居住権で居座る作戦
戦略は明快で、何とか着工を遅らせること、高度地区指定を早めること、このニ点だ。高度地区の指定に関して言えば、日程では最終決定してから県の認可を得るのに一ヶ月かかることになっている。駆け込み着工を防ぐためこれを短縮してくれというのは、断る理由がないだろう。県庁にお願いに行って、マンション業者の非道を訴えた。「なるべく早く」という解答を得た。
さて、工事を遅らせるにはどうしたらいいだろう。建設予定地には三階建のアパートが建っていて、まずは、これの取り壊し工事がある。居住権と言うのは民法上かなり強い権利で、居住者がいる限りそう簡単には退去させることはできない。アパートの居住者に協力してもらって居座るのが解体工事を遅らせるには最も有力な方法だ。
しかし、マンション業者はすでに手を打っており、住人は殆ど退去してしまっており、おそらく外来研究員で帰国の日程が決まっている何人かの中国人居住者が残っているだけだ。退去する住人から部屋の又貸しを受けて、居座るという手段があるとわかった。鍵を受け取り、口答で残りの契約期間の居住を了解してもらったと主張すれば退去者にもあまり迷惑は掛からない。その後事情が変わって契約期間の延長が必要になったと通告する。もちろんこれで無限に居座りを続けられるわけではないが、裁判所を通じて退去を命令されるまでに悠に二カ月はかかる。
確かに有効な方法だったがこれを実行する決断がつかなかった。普通の市民には少し勇気が要りすぎる手段だ。借り受けた部屋に誰かが常駐しなければならないし、解体屋の実力行使もありえる。当然損害賠償の訴訟を起こしてくる可能性もある。住民に対して何億円というような、こけおどし訴訟を提起するのはマンションディベロッパーの常套手段だがこちらもある程度の覚悟はいる。ぐずぐずしているうちに日が過ぎ、なかなか居住者とうまく連絡もとれず、とうとう全ての居住者が退去してしまった。結局この方法はあきらることになった。




