11 [店は臨時休業中だが順調なカザミ3]
ギョロリと眼だけで視線を俺に向けた地竜は、俺の観察を続けていた
「死んだふりはしなくていい
こっちにきて話を聞いてくれ」
地竜は真っ直ぐにピンと伸ばされた巨体を、岩壁から地に、尻尾から降ろしていく
身体の半分ほどまでを地につけると、頭を岩壁から下ろし、蛇の様に俺の元に這いずってきた
そばまで近寄ると、頭を高く上げ、俺を見下ろしている
「これから数日の間、昼間はここを離れる
お前と戦った大賢者と、その使い魔は問題ないだろうが、片角を生やした子供がいただろ
この階層はお前の棲処だと把握しているが、もし、あの子達がここに来ても危害を加えるな」
地竜の眼は、真っ直ぐな瞳で俺を見つめている
「どうだ、約束できるか」
地竜は何も言わずに、大きな頭を地に伏せた
言葉を交わす事はできないようだが、俺の意志は伝わった様だった
俺は地竜に敬意を表す代わりに、料理を振舞う事にした
バーベキューコンロを用意して、熊肉のブロックに塩、胡椒、香辛料を揉み込んで臭みを取り、熱した網の上で焼き、香辛料の香りが漂う美味しく焼けたブロック肉を地竜に差し出した
地竜は臭いを嗅いだ後、それを一口でたいらげた
「お前が約束を守り続ける限り、俺は焼いた肉を振舞おう」
地竜は焼いた肉をさぞ気に入ってくれたらしく、俺の言葉にコクリと頷き、半球状の階層の中央に移動し、身体を巻いて静かに眠りについた
俺はその足で、上の階層まで上がってきていた
六階層は、ありふれた空洞が続いていた
「俺は確か、四階層でベアと共に落ちてしまったんだったな」
さすがに横穴が多く、迷ってしまうかもしれないと思い、俺はマッピングをしながら進む事にした
探知察知と危険察知を常時発動にして、周囲の警戒を怠らないよう務めた
すでに探知察知で視界に表示されているレーダーマップには、無数の赤い光点が表示され魔物の存在が確認できるが、重なり合った光点は赤黒く変わっていく
「只の興味本位で訪れただけだったが、すぐにでも魔物と遭遇しそうだな」
黙々と真っ直ぐ伸びる空洞を歩きながらマッピング様の紙に、横穴のあった場所に目印をつけていく
五、六階層を俺は歩んでおらず、どんな危険があるのか確認しておきたかっただけだったが、レーダーにはすでに前方と後方から続々と魔物が集まってきている
「一応、危険度の高い魔物がいるかも確認しておくか」
俺は挟み撃ちされるリスクを承知で歩き続けれると、光玉に照らされた魔物の姿が暗闇の奥から浮かび上がってきた
「見慣れた魔物で安心した
確か俺の世界では火に弱い最弱のモンスターという扱いだったか」
岩壁を這うヌメヌメとした魔物、そのゼリー状の身体の中に丸い玉が窺えた
「スライムってやつだよな」
思った以上に数が多く、壁や天井と、いたる所から俺の方へ向かってきている
黒刀を抜くと同時に、スライムは俺の方へ急接近してきた
這う姿は遅く、鈍足な魔物と思ったが、飛び出した速さは予想以上だった
刀を振るい飛び掛ってきたスライムに斬りかかると、あっさり両断できた
後方の赤い光点も、じわじわと距離を縮めてきている
俺は駆け出した前方のスライムの群れに斬りかかろうとしたが、足が地から離れない
足元を見ると、斬ったはずのスライムが一つに戻り俺の足を地面に固定している
まるで接着剤でも塗られたみたいだ
ほんの一瞬、視線を逸らしたはずだったが、前方からスライムの群れが次々と俺に向かって飛び出してきた
足は固定されているが、腕だけでなんとか正面に飛んでくるスライムを斬り、両断したスライムを見ると、それは一つのスライムへと混ざり合い、元のスライムの姿に戻っていく
防ぎきれず身体に取り付いた何体かのスライムからは、シューと小さな音が聞こえてきている
「最弱と思い油断したか・・・厄介だな」
スライムの取り付いている箇所の服は、深い緑色へと変色していき、肌に液体が接触した感触がしたと同時に、その箇所から激痛が走った
「ぐっ・・・」
俺はスライムを掴み、離そうとしたが、ヌルヌルとしたゼリー状の身体は思うように掴めず、手はスライムの内部に入ってしまう
突如、その手からも激痛から走り、たまらずにスライムから手を離す
「毒か、それとも溶解液の様な物か」
手を見ると湯気の様な物を上げて皮膚は溶け、手からは血が滲んでいる
どうやら毒ではないようだが、溶解液で溶かされているようだ
時間を与えずに溶かしきろうとしているのか・・・後方から近づいていたスライムと前方から襲ってきたスライムが一斉に俺に向かい飛び出してきた
俺は体内の魔力を操り、自身の身体に膜を張るように魔力を纏った
纏った魔力で直に接触する事は避けれたが、あまりにも多いスライムの数に取り付かれた俺は、身動き一つできなくなってしまい、刀を手放してしまった
すでに纏わり付いているスライムは一つの固体になったのではと思うほどに肥大化し、手放した刀は地に落ちる事はなく、スライムの体内を漂っている
スライムが火に弱いと言う事を願いながら、纏った魔力に引火させるように火柱を発動させると、スライムはチーズの様に溶けていき、カランと乾いた音をさせながらスライムの体内の玉が地面を転がった
その後は、俺の身体に纏わり付いていたスライムが溶けて地面に流れ、玉が落ちるたびにベチャッと不快な音を鳴らし続けた
俺は深い溜め息を漏らした
圧倒的な数に物理攻撃は無効、このダンジョンで一番の脅威はスライムかもしれない・・・




