52話 背中を押す(彩花)
卒業式を控えたキャンパスには、どこか落ち着かない空気が漂っていた。
人気のない教育棟のベンチ。
私はスマホを見ながら、蒼真くんの隣に座っている。
「で? 今日は何?」
少しだけ冷たく聞こえたかもしれない。でも仕方ない。
どう見ても両想いなのに、蒼真くんはなかなか好きな子に告白しない。
卒業前に誰かに取られたらどうするのって、こっちが勝手に焦っていた。
蒼真くんは目をぱちぱちさせて、驚いたようにこちらを見た。
「え、なにそれ……! 彩花ちゃん、そういうキャラだっけ……」
「最近の蒼真くん、話したいことあるーって顔してるよ。私を呼び出すってことは、何か相談でしょ?」
「……鋭すぎ」
一瞬黙ってから、蒼真くんは前を向いたままぽつりと言う。
「卒業式のあとさ……前に話した、好きな子に告白しようと思ってて」
思わず、ぴくりと肩が揺れる。
来た……!
「……へぇ。卒業式のあと、なんだ」
「うん。区切りだし……そこで言わなかったら、たぶん一生言えない気がして」
誰とは聞かない。
でも、分かりすぎるほど分かってる。
「で、何を迷ってるの?」
「その子さ、オレのこと大事にしてくれてるのは分かるんだけど……それって情かもしれないし。気持ちを言っちゃったら、もう今までみたいに会えなくなるような気がして、怖いなって……」
今すぐ言えばいいのに、と思う。
でも、そんなふうに慎重になるくらい、その関係を壊したくないんだよね。
「蒼真くん」
「ん?」
私は一度、息を吸った。
恋愛経験は少ない。だから、マンガやアニメで得た知識まで総動員して言葉を探す。
……でも、これはちゃんと私の本音。
「もしね……告白して、うまくいかなかったとしても……言わずに後悔するより、言った後の後悔のほうがずっとマシだよ」
蒼真くんは、目を丸くする。
ずっと見てきた二人が、やっとここまで来たんだと思うと、少し泣きそうになった。
それをごまかすように笑って続ける。
「それに……蒼真くんのこと、そんなふうに大事にしてくれる人が何も思ってないわけないじゃん」
蒼真くんがついに一歩踏み出すんだ、って思うと応援したい気持ちでいっぱいになった。
きっと大丈夫。あなたたちふたりとも、お互いへの好感度MAX超えてるもん。
蒼真くんは、しばらく黙っていた。
それからふっと肩の力が抜けたみたいに笑う。
「……ありがとう。なんか、すごい軽くなった」
その顔を見て、私の胸まで少し軽くなった。
そうそう。大事なことを言っておかなくてはいけない。
「告白した後どうなったか、絶対報告してね!」
蒼真くんは、笑ってごまかすみたいに視線を逸らした。
「えっ、報告……しなきゃダメ?」
「そこが一番重要でしょ!」
「圧がすごい……!」
よし……! 背中は押した。
あとは神に祈るのみ……!




