7話 それぞれの夏休み①
夏休みに入ってから、大学のアトリエにいる時間が増えた。
課題も、コンペも、展示の準備も、気づけば全部同時に迫ってきている。
窓の外はまだ明るい。
それでも、キャンバスに向かっていると時間の感覚が曖昧になる。
アトリエには、絵の具の匂いと、エアコンの音だけが響く。
少し前には、蒼真が顔を出してきてもおかしくなかったのに。
――そういえば最近、蒼真といつ会ったっけ。
会っていない時間のほうが「当たり前」になり始めている気がした。
スマホを手に取って、メッセージを確認する。
未読はない。最後のやり取りは、三日前。
蒼真
『今日、何時ごろ終わる?』
漣
『今日は遅くなりそう』
蒼真
『了解。無理すんなよー』
短いやりとりだけ。
それ以上、何かを送ることもなく会話はそこで終わった。
送ろうと思えばいくらでも言葉は浮かぶのに。
スマホを置いて、再びキャンバスに向かう。
キリがいいところまでやって、今日は早めに切り上げよう。
***
――アトリエを出る頃には、外はすっかり暗くなっていた。
スマホを見ると蒼真からメッセージが届いていた。
『忙しくてもちゃんと食えよ!』
たった一言なのに、いつも蒼真が俺に世話を焼く様子が思い出されて笑みがこぼれる。
自分も実習の準備やバイトで忙しいくせに、こっちの心配ばかりしてる。
『うん』って、スタンプだけを送る。
本当は、『会いたい』って送ってしまいそうだった。
俺は蒼真が居るから、描き続けられてるよ。
――ありがとう。




