7―不仲な種族
トトが込めた魔力量に耐えられなかった風石は花瓶が割れた様な音と共に砕けてしまうと、込められていた残存魔力の暴走に因って風を吹き荒らした。店を半壊させて外へと飛び出した風は空高くで渦を巻き竜巻となって私を森の外にまで連れ去ってしまった。
「ふむ。ここは森の外の荒野か」
広大な森を吹き抜けるほどの風を生み出すとはトトには恐れ入った。幼いながらにしてあの魔力量とは、魔法の素質があるみたいだ。魔力を宿した凡人程度なら強風を起こせれば良い方だろう。魔法使いでも精々その辺の木々の高さほどの竜巻が限界と言った具合かもしれない。
「マスターが傍に置く理由はこれだったのかな?」
竜巻は森の外へと私を投げ出した後、大地に降り立つと荒野を闊歩するかの様に荒れた大地の表面を削りながら傷痕を残しどこか遠くの方へと向っていった。
せっかく森の外まできたんだし、どうせなら街に寄ってから帰ろうかな。今の私は小犬の姿だし誰も警戒はしないだろう。
街へ向かう途中に魔物を何度か見かけたが、私を認識するとそそくさと逃げ出していった。今は愛らしいこの姿だが下級の魔物でも私がどれほどの存在かわかるようだ。
陽の熱を帯びて少し生温い荒野を一人、トテトテと肉球で大地を噛み締めながら歩いて向った。遠くて小さく見える街を見て、
「急がないと街に着くのが遅くなってしまうかな」
徐々に小走りとなり、いつの間にか駆け出していた。
「この短い足じゃ進んだ気がしなかったけど、やっと街がハッキリ見えた」
それにしても街の景観もすっかり変わってしまった。高い壁が街を囲むように聳え立ち、大きな門の前には門兵が街へ入る者の身分を確認している。街へ入るのに許可が必要なのかな?
昔は小さな街で壁も今よりずっと低かったのを覚えている。立ち止まっている人の列を横目にトテトテと門の方へ足を進めた。
「時が経つのは早いものだ」
門の前に並ぶ人の列は荷馬車を引いていたり、果物が入った編み籠を背負っていたりと様々な人々が立ち並んでいる。私は天幕が張られた馬車の荷を改めようと門兵が中を覗き込もうとした隙に門の中へと走り抜けた。
足元を走り抜ける陰に門兵がチラリとこちらを見たが「小犬か」と呟き気にもかけない様子だった。
この荒野にある街は人の往来も少なく活気がなかったと記憶しているが、今は露店などがあちこちに立ち並び、宿屋や酒場なども窺えた。
「最後にこの街に寄ったのはいつだったかな」
百年以上は前だっただろうか。三百年余りも生きていると時間の経ち方がうろ覚えになってしまっている。あの頃の街は冒険者が身体を休める程度に利用するような小さな街だったので商人や街人も少ない閑散とした街だった。
当時と比べればこの変わりようは見違えたみたいだ。人の往来も多く街に移住した民も増えたようだ。もしかすると他の街や王都などで流行するような特産品でも作り出したかもしれない。
テクテクと通りの両側に店を立ち並べている石畳の一本道の街路を進んでいると、街中を区切る様に立てられた壁の向こうに大きな屋敷が見えた。先日の近衛兵が言っていた領主の屋敷だろうか。
街を二つに区切る様に立てられている壁で一階部分は見えないが、その上に見える二階部分から上の三階建ての屋敷は目立っていた。
大きな屋敷に目が向いてしまっていたが、周囲も見てみると街中を歩く獣人の多さに違和感を覚えてしてまう。どの獣人も身形が乏しく靴すら履いていない者もいる。中には辛そうに裸足で背負子を背負って荷運びをしている子供の獣人たちも居た。
比べればヒューマンたちはそれなりに良い身形をし、店の番やら売り込みなどで肉体労働は獣人任せといった具合だ。身分社会が世の常だが、これほど露骨に現れていると見ているこっちが釈然としない気分になってくる。
あまり意識しないように石畳の一本道を街を奥へと向っていると十字路となっている道へと繋がった。その十字路の一画はどうやら中央広場になっているようだ。
「本日の目玉商品のひとつ!」
なにやら街の中央にある広場には演台のような舞台が設置され、そこに立つ商人風の格好をした中年の男が声を上げたようだ。その演台が置かれた中央広場には演台の上に居る男に注目する人だかりが出来ていた。
察するに集まった人々に向かって商品の実況販売をしている様子だ。演台の上に立つ男の背後には黒い布が被せられ中が見えない大きめの四角い箱の様な物が二つ置かれていた。カランカランと手にしているベルを振り鳴らし声を張り上げながら、演台の前に群がる人たちの注目を一層に集めている。
「早く見せやがれってんだ!」
「獣人はもういらねえぞ!」
商人風の男に注目する人たちは演台に向って言葉を投げかけている。人が多く皆が一斉に言葉を投げかけるものだから入り混じった言葉に何を言っているのか聞き取れなかった。
ふむ。マスターの店先にもあのような演台があれば人が集まるのではないか。そんな事を考えながらも、なんとも言えない醜悪な雰囲気に考えが阻害されてしまう。
集まる客の声も呼び込む演台の男も、どちらも私の好まない下衆な臭いがしてくるようだ。演台の上に居る男は黒い布を掴むと勢い良くそれを捲り上げ声を張り上げた。
「ドワーフ族だ! 力仕事も良し。冒険のお供にも役に立つ。なにより鍛冶をさせれば放っておいても良質な武具を生産してくれるオプション付きだ! 鍛冶屋やギルドが跳びつかないうちに買ったもの勝ちだ!」
なんとドワーフが売り物にされているだと!?
この広場は奴隷商の商い場だったのか。捲られた黒い布の中から現れたのは檻の中でうな垂れるように正座するドワーフだった。色あせ汚れた白いシャツに白の短パン姿で手枷をかせられている。弱りきった身体は体躯もか細く観るに耐えない。
私の知るドワーフは小さくても筋骨隆々であり職人気質の者共だ。あまりにもかけ離れた容姿に本物かと疑ってしまうほどだ。
先ほど街にいた獣人たちも奴隷として捕らえられ、ここで売られた者たちなのだろう。他から捕らえてきた種族をこの街で売買することで人の往来を促したのか。
確かに人の流れはその街の経済を潤すが、たかが一介の奴隷商がドワーフを捕らえられるとも思えない。それに街の人々も当たり前の様に中央広場で商いをする奴隷商人を見ても何とも思っていないかのようだ。
あまり考えたくないが、街ぐるみで奴隷での商いを栄えさせているかのように思えてしまう。人身売買とは観ていて気持ちのいいものでもない。ここから離れるとしよう。
「最後は森の民、エルフの姉妹だ!」
背を向けてこの場を離れようとした私に、自身の耳を疑う種族名が聞こえてきた。
「なっ――エルフだと!?」
つい言葉を口にしてしまいながら、私は演台の方に振り返った。捲られた二つ目の黒い布の中には二人の女エルフが確かに入れられていた。身形も手枷をして奴隷服を着せられているようでドワーフと同等の扱いだった。ドワーフもエルフも、独自の国家体制を整え生活をしているとは知っていたが、どちらも出会うことさえ稀な者達だ。あの尖った長い耳に透き通るような白い肌、間違いない。
「エルフだ」
売買されている奴隷がドワーフにエルフとは……もう少しばかり留まって様子を見るか。
「エルフの姉妹を披露できるのはこれが最初で最後かもしれないよ! 観賞用にも愛玩具にも、なんでもこいのエルフは姉妹セットで金貨80枚からだ!」
この男はどこから彼らの居場所を知ったのだ……。
エルフはどの種族よりもプライドの高い種族。ヒューマンがエルフを捕らえ奴隷にしているとエルフ族の耳に入れば戦争にもなりかねない事態だぞ。
不仲なのかは詳しく知らないが、お互い歩み寄ろうとはしないドワーフとエルフの両種族に限って共闘はないとは思うがドワーフもエルフが攻め込めば戦況を見て突入してくるかもしれない。
この街からちょうどいい距離で身を隠す事ができる場所はおそらく店のある森だ。そこを拠点にしてエルフが集まれば、エルフが侵攻してくると伝わらないよう情報封鎖目的に店を襲ってくることも十分にありえる話だ。
急いで店に戻りマスターに報告したほうがよさそうがいいかもしれない。
「キャーッ!」
悲鳴!?
あの路地の方か!
急ぎたいときに厄介事とは……状況が状況だ、街に関する情報は多い方がいいか。様子だけでも見ておくか。
「だ、れか……たす」
中央広場の在る場所は私の歩いていた一本道の左側だった。声がしたのは広場から一本道を挟んだ向こう側の立ち並ぶ店の間の薄暗い路地だ。
広場から駆け出し数十秒程度の然程時間もかからない場所だったので、私は声がしてすぐに着く事ができた。だが到着したときにはすでに遅く、引き千切られた無残な姿の女性の上半身だけが壁に寄り掛かっていた。女性の寄り掛かる壁は路地の突き当たりで密集する建物が陰となり陽の光を遮り、この路地裏の奥は光が差し込まず薄暗い。が、そこに立つ大きな何かが居ることはわかった。
「魔物」
私の声に反応したのか、振り向いたそれはやはり魔物だった。口のまわりは血で赤く染まっている。
「その女性を喰べたな」
頭に生やした二本の角に赤黒い肌。そして一目でわかるその巨体。こいつは大鬼だ。
ゴブリンが進化するとホブゴブリンという見た目はヒューマンに近い緑肌の成人体格ぐらいの魔物になるが、そのさらに上位進化に大鬼が在ったはずだ。強大な魔力を宿すその肉体は鋼のように硬い皮膚をしているというが、まさかこんな街の中に現れるとは。
門には門兵が常駐しているようだったし、私の様に門兵の隙を見て門を潜れる大きさでもない。それに門兵が駆ける抜ける魔物を見て「オーガか」と私の場合と同じ様に呟いて終わる相手でもないだろうしな。
街中も衛兵が巡回しているが、いったいどこから現れたのだろう。すでに街の中に潜んでいたとでもいうのか。
オーガの現れた経路など考えていても仕方がない。私の背後には路地の中を覗く人が集まってきているようだしこの場も荒れそうだ。
「なにがあった!?」
集まる人だかりを掻き分け身を乗り出してきたのは街中を巡回する衛兵だった。街中の治安維持が思ったよりも早いお出ましだ。
「あっ、あぁ……」
腰を抜かすなど何しに来たんだ! まあ無理もないか……。
オーガなど場数を踏んだ冒険者がパーティーを組んで狩るほどの強敵だ。その巨体に鋭い眼光を向けられただけで、只の人では戦意を失ってしまうだろうに。
この衛兵は反射的に足をジタバタとさせてお尻を押しさがらせて後ずさるが、どうやらオーガの方は殺る気と見える。
私は使い魔だ。この街の者など助ける義理もない。ましてや他種族を奴隷にして栄えた街など。
じきにこの街を拠点として活動する冒険者か、魔物が侵入した際に対処するための衛兵隊がくるだろう。私は少し離れた場所から駆けつけて来る者が大鬼と戦う様でも観てから帰るか。
そう思いオーガを措いて路地から出た私は人混みの中を先ほどの広場に向かって駆けて行った。何度か人混みの中を通る際に踏まれそうになったが、無事に元居た広場に着く事ができた。
広場から先ほど居た路地に視線を向けるが小犬の姿では視界が低く、集まった人たちが視界を遮り路地の様子を伺う事はできそうにない。
「ここからなら見えるかも」
演台に上ってみると、悲鳴を聞きつけ路地に群がる人々に視線を向けて事の様子を覗っている奴隷商は演台に上った私には気づいていないようだ。
まだエルフとドワーフは檻の中に詰められたまま放置されている。オーガの犠牲となった女性の悲鳴を聞きつけた客が路地の入り口付近に流れてしまい、奴隷商の男は散ってしまった客の姿に少々不機嫌そうに見える。
「何が起きてるってんだ!」
ドワーフの入れられている檻の柵に前蹴りをして鬱憤を晴らす奴隷商人。ドワーフは横暴な振る舞いの奴隷商人に慣れている様子で、声一つ上げずにジッと正座を続けていた。
路地の方からは建物の一部でも破壊されたのか、大きな瓦礫の崩れる音と共に集まっていた客たちが蜘蛛の子を散らすようにその場を去っていく。
どうせ暴れるオーガの姿を目の当たりにして逃げ出したのだろう。そんな中、
「止まれ!」
路地から制止を促す声が響き渡った。この声はさっきの腰を抜かしていた衛兵か。他の者たちは逃げ出したというのに、腰を抜かした衛兵が一人で増援がくるまで凌ぎきる気だろうか。
人が居なくなり路地の入り口を見えると、その付近で果敢にも剣を構えている衛兵が見えた。震える膝でそろりそろりと後ずさっているだけで、今にも路地から出て来そうだ。あんな子羊の様な衛兵ではすぐにやられてしまいそうだ。
「ぶはっ」
思いのほか早くやられてしまったようだ。オーガの一撃を浴びてしまってようで、広場の方へと勢いよく吹き飛んできた。
「な、何事だ!?」
飛ばされて広場に横たわる衛兵の姿を見た奴隷商が声を上げた。
その声に反応したのか、単に私の目の前に転がっている衛兵にトドメを刺す気なのか、オーガの視線はこちらに注がれた。
オーガはこちらを凝視した後、狙いを定めたように走り出す。ズシンと地を響かせるように地面を踏みしめるたびに地揺れが起きているかのような錯覚に襲われた。ゴブリン上がりのオーガの癖に凄まじい威圧だ。
オーガの一撃は重装鎧の冒険者ですら完全には防ぎきれないと聞くが、この転がってきた衛兵は多少の傷は負っているものの命に別状は無いだろう。偶然にも気を失うだけで済んだようだ。
「ひぇ、なぜこっちにくるのだ?」
さすがは奴隷商。駆け出してきたオーガを前にしても金貨の入った袋だけは大事に握り締めて逃げ出そうとしている。
オーガは丸々と肥え太った奴隷商に狙いを定めたようで、この演台へと向かってきた。止まる様子も無く駆け抜ける勢いで演台へと向ってくるオーガはそのまま足を緩める事なく凄まじい体当たりを披露した。
演台は積み上げた石を崩したように簡単に破壊され、奴隷商が手にしていた袋から演台の下へと金貨が散らばっていく。
「誰か! 私を助けろ! 散らばった金貨はくれてやるぞ!」
声を上げて助けを求める奴隷商を鷲掴みにしたオーガは、片手で身体を掴んだまま躊躇なく頸を捻り回した。前を向く身体とは反対に頸を後ろを向きながら「ごぶぽっ……」と口から血を流しながら奴隷商の命は消えようとしていた。オーガは掴んでいた頭を一度離すと、頸は垂れるようにぶら下がった。その時にはすでに絶命していただろう奴隷商の頭をもう一度掴むと、トマトを潰すようにブチュリと握り潰した。ブチリと潰れる鈍い音とゴリリッと頭蓋を砕く音をさせながら、トマトの中身が飛び出したように血飛沫が辺りを赤く染めていった。
「まだ腹を空かしてたのか」
オーガは奴隷商の腕や足を引き千切りながら貪り始めた。
それを見ていた私に向けられた視線を感じた。ふと振り返って見ると破壊された演台の残骸からエルフの姉妹がこちらの様子を窺っている。角材や板などの残骸の中に埋もれている檻から察するに、オーガの体当たりで運よく鉄格子が曲がり抜けだせる程度の隙間が拡がったようで出られたのだろう。
そういえばドワーフの方は……ん?
檻すら見当たらないがどこへ飛ばされたのか。どこかへ飛ばされていればオーガに襲われることもないだろうし、一先ずは良かったのだろう。
檻から出られたエルフの姉妹は当然手枷は嵌められたままだ。この場から逃げ出す気でいるのか、タイミングを見計らうように瓦礫の中からオーガの隙を窺っているようにも見える。それなら奴隷商人を喰っている今が一番逃げやすいはず。だがやはり少し様子が違うようだ。
「……なるほど」
そういう事か。オーガを前に怯えて動けない小犬を見つけてしまい、どうにかしようとしてる感じだな。私のことなど気にしなくて善いというのに。
どうやら奴隷商を喰い終えたらしく、オーガが演台の残骸に視線を向けながら何かを探しているようだ。檻に入っていたドワーフとエルフでも探しているのだろう。
ゴブリンとは違いそれなりに知能はあるようだ。自由に動ける奴隷商から襲い、檻に入っていた者たちを後で喰おうとでも考えていたのか。
やはりオーガは厄介な魔物だ。
ガタンと物音がすると、オーガは音の先へと視線を向けた。視線の先に居たのはゆっくりとだが私のほうへ近寄ってきていたエルフの姉妹だった。
じっとしていても見つかってしまうならと行動に移ったのだろうが、人より身軽なエルフでも、やはり手枷をしたままでは思うように動けなかったようだ。
飛ばされたついでに街に寄りマスターたちに土産話でもと考えていたが、この姉妹を見殺したとあっては笑い話にもならない。この二人だけは特別に手を貸してやろう。
そう思った私は首輪を外し封印を解いた。溢れる魔力が渦を巻き風を発生させる。土煙が舞い上がり私は広場に真の姿を現した。
エルフの姉妹、それにオーガですら小犬がいる、ぐらいにしか思っていなかったのだろう。エルフの姉妹は、この姿を観て、口を開いたまま言葉を失ってしまったようだ。
それに比べてオーガは突如現れた私に先手を打ってきた。魔法を使えるのか、片手を頭上に掲げ魔力を注いでいる。
「【炎獄の火球】」
上位種の魔物が言葉を口にするのはめずらしくないが、このオーガの魔力は他の上位種と違い桁違いだ。
それにやはり上位に位置する魔物――詠唱も無しか。
回避は容易いが後ろにいるエルフ姉妹は間違いなく跡形もなく消し炭になるほどの威力だと見て取れる。
オーガも我を前に全力を出さねばと直感的に理解したのだろう。多少なりとも知恵のある魔物とは厄介なものだ。
まずはあの大きな火球をなんとかせねばなるまい。
「【雪原の大吹雪】」
頭上に掲げた掌からオーガの放った巨大な火球と、我の放った絶対零度の息吹が衝突した。
我と大鬼の間で衝突した互いの魔法は、火球の熱と我の息吹で爆散して霧を生み出したあと、爆散した余波が周囲の大気を震わせた。
「エルフの姉妹よ。我の背に乗るがよい」
エルフの姉妹はこの光景を前に逃げることも忘れ唖然としていたが、言葉を投げかけた我の声に頷いてみせた。
我はオーガが霧に包まれている間に、エルフの姉妹を背に乗せ門の方へと走り抜けた。霧は思ったほど広がってはおらず、広場の周辺だけに留まっていた。
人が見当たらない。どうやら身を隠しているか、どこかへ逃げ出したようだが、そんな状況でも前方からこちらに向かってくる者たちもいた。
どうやらこの街の冒険者達がオーガの討伐に出向く気らしい。冒険者たちは駆ける我に気づきはしたが、この速度には反応できなかったようだな。
我の方を振り返り……
「なん、だと……」
あれはいなくなったドワーフではないか。冒険者たちの背後に居て追い抜くまで気づかなかった。
手枷を自力で壊したのか。あの危機的状況だ。ドワーフならやりかねないが、
「クハハハハッ」
あやつ、中から持ち上げた鉄格子の間から足を出して逃げておるではないか。
「こらっエルフ! ドワーフに向かって石を投げるな!」
我の想い違いだったようだ。こやつら種族は不仲なようだの。




