40―ごめんよカザミ。
犬人族が住んでいただろう荒れ果てた廃村の井戸に最後の水石を投下した後、犬人族に別れを告げた。
「世話になったな」
「こちらこそ、感謝」
猛牛の前に並んで深々とお辞儀をするリュリュシャたち。肉を焼いていた火が逆光となり彼らの姿が陰っていた。
すっかり陽も落ちてしまい長居をさせてしまったと感じながら、夜風に外套を靡かせるリュリュシャたちに片手を上げて応え、山岳の向こうから昇り始めた赤月に向かって駆けていく。
別れはしたものの、俺の頭の中には彼らリュリュシャたちの事が気掛かりになっていた。
井戸が枯れてしまったのなら焼け石に水だろうが、彼らだけなら一月は十分に保つだろう。荒れた土地で飲み水を探すだけでも大変だろうし、あの井戸が枯れる前に移住を考えはしないだろうか。
「……しないだろうな」
サラマンダーを恐れて鉱物類の発掘をしなくなった犬人族は不要と切り捨てた行商人。関係を絶つだけならまだ善かっただろうが、彼らを残し百近く居たはずの犬人族を皆殺しにした。
行商人と手を組み、村を壊滅させるため猛牛を嗾けた戦闘員。いや、呪石を利用すれば猛牛を嗾けるなんて村人でも簡単にできてしまう。
そうなると呪石を利用するために魔力を流した何者かが居たはずだ。灰色の犬人が「みんな笑ってた」と言っていたが、実際の復讐相手はその何者かと、そいつを連れてきた行商人の二人となるのか。
復讐する。それだけの為に生きながらえている様子だったが、行商人は色々な街や村を行き来しているはずだろうし、こんな荒野の領境にある廃村にはもう現れはしないだろう。
会う事がなければ争う事はない。
生きる目的に復讐は単純だが大きな意味を持つだろうし、そうなると生きていける環境が問題だよな。
視えない復讐相手よりも、今は抱えている問題が重要視されるべきだろう。
「どうにかならないものか」
水源がなぜ枯渇したのかは定かではないが、おそらくは地下水脈に何かあったのは確かだろう。枯れ井戸と言う言葉は知っているが、枯れる原因はなんだったか……
井戸から汲み上げる地下水は地下を流れる川の様なものだったはずだ。
単に地下水が以前よりも深い地層に潜ってしまったか、それか川の上流で新たな井戸や何らかの影響を及ぼすほどの大穴が掘られたか。
前者なら井戸を更に掘り下げれば枯れ井戸も蘇るだろうが、後者となれば難しいだろう。
人為的被害となれば双方で折り合いをつけなければならない。だが下流に流れるはずだった地下水を枯渇されるほどの水を使うだろうか?
「集落や村でも出来たか?」
それは無いか。それだと犬人族が抗議に出向くかして、あれほど痩せ細るまで耐える事もなかっただろう。
元々細い水脈だったか、或いは地表に湧き出した可能性もあるな。どうせ港街に行くにはあの山岳を越える必要があるだろうし、頂上に着いたら見下ろしてみるか。
「何かわかるかもしれないしな」
走り続けながら何度もゲートを潜っている内、井戸の事に考え更けていると、いつの間にか歩きながらゲートを潜っていた。
「走る意味なかったな」
今更になって、なぜ走っていたのか、と自問自答を一度した。
気持ちが先走って駆けていたのだが、駆けようが歩こうがゲートを潜るんだから移動する距離は大して変わらない。
考えてみれば「空から覗けばすぐ着くよ」的な事を言って急がしたフォールが悪いと、心の中で自分を擁護しておいた。
「緑が多くなってきたな」
足元を見てみるとチラホラと荒れた大地から顔を出す雑草、その先には生い茂る木々が黒く大地を染め上げて見え、さらに後ろでドシリと構えている山岳。
気づけば遠くに見えていた山岳地帯は、はっきりと見える山陰となっていた。この山岳が荒野と東の領地を隔て、北から南に続く領境となっているようだ。
あと少しで荒野地帯から出られそうだ。
黒く染まって見える森林を見据えながらゲートを開く。
「すっかり荒野ではなくなったようだな」
山岳の麓となっている森林地帯は生い茂った防風林で、まるで樹海となっていた。
ゲートから出た先は木々が乱立する麓の入り口だったようで、俺を境に前と後ろでは全くと言えるほど景色が違ってみえた。
振り返ってみると、いつの間にか見えなくなっていた廃村をどこか懐かしく思いながら、樹海の方へと視線を戻した。
赤月は眩しいほどに夜空で凛々と輝いてはいるが、その程度では枝葉が月光を遮り、樹海の中は暗い闇だ。
出迎える暗闇に気落ちしそうだ。
あれだな、こういう森のことを迷いの森と呼ぶんだろうな。
視線を上げたところで木々が視界を遮り、見えていた山岳すら見えなくなっている。気落ちした俺の心に拍車をかけるよう、風に揺られた木々は葉音を発たせながら森全体をざわつかせた。
これでは山頂までゲートで楽々ハイキングとはいかなくなってしまった。
「光球では心許ないか」
木々が光を遮り視界の確保は難しそうだ。【暗視】スキルでまさかの山登りとは……
和服姿で黒刀とショルダーバッグを提げているだけの男に、夜の登山が辛いだろ。
樹海の入り口で立ち止まったまま、森のざわめきに耳を傾け、水袋で喉を潤し一息ついた。
「なんだ鳥か」
湿らした唇を拭っていると、突然枝葉を揺らして飛び立っていく大型の鳥たちの姿が見えた。
俺の頭上近くでクルクルと徘徊して飛ぶ猛禽類だろう三羽の鳥、その姿は大鷲を彷彿させた。これは獲物を狙うときに見せる飛び方だ。
鳥の数を表す羽は、簡略化されて匹と数えるようになったはずだが、獲物の捕らえ方まで多数で簡略化してくるとは……できるな鳥共。
「俺を襲う気か?」
孤高という言葉を知らないのかまったく。大型の猛禽類は群れないのがお約束だろうが。
樹海の中に入ってしまえば木々が邪魔をして襲われないだろう。
「襲われたくはないが、まだ入りたくない」
暗い森にやはり気乗りしない。
とりあえずは暗視を発動させて視界の確保しておくか。
「ん?」
暗視スキルを発動させてみると、木の根元からひょこりと顔を覗かせる何かが居た。それに気づいた俺は付近の木々も確認してみる。
するといくつかの木々の根元には同じ様に顔を覗かせている者が。
「本物の小人?」
廃村で見た犬人族が住むような背の低い家でも、まさに豪邸と思えてしまうほど大きく見えるのではないだろうか。
そう思ってしまうほど、今度の小人は手の平サイズと言える小人であった。
接触してみるか? どう見ても俺を"警戒していますよ"と行動で示してくるスタイル。
何人いるのか数えてみると、見える範囲に居る数は思ったほど多くはなかった。
一、二……七、八。
「八人か」
小人だからか、森の奥からぞろぞろと現れてきそうな気もするが、現状で認識できたのは八人。
なぜ俺の行く所には何かが必ず居るのだろう。
異世界だからそれが普通なのか? 出先で知り合いと偶然会う確立よりも高確率で不特定生命体が居るぞ。
どうでも良い事に考えを巡らしているまさにその時。俺の頭上で旋回を続けていた三羽の大鷲もどきが順に旋回から抜け出し、一羽、また一羽と続き、三羽が並んで急降下を開始した。
「大鷲もどきが俺を喰う気か?」
もう大鷲でいいか。でかい鳥は大鷲でいいだろう、他に鳥の名前なんて知らんし。
急降下してくる大鷲どもを見上げていると、奴らの降下線上からは俺の位置が少しばかり外れているのに気づく。
念のため黒刀を抜き身構えていると、俺の顔横を凄い速さで横切っていく大鷲どもは、木々の乱立する樹海の中を平気で滑空していく。
羽を広げた横幅は一メートルは超えていそうだ。
顔を覗かせている小人が居る木の前で羽を大きく広げたまま体勢を変えて宙で静止すると、鉤爪となっている三本の鷲爪がバシッと小人を掴み、羽を羽ばたかせ地面に落ちないようホバリングを始めたではないか。
民族衣装を纏っている捕らえられた小人は、
「ころぽーッ」
蕗の葉を手にしながら助けを求め叫んだようだ。
「「「ころぽぽー」」」
するとその声に呼応した周囲の小人の声が同調しながら森に響いた。
「えー!?」
なんだよこの状況……樹海の中は愛らしい小人の声で騒がしくなった。
「ころぽーッ」
「ころぽーッ」
同調して声を上げた中の二人が、残りの大鷲に捕縛されてしまった。
<大鷲>対<小人>の騒動に少しばかり驚いてしまったが、声を上げれば居場所がばれるだろうと心の隅で思っていた。
するとまたしても、
「「「ころぽぽー」」」
難を逃れた五人の小人が声を上げているのだろう。翻訳機能が働いているはずの俺の耳は「ころぽぽ」以外なにを言っているのかさっぱりだ。
ホバリングをしていた大鷲は羽を羽ばたかせながら降下してきた森の入り口、俺の居る方へと何食わぬ顔で、小さく「ころぽーッ」と泣き続ける手の平小人を掴んだまま戻ってくる。
三羽が一列に並んで満足そうにこちらに向かってくるのだが、
「助けた方がいいのか?」
明らかに自分の身が危ういことを悟っている雰囲気の小人たちだが、ガンとして蕗の葉を手放そうとはしていなかった。
一応声はかけてみたものの、やはり「ころぽーッ」と言葉が返ってきただけだ。
はい、横通りますよ。と然も当然の如く小人を捕らえている大鷲が俺の横を素通りしようとしたので、一応首根を鷲掴みにして空いた手で小人を掴んでいない足を捕まえた。
だらりとされるがままぶら下げていた蕗の葉と上半身。だが大鷲が飛び立たずにジタバタと羽をバタつかせてもがいているのに気づくと、
「ころぽ?」
顔を起き上がらせて俺の顔を見ながら呟くように口にした。
「何を言っているのかわからん」
後ろの大鷲二羽が上空に逃げようとしたので、掴んでいた大鷲の首を両手で真後ろにまで捻り殺した。
だがそれでも羽をバタつかせていたので生きている事がわかる。俺の手はこれ以上回らん。
「すまんな」
仕方なく大鷲の首を急いで背中まで折り曲げ、ボギリと骨と筋が切れた音がした。羽もだらりと力が抜けて、鉤爪に挟まれていた小人は地面に着地した。
傘を差すように蕗の葉を頭上に差しながら「ころぽぽ」と残りの二羽に指を差した。
「はいはい」
なんとなく「助けてあげて」と言ってるようで、ニュアンスで返事をする。羽を羽ばたかせて俺の頭上付近まで移動していた二羽の大鷲の足を掴んだが、
「これまずいな」
両手が塞がってしまい身動きの取れない俺を、二羽の大鷲は軽々と持ち上げて気にする様子もなく空に上っていく。
二羽の大鷲はでかい獲物が釣れたので必要なくなったと言わんばかりに、捕らえていた小人を空高くから手放した。
「おいッ!」
おもわず上空で吊るされる格好となりながらも、どうにか胡坐をかいて小人を二人ともキャッチする事ができた。
ここで小人をリリースする事もできず、胡坐の状態を維持するはずが、
「「ころっぽ!」」
礼でも言っているのだろうか。蕗の葉を持ち上げたり下げたりして喜んでいる様子だ。
「すまんが足が攣りそうだ。帯の中に入ってくれ」
「「ころぽーッ」」
二人は返事はすると、トテトテと俺の膝から腰帯に移動した。腰帯から上半身と蕗の葉を出したまま、二人は会話を始めてしまった。
腰帯は「ころぽ、ころぽ」と騒々しい。
樹海を一望できる高さまで上昇した事に気づき、やれる事もないので樹海を見下ろし広さを確認した。
歩いて進んでいれば、間違いなく朝日は昇っただろう。それどころか一日歩いても樹海の出口まで辿りつけたかと思える広大な森だった。
「な、なんだ」
ぶわっと激しい追い風が吹いたかと思えば、大鷲はさらに空高くまで一気に上昇を始めた。
「上昇気流に乗ったか」
「「ころぽ?」」
腰帯の小人が困ったような声を洩らして蕗の葉から顔を覗かせたが、困っているのはお互い様だと言ってやりたい気分だ。
もう樹海どころか山岳の頂上まで見える高さまで来てしまったか。そう思った束の間、大鷲の二羽はカルガモがガァーガァーと鳴く声を出したと思えば、鷹の鋭い風切り音の様なピューッと鳴く声を上げ、山岳に向かい滑空を始めてしまった。
小人の二人は帯の中に身を潜め、風で飛ばされないよう必死に耐えている。
「……まじか」
ふざけんな大鷲!
一飛びで山岳の空の上まで滑空した大鷲は、そのまま急降下始めた。降下付近が頂上ならば救いようもあるだろうが、こいつらは岩肌が見える切立った崖となった場所を目掛けている。
「……」
声を出すのも億劫となる速度。
自身の身ごと岩肌に突貫する事はないだろうと、大鷲の足を握る手に力が入る。
が、大鷲どもは俺の予想を裏切り、急降下で速度をつけたまま、またも滑空飛行に入り、そのまま切立った崖の先にある頂上を目指した。
このまま進めばすぐ先の未来で大鷲は頂上の足場付近を低空飛行しているだろう。だが俺は、切立った崖の先にその身を叩きつけられる。
ダンジョンの崖から落ちた時を思い出させてくれる大鷲ども。
俺を嘲笑うよう、頭上を見上げて見える大鷲がピューッと耳に残る高い声で鳴いた。
岩肌に叩きつけられるぐらいならと、俺は【身体強化】をその身に施し、大鷲の足から手を放した。落下しながら前方に飛ばされる俺は、否応なく岩肌に向かい飛んでいく。
俺が岩肌に叩きつけられても、助からない可能性はゼロではない。だがこのままでは小人は助からない。衝突の衝撃が小さな身体の小人を襲ったとなると即死だろう。
一か八か、俺は躊躇っていた鞄を開き、腰帯の中で丸まっている二人の小人を鞄の中に放り込んだ。
「くそッ!」
いつもなら鞄から吸い込み始めるくせに、小人を暗闇の中に入れても掴んでいる俺の手ごと弾き出されてしまう。
やはり生物は収納できないのか!
創繋門を開いたところで、この速度でどこかに繋げても意味がない。速度を緩和させない事には、店の中やダンジョン、どこかゲートから出た先で壁か地面か、衝突を回避する事は不可能だろう。
仮に地面に着地したところで、重力が小人を襲ってしまう。それこそ目玉や内臓が飛び出してしまう事になりかねない。
……時間が無い。
すでに眼前に岩肌を捉えてしまった。悔しいが小人を見捨てるしかないのか……
その時、またしてもフォールの言葉が脳裏をよぎった。空から覗けば……あっ! 打開策とは言えないが、少しは時間が稼げるかもしれない。
そう思い立った俺は、すぐにも行動に移した。
「【創繋門】」
岩肌にゲートを開き、飛ばされるまま中にその身を放り込んだ。出口は空高く煌く星々の眼下。
出口から放り出された俺たちは、自然の摂理に従いそのまま降下を開始する。
「「ころぽぽぽ」」
「すまんな。もう少し耐えてくれ」
空高くから落下しながら、手に握る二人の小人を腰帯に戻す。
落下先にゲートを出し、出口をまたも空高くに現出させ、俺たちはゲームのバグ画面のように同じ動作を繰り返す。
頭に血が昇って意識が飛びそうになる。
三度目の降下を開始したとき、顔にポタッと液体が飛んできた。帯が血に染まり、中を見てみると涙血と鼻血を出し、意識を失っている小人が。
俺の意識が飛びそうなほどの速度、小人がこの重力加速度に耐えるなんて出来る事じゃなかった。
落下に耐えられなく弱り始めた二人、俺は帯越しに手を当てながら、彼らを生かす手段を模索した。
「……重力、加速度」
脳が今までにない程、テキパキ働き始めた。意識が飛びそうだったにも関わらず、俺の脳は今までに詰められた知識の引き出しを一斉に開き、二人を助ける事ができるかもしれない方法を探しだした。
脳内のビジョンは壁一面に設置された真っ白い引き出しで埋め尽くされていた。その全てが開封され、俺はひとつのくじを引く感覚で、開いている引き出しに手を伸ばす。
「これだ」
それはとても簡単な事だった。ジェットコースターに乗れば誰でも体験するふわっと浮いた感覚。
人は落下を始めた高層ビルのエレベーター内に居る間は無重力状態を維持するという。これは自由落下に対してのアインシュタインの考えだ。
彼はこの突拍子もなく閃いた考えに、生涯最高の思いつきだったと語っていたとされている。
未だ立証はされていない虚構の閃きを、俺が立証してやるしか、俺たちの生き残る術はない。
「【物理結界】最大だぁあッ!」
三度の落下を繰り返した結果、俺の身体強化でも耐えられない速度に達している。道連れにしてしまうかもしれない大博打だが、俺の浅はかな知識では、もうこれしか手段は残されていない。
フォールのように空を飛べれば、小人を簡単に救えていただろうが……
俺は誰かを救えるような勇者ではないし、五体満足で生還させてやれるほど力を持った人間でもない。
ただ手を差し伸べて、痛みを分かち合う事しかできない。
「死ぬときは俺も一緒だ」
スキルが許容できる範囲で最大の大きさを誇る結界は球体となって俺を包み込んだ。この球体はエレベーターと同じだ。俺は今、エレベーターの中に居るのと変わらない状態で落下を続けている。
半透明の透けた結界は未だ降下中であると、外に見える山岳が微かに動いている事から理解できた。それでも、先ほどまで感じていた重力が嘘のように、この身に降りかかっていた重力を感じなくなった。
「おい、生きているか?」
「「……」」
腰帯に入っていた小人に声をかけたが、意識を失い返事は返ってこなかった。だが俺が重力を感じていない事で、彼らもまた、その身を襲っていた重力からは逃れられたはずだ。
……あとは【物理無効】で落下の衝撃を相殺するだけ。この速度で大地に叩きつけられる事を考えれば、致命傷を避けて生かすなら二人分の衝撃緩和が限界だろう。
確実に生かせるのは誰か一人。致命傷を避けたところで、救助がなくては誰も助からない。
「鯔の詰まり、確実に生きられるのは一人だけか」
「こ……ろぽ」
俺の独り言に、意識を取り戻した小人の片割れが応えたようだった。
「すまんな。なにを言っているのかわからないんだ」
「ころぽぉ」
いったい何を伝えようとしたのか、腰帯の中に居る小人の声は、俺にはわからなかった。意識の戻った小人に、俺の思っていた事を伝えることにした。
「お前たちに物理衝撃を緩和させるスキルを施す。即死はしないが……ただでは済まない」
「……ころぽ」
腰帯の中、どのような気持ちで返事をしたのか。俺は小人に、遠まわしに死を告げたのだ。
返事の意味も、心境も、なにひとつ理解できなかった。泣き叫んでくれれば、その想いの一端でも感じ取れたのかもしれないが、今は静かにその時を待っているようだ。
もうすぐ地面に叩きつけられる。
二度目の死の恐怖。張り裂けそうな鼓動を感じ、これに慣れる事は一生ないだろうと思う。
運がよければ、お前たちは生き残るだろう。辺境の領境、それも山岳の麓だ。誰かが助けに来ることは万に一つもないだろう。
「スキル……【物理無効】」
俺は二人に苦痛の末に死ねと言っているみたいで、自分の判断が正しいのかどうか、それすらわからなかった。
残る魔力を均等に分けて、二人に物理無効を施し、地面に叩きつけられる寸前、少しでも生きる可能性を増やせればと思い、俺は二人を空に放りなげて衝撃の緩和を図った。
エレベーターが落下する寸前に跳ねるのと変わらないだろう。跳ねたところで地面に強く叩きつけられて死ぬ事には変わりない。それでも何かしなくてはいられなかった。
直後、俺はうつ伏せたまま地面に叩きつけられた。
………………。
静かだ、音がない。
真っ先に感じたのはそれだった。
暗い。何も視えない。
目を開いているのかわからない。
寒い。ここはどこだ。
自分の居場所が把握できない。
二人は……。
意識が遠のき、死が迫る。
きっと近くで倒れているはずだ。
……げえと。
◇◇◇
<主。血の匂いが>
<うん。僕が行くよ>
カザミのゲートが開く時に感じる次元干渉が起きたみたいだね。ラックはすぐにも血の匂いがすると、念話で僕にだけわかるように知らせてくれた。
「ちょっとごめんね」
リーサさんたちに一言を残して席を立ち、二階にあるカザミの部屋をノックする。
コンコンッ。返事は無いが、僕にでもわかる血の匂いが、扉の隙間から洩れ出ている。
「開けるよ」
ノブを回して扉を開くと、床に横たわるカザミの姿を見えた。一歩足を踏み入れると、ペチャッと水溜まりを踏む音が。
それでも視線は床に横たわるカザミから離れなかった。僕はペチャピチャとカザミから流れ出た血溜まりの中を歩き、床にうつ伏せたカザミに手を伸ばす。
「カザミ?」
片腕を無くし、残った右腕も肘から先が無かった。仰向けて状態を確認しようとしたところ、血溜まりの中に二人の小人の姿がある事に気がついた。
「コロポックルかい?」
カザミの流した血に染まり意識は失っているが、二人とも生きてはいるみたいだ。
容態もカザミよりはマシだと言うだけで、危険なのに変わりは無かった。
仰向けたカザミの顔の半分は皮膚が避けめくれている。出血が酷く、すぐに手当てをしないと間に合わない。
けれど、
「ごめんよカザミ。僕には君を救えない」
僕はカザミの寝室にあるベッドの上に二人の小人を寝かせて、すぐに回復魔法を施した。




