林田大学
屋敷の一室では一人の男性が目を覚ました。
「ここは……どこだ?」
老人の名は林田大学である。彼は布団の中で横になっていた。
「確か……俺は……」
林田大学が思い出そうとした時、「目が覚めたか」という声が聞こえた。林田大学はその方を見た。そこには林田図書助の姿があった。
「父上……」
「大丈夫か?」
「えっ?あっ、はい……」
「どこか痛むところはないかな?」
「いえ、特にはありません……」
「そうか……。それは良かった」
「私は一体……」
「覚えていないか?」
「はい……。全く……」
「お前は鉄砲玉に当たって倒れたのだ」
「鉄砲玉……」
林田大学は記憶を呼び起こした。
「ああ……思い出しました。私は切支丹の疑いをかけられたのです」
「そうだ」
「それで、私は死んだのですか?」
「いや、生きている。ただ、頭を打っているようだ」
「そうですか……。それで、父上はどうしてここに?」
「お前のことが心配になってな……」
「それは……ありがとうございます」
「礼などいい。それより、これからどうする?」
「どうとは?」
「お前は切支丹の嫌疑がかけられている」
「はい……。そのようです」
「どうするつもりだ?」
「私は切支丹ではありませんので、切支丹のことは忘れることにします」
「そうか……」
「はい」
「ところで、力信は元気にしているのか?」
「力信ですか。あいつなら元気ですよ」
「そうか……」
「どうかされましたか?」
「実はな。力信は私のことを嫌っていてな」
「そうなのですか!?」
「うむ。だから、力信には会わないようにしているんだ」
「そうなんですか……」
「力信は私に恨みを抱いているだろうな」
「そんなことはないと思いますよ」
「何故、分かる?」
「力信は父上のことを尊敬していましたから」
「そうなのか?」
「はい。力信はいつも言っていました。『父上は素晴らしい人だ』と」
「そうか……」
「はい……」
「……」
「……」
沈黙が流れた後、図書助は口を開いた。
「お前はこれからどうしたい?」
「とりあえず、江戸に帰りたいと思っています」
「そうか……」
「はい……」
「大学殿。私に一つ提案があるのですが?」
いつの間にか中山力兵衛がやってきて口を開いた。
「何でしょう?」
「実は、大学殿を我が家に招きたいと思っているのです」
「何故、そのようなことを?」
「大学殿は切支丹の嫌疑をかけられている。このままでは必ず殺されるでしょう」
「確かにそうかもしれませんね……」
「そこで、私の家で匿ってあげようと思うのです」
「しかし、そこまでして頂いては申し訳ありません」
「遠慮なさらずに……」
「いや、本当に結構ですから……」
「大学殿……」
「はい……」
「この期に及んでまだ断るつもりなのか!?」
中山力兵衛の声が大きくなった。
「はい……」
「大学。もう諦めろ」
「父上!?」
「これ以上、意地を張っても無駄だ」
「で、でも……」
「それに、この男には借りもある」
「そうですね……」
「どうしますか?大学。私の家に来る気になりましたか?」
「はい。お世話になろうと思います」




