13話 学園祭①
――学園祭当日。美術棟、展示室。
学園祭が始まり、展示室に来る人も増えてきた。
俺は少し離れたところから自分の作品を見ていた。
年配の方二人組が、俺の作品の前で立ち止まっていた。しばらく見てから、女性が連れの男性に小さく言う。
「落ち着く絵ね」
その一言が、嬉しかった。
――悠月は相変わらず上手くやっている。
自身の作品の前で立ち止まる人に、迷いなく説明したり、交流をしている。
いつでも自分の作品に対して、自信とプライドを持っている悠月には尊敬しかない。
悠月と同じようなテイストの服装をした女子数名が、悠月を囲む。ファン、だろうか……。
「悠月くん、作品の販売はしないんですか? 買いたいです!」
「そう言ってもらえて嬉しいです。また何か決まったときはSNSでお知らせしますね」
いつもの軽口を封印した悠月が、丁寧に対応していた。
それにしても、学外から会いに来る熱心なファンが何人もいるとは……悠月のカリスマ性に驚かされる。
俺は、ただ描きたいものを夢中で描いてきただけだ。
誰に届けたいとか、この先どうしたいかとか――無意識に考えないようにしてきた。
床に落ちた影を見つめながら、胸の奥がざわつく。
このままでいい、なんて思えなくなっていた。
そんな時、九条教授に声をかけられた。
「篠宮、今日も暗い顔してるわねェー!」
そう言って教授は俺の前に立つ。
「アンタの絵、反応イイわよ? 自信持ちなさい」
「……はい」
「描くのをやめないこと。いい?」
教授には、悩んでいることもお見通しみたいだ。
***
一時間ほど経った頃。
蒼真が模擬店の合間に、展示室に来てくれた。
蒼真に会うのは約四週間ぶりだ。顔を見た瞬間、胸がギュッと締め付けられる。
「……蒼真!」
「れんー! なんか……すごい久しぶりに会った気がする」
「うん……久しぶり」
蒼真を自分の作品のところへ案内する。なんだか、ものすごく照れくさい。
作品を見た瞬間、蒼真の目が輝いて見えた。
「やっぱ漣すげぇ…!」
そう言われて、胸がいっぱいになる。
「オレは絵のこと、詳しくは分からないけど……やっぱり漣の絵、好き!」
蒼真の笑顔と言葉は、いつも俺の胸の中にある不安を払拭してくれる。
「ありがとう」とだけ伝えて、視線を逸らした。これ以上何か言ったら泣きそうだったから。
俺はずっと蒼真に救われてばかりだ――。
蒼真を展示室の外まで見送る時に言った。
「このあと、蒼真の模擬店のほう行く」
「人多いから無理すんなよー!」
「うん。……絶対、行く」
届けたい「誰か」なんて、考えたことなかった。
でも――。
背中を押してくれる人がいる。
見てくれる人がいる。
それだけで、今日ここに立っている意味は、ちゃんとあったんじゃないかと思えた。




