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隣の景色  作者: のゆ
8/12

7話 それぞれの夏休み①

 夏休みに入ってから、大学のアトリエにいる時間が増えた。

 課題も、コンペも、展示の準備も、気づけば全部同時に迫ってきている。


 窓の外はまだ明るい。

 それでも、キャンバスに向かっていると時間の感覚が曖昧になる。


 アトリエには、絵の具の匂いと、エアコンの音だけが響く。

 少し前には、蒼真が顔を出してきてもおかしくなかったのに。


 ――そういえば最近、蒼真といつ会ったっけ。

 会っていない時間のほうが「当たり前」になり始めている気がした。


 スマホを手に取って、メッセージを確認する。

 未読はない。最後のやり取りは、三日前。


 蒼真

『今日、何時ごろ終わる?』

 

 漣

『今日は遅くなりそう』

 

 蒼真

『了解。無理すんなよー』


 短いやりとりだけ。

 それ以上、何かを送ることもなく会話はそこで終わった。

 送ろうと思えばいくらでも言葉は浮かぶのに。

 

 スマホを置いて、再びキャンバスに向かう。

 キリがいいところまでやって、今日は早めに切り上げよう。

 

 ***


 ――アトリエを出る頃には、外はすっかり暗くなっていた。

 スマホを見ると蒼真からメッセージが届いていた。


『忙しくてもちゃんと食えよ!』


 たった一言なのに、いつも蒼真が俺に世話を焼く様子が思い出されて笑みがこぼれる。

 自分も実習の準備やバイトで忙しいくせに、こっちの心配ばかりしてる。

 

 『うん』って、スタンプだけを送る。

 本当は、『会いたい』って送ってしまいそうだった。

 


 俺は蒼真が居るから、描き続けられてるよ。

 ――ありがとう。

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