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名前の無い喫茶店  作者: 一九十九
第一章 女子高生編

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第一話 春を待つコーヒー

中部地方にある大都市の、中心部から地下鉄で二十分。駅前から2,3分の所にある昔ながらの商店街。その一角にひっそりと佇む小さな喫茶店がありました。様々な人たちが、人生の宿り木のように訪れる喫茶店が。

 二月の終わり、午後三時を少し回った頃。

 駅前の商店街、買い物客等が通りを行き交う光景がちらほら目に映る。


 春菜は、その商店街を歩いていた。高校からの帰り道。堤防を通り、商店街を抜けて駅へ向かう、いつもの通り道だった。


 日差しは少しずつ長くなっているが、春はまだ遠い。道端の木々は冬の姿のままで、吹き抜ける風には、コートの襟を立てたくなる冷たさがまだあった。それでも、空は明るかった。


 春菜は歩きながら何度目かのため息をついた。十八歳。高校三年生。卒業式まであとわずかだった。


 受験も終わり、進学先も決まっている。周囲から見れば、あとは卒業を待つだけの、穏やかな時期なのかもしれない。けれども春菜の心は少しも穏やかではなかった。


 進学先は地元の大学を選んだ。彼氏は東京の大学へ進む。


 それぞれが自分の進みたい道を選んだ結果だった。どちらかが相手のために進路を変えるような話ではないし、今さらこの選択を後悔しているわけじゃない。


 ただ、これから二人の関係がどうなっていくのか。それが、どうしても気になっていた。


 今までのように、学校で顔を合わせることはないし、放課後に一緒に帰ることも、気が向いたときに会うことも簡単にはできない。


 電話やメッセージでつながることはできる。休みの日に会いに行くことだって、ちょっと無理をすれば。そんな事、頭ではわかっている。


 わかってはいるんだけど、実際に始まってみなければ分んないことがあるのも事実。


 そんなことを考えながら歩いていたとき、春菜は一軒の喫茶店の前で足をとめた。


 商店街通りを少し歩いた所にあるそれは、目立つ看板も、華やかな飾りつけもない。木製の扉の上には、年季の入った小さな看板が掛かっていただけの古びた喫茶店。


 看板に記されていたのは、ただのカギカッコだけ。


「 」


 店の名前なのだろうか。それとも、何か意味があるのだろうか。ここを通るといつも気になっていた。 春菜はしばらくその看板を見上げて呟いた。


「不思議な店だな」


 けれど、今の自分には、むしろそのくらい不思議な場所のほうが似合っているような気がした。


 誰かに会いたいわけでもなく。かといって、すぐに家へ帰る気にもなれない。


 少しだけ、一人になりたかった。ちょっと寄り道してみよう。好奇心も手伝い、春菜は扉に手をかけた。


 カラン・コロン。


 小さなドアベルの音が、店内に響いた。店の中には、コーヒーの香りが漂っていた。


 カウンターの向こうには、白髪交じりの店主らしき男性が立っている。六十を少し過ぎたくらいだろうか。落ち着いた表情で、こちらに目を向けた。


「いらっしゃい」

 声は低く、穏やかだった。


 店内には、カウンター席とテーブル席がいくつかある。窓辺には二人掛けの小さなテーブル、壁の本棚には古い本や難しそうな本、専門的な雑誌と何故か漫画本まで並んでいた。カウンターの奥にはコーヒー豆の入ったガラス瓶が置かれ、隅にはレコードプレーヤーが見える。


 年代物と新しい物とが混在しているが、妙に調和が取れた感じで落ち着く雰囲気。


「結構当たりだったかも」

 春菜は、ほくそ笑んだ。


「お好きな席へどうぞ」

 店主に促され、春菜は窓辺の二人がけ席へ。


 コートを脱いで椅子の背に掛け、メニューを手に取る。並んでいるのはコーヒーや紅茶、ジュース類、それに簡単な軽食だった。しばらく迷ってから、春菜はメニューを閉じた。


「コーヒーをお願いします」


「はい。少々お待ちください」


 店主はそれ以上、何も尋ねなかった。どうして一人なのか。学校帰りなのか。何かあったのか。あれこれ詮索されない事に、春菜はほっとした。


 ほどなくして、コーヒーが運ばれてきた。白いカップから、細い湯気が立ち上る。


「ごゆっくりどうぞ」

 店主はそう言うと、カウンターの方へ戻っていった。


 春菜はカップを両手で包み込んだ。手のひらに伝わる温かさが心地よい。一口飲んでみる。


「……苦い」

 思わず、小さな声が漏れた。


 その声が聞こえたのか、カウンターの前に居る店主が顔を向ける。

「砂糖かミルクを入れますか?」


「いえ、大丈夫です。ブラックコーヒーって、こんなに苦いものなんですね」


「豆にもよりますけどね」

 店主は少しだけ笑った。


「砂糖とミルクを入れれば、たいていのものは何とかなりますけどどうですか?」


 春菜は顔を上げた。


「コーヒーの話ですよね?」


「さて。私にもよく分かりませんけど」


 店主は、何事もなかったかのようにカウンターの内側に入っていった。


 春菜は思わず笑ってしまった。おかしな人。でも、ほんの少しだけ、気持ちが軽くなった気がした。


 窓の外では、通りを歩く人たちが足早に過ぎていく。買い物袋を提げた女性、自転車に乗った学生、仕事の途中らしきサラリーマン。みんな、それぞれの行き先に向かって。


 私はと言えば、もうすぐ高校を卒業する。その先に進む道は決まっているはずなのに、どうしてこんなに心細いのだろう。


 春菜はスマホを取り出した。画面には、少し前に届いたメッセージが表示されていた。


『やっぱり、もう一度ちゃんと話したい』


 彼氏からだった。春菜は、その短い文章を何度も読み返した。


 別れ話をするつもりなのか。それとも、遠距離恋愛の事、もう一度考えよっていうことなのかなあ。


 考え始めると、悪い想像ばかりが浮かんでくる。自分だって、彼と離れたくなんかない。けれど、離れたくないという気持ちだけで、これからも付き合いが続けられるものなのかなあ。


 会いたいときに会えない。寂しいときに、そばにいてもらえない。そんなことが積み重なれば、いつか二人の気持ちも変わってしまうのではないか。


 そう考えると、今のうちに答えを出したほうがいいような。しかし、答えを出すということは、何かを決めるということ。


 そして、一度決めてしまえば、元には戻れないかもしれない。


「ああ、泥沼の思考ループ」

 春菜は、またため息をついた。スマホを伏せ、窓の外へ目を向けた。


「何か、お困りですか?」

 

 不意に声をかけられた。振り向くと、先ほどの店主が、少し離れたところに立っていた。


「えっ?」


「いえ。ずいぶん難しい顔をされていたので」


 春菜は慌てて頬に手を当てた。


「そんなに顔に出てました?」


「顔には何も書いてませんよ」


「……はい?」


「書いてはいませんが、案外、よくしゃべるものですよ」

 店主はそれだけ言うと、お客の去った隣のテーブルを片付け始めた。


 春菜は、しばらくその背中を見ていた。やっぱりちょっと変わった人みたい。そう思ったのに、不思議と嫌な感じはしなかった。むしろ、誰かに気づいてもらえたことが、少しうれしかった。


「あの……」

 春菜は声をかけた。店主が振り返る。


「もし、よかったらなんですけど」

 そこまで言って、言葉が止まる。


 初めて入った喫茶店の店主に、こんな話をしてもいいのかなあ。相手は自分のことなど何も知らないのに。事情を説明したところで、困らせるだけかもしれないのに。


 それでも、誰かに聞いてほしかった。


「ちょっと、私の話を聴いてもらっていいですか?相談になっちゃうかもしれないんだけど」


 店主は手にしていた布巾を置いた。

「私でよければ」


 それから、カウンターの端に腰を預けるようにもたれながらこう続けた。

「ええと、少し話が長くなりますが」


  春菜は、思わず目を丸くした。

「えっ、私が話をするんですよね?」


「そうでしたね。では、短い受け答えで済むように努力します」

 男性は真面目な顔でそう言った。春菜は、また笑ってしまった。


 そして、少しずつ話し始めた。


  高校の同級生である彼氏と付き合い始めたのは、二年生の頃だった。特別なきっかけがあったわけではない。話が合い、一緒にいると楽しくて、気づけば自然と付き合うようになっていた。


 進路を決めるときも、二人でいろいろな話をした。彼氏は東京の大学、春菜は地元の大学に進む。互いに納得して決めたことだったから、これは決定事項。


 ただ、進路先が決まってから、二人の間で遠距離恋愛の話が増えた。最初は、何とかなると思っていた。電話もできる。メッセージも送れる。長い休みには会う事も。


 でも、具体的な話をしようとすると、途端に不安が押し寄せてくる。行き来する交通費はどうするのか。会えるのはどれくらいのペースでとか。大学が忙しくなったら、連絡する時間だって減るんじゃないの。


 そして、離れている間に、彼の気持ちが自分から離れてしまったらどうしよう。そんなことを考えると、何も決められなくなってしまう。答えが見つからない。


 店主は、途中で口を挟まず、黙って女子高生客の話を聞いていた。


 春菜の話が終わると、少し考えるように視線を落とした。


「なるほど」

 店主は低い声色で、ゆっくりと尋ねた。


「お客様は、彼氏さんと別れたいんですか?」


「えっ……」


「それとも、遠距離恋愛がうまく続かないかもと思う事が、怖いんですか?」


 春菜は答えられなかった。別れたいのか。そう聞かれて、初めて自分の気持ちを正面から考えたような気がした。


 彼と別れたいんじゃない。できるなら、これからも一緒にいたい。だけど、うまくいかないかもしれない。傷つくかもしれない。いつか別れることになるのなら、今のうちに終わらせたほうが、つらい思いをせずに済むんじゃないの。


 そんな考えが、ずっと頭の中を巡る。


「……分かりません」

 春菜は、正直に答えた。


「ただ、離れてからうまくいかなくなるくらいなら、今のうちに別れたほうがいいのかなって」


「なるほど」


 店主は、うなずいた。

「では、少しだけ整理して考えてみましょう」

 そう言って、店主は春菜の顔を観ながら。


「遠距離恋愛がうまくいくかどうか。それは、私にも分かりません」


「……はい」


「会いたいときに会えないのは、つらいですよね。お互い忙しくなれば、連絡も思うようにできなくなる。離れているうちに、気持ちが変わることだってあるでしょう」


 春菜は、うつむいた。やはり、そうなのだ。


「でも、それは今、別れる理由になりますか?」


 春菜は顔を上げた。

「え?」


「うまくいかなくなるかもしれない。だから、うまくいかなくなる前に別れる。そういう考え方もあるでしょう。ただ……」

 店主は、少し言葉を切った。


「うまくいく可能性まで、一緒に捨ててしまうことになるんですよ」


 店内には、レコードプレーヤーから流れる静かなジャズが響いていた。春菜は、カップの中に残ったコーヒーを見つめた。


「でも、どうしたらいいのか分からないんです。何を話せばいいのかも」


「それなら、まずは具体的なことを話してみてはどうでしょう」


「具体的なこと?」


「例えば、どのくらいの頻度で会えそうなのか。会う為の交通費はどうするのか。電話やメッセージは、どのくらいなら無理なく続けられるのか。忙しくて連絡できない日があったら、どうするのか」


 店主は指を折るようにして挙げていった。


「それから、、、寂しいときに、『 寂しい』と言えるかどうか」


 春菜は、はっとした。


「『寂しい』って……」


「ええ。相手に心配をかけたくないからって、無理に何でも我慢してしまうこともあるでしょう。でも、我慢していることを相手が知らなければ、気付いてもらうのはなかなか難しいもんですよ」

 店主は、春菜の顔を見つめながらこう話を続けた。


「もちろん、何でも思いどおりになるわけではありませんし、話し合ったからといって、必ずしもうまくいくとも限らないんです。」


「……そうですよね」


「ただ、まだ起きていないことを全部心配して、今のうちに結論を出してしまう必要はないんじゃないでしょうか」


 春菜は黙っていた。今まで、自分はずっと、失敗したときのことばかり考えていた。


 会えなくなったらどうしよう。連絡が減ったらどうしよう。気持ちが離れてしまったらどうしよう。そうならないために、どうすればいいのか。そのことを、きちんと彼と話したことがあっただろうか。


 もしかすると、自分は彼の気持ちを確かめることさえ怖がっていたのかもしれない。


「……私、別れたいわけじゃないのかもしれません」

 春菜は、小さくつぶやいた。


「ただ、今までみたいにはいかなくなるのが怖くて」


「そうですか」


 店主は、それ以上、何も言わなかった。無理に励ますことも、うまくいくと約束することもなかった。


 ただ、春菜の言葉をそのまま受け止めてくれた。それが、ありがたかった。


「ありがとうございます」

 しばらくして、春菜は頭を下げた。


「いえ。私は、話を聞いただけですから」


「でも、ちょっとだけ、何を話せばいいか分かった気がします」


「それなら、よかった」


 春菜は、少し迷ってから尋ねた。

「あの……マスターって、恋愛事には経験豊富なのでしょうか?」


 店主は、わずかに目を細めた。

「まあ、人並みには」


「人並み、ですか」


「ええ」


「今は……?」


「今は、しがない独り身の喫茶店のオヤジですよ」

 それだけ答えると、店主はカウンターの内側の方へと向かった。


 春菜は、もう少し聞いてみたいと思った。けれど、何となく、それ以上は尋ねないほうがいいような気がした。誰にだって、話したくないことの一つや二つはある。


 自分だって、初めて会った人に何もかも話せるわけではないのだから。春菜は、残っていたコーヒーを飲んだ。やはり、苦かった。でも、最初に飲んだときほど嫌な苦さではなかった。


「ごちそうさまでした。私の話、聴いてくれてありがとうございました。」

 春菜は立ち上がり、会計を済ませた。


「こちらこそ、ありがとうございました。」

 店主がそう言うと、春菜は少し照れくさそうに笑った。


「あの、また来てもいいですか?」


「もちろんです。」


「本当ですか?」


「店が開いてればの話ですけれども」


「えっ」


「私にも休む権利はありますからね。」

 店主は、真顔で言った。春菜は吹き出した。


「分かりました。じゃあ、店が開いているときに又来ます」


「お待ちしております。」


 春菜はコートを着て、扉を開けた。

 

 カラン・コロン。

 ドアベルの音が、小さく響いた。


 外へ出ると、風は相変わらず冷たかった。けれど、店に入る前よりは、少しだけ心地よかった。ような気がした。


 悩みが消えたわけではない。遠距離恋愛がうまくいく保証もない。それでも、今すぐ答えを出さなくてもいいのだと思えた。


 春菜は歩きながら、スマホを取り出した。彼とのメッセージ画面を開く。


 何度も文章を書いては消した。うまく伝えようとすると、かえって何も書けない。やがて、春菜は短い文章を打ち込んだ。


『うんわかったわ、真剣にもっと話してみようね』

 送信する前に、少し考えた。そして、もう一文付け加えた。


『別れるかどうかじゃなくて、どうしたら続けられるか、一緒に考えようよ』


 送信ボタンを押す。メッセージは、すぐに彼氏のメッセージのすぐ下に。既読はすぐにはつかない。春菜はスマホをしまい、前を向いた。


 空は少しずつ、夕方の色を帯び始めていた。冬の終わりは、思っていたよりも静かに近づいている。


 でも春菜の春は、まだよく見えない。それでも、確かに近づいているのかもしれない。


 *


 春菜が店を出てから、しばらくして。

 店主は、窓辺の席に目を向けた。つい先ほどまで、そこには一人の女子高生が座っていた。


 若いというのは、難しいものだな。そんなことを考え、店主は小さく息を吐いた。いや。歳を取っても、大して変わらんか。


 悩みの形は、年齢とともに変わっていく。学生には学生の悩みがあり、働く人には働く人の悩み。家庭を持てば家庭での悩みが生まれ、年を重ねれば、また別の悩みが増えていく。


 若い頃には大きな壁に見えたものが、何年かたてば、案外たいしたことではなかったと思えることもある。


 逆に、当時は気にも留めなかったことが、後になって大きな後悔の元になってたり、胸に残ることもある。


 結局のところ、人はいつまでたっても、何かに迷いながら生きていく生き物なんだろうなあ。

 店主は、カウンターの上を拭きながら、先ほどの春菜の顔を思い出しながら考えた。


 彼女は、自分の悩みを何とか解決しようとしていた。けれど、本当は、解決する方法を探していたというよりも、自分の気持ちを確かめたかっただけだったのかも。


 別れたいのか。それとも、続ける事への不安。その違いに気付けただけでも、今日ここへ来た意味はあったんだろうなあ。


 もちろん、これで彼女の問題が片付いたわけじゃない。彼氏と話し合った結果、別れるかも。遠距離恋愛を続けても、うまくいかない事になるかも。


 人生は、そう都合よくはできてはいない。それでも。店主は、窓辺の席に目を向け思いを巡らした。


 人の人生を変えてやろうなどとは、考えていない。そんな大それたことが、自分に出来るとも思っていなかった。


 ただ、困っている人を見かけたら、できる範囲で手を貸す。添える程度でも。話を聞いてほしそうな人がいたら、話を聞く。自分の言葉が、ほんの少しでも相手の手助けになるのなら、それでいい。それ以上のことは、相手自身が決めることだ。


 店主は、カウンターの中へ戻った。


 夕方の日差しが、窓から斜めに差し込み店内を照らす。


 窓辺の席には、まだ春菜が座っていたときの気配が残っているようだ。もちろん、そんなものが本当に残っているわけでもない。ただ、いつもと同じ店内が、ほんの少しだけ違って見えた。


 店主は、使い終りのカップを洗いながら、ふと思った。


 あの子は、また来てくれるのだろうか。別に、来なくても構わないのだが。


 悩み事が解決したのなら、それでいい。わざわざ報告に来る必要もない。


 それでも、また顔を見せてくれたら、少しは嬉しいかもしれないなあ。そんなことを考えた自分に、店主は苦笑した。まったく。余計なお世話というものだ。


 やがて、店内には、時計の時を刻む音だけが聞こえるだけになった。外を歩く人影も、少しずつ減っていく。


 明日になれば、また誰かがこの店の扉を開けるだろう。何かを話したい人かもしれない。ただコーヒーを飲みたいだけの人かもしれない。あるいは、何も話さず、しばらく一人で過ごしたい人かも。


 誰が来るのかは、分からない。それでいいのだと思う。ここは、そういう場所なのだから。


 店主は、窓の外に広がる薄い夕焼けを観ながらそんな事を考えていた。春は、もうすぐ。けれど、まだ冬の名残は消えていない。


 人の心も、きっと同じようなものかもなあ。何かが終わり、また何かが始まる。その間には、少しだけ、足踏みするような時期があるもんだ。


 店主は、カウンターの上の布巾をたたんだ。明日も、いつもどおり店を開けるだけ。そして、誰かが訪ねてきたら、いつもどおり迎えるだけ。それだけのことだ。


 今日、窓辺の席に座っていた女子高生が、やがてこの店にとって、かけがえのない存在になっていくことを。この時の店主はまだ知らない。


 カラン・コロン。


 風に揺らされて動いた扉。ドアベルが、誰も居なくなった店内で小さく鳴った。


 商店街の一角にひっそり佇む小さな喫茶店。そんな小さな喫茶店の小さな一日が、静かに暮れていくのでした。


小説家になろう読者様へ。本作品を読んでくださってありがとうございました。拙い文章ですが精一杯書かせてもらいました。今回舞台になった土地は、私が住んでいる街を参考に、こんな喫茶店があったら良いなあって思いながら書きました。一部、作者の主観が入ったような内容があったりもしますがご容赦ください。この作品は喫茶店を通しての日常を描く作品ですので、今後も、季節の移ろいを感じながら読んでいける作品作りを目指していきたいと思います。ちなみに第一章と銘打っておりますので、今後の予定は四話、五話くらいになりそうです。では又次回作でお会いしましょう。

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