王子も俺も、まだまだ子供なんだから
木っ端を拾い集め、押し車いっぱいに積んで戻ってきたら、ウィルが馬で戻ってきていた。
馬の背に何かを下げている。
「殿下、ありがたく頂戴しますよ」
ニコニコ笑顔で下げてきた荷物を下ろす。
小さ目の樽だ。
「好きなだけどうぞ。一昨年のを持ってきたの?」
「はい。まだ若いですが、モルトウイスキーとして最高の出来になりそうですよ」
おい、この王子ウイスキーまで作ってるのかよ。
ウィルはご機嫌で、樽を肩に担ぎ厩舎へ入って行った。
しばらくして厩舎内から歓声が上がる。
「みんなウイスキーが大好きなんだよ」
押し車から一抱えの木っ端を取り出し、準備しておいた焚火用のスペースへ雑に置く。
「ここで造ってるのか」
「向こうに醸造所があるんだ。酒蔵もあるよ」
と城の方向へ顔を向ける。
「水が豊かなんだよ」
美味しい水に恵まれてるんだな、この国は。
「ここら辺りは大麦と小麦の生産も盛んで、ずいぶん昔からウイスキーとビールを醸造してる」
へぇ~、ビールもあるのかよ。スゲーなって言ってもな。
「ボクらはまだまだ吞めないけどね」
その通りだよ、ったく。
「王都から南にずっと行ったヴァロッサという地域は、ここと違って葡萄作りが盛んなんだよ」
「葡萄。あ、ワインだ! ワインも作ってるんだ」
「当たり! よく分かったね。ヴァロッサはここよりずっと暖かいからね。甘くていい葡萄が育つんだ」
王子は笑って、薪を並べ終えると指を鳴らし指先に火を灯した。
「いいっ?」
そうだった。この世界には手品みたいな魔法ってのがあったんだ。
まるでマッチ棒のように指を使って木っ端の一つに火を点け、組んだ薪の間に差し込む。
また別の木っ端に火を点けて、火が付くのを待つ。
「なんで? 直接薪に魔法使って火をつければ早いじゃん」
「え~? そんなズルしたら焚火の意味ないじゃん。こうやって火をつけるから面白いんじゃない」
バカだなぁと、王子は笑いながら点いた火に向かって息を吹きかける。
魔法って楽するために使うもんじゃないのか?
「さすがです殿下」
いつの間にかやって来たティムが、細めの竹のような筒を差し出した。
「ありがとう、ティム」
それを受け取ると、筒に口を付け勢いよく王子が息を吹き付けた。
火吹き棒か。
煽られて火の手が上がる。そのおかげか煙たかった煙が落ち着いてきた。
「その調子でガンガン燃やしちゃってくだせぇ、殿下。あっしは焼く準備をしますから」
坊ちゃんもどうぞ、と同じ火吹き棒を渡された。
おーし、やったろうじゃないか。
それからは俺と王子とが火の番をし、ティムは肉を吊し焼きする杭を焚火の両脇に突き刺し、準備を始めた。
準備ができたところで串刺しにされた鹿の肉の塊を持って、馬丁がやって来た。
サッカーボール二個分ぐらいはありそうだ。
鹿の肉は脂肪が少なくてヘルシーだ、とは聞いてたが見た感じ牛肉の赤身みたいだな。
馬丁が二人がかりで、Yの字に分かれている杭の先端に、串を乗せる。
これで肉を焙るんだ。なにせ、ご丁寧に両側に肉を回すためのハンドルまでついてるからね。
三角錐に組まれた薪は既に火が付き、良い感じに炎が上がっている。ティムがその薪を金属の棒で叩き、平らにならした。肉の大きさに合わせ、長方形に整えその上に新たな薪を乗せていく。
王子と俺は二手に分かれ、追加された薪に火を起こすため火吹き棒を吹きまくった。
馬丁達が交代で肉を焼き、ティムが畑からとって来た野菜たちを適当に切って、串に刺し焚火の火であぶれるように火のそばに突き刺していく。
サツマイモ、ジャガイモ、ニンジン、ソラマメはさやごとだ。
バーベキューとはちょっと違うが、なかなか大胆な野営飯だな、これは。
肉が焙られて、香ばしい匂いを放ち始めた。
「焼けたところから肉を削いでいきますからね」
と大ぶりのナイフを握ったティムが、得意げに研ぎ棒でナイフを研いで見せる。
「ここにある塩と香辛料をかけて召し上がってください」
ウィルがそう言いながら何やら入った木箱を下げてきた。
続いて馬丁が大きめの板のようなものを運んで来て、焚火から少し離れた場所でテーブルに組み立てる。
へぇ~、ちゃんとテーブルで食べるんだ。
「ギュンター、ボクらも手伝うよ」
と王子が立ち上がり、尻についた泥を払う。
俺も倣って、立ち上がった。
「椅子を取ってくるよ」
「お願いしやす、殿下」
ティムが二指の敬礼を返す。
「了解した」
と王子も敬礼を返し、俺に向かってついて来いと行くぞと駆け出した。
せっかく十歳に若返ったんだし、あれこれ考えるのは一旦止めて、子供に戻って楽しめばいいんだよな。
王子も俺も、まだまだ子供なんだから。
駆け出した王子の後を、俺も負けずに追っかけた。




