第27話(後編)――「白い壁の落日、セウタの終幕」
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登場人物
新大陸皇帝アルバロ・デ・モリーナ〈30〉
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アルバロの側室
アデニケ〈19〉。オヨ国一番の若く美しい王妃。オヨ国北方の脅威を防ぐため、アルバロに差し出された。
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アルバロの側女
タリロ〈29〉。ルヤ川沿いの金の谷を束ねる首長の妻だ。陶器を焼く一族の出で、採り分けと勘定を任されていた。襲撃の日、倉の裏で子を抱えたまま捕えられ、喉に土埃の渇きが残った。
アルバロの側女
ルド〈20〉。サビ川支流の小さな金の谷の首長の妻だ。飾りのように扱われた反面、帳の内側で聞く話が多く、補給や見張り交代の数を指で覚える癖がついた。捕えられた直後、泣き声が途切れた静けさが怖く、声が出ず震えた。
アルバロの側女
チポ〈31〉。北の峠を押さえる首長の妻だ。蜂蜜と薬草に通じ、屋敷では見張りの食と水を回していた。襲撃の瞬間、戸口で子を押し戻し、土間に爪を立てて踏ん張ったが、縄がかかった。
アルバロの側女
ファライ〈42〉。南の峠を押さえる首長の妻だ。成人した息子が2人いる。布と塩の出入りを管理し、家を回してきた。夫が倒れた後、声が枯れるまで泣いた。
アルバロの側女
マサシ〈23〉。下流の渡し場を押さえる首長の妻だ。商人の言葉に囲まれて育ち、スワヒリ語の挨拶とポルトガル語の数詞を少し知る。矢筒の受け渡しを一度だけ手伝ったことが弱みになり、砲声の後は唇を結んで目を伏せた。
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サフィの朝は港の生臭さで始まった。波止場の木杭に潮が泡を残し、荷車が石畳を跳ね、町の奥からパンを焼く匂いが流れてきた。その匂いは、戦の気配と混ざると、妙に現実味を増した。
アルバロは船団を半円に並べ、砦の正面と港の入口を同時に押さえた。砦が撃ってくる方向を限定し、反撃の砲口を塞ぐ形だ。
砲手の隊長はこう言った。「門を狙えば崩せます。しかし町にも被害が出ます」
アルバロはすぐに答えた。「門の上の見張りだけを落とせ。町を焼くな。降伏した後に町を回す人間がいなくなる」
砲撃が始まると、硝煙が港の上に溜まり、目が痛んだ。砲弾が石に当たる音が続き、壁の裏で叫び声が反射して聞こえた。しばらくして旗が下り、門が開いた。アルバロは上陸した兵に言い含めた。
アルバロはこう言った。「降伏した者は分けて集めろ。働ける者は港の片付けへ回せ。女と子は家に戻す。戻れない者には、倉の空き部屋を渡す。食い物と水を先に出せ」
サフィの戦いは終わり、船団は北へ動いた。次の標的はマザガンだ。海岸の城壁は厚く、角の塔が海へ張り出していた。砲撃はより慎重になった。潮の満ち引きで岩礁が顔を出し、舵取りは汗を流した。
風が強まった時、甲板の兵が不安げに言った。
兵はこう言った。「ここで荒れれば、砲がぶれます。狙いが外れれば、余計な者を殺してしまいます」
アルバロは肩を叩き、落ち着いた声で返した。「荒れたら撃たない。撃てる海で撃つ。砲弾は金より重い。外せば恥だし、余計な怨みも買う。俺たちは怨みを積むために来たのではない」
潮が整った午前、マザガンの壁に穴が開いた。抵抗した者は処刑され、降伏した者は助けられ、港の修理や荷役、砲台の撤去に回された。女には水と布が渡され、乱暴な視線を向けた兵はその場で引き離された。処分は静かで速かった。誰も文句を言えなかった。
続くアゼムールでは、川口の湿った匂いがした。水鳥の声が砲声に消え、河畔の葦が揺れた。町の男たちは恐怖で顔が硬くなり、女たちは戸口から身を引いた。アルバロは上陸部隊の前で言った。
アルバロはこう言った。「家の中へ踏み込む時は、声を出して入れ。いきなり戸を蹴るな。相手は降伏するかもしれない。こちらが恐怖を増やせば、最後まで刃を握る」
アルジラに近づくと、海峡の気配が濃くなった。潮の流れが速く、波が交差して船が揺れる。空気が冷え、遠くに白い町の輪郭が霞んだ。アルジラの砦は古く、壁の石が黒ずんでいた。砲撃の後、降伏が早かった。守る側にも、もはや勝ち目がないと分かっていた。
アルカセル・セギールは小さな城だったが、位置が厄介だった。海峡をにらむ場所で、狭い湾に砲台が向いている。アルバロは船団を無理に突っ込ませず、外から砲を回して角度を変え、砦の砲口がこちらを向けにくい配置を取った。
隊長はこう言った。「上陸すれば早いでしょう」
アルバロは首を振った。「急げばこちらが刺される。勝ち戦ほど、手順を守れ。俺が先に降伏の合図を求める」
タンジェは港の規模が違った。船が多く、人が多く、逃げる道も多い。砲撃の前に、アルバロは使者を出し、降伏の条件を伝えた。条件は明快だった。武器を置く。門を開く。旗を下ろす。命は助ける。働く場を与える。女と子は守る。
使者が戻ると、タンジェの上で白い布が揺れた。アルバロは兵たちに言った。
アルバロはこう言った。「よく見ろ。降伏は敵の弱さではない。生きるための判断だ。だから敬意を持って受け取れ。嘲笑する者が出れば、次は誰も降りない」
そして最後がセウタだった。石の城壁が海に突き出し、海峡の風が強く吹きつける。潮の音が大きく、船の板がきしむ。セウタの守備隊は抵抗を選んだ。砲撃が始まると、海峡の空は硝煙で曇り、太陽がぼやけた丸になった。砲声が連続し、耳が麻痺し、喉が粉っぽくなる。
アルバロは前線の船で、兵の顔を見回し、明るく声を張った。
アルバロはこう言った。「ここが終点だ。怖いなら怖いと言え。手が震えるなら震えると言え。それでも、やることは同じだ。火縄を守り、砲身を冷やし、仲間を見失うな。俺はここにいる」
壁の一角が崩れ、門の近くが割れた。上陸部隊が走り、盾がぶつかり、鉄が鳴った。抵抗する者は処刑され、降伏する者は助けられた。助けられた者たちは、港の片付けや城壁の補修、倉の整理に回された。女たちには水と毛布が渡され、恐怖で固まった目に、通訳が言葉を重ねた。
夕方、セウタの旗が下り、アルバロの旗が上がった。海峡の風が旗をはためかせ、潮の匂いが強くなった。砲声が止むと、急に波の音が戻り、港のどこかで子どもの泣き声が聞こえた。兵が走って行き、泣き声はやがて落ち着いた。
アルバロは城壁の上から海を見た。遠くに船が点のように見え、空は薄い朱に染まった。アデニケが隣に立ち、静かに言った。
アデニケはこう言った。「終わりましたね。あなたは勝ったのに、顔が疲れています」
アルバロは笑って答えた。「勝ったから疲れた。負けて疲れたのではない。俺は、ここから先を整える仕事が残っている。だから、まだ笑う」
ここで物語は終わる。黄金海岸のエルミナ砦から始まり、カーボベルデを越え、北の砦を南から順に落とし、最後にセウタを征服した。ここまで付き合ってくれた読者諸氏に、心から礼を申し上げる。あなたが読み進めてくれた分だけ、海の匂いも、砲声も、旗の色も、紙の上で確かな形になった。ありがとうございました。




