第八十二話(カイル歴506年:13歳)新たなる階梯
これより第四章は終わり、第五章 雄飛(新たなる階梯へ)へと進みます。
これまでの歴史改編で、【前回の歴史】とは違う方向に進みだした世界、そして以前に比べ、立つ位置が変わることによって生じた、新らたな、そして更に大きな展開に巻き込まれていきます。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
出陣からはや1か月半、やっとテイグーンに戻って来れた。
懐かしいという程の期間を留守にしていた訳ではないが、それでも、ずっと待ち望んだ帰還だ。
「みんな、ただいまっ! この町を護ってくれてありがとう! そして、会いたかったよ!」
「おかえりなさいませっ!」
「おめでとうございますっ」
「お帰りなさいませっ」
整列した仲間たち、町の住人に歓呼と喝采を浴びながら、正門をくぐり町の中に歩みを進めた。
クリストフ、エランなど、町を守った彼らの顔も誇らしげだ。
そして、皆が以前より一回り大きく、見違えたように見えた。
「ミザリーさん、帰って直ぐで申し訳ない、大至急対応しなければならない案件が山のようにあって……
先ずは皆を労い、勝利の喜びを分かち合いたいけど、その前に懸案事項を片付けたいので、皆に集合をかけてもらえないかな?」
「はい、事前に伝令にてご指示いただいていた件も含め、ご報告の準備は整っております。
皆も集合し、別室に控えております」
早速、主要な仲間(魔法士24名+行政府関係者5名+傭兵団からヴァイス団長及びキーラ副団長、サラ及びアン)を交えて会議を始めた。
「すでに伝え聞いている者もいるとは思うけど、今回の戦功で得たものは非常に大きい。
先ずはそれを共有したいと思います。
戦功の報奨として、
私は男爵位を正式に拝命し、父上は子爵に昇爵しました。
また、個別論功第一位として金貨1万枚を、国王陛下より開発費として金貨5万枚を賜わりました。
次に体制の変更について、
辺境騎士団が新たに創設され、ソリス子爵、ソリス男爵の軍も、一部編入されることになります。
また、辺境騎士団支部をテイグーンに置くこととなり、ヴァイス団長が辺境騎士団支部長に就任します」
そして全員を見回し、俺は頭を下げた。
「これらの褒賞は、テイグーンで皆が勝ち取った結果です。本当にありがとう。
今回の結果、テイグーンは更に大きく生まれ変わります。雌伏の時は終わりました。
皆も忙しくなるかも知れないけど、どうぞよろしくお願いします。
ミザリーさん、テイグーンの戦果について、改めて得たものを教えてもらえるかな?」
「はい、テイグーンの戦果(鹵獲品)も、非常に大きなものとなっております。
先ず、労働力として捕虜400名を確保しています。
また、侵攻軍が遺棄した騎馬600頭も鹵獲しました。
なお、鹵獲した武器、防具については商人と鍛冶師を伴い確認しました」
◯武具の鹵獲品
<武器について>
侵攻軍の武具(剣)で質の高い良品を250本
一般規格品の武具で使用可能なものが500本
その他、損傷のある一般規格品の剣を850本
<防具について>
良品として再利用可能な防具類は150式
一般規格品で再利用可能な防具は250式
大きく修理が必要な防具は800式
「基本的に、武器は使えるものが多く、防具は、先ほど申し上げた物の他にも、再利用が厳しいものが多数あります。相当安価になりますが、引き取ると申し出ている商人もおりますが、いかがいたしますか?」
「良品は修理が必要な物を含め、予備として確保し、それ以外は売却する予定で、詳細は後ほど定めていきましょう。廃棄品の転用についても、ちょっと考えがあるので、それの売却はちょっと保留でお願いします。
あと、騎馬については、辺境騎士団創設に伴い、各貴族家から引き合いが来ています」
<騎馬の売却要望を受けている先>
・ソリス子爵より 200頭
・ゴーマン子爵より 100頭
・コーネル男爵より 50頭
「お話し中失礼します。傭兵団にも騎馬50頭、剣良品50本、武具良品50式を、お譲りいただけますか?」
「団長、了解しました。必要数はお譲りいたします。詳細については後ほど相談させてください」
「ありがとうございます。問題ありません」
「では次の議題として、早急に対応すべき工事関係について確認したいけど、今どんな感じかな?」
その質問に対し、速やかに建設状況が報告された。
(着工中)
迎賓館の建設工事
辺境騎士団兵舎、屯所新設
駐留兵兵舎、屯所移設
傭兵団兵舎、屯所移設
(完成済)
捕虜収容所建設工事
「俺がこちらに居ない間に、既に色々進めてくれてありがとう。
既に全ての工事が始まっていてちょっと安心しました。
今後、辺境騎士団創設に伴い、第二区画と第四区画は大きく変わる予定です。
そして、第四区画で今進めている改築も、当面の暫定対応、ということになります」
最後に、皆の知らない、一番頭の痛い懸案事項について、話を進めなくてはならない。
実はこれがあるため、皆には急遽集まってもらった、そういっても差し支えない。
「次に行われる、第三回最上位大会ですが……、ここテイグーンで開催する事になりました」
「おおっ!」
全員から歓声が上がった。
「問題は……、他領も含めた合同大会として、ハストブルグ辺境伯、キリアス子爵、ゴーマン子爵、コーネル男爵からも代表選手が参加し、それぞれ辺境伯、子爵、男爵一行が、来賓としてお越しになります……」
「えええっ!」
全員が、先ほどとうって変わって、悲鳴のような声を上げた。
「ご逗留いただく場所が……、まだありませんっ!」
うん、ミザリーさん、分かってる。
「観客席を含め、競技場が……、ありませんっ!」
うん、クリストフ、分かってる。
「観客の利用分も含め……、宿が足りませんっ!」
うん、クレア、分かってる。
「食事の量が……、間に合いませんっ!」
うん、バルト、分かってる。
「時間が……、足りませんっ!」
うん、みんな、分かってる。
「この話を振られたとき、俺はエストの街開催にしたかった。したかったんだよ、本当に……
でも、今回、大勝利を収めたテイグーンを、お偉方全員が口を揃えて『是非見たい』と……
父までがそんな事を言い出す始末で、どうしようもなく……、ね」
「パンッ!」
アンが手を打ち鳴らし、大きな音を立てた。
「皆さん、決まったことです。どうしようもありません。
こういう時こそ、私たちが力をお見せする時ではありませんか?」
アンのお陰で、全員のスイッチが入った。
「迎賓館の工事を、3交代制で行います。町の住民にも応援を募ります。
ご来賓に相応しい施設を、なんとか間に合わせてみせます!」
「町の外の、今後の造成予定地に、大きな会場と観客席、そして臨時の宿場町を作るしかないな。
エラン、メアリー、アストールは基礎工事と防壁などの構築作業を頼む!」
「来賓対応の人員を見繕います。
あと宿屋にも交渉し、臨時宿場町への展開や、運営依頼などの交渉を進めます。
カーリーン、リリア、クローラ、手を貸してちょうだい」
「カウル、当面は建設資材の輸送だ。それが終われば食材の輸送。
先ずは商人たちにあたりをつけておきます。大きな商機が有れば、彼らも積極的に動くでしょう」
最初に泣き言の悲鳴を上げたそれぞれが、先頭に立って対応に動き出した。
「ありがとう、皆の言う通り、やるしかない。
俺とエラン、サシャで宿場町の建設計画を、他の皆はそれぞれの懸案事項の対処と、実行委員としての業務をお願いします。
ゲイルたちは、兵士を臨時人足として統括して欲しい。父にも話を通しているので、間もなく200人ほどが応援にくる。この町の兵と合わせれば、それなりの数になると思う。
クリストフは、収容所の捕虜400人、期間労働の全員を統括して、作業に充てて欲しい。
あと、飲食街や屋台も作る必要があるな。
ミザリーさん、領民にも早めに布告を出して協力を仰ごう。
領民や商人の、露店や屋台などの出店許可、決め事なども行政府でとりまとめて欲しい。」
「了解しましたっ!」
こうして、予想外の対応をこなすため、俺たちは動き出した。
本来は、皆を労い、ゆっくりさせてやりたかった。
町のみんなを交えて、酒(俺は飲めないけど)を酌み交わし、勝利を味わい……
「あっ! 忘れてたっ!」
俺の顔を見て、皆に嫌な予感が走る。
「ごめん! もうひとつ! その前に第二回テイグーン収穫祭(戦勝記念祭)があった」
「……」
「申し訳ないっ! 実行委員のみんなは、まず祭りの準備を、その後に第三回最上位大会の準備をお願い」
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こちらでの御礼で失礼いたします。
これからもどうぞ宜しくお願いいたします。
<追記>
七十話~まで毎日投稿が継続できました。
このまま年内は継続投稿を目指して頑張りたいと思います。
日頃の応援や評価いただいたお陰と感謝しています。
今後も感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。