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第十二話「透視」

<――数多くの願いに耳を傾け

叶えようと動き“願い人”達の様々な心の揺れ動きを

何時もと変わらぬ優しき眼で見つめ続けていたかれは……今日も今日とて

悩める“願い人”達の願いを聞き届ける為、その優しき心と耳を傾けていた――>


………


……



「俺に……俺に……透視能力を授けてくれ! ……神様ッ!! 」


………


……



「は~っ……またしても“良くある願い”が訪れた様だ。


この手の願いは大抵の場合――


“風呂をのぞく”


“衣服だけを透けさせる”


“相手の手札をぬすみ見る”


――などの取るに足らない物だ。


仮にも私の姿をして作ったはずの君達人間は

何故かそう言った突拍子も無い事をよく考えるが

創造主である私が、君達人間にその力を付与していない理由を

是非とも一度、考えて欲しい物だ。


そもそも、そんな事がまかり通ってしまえば……」


<――日々、かれの元へと滝の様に降り注ぐ“願い人”達の願い。


その中でも群を抜いて多い部類に入る“この手の願い”に

かれは、辟易へきえきとした様子で

画面モニターに映る“願い人”に向け滾々(こんこん)と

決して届く事の無い説教を続けていた。


だが――>


………


……



「……あの日、大喧嘩の末に俺の元を出て行った

たった一人の大切な娘が……未だ連絡の取れねぇあの子が……


……せめて、生きているかだけでも知りてぇんだ。


神様、一度限りで構わねぇ……だからどうか……」


<――幼き娘の写った写真を手に

“願い人”である彼は、涙ながらにそう願って居た。


だが――>


………


……



「……“連絡が取れない理由ワケ”など、君の心に聞けば分かる筈だ。


君は……先立った妻への想いと悲しみを正しく“消化”せず

酒や賭け事に逃げる事で“誤魔化し”続けた。


そして――


“私、そんなお父さんの姿を見続けるのはもう辛いの……お願いだから

元の優しいお父さんに戻って!! ”


――そう、ただひたすらに願い続けた愛娘に対し

正しく向き合う事すら放棄した……残念だが、君の様な者を

今と言う時間を輝しく生きている彼女に引き合わせる事も

その消息を知らせる事さえもするべきでは無いと私は思っている」


<――願い人である男性の“これまでの行い”を見た上で

“願い人”の願いを受け入れぬ判断を下そうとしていたかれ


だが――>


………


……



「……あの子は妻に似て気立てが良くて

どんな辛い事にも“えようとする”性格をしてるんだ。


……もしも生活に困ってて

俺を生き写しにした様な野郎の所で耐え忍んでいたなら

全てをけてでも、俺がその野郎から救わなきゃ成らねぇ……


……それが今の俺に出来る、最初で最後の娘孝行だと思ってる。


“一緒に暮らして欲しい”とか“俺の事を許して欲しい”とも言わねぇ

そもそも俺が一番それを言って良い様な人間じゃねえとも分かってる。


ただ……娘が

いや……娘と呼ぶのさえ嫌がるならそれでも良い。


ただ、あの子が幸せに暮らせるなら

俺は、この生命さえ惜しくはねぇッ!! ……」


<――自らの行いを悔い

ただひたすらに娘の幸せの為と願った“願い人”


そんな男性の姿に――>


………


……



「……酒や賭け事に逃げ、荒れ狂った姿を見せ続けた挙げ句

“改心したから一緒に暮らしてくれ”……と願う者の多くは

自らの行いにって立ち行かなくなってしまった生活の柱を……いや。


“寄生先”を探しているに過ぎない。


だが……少なくとも今の君は“その必要が無い”程の生活を送っているし

賭け事は勿論の事、酒さえも完全に辞めたと見える。


……良いだろう、本当に君の願いを叶えるべきか

一度、君の事を試そう――」


―――


――



「はぁ~っ……アイツが好きだった俳優がまさかの不倫とはな。


アイツが生きてたら、どれだけ嫌悪感をあらわにしてたんだろうな……」


<――持ち帰りの容器に包まれた食事に手を付けながら

画面モニターに向け“嫌悪感”を顕にしていた“願い人”……


……だが、次の瞬間

彼は、画面モニターに映し出された広告映像コマーシャルに釘付けと成った――>


………


……



《……伝説級大ヒット!!

あの、純粋可憐な至高のアイドル“ミウ”が全八箇所大規模ツアーを開催ッ!!

チケットのお問い合わせは! ……》


「な……何だ?


今のアイドルは……まさか?!


いや……馬鹿だな俺も。


他人の空似だよな……娘が出て行ったのは七年も前の事だ。


大体俺は最近、若い子の見分けが付かなく……」


<――直後

画面モニターに再び同じ広告映像コマーシャルが流れ――>


「……う、嘘だ。


あり得ねぇ、あの子と同じ位置にホクロが……それに

声だってあの子にそっくりで! ……」


<――直後

食事の手を完全に止めた彼は――>


「いや……幸せに過ごしてるなら、俺みたいなモンが出る幕はねぇや。


ミウ……俺みたいなクソオヤジの事は忘れて

どうか幸せに暮らしてくれ、陰ながら応援して……っと、いけねぇッ!


……神様、お陰様で娘の元気な姿を見る事が出来ました

俺みたいなモンの願いを聞き届けて下さりありがとうございました。


これでもう、心のしこりも取れました……後は、あの子の幸せを願うだけです。


もしあの子の為に必要なら、俺の全てを取って行っても構いません

あの子が生涯幸せである様に……その偉大なるお力で

どうかあの子の事を御守り下さい……」


<――力強く手を合わせ、一筋の涙を流すと

かれに対しそう祈りを捧げた“願い人”


そんな男性の様子に――>



――


―――


「……君は愛する存在を失ったあまり

自らの分身であり、愛したものの分身でもあるそんざい

酷く傷つけてしまう間違った態度を取り続けた……だが。


一方的にあきらめ、二度目の“過ち”を選ぶ様な事があってはならない。


……今、君の思う“成功者”となった君の娘が

壊れゆく君を見続ける事に耐えられず、君の元を去ったあの日を思い出し

心の底で今もなおその選択を後悔をし続けている彼女から

君は、断じて目を背けてはいけない――」


<――言うや否や

一度ひとたび、大きく手を振り上げたかれ

“願い人”の“ある”確率を大幅に増やした――>


―――


――



「……大人気アイドル、ミウがこの後生出演ッ! 」


………


……



「今回の楽曲はミウさんが作詞作曲をされたとの事で……」


………


……



「この度、ファンクラブの会員数がアイドルとしては異例の……」


………


……



「……駄目だ、連絡は出来ねぇ。


だ、だが“ファンクラブ会員”に成る位なら迷惑は掛けねぇ筈だ……」


<――日に日に増して行くメディアへの露出

そして、その姿を目の当たりにする過剰なまでの“頻度”に

耐えられなく成った彼は、電子計算機パソコンの電源を入れるや否や――>


「良し! ……これでゴールド会員に成ったぞ!

これが……少しでも良い。


ミウの生活の足しに成ってくれりゃあそれで良いんだ……」


<――年会費の最も高額な“ゴールド会員”の契約をしながらそう言った。


だが……男性に取っては些細ささいな行動だった

この選択こそが後に繋がる事をこの時の彼は知らなかった――>


………


……



「ん? ……新発売のシングルがゴールド会員限定パッケージで買えるだと?

そんなの……“両方”買うに決まってるだろ!

保存用と布教用と聞く用と……あぁ~めんどくさい!

取り敢えず……一〇枚ずつだ! 」


<――この日

何気無く公式サイトを開き、詳細ページを開く事も無く

当たり前の様に限定品と通常品を複数購入した男性。


だが、数日後……そんな彼の元へ一通のメッセージが送付された。


そのメッセージとは――


この度は、ミウ最新シングル

明日あすへの活力丼かつりょくどん

ゴールド会員限定パッケージを購入頂き有難うございます。


……さて、厳正なる抽選の結果

お客様は“特賞”の当選と成りました事をお伝え致します。


詳細は下記のページよりご確認下さい”


――と言う物であった。


直後、当然の様にそのページを開いた彼は――>


………


……



「……駄目だ。


絶対に駄目だッ!! よりによって何で――


“特賞、ミウと二人でお食事会”


――なんて物が当たるんだよ?!


駄目だ……絶対に会わねぇと決めたんだ。


成功者に成ったあの子に俺みたいなのが会っちまったら

週刊誌やらにどんな噂を流されるか分かったモンじゃねぇッ!

俺みたいな奴の所為で、ミウを傷つけるのだけは……」


<――頭を抱え

どうする事も出来ず居た彼は


この直後、静かに電話を取り出し――>


………


……



「すまんな兄ちゃん! ……じ、じゃあな!


……これで良い。


これで、俺はこれで……良いんだ、ミウ」


<――“当選辞退”の旨をファンクラブ運営に伝えた後

ソファーに電話を放り投げると、静かにうつむきながらそう言った男性。


だが、その“異質な行為”は本人の耳へと伝わった――>


………


……



「……何で断ったか、理由とかは仰っしゃられなかったんですか? 」


「え、ええ……


それが――


“俺には会う権利が無ぇんだ、俺は見てるだけで良いんだ。


って……い、いや違うな!

カッコつけただけだ! 本当は見せるのが恥ずかしい顔してるだけだから

気にしねぇでくれ! ……す、すまんな兄ちゃん! ”


――そう仰っしゃられた直後

一方的にお電話をお切りに……」


<――マネージャーらしき男性にそう伝えられた“ミウ”

直後、彼女の表情は見る見る内に曇り始め――>


「……あの。


私に……その人の住所か、電話番号……それも駄目なら

ユーザーネームじゃ無くて“本名”を教えて貰う事って……」


<――誰の目にも明らかな程の異質な表情を浮かべ

マネージャーらしき男性を問い詰めたミウ……だが。


彼女の異質な様子に“何か”を感じ取ったマネージャーは

“個人情報取り扱いの厳しいルール”を盾にこれを全て拒否した。


だが、尚も折れず問い続けた彼女の態度に

わずかに折れたマネージャーは

彼女に“ユーザーネーム”のみを伝え逃げる様にこの場を去ったのだった。


……だが、彼女が知る事と成った“名前ユーザーネーム”は

彼女の感じた違和感を、真実へと導く事と成った――>


「……“ユミラブエクスプロージョン”って。


絶対そうだ……絶対、この名前は……」


………


……



「……さぁ! 後一〇分で

ゴールド会員様限定“ミウ生放送カウントダウンライブ”が始まります!

コメントの準備は良いですか~っ! 」


<――大晦日

電子計算機パソコンの前に正座していた“願い人”である男性は

ライブ開催までのカウントダウンに釘付けと成っていた。


……二分後、予定通り始まった“ライブ”は大盛り上がりを見せ

いよいよ、新年を数分後に控える時刻と成った時――>


………


……



「……画面の向こうの皆さ~んっ♪

今日は、私ミウのカウントダウンライブを見てくれてありがとぉ~っ♪

何時もすっごく支えてくれているファンの皆さんの事が

私はとっても大好きで~すっ♪ 」


<――アイドルぜんとした発言トークで場を盛り上げ始めたミウ。


この後も終始アイドルに徹していた彼女……だが。


突如として、その時は訪れた――>


………


……



「……今年も残す所あと一分ですが

此処で大切なファンの皆さんにお知らせがありま~す!


……私、ミウのゴールド会員限定パッケージ購入者限定キャンペーンの

特賞を辞退された方がいらっしゃるとの情報を

少し前、マネージャーさんから聞かされました。


あっ、でもでも! ……怒ってるとかそう言うのでは無いんです。


ただ、その方が辞退をされた“理由”が

私にはとっても悲しかったので

今この場でちゃんとお伝えしておきたいんです――


私と対面するのが“恥ずかしい”って事で辞退された会員さ~ん!

私は、どんな貴方でも恥ずかしいとは思いませんよ~っ!

私はこれからも沢山のファンの皆さんを幸せにする為に頑張りま~すっ!


――だから、そんな姿を

今までと変わらず“肉親の様な気持ちで”応援し続けて下さいね~っ!


勿論、他のファンの方達も自分の事を卑下ひげしちゃ駄目ですからね~っ?

皆のアイドル、ミウとの約束ですからねぇ~っ♪ ……」


<――この日、新年を迎えると同時に

“アイドルとして”思いの丈を伝えきった彼女の輝かしい姿は

“願い人”である男性は勿論の事

数多くのファンの心を温かく包み込んだと言う――>


………


……



「ミウ……お前は最高の娘……いや。


最高のアイドルだ……これからも応援してる……からな……っ……」



――


―――


「……どれ程少なく見積もったとしても

君の誠意と後悔の念は彼女に伝わったと見て良いだろう。


言い切れる理由もしっかりとある……彼女は

長らく君の“良し悪し”を見続けて来た君の娘だからだ。


直接言葉をわさずとも、彼女は君の今を知り

今の君が彼女の望む姿へと戻っている事を知った。


……やがて、君達のあいだに雪解けが訪れる事を願っている。


私は変わらず……決して届く事の無い私の言葉と共に

君達を包む慈愛の心を届けようと思う。


その為にも、更に多くの願いを聞き届けて行く事を

君達に誓おう……」


===第十二話・終===

次回は7月2日に掲載予定です。

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