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潜伏切支丹

島原の乱の後の切支丹達は隠れ潜んで信仰を守り続けた。彼らは潜伏切支丹や隠れ切支丹と呼ばれる。島原の乱で多くのキリスト教徒が死んだため、キリスト教信者は激減したが、それでも密かに信仰を続けていた者は多かった。

潜伏切支丹は切支丹禁制の時代に生きる庶民の姿であった。表向きは仏教徒として生活し、仏教や神道と折り合いをつけつつ、内面的に自分たち自身でキリスト教を信仰し継承した。


島原の乱に参加しなかった切支丹がいた。

「原城に行くべきではないでしょう」

「なぜですか?」

「行ったら、我々は無駄死にすることになるかもしれませぬ」

「確かに……」


切支丹を匿った人々もいた。

「切支丹の信者たちを救い出します」

「キリシタンの信者を!?」

「はい」

「本気で言っているのかね」

「本気ですよ」

「正気なのか!?」

「私は狂ってなどいませんよ」

「しかしだなぁ……」

「切支丹を匿えば、切支丹と同じ扱いを受けることになるぞ」

「その通りです」

「それでも構わないのか?」

「構いませよ」

「本当に大丈夫なんだな」

「はい。問題ないと思いますが……」

「お主は切支丹ではないのだろう?」

「違います」

「ならば、何故、切支丹を庇うようなことを言うのかな?」

「それはですね。切支丹も日本人だからです」

「なんじゃと!?」

「彼らは、日本のために戦ってくれたのです。その恩を忘れてはいけません。それに、彼らを見殺しにすれば、島原の人はもっと苦しむことになります」


潜伏切支丹の中には密かに一揆勢のために十字架の墓標を建てる者もいた。

「諸君らは勇敢に戦い、殉教して行った。ここに墓を建てようと思う。どうか安らかに眠ってくれ」

「我々は貴殿らを決して忘れることはないだろう」

潜伏切支丹は涙を流しながら祈りを捧げた。


潜伏切支丹は密かに聖書を読み、祈り、ミサを行った。天照大御神や観音像をマリアに見立てた。信者たちは盆踊りを装って祈りを捧げることもした。潜伏切支丹の伝承の中で変化していった言葉もある。天国を意味する「パライソ」は「パオディソ」、悪魔を意味する「ルシヘル」は「ジュスヘル」と伝承された。

誤った伝承がなされることもあった。

「デウス様とは誰のことじゃ?」

「デウス様というのは、大天使ミカエルのことです」

「なんじゃと!?」


「もうすぐクリスマスですね。先生」

「ああ、そうだね」

「クリスマスって何ですか?」

「えっと、それはだね……」

説明に戸惑ってしまった。クリスマスはキリスト教の行事だが、正確に説明できる伴天連はいない。どう説明すればいいのか分からず、言葉が出てこなかった。

「キリストの誕生日を祝う日だよ」

「へぇ~、そうなんですか」

「この世界にはイエス・キリストの生まれ変わりかもしれないと言われている人がいるんだよ」

「本当ですか!?」

「うん」

「会ってみたいです」

「うーん、どうだろう……。なかなか難しいと思うよ」

「どうしてですか?」

「だって、その人は有名人だし、色々と忙しくしているからね」

「そうですか……」

「それにしても、君がこんなに熱心な切支丹になるとは思わなかったな」

「はい。私も驚いています。神様を信じて本当に良かったと思ってます。あの時、先生が助けてくれなければ私は死んでいたでしょう。だから、先生が私の命の恩人であることは間違いありません」

「そっか……」

「はい」

「ありがとう」

「いえ、こちらこそ」


「どうしてここにいるのですか?」

「実はな、私もこの近くで切支丹の集会が行われると聞いてやってきたのですよ」

「なるほど。そういうことだったんですか」

「それじゃあ、我々も行くとするかね」

「そうですねぇ」

「それにしても、あの二人、どこかで見たことがある気がするんだけど、どこだったかなぁ?」

「そうですか? 別に気にする必要もないと思いますけど……」

「そうかなぁ……」


「君は切支丹なのか、それとも仏教徒なのか?」

「うーん、難しい質問だな。どちらかと言えば、仏教徒だろう」

「どちらでもあるということか」

「そういうこと」

「ちなみに、君の名前は?」

「名前? 私の名前は……、あれ、思い出せない」

「どういう意味だい?」

「分からない。自分の名前が思い出せない」

「記憶喪失という奴かい?」

「多分、そんな感じ」

「じゃあ、私が名前を考えてあげよう」

「いいのか?」

「もちろんだとも。そうだな……。『ジャンヌ』というのはどうかな?」

「ジャンヌ?……、悪くないかも」

「気に入ってくれたようで何よりだ」

「そういえば、あなたの名前は?」

「私の名は……、うーん、やっぱり、思い出せない」

「もしかして、記憶喪失の類いかしら」

「多分、そうみたい」

「そう。名前は思い出せないの?」

「ごめんなさい」

「謝ることはないわ。きっと、そのうちに思い出せるはずよ」

「そうだといいんだけど……」

「心配しないで」

「分かった」

「さっきの話に戻るけれど、もし、自分が何者であるかも分からなかったら、どうする?」

「うーん、どうしようもないから、その時はその時に考えることにする」

「それが一番だな」


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