25話「目標達成」
数回の休憩を挟みながらも、着々と王都ユーダンクへと近付いていく勇者一行。
ネメスは早くも馬に慣れたらしく、途中から目を輝かせて周りの風景を眺めていた。村の外へ出たことが無かったのだろうか。
逆に、カズヤはかなり余裕が無さそうだった。
どうやら酔ったらしい。数時間で着く距離なのに、何度も休むハメになっているのは主に彼のせいだ。
時間短縮のためにも休憩を減らしたいヴィーレだったが、もし吐かれでもしたら、すぐ前にいる自分は大きな被害を受けるはず。いくらなんでも吐瀉物シャワーは勘弁願いたいらしい。
「ん? あれは……」
ちょうど森を迂回し終え、数日前に通った草原を走っていた時、ヴィーレが独りでに声をあげた。
ユーダンクの方向から男を乗せた馬が歩いてくるのが視認できたのである。
一人だ。軍服を身につけているが、彼の装備している服は旧兵が着用していたものである。現在の兵士のそれとは形が大きく異なるのだ。
男性は何やらとても疲れている様子で項垂れている。よく見ると、彼の被っている帽子から金色の髪がはみ出していた。
「おい、お前」
男とすれ違うタイミングで、ヴィーレは思いきって彼に声をかけてみる。
「もしかして、アルストフィア村のエルじゃないか?」
ヴィーレが足を止めると、イズ達もそこで停止する。
一方で、声をかけられた男の方はそのまま呆然と進んでいたが、すぐにハッと我に返り、同じく止まってくれた。
体勢は変えず、顔だけをゆっくりとこちらに向ける。
初め、青い瞳を持った青年は暗い表情をしていたが、ヴィーレと目が合うとパァッと満開の笑顔になり、唐突に歓喜の雄叫びを上げた。
「うおぉぉぉぅ!! やっと見つけたぁ!! どれだけ探したと思ってんだよぉ!! おま」
「《イグニッション》」
「ギャアアアアッ!!」
勇者達の探していた人物、エルは不意に叫んだかと思いきや、イズによって怒りの呪文を炸裂させられた。彼の鼻先が弱火で一瞬炙られる。
「私達の手間賃と、あんたを探すためだけに費やした無駄な二日分で増えるだろう戦争犠牲者の怨念よ。ありがたく受け取りなさい」
イズは鼻を押さえて大袈裟に痛がる男を一瞥し、「ふんっ」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
最後の仲間、エルとの合流後、勇者一行はユーダンクへ一旦立ち寄ることにした。
この後どうするのかを話し合い、今までエルが何をしていたのかを聞き、ヴィーレ達も仲間が二人増えている理由を説明しなければならなかったからだ。
とりあえずもう昼も過ぎた頃合いだし、腹ごしらえも兼ねて適当な喫茶店に入る。
五人のメンバーは日当たりの良い窓際の席につくと、各々が好きなメニューを頼み始めた。
屋内に来て帽子を外した青年を改めて確認してみるが、やはり彼はヴィーレが聞いていた通りの外見をしていた。
ツンツンした金髪が特徴的な碧眼の若い男。エルという男は彼で間違いないだろう。
「うぅ……気持ち悪い……」
みんなが料理を頼む中、グロッキーな状態から未だ脱していないカズヤだけが注文をできずにいた。
テーブルに突っ伏して、隣のネメスに背中を擦られている。
「おいイズ、カズヤが瀕死状態だぞ。呪文で回復してやれよ」
「それは無理よ。私の使える『ヒーリング』は治癒の呪文だけど、怪我しか治せないから」
「は!? 回復が使えるんなら、俺の鼻を元に戻してくれよ! 見た目は大した事ないようだが、風下が分かるくらいにはヒリヒリするんだぞ!」
エルが間髪入れず、自分の小さい火傷を指して強く訴えるが、イズはまるで聞いていないようだ。露骨な無視を続けている。
「イ、イズさん……。痛そうだし、治してあげましょうよ……」
ネメスがそう提案して、初めてイズはエルを視界に入れた。ゴミを見るような目をしている。
「ネメスに感謝することね。《ヒーリング》」
「あぁ、痛みが引いていく……! ありがとうございます! ネメス様ぁ!」
イズとは違い、天使がこのパーティーにいた事がよほど嬉しかったのだろう。
エルはサッと席から立ち上がると、ネメスに勢いよく飛びついて、熱烈なハグをかまそうとする。
無論、それをイズが見逃すはずもなく。次の瞬間には、エルの顔面に氷の礫が直撃していた。
「し……死ぬわっ……!」
仰向けに倒れたエルは最後の力を振り絞ってツッコミを入れると、鼻血を流しながら気絶してしまった。
(この短時間で二度もイズの呪文をくらうとは……。エル、凄い男だ)
「お客様、店内での呪文の使用はお控えください……」
気を失った彼をヴィーレが席に戻していると、一連の流れを呆然と見ていた店員にやんわりと注意される。
確かに騒ぎすぎだ。一番うるさい存在はちょうど今鎮圧させられたが。
「ごめんなさい、気を付けるわ。あとこの薬草ジュースも追加でお願いできるかしら」
イズは素直に謝罪し、メニューを指した。
(それ気に入ったのかよ。てかなんでこの店でも売ってんだ。人気商品なの?)
雑草のエキスを凝縮したような味を思い出すヴィーレ。店員が下がるのを見送り、イズに尋ねた。
「お前、さっき別に飲み物頼んでなかったか」
「ええ、そうね。最後に頼んだのはカズヤの分よ」
「わあっ、イズさん優しい……!」
ネメスがイズの優しさに尊敬の眼差しを向けている。気遣いができる女だとでも思っているのだろうか。
(あいつは純粋で良いな。イズは気を利かせたつもりなんだろうが、あんな物をあの状態の人間に飲ませるなんて、一種のイジメだと思うぞ)
ヴィーレが呆れている間、カズヤがグッタリしながらも礼を言う。
「あ、ありがとう、イズさん……。ちなみにそれって美味しいのかな……?」
そりゃ疑うだろう。名前からしてネタ商品だ。
「安心しなさい。味は格別よ」
イズはカズヤに親指を立てて自信満々にそう言った。『格別に不味いわよ』の略ではないようだ。どうやら彼女の舌の機能は狂っているらしい。
食事を挟んでしばらく待つと、カズヤはようやく酔いから覚め、エルは夢から覚めた。
(大丈夫だろうか、このメンバー。早くも先が思いやられる……)
ヴィーレは辟易とした様子で溜め息を漏らす。
ひとまず、情報共有だ。
彼らはそれぞれドリンクを飲み進めながら、今まで彼らが何をしていたのか、そしてカズヤとネメスの加入した理由を一から説明した。
「――――そうして紆余曲折を経て、ようやくお前と会えたってわけなんだ、エル」
ヴィーレは長い説明を終える。
かいつまんで話したつもりだったが、思いのほか時間がかかってしまっていた。主にネメスの件で。
ちなみに、余談だが、エルも彼女の事情を聞いて男泣きしていた。イズ同様に涙もろい性格なようである。
「それで、エルは僕達がアルストフィアにいた二日間、何をしていたの?」
「何って、お前らを探していたんだよ!」
「二日間ずっとですか?」
「ああ。ヴィーレとイズの名前しか知らない状態だったから、無駄に時間がかかったんだよ。それで落ち込みつつも村に帰っているところで、お前らと出会って、半分理不尽に鼻を燃やされたって感じだな」
「まだ根に持ってんのか」
「え、根に持たないと思ってんの? バカなの?」
エルの早口な反論を無視して、イズが口を開く。
「あんた、私達があの村に応援に駆けつけるって考えは無かったわけ?」
「……ん?」
尋ねられてから一時の間をあけ、エルは「あっ」と声を漏らした。まるで「その発想はなかったわ~」と言わんばかりの表情だ。
「呆れたわ……」
イズは頭を抱えていた。ヴィーレも無言で頷いている。ネメスとカズヤは苦笑していた。
「さて、あとはこれからどうするかを決めるだけだ。具体的には、どういう道順で魔王のもとへ行くかという議論だけ、だが……」
そこまで言ってヴィーレが顔を横に向けると、他の四人も彼の視線を追った。
「もう空も暗くなっちゃいましたね……」
ネメスが窓から外の様子を伺う。
日はとっくに落ちてしまっている。今日出発するのはやめておいた方が良さそうだ。
幸い、五人とも同じ意見でまとまったらしい。
勇者一行は店を出ると、ユーダンクで宿をとり、そこで明日まで休むことにしたのだった。
【達成】第一目標「仲間を集める」




