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隣の景色  作者: のゆ
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プロローグ

 ――あれは、小学四年生の六月。

 雨の日の図書室だった。


 雨の音が、図書室の窓を細かく叩いていた。

 俺は机に向かい、ノートに鉛筆を走らせていた。静かな空間に、紙を擦る音だけが響く。


 ――その時。


 ばさり、と足元に本が落ちた。


「うわ! ごめんね!」

 

 顔を上げると、男子生徒が目を丸くしてこちらを見ている。

 たしか違うクラスの子だ。廊下で、友達と居る姿を見かける程度で話したことは一度もない。


 本を拾い上げて差し出すと、彼はぱっと笑った。

 

「ありがと! えっと……同じ学年だよね?」

「……そうだけど」

「名前聞いていい? オレ、泉水 蒼真(いずみ そうま)!」


 勢いよく次々と話しかけられ、少しだけ眉をひそめる。

 

篠宮 漣(しのみや れん)

「よろしくー! 漣くんって呼んでいい?」

「あ……うん」

「オレのことは蒼真でいいよー!」

 

 第一印象は、――なんだ、こいつ。距離近い。

 他人とのコミュニケーションが苦手な俺にとっては天敵だった。


 それなのに、気づけば彼の話を聞いていた。

 こいつのクラスの友達のこととか。

 ……俺にとってはどうでもいい話題のはずなのに。

 雨の音と、紙が擦れる音と、蒼真の声。

 

 ***

 

 ――数日後、また雨。

 下校しようと下駄箱で靴を履いていると、空を見上げ立ち尽くしている蒼真がいた。傘を忘れたようだ。

 俺は、勇気を出して声を掛けた。

 

「あ、あのっ……蒼真くん! 傘入る?」

 

 そう言って傘を差し出すと、蒼真は一瞬きょとんとして、すぐに笑った。

 

「いいの? やった!」


 帰り道、肩が触れるほど近い距離で歩く。

 俺は少しだけ居心地が悪くて。

 それでも歩調を合わせた。


 その日から、蒼真は俺に会う度、話しかけてくるようになった。

 小さい頃から内向的で、絵を描くことと、本を読むことしかなかった俺の毎日に蒼真という存在が加わった。

 

 

 雨の音の中で、ふたりの物語は静かに動き出した──。

 まだ何も気づかないまま。

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