小話 ある白猫の夢
「よし、完成だ。名前をやらんとな。お前はミア、お前はレオだ」
この言葉と撫でられている感触が、ワタクシの記憶の始まり。
クルトの温かくて少しゴツゴツした手が心地よくて、優しい笑顔が大好きで、ワタクシはこの人に創ってもらえたことを感謝していた。
それは弟のレオも同じ。
『ミア、オイラたちお城に行くんだろ?』
『そうよ。ワタクシたちはお城を守るために創られたのだもの。しっかりお勤めしないとね』
ワタクシたちはクルトから色々なことを聞かされていた。
ノルデンベルギシアのモーンテリア王家の特注により創られたこと。
純度の高い魔石を瞳として埋め込まれていること。そして、クルト自身が母国を愛しており、王家を守ることが国民を守ることと疑わなかったこと。
ワタクシたちは出発の日を楽しみにしていた。
そして、王家に運ばれる日。
雲ひとつない青空の中、ワタクシたちやほかの装飾品などを乗せた荷馬車が出発した。木箱の隙間から、遠くなっていくクルトを見続けた。これからの使命感が揺らぎそうになったけれど、ぐっと堪えた。
『楽しみだな、ミア』
『レオったらそればっかりじゃない』
隣の木箱に入っているレオはお城に行くのをとても楽しみにしていた。それはもちろんワタクシも同じだったけれども。
しかし、その気持ちはいとも簡単に踏みにじられることになった。
家を出発して3日目、山間の崖道を通っているところで、荷馬車が賊に襲われたのだ。
嘶きが聞こえ、馬車は急停車した。
荷台が左右に揺れ、何人ものガサツな足音が聞こえたかと思うと、それが近づいてきた。
「これはすげぇ!高く売れそうだ!」
髭面の中年の男と目があった。なんと品のない顔をしているのかと思ったのも束の間、ワタクシは首を掴まれてしまった。痛みこそ感じないけれど、振り落とされたら割れてしまうという恐怖が頭を過ぎった。
その時、他の賊が隣の木箱を開けようとした。
『ダメ!』
"レオだけでも守らなければ"
ワタクシは天に願った。
レオを助けて欲しいと。
私はどうなっても構わないから力が欲しいと。
その瞬間、晴れていた空が突然曇りだしたかと思うと、雷鳴が轟き、滝のような雨が男たちを襲った。
賊たちは慌てて荷馬車から退散した。
『ミア!ミアー!!!』
レオの聲が荷馬車の中から聞こえた。
よかった。彼が無事で。
安堵感からか、ワタクシの意識は雨と雷の轟音の中に消えていった。
『どうか、レオは幸せに』
私は最後の力を振り絞って言葉を紡いだけれど、きっと彼には届かなかっただろう。
ここからワタクシの300年に渡る放浪の旅が始まった。




