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6―もふもふのチワワ。風が吹くままに


相変わらず客の来ない日々。トトが来てから(ゆう)に半年以上は経つというのに姉の行方はわからないまま。以前にマスターと話をした時は「今は待つ時なんだよ」と言っていたが、本当に只待つだけでいいのだろうか。


 私がマスターの使い魔となってここで過ごした時間は三百余年。その時間と比べればこの数ヶ月は私にとっては瞬きをするようなものだが、幼いトトには辛辣な時間だろうに。


 この雑貨屋に人が寄り付く事もないので、これと言った情報が入ってくるわけでもない。風の噂程度の事すら来客数が未だ皆無のこの店では聞こえてこない。

 それでも最近になり客というわけではないが、この店に兵士が訪れるようになった。だが買い物に話が弾むような相手では無いので街の噂話を口にすることもない。

 今日もまた、その兵士達が自分たちに課せられた任務で店に来ているのだ。


 ああ、実に忌々しい。

 来客を知らせるベルが鳴ったあの日、トトが姉の話を聞けるのではないかと期待していたというのに。


 マスターは彼らと事を荒立てないよう丁重に相手の要求を断っているのだが、飽きずに何度も無駄足を運んでくる。いっそ真実(もと)の姿にもどり蹴散らしてしまおうか。


「今日こそは私たちに同行してもらうぞ!」


 兵士や騎士の数を隊で表すなら、彼ら八人は分隊規模に当てはまる。今声を荒げているこの男、何度もここにきては兵士たちの後方で偉そうに踏ん反り返っていたやつだ。

 それが今日は他の兵士より一歩前に出て、カウンターに腰を下ろしているマスターに言葉を投げかけている。


 仕えている主に急かされたのか、ここに足を運ぶ無駄な時間は無くなった様に見える。されとて私たちには関係のない事だ。


 それにしてもこの男、何度もここに来ているがその姿を近くで見るのは初めてだ。

 白を基調とした襟首の高い、膝辺りまであるコートは銀の大きなボタンで留められており、兵士の正装にしては優雅な印象を受ける。

 皆同じ格好をしているが、よく見るとこの男だけは胸元に記章を付けている。五角形の中に一本剣が彫られた記章は確か、荒野にある街の領主に仕える騎士だったはず。


「ダメですよ。買う気もないのに商品に触れては」


 カウンター越しに話しかけてくる騎士には目もくれず、後ろで商品を手に取る平兵士を挑発――もとい、マスターらしい接客をしている。本当に買い物をしにきてくれた客ならば、この様な態度を取る事はないと思うのだが。


「私と話をしているんだろ!」


 ブラウンの髪を揺らして、バンッ! っとカウンターを掌で叩いた。大きな音を発ててマスターの注意を向けさせようとしたのだろうけど、マスターは顔色一つ変えずに佇んでいる。

 自分を相手にもしようとしないマスターの態度にさらに苛立ったのか、マスターの胸元に腕を伸ばし掴みかかろうとした。


 伸ばされる腕にチラリと視線を向けたマスターは、気に留める事なく視線を膝元にある本へと流した。開かれた本のページの角を指先で摘みペラリとページを捲ると、騎士の伸ばしていた手が何かに触れた。

 バチッと小さく音が発てられ、透明の障壁がキラリと光った。

 これはマスターが扱う防御系魔法の一つだ。凡騎士程度ではマスターが(くつろ)ぎを邪魔する事などできようはずがない。


 何が起きたのか理解できていない騎士は伸ばした手を引っ込めると、障壁に触れた指先を見た後に声を投げかけた。


「何をしたッ!」

「危ないのでカウンターの内側に手を伸ばしてはいけませんよ」


 マスターは盗賊や無粋な輩を警戒してカウンターの内側から【透明の障壁(スケルプロテクション)】を展開させている。

 店の出入りは一向に構わないが、客に関係の無いカウンターの内側や生活空間にまで足を踏み込まれたくはないようで、トトがやってきてからは一層に警戒を強めている。

 この一年、営業時間内は常に発動させているマスターの魔法(日課)である。


「私は領主直属の近衛兵だ。領主様からの命により魔族を匿っているこの店の主(お前)と、その魔族を連行する為にきているのだ」


 平兵士を連れた貴族騎士など爵位を継げない三男が他の貴族の娘と結婚をして妻の爵位を相続するという、兄妹の多い貴族によくある末路話だと思っていたが、この貴族騎士、どうやら領主直属の近衛兵だったようだ。


 君主を護るのが仕事だろうに、傍を離れるとは平和ボケも甚だしいかぎりだ。


 私には衛兵も近衛兵もたいした変わりがわからないが、この騎士は運良く領主の親類と上手く仲を取り持ったのか、親がそれなりの高い爵位を持っていたのだろう。

 この騎士が勲功を挙げて手に入れた爵位と言う事はないはずだ。ここ数年、この国は他国と戦争をした事も、内戦に突入したいう事もないはずだから。


「僕は君たちの言うその領主の街で売られていたあの子を買ったんだよ。それに彼は奴隷ではなくこの店に奉公(ほうこう)してくれているんだ。仮に奴隷であったとしても僕の保護下にあると言うのはかわらないよ。理解できたならお引取り願いたい」


 マスターがこれほど頼もしく見えたのはいつぶりだろうか。凛とした振る舞いに思わず本物かと疑いそうになる。


「なにをふざけた事を言っている。お前も魔族を匿った罪で連行すると言っているんだ。同行しないと言うのなら実力行使をとらせてもらうぞ」


 平兵士改め近衛師団とでも把握しておくべきなのか、どちらにしろ人の定めた呼称などどうでもよい事か。


 後ろに控えていた兵士たちが騎士の言葉を行動に移そうと、腰に携えた剣を握りマスターに圧力を掛けている。

 マスターはカウンターの上に置かれていたしおりに手を伸ばすと、静かにそれを開いていた本に挟んだ。閉じられた本をカウンターの上に置きなおすと、マスターは兵士たちの顔を見渡した。

 その眼差しは相手の戦意を確かめ、一人ひとり順に相手の目を見ている様子だった。


「仕方ないね」


 今日は多少の問答をして言い勝つ流れではないようだ。順に兵士を見終えたマスターはそう呟き、棚の上から様子を窺っていた私に指示を出した。


「ラック、彼らの相手を頼むよ」

「わん!」


 つい愛らしい声を上げてしまった。声を聞き私の存在に気づくと、警戒体勢に入った兵士たちがこちらに視線を向けてきた。商品棚に身を紛れ込ませていた私を探し当てると、ただの小犬ではないか。と呆れた目で見られているのがわかった。

 この偽りの姿(からだ)では、なぜだか「わん」と言いたくなってしまうのだ。


「……ラック?」


 引き攣った顔をしないでくれマスターよ。わざとではないのだ。そう――条件反射みたいなものなのだ!

 気を取り直して表に出よう。ここで真の姿に戻れば店を壊してしまう。


「任せて。こいつらは少し痛い目に()わないとわからない」

「なんだあの犬は? しゃべったぞ。あれは魔物か!?」


 兵士たちは陳列された商品の中に紛れる私の姿を凝視し観察しているように見える。

 私は彼らの視線を気にせず棚から飛び降りて冷たい床に肉球を押し当てた。ペタペタと肉球を床に下ろしながら前進して開かれている店の扉に向かうと、扉の傍に立っていた兵士が片足を床に擦りながら後ずさるのがわかった。


 どれほど観察したところで、見た目はただの小犬。だが意思の疎通ができ人語を話す。低級の使い魔しか知らぬ人間からすれば理解の及ばない得体の知れない存在なのだ。


 警戒して当然か。


「僕の代わりに彼が皆さんの相手をしてくれますから」


 扉から出て行く私の後姿を見ながら、マスターが兵士たちを外に出るよう促していた。


「どこまで私を侮辱する気だ。犬コロ風情の魔物が我等の相手をするだと……。魔族に魔物、貴様の罪は明白だ。犬の次は貴様の番だと思い知れ!」


 なにやらまたマスターに怒鳴り散らしていたようだが、ようやく兵士たちが店から出てきた。


 この店の外は森の一部が開かれた平地となっている。平地の外はすぐにも周囲を囲む深い森がある。魔物も生息している森の中、静かに佇むこの店の事を知る者は少ないだろう。


「私を屈服させればマスターもあなたに従う気でいる。準備はできてるから、いつでもいい」

「犬ごときが調子ずくなよ」

「マスターを愚弄する愚か者。お前程度、この姿で十分」


 この騎士はどうやら感情が(おもて)に出やすい性格のようだ。自分が犬になめられているとわかった途端、剣を抜き考えなしに突っ込んできた。

 普段なら部下を嗾けて相手の力量を測るのかもしれないが、相手は小犬だと私を(あなど)っている。


「そんな剣捌きじゃ(かす)りもしない。見よ、この俊敏な動きを!」


 小さな体躯とはいえ、俊敏さは灰色狼(ハイウルフ)そのもの。振り下ろされる剣を右へ左へと(かわ)していく。

 この姿にもすっかり慣れてしまった。今では小回りが利き、身のこなしも軽やかだ。


「ちょこまかと素早っこい奴め!」


 ぶんぶんと振り回す剣では捉える事が出来ないと判断したのか、斬りかかるのを止めると胸元から剣先をこちらに向け構えなおした。

 すると眼前で騎士を見上げている私に向ってその剣を突き出してきた。少しは頭を使ったようだが、その突きでも遅すぎて相手にもならない。大型の鳥獣はもっと素早く性格に(くちばし)を伸ばし獲物を捕食する。


 魔物と人間を比べても仕方ないか。


 左右に飛び躱していた身体を、突き出される度に後方へ退きながら騎士に私を追わせる。体力、瞬発力共に私に敵うはずがないのに、小犬という見かけだけで勝てると思い込んでいるのだろう。

 一撃を与える事ができれば私の勝ちだ。とでも顔に書いてあるようだ。


「もう息が上がってるみたい。そんな事じゃ相手にもならない」

「なにを……ふざけよって。貴様等、あの犬を取り囲んで退路を塞げ。トドメは私が()る」


 単独では無理でも、数で囲めばとは浅はかな。

 私を中心に剣を抜いた兵士たちが「もう逃げ場はないぞ!」「これで終わりだ!」と勇みながら取り囲んできた。


 この愛らしい姿に集団で剣を向けてくるとは……実に情けない奴らだ。


「こんな事で私の動きを抑えたとでも? 私も甘く見られたモノだ」


 今はこの姿だから仕方ないのか。それでも腹立たしい限りだ。こちらが仕掛けないから調子づかせてしまったようだ。


「退路を塞げばお前みたいな犬ごとき」

「犬ではないぞヒューマンよ。我は誇り高きハイウルフだ。ヒューマン如きが我を前に生きて帰還(かえ)れると思うなよ」


 封印(首輪)解き(外し)、真の姿を現してやった。

 開放された魔力が私を包むように風の渦となる。周りで取り囲む兵士たちは強風に煽られ目を細めながら、()の姿を見て戦意を失ったようだ。

 ヒューマンなど一呑みで喰らってしまえるほどの大きさだ。無理もないか。


「本物の灰色狼(ハイウルフ)だと……。人も、どの生物すら立ち入れぬ極寒の雪山に()むと言われている伝説上の魔物ではないか」


 爵位は下位に等しい騎士と言えど、さすがは教養のある貴族と言うところか。


 他の兵士どもはしりもちをついて戦意を失っているが、この騎士は両膝をつくまでに留めたようだ。この姿の我を前に見上げ続けるとは、頭が高いと一併してやりところだ。


「我を魔物呼ばわりするとはの。嘗ては我を崇めていたヒューマンの質もここまで落ちたか」


 絶望が体現されるとはまさにこの事だろうの。ただの兵士たちは恐怖のあまり言葉を忘れたようだ。騎士もようやく状況を理解できた様子だの。

 顎をガタガタと動かし奥歯がカタカタと音を鳴らし虫が囀っているようだ。


「もういいよラック。その辺にしといてあげなよ」


 私も少々熱くなっていたようだ。店から姿を現したマスターの存在に気がつかなかったとは。


「マスターが言うのならここまでとしておこう。ヒューマンよ、またも兵を差し向けるというなら我が全力で相手するものと思え」


 恐れのあまり身動き一つ取れない騎士にマスターが傍に近寄っていく。


「君たちにも立場と言うものがあるんだよね。今日の事は包み隠さず君たちの主に伝えていいけど、次はないからね」


 マスターも優しすぎるのではないか。

 ヒューマンは一度では学ばないほうが多い。一度冷静になれば物量でなんとかなるだろうと安易な策で仕掛けてくる事もある。そうなれば次は小隊程度は引き連れてくるであろうに。


 店からマスターとトトを連れ出すのを諦めた騎士隊は脱力感を漂わせながら森へと姿を消していった。


 あれから数日が経ったが、あの騎士隊は姿を現していない。散歩のときにも森の中を注視しているが森に踏み入れた形跡もないようだ。


 あの日以来、トトの元気もないように思う。

 騎士隊が居た間は居住空間のある奥で待たせていたのだが声が漏れ聞こえていたのか、自分のせいで迷惑がかかってしまったのだと思わせてしまったのかもしれない。


 商品に紛れて棚の上から開かれる事のない扉を眺めるのが私の一日の過ごし方になっている。扉の一点を見つめるのは、いつも元気なく店の清掃をするトトの姿を見るのがつらいと言うのが本心だ。

 マスターはいつまで何を待つ気でいるのか。


 トトは店の商品の埃を(はた)いて見違えるほど綺麗にしてくれた。

 毎日トトが熱心に働いてくれている店内は、扉を開けると左右の壁際に二段棚が置かれ、そこに全ての商品が陳列されている。


 入って左側の下段の棚には一般客用の日常生活に便利そうな魔道具類が並べられている。

 明かりを灯す照明魔道具や、食材の新鮮さを保ったまま保存が可能となるお手頃サイズの白い箱が置かれている。

 どの魔道具も魔石(ませき)を装着するとまだ使用できるとマスターは言っていたが、私の知る限り三百年は使われずに経っている。本当にまだ使えるのだろうか。


 上段の棚には鉄の鍋やキラキラと銀色に輝くキッチン用品が置かれている。

 商品にもある皮むき具というものを、馬鈴薯などの皮を剥くのに毎回トトが使っている便利な道具だ。皮むき具を街で露店販売すれば店の宣伝にもなるだろうし良い案だと思うのだが、まだマスターには伝えていない。


 この左の棚は一般客用の便利な日用品が主だった商品だ。


 右側の棚には冒険者用の品々が置かれている。

 上の棚には珍しそうなアクセサリーと魔石類が置かれているが、確かマスターがアンティークとか言っていたと思う。

 どれも魔力を秘めた相当古く珍しい品らしいが、今の人間には扱いずらいとも言っていた。どれも私には関係のないものだ。


 下段の棚は冒険者がよく使うポーションが並んでいるが、小さな透明の菱型瓶に入ったこれはエリクサーと呼ばれる伝説(レジェンド)級アイテムの万能薬ではないのだろうか? 私も実物を見た事がないので確証はないが、液体から感じる高純度の魔力がそう思わせてくる。


 他にも、丸みを帯びた瓶に入れられた濃い赤色のポーションが並んでいるが、これはおそらく外傷や骨折の治癒ができる通常のポーションだろう。

 だが、この特別細い瓶に入れられた透き通る鮮やかな紅色の液体は上級(ハイ)ポーションではないのか? (かつ)ての古きヒューマンなどはこれの製法を知っていたらしいが、現代(いま)のヒューマンには造り得ない古代の産物、幻のポーションなのでは……。


 気にはなるが商品を勝手に使うとマスターに怒られてしまうから確認をしたことがない。陳列された商品からは売れる要素しか感じないが、客がこない事には話にもならない不思議な店だ。


 扉から入ると真正面にはカウンターがある。ここが普段マスターが読書を(たしな)む所となっている。

 カウンターの横には奥へと続く扉があるが、これより先は店とは関係のない居住空間となっている。

 扉の先はキッチンと繋がっており、その広いスペースは皆で食事を囲んでも余るほどの大きなスペースがある。キッチンから伸びる階段から二階に上がれるが、五室ある寝室がメインでこれと言って珍しい物はない。

 キッチンには裏庭に出られそうな扉もあるのだが、この扉が開いたことはなく店の裏にはそんな扉は存在していない。壁に取り付けられた飾り扉なのだろうか。



「その調子だよ。風石(フウセキ)に一定の魔力を送ると風を起こすんだ。鍛錬すれば体内の魔力を自由に扱えるようになるよ」


 どうやらマスターとトトがキッチンでなにか始めたようだ。今日も客はこなさそうだし、少し覗いてみるか。


「ぶわぁああ」


 なにがどうなっているのか。キッチンのドアを開けると、ものすごい風が室内から飛び出してきた。

 私の愛くるしい頬をバタバタと震わせ一瞬にして口の中が乾燥してしまった。


 カッサカサの歯茎に内頬が擦れてむず痒い。中からはガチャーンと物が散乱する音が鳴り響いている。

 考えたくもない。きっとキッチンは悲惨な状況だ。知らないふりをして扉を閉めようとしたが風で閉まらない。中からはまたガチャン、ガランガランと激しい物音が何度も聞こえてくる。


 扉に身体を当てて押し戻そうするが、この小さな体躯では風に押し負けてしまう。さすがに店内で灰色狼(ハイウルフ)の姿に戻ると店がさらなる惨事となってしまう為、それは避けなければいけない。


 どうにか扉を――


「ぐるぅう"」


 唸り声を上げてしまうほどの風量に私まで飛ばされてしまいそうだ。


「マスター……風を」

「なにか言ったかい? 風の音が凄くて聞こえないんだ。すまないが扉を閉めてくれないか」


 そんな事をいわれても私も扉を押し戻そうと必死なのだが、これ以上は無理だ。チワワが竜巻に向かっていくようなものだ。


 中からは辺りを真っ白に照らし出すほどの光が放たれた。あまりの眩しさに潤んだ瞳を閉ざしながら必死に扉を閉めようと抵抗を続けた。


 風は無情にも勢いを増していく。


 目を閉じていてもわかる。光が強さを増していくと、最後はピカッと閃光してバリンと砕け散る音がした。

 どうやら風石(フウセキ)が注がれた魔力量に耐え切れず砕けた音だったらしい。最後の足掻きというやつなのか。砕けると同時に蓄積された魔力がとてつもない風量の風を生み出した。その風はキッチンから店内へと大河の様に流れ込み、私の肉球を床から引き剥がした。


「風石よ! 私がなにをしたと言うのだぁああ」


 逃げ場を失った風は天井を吹き飛ばし、私を空へと(さら)っていった。

 私の声は暴風に掻き消されながらもキッチンから店の様子を見にきた二人に届いていたらしい。


「「いってらっしゃい」」


 暴風により半壊した店から二人が私に手を振る姿が見えた。私はいったいどこに飛ばされていくのだろう。

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