしあの時

私の力だけでそれを行えば、世界の崩壊をまねくと知って居たのだろう。


そして恐らくは

私が君達の事を救えない事実に“不甲斐無さ”を感じていた事も。


君達二人の最期に立ち会った今日と言う日に……私は

死神かれとの間にある不思議なえにしと似た物を君達から感じた。


……その“仕事柄”誤解されやすいが、死神かれは心根の優しい

私などよりも遥かに真面目な良い神なのだよ。


そして、互いに同じ“言語”を話している筈の彼も私も

互いに“本心”を伝える事が苦手でね。


……分かるだろうか?


君達人間から“全知全能”とあがたてまつられている私達神ですら

“伝える事の難しさ”に頭を抱える事がとても多い事が。


だが、それでも

君達の様に悲しむ者達を少しでも減らす為……


……無論“言葉”では決して伝えられないが

ペロスケの様に人類の“相棒”と成る道を選んだ者達の寿命は

少しずつ、世界にひずみが現れぬ様に

長き物へと変化させていこうと考えている。


私が不用意に短く作ってしまった生命の時間は

少しずつ……だが、必ず修正していくつもりだ。


その為にも、私は……もっと多くの願いを聞き届けよう」


===第十四話・終===

次回は7月16日に掲載予定です。

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