◇2
一度身体に染み付いた“クセ”というのは、そうカンタンには拭えない。
ぼくの場合も然り。
ぼくは“逃げること”がすっかりクセになっていた。
都合が悪い時。
状況が悪い時。
空気が悪い時。
すぐ、逃げる。
いつからだろう。こんな風になってしまったのは。
それともぼくは最初からこんなんで、このままずーっとこうして死んでいくのかな。
その時はきっと、独りだ。
◆ ◇ ◆
「はい、後5分──」
目を覚まして一番に聞いた声は、全く聞き覚えの無い声。そして視界に映った光景に、思わず絶句する。呼吸すらも絶えた。
──どういうわけかぼくは今、学校に居る。学校の教室の机に向かい、問題用紙を見つめている。解答用紙の解答欄は既にすべて埋まっていた。
混乱する頭でなんとか現状を理解しようと努めるけれど、とても無理だった。
教室内にはシャープペンを走らせる音と、教師が見回りで歩き回る足音だけが響いている。それからやけに耳につく時計の秒針。
シャープペンを握る手が震える。ヘンな汗が滲み、解答用紙にぽたりと落ちた。混乱して呼吸が上手くできない。口の中の水分がすべて飛び、ひゅっ、と喉が枯れた音を出した。
いったい、どうして…なんで、よりにもよって、こんなタイミングで。
「──はい、ではここまで。解答用紙を後ろから回収して」
教壇に立った教師があげた声に、体が大きく揺れた。
静かだった教室内にざわざわと喧騒が湧き、ガタガタと机や椅子のぶつかる音が響く。ぼくは一層かたくシャープペンを握り締めた。
「おい、何やってんだよ」
後ろからこずかれ解答用紙を突きつけられる。それでもぼくは、振り返れない。
「…おい」
後ろの席の人の声に、苛立ちが滲む。体が、震えた。
わかっている。だけどムリ。ムリなんだ。
「おい、山田──」
──ガタン!
それ以上ぼくはその場に居ることができず、震える体で勢い良く席を立ち上がると教室から一目散に逃げ出した。
わかることはひとつだけ。
ぼくはまた…月子ちゃんに、なっていた。
前も見ずに長い廊下をひたすら走る。周りに気を配っている余裕などない。とにかくはやくここから逃げなくては。誰も知らない場所に行かなくては。
ぎゅう、と締め付ける胸の痛みに死んでしまいそうだった。
だけど、そうだ、この体は月子ちゃんのだから。ぼくの痛みではきっと、折れたりなんかしないんだろう。
でも、ぼくは、痛い。どうしようもなく、痛いんだ。
あがる息に嗚咽が混じる。視界が歪んで足取りさえおぼつかない。でも不思議と足は動く。無我夢中で。体のカンカクが、麻痺してしまいそうだ。
――ドン!
廊下のつきあたりを曲がろうとしたところで、誰かにぶつかってしまった。
驚きで一瞬顔を上げてしまい、相手の姿が視界に映ったけれど、涙と視力の悪さが相俟ってぐちゃぐちゃの視界だったので、相手の顔はまったくわからなかった。
「ご、ごめんなさいごめんなさい…!」
咄嗟にそう口にして頭を勢いよく下げるだけが精一杯で、体の向きを変えまた走り出す。
そんなわけはないのに、今のひとが追いかけてきたらどうしようと思うと怖かった。
捕まって殴られる前にはやくここから逃げなくちゃと、それだけしか考えられなかった。
ああ、でもぼく、昼間まともに学校に来たことがないから…! ここがどこで、どうすれば外に出られるのか、わらかない…!
しかも他の生徒達との接触を避けたいのだから、通常の昇降口からなんて論外。せめて1階に降りて窓から出られればいいけれど、どこの階段から降りてもダレかが居る気がする。ムリだ。怖気づく。
今この場所に居るという事実だけで、遠くにダレかの声を聞くだけで、泣き叫びたいくらいの恐怖に襲われた。
「…ぅ、っく、どうしよう…」
思わず声が漏れた。流石に息が上がり立ち止まると、足がガクガク震えて立っているのもやっとだ。
情けない。わかっている。こんな、なんて…
――ブブブブブブ
「ひ…!」
スカートのポケットから微振動を感じ、驚いて思わず飛び上がる。しかし瞬時にその存在を推測できたぼくは、すぐさまソレを取り出した。
それは自分のものとは正反対で、まるっこくて、ぶ厚くて、懐かしいカンジがする、月子ちゃんの携帯電話だった。
自分のじゃないと解っていたけど、ディスプレイに映し出された番号を見た瞬間、もはや反射的に通話ボタンを押していた。
「……っ、も、もしもし…!」
『……もしもし…?』
電話の向こうから、男の声。一瞬誰だかわからず身構えてしまったけど、違和感はあるけど、これは、自分だ。ぼくの声だ。だけどぼくじゃなくて…
「つ、月子ちゃん…?!」
『…そうね。認めたくないけど』
「う、うう、ぼ、ぼく、学校で…!」
『そうでしょうね。あたしはさっきまで補講を受けていて、最後の確認テストの問題を解いていたんだから』
「うう、月子ちゃんん~~」
『ちょっと、あたしの声で情けない声出さないでくれる。今どこなの?』
受話器の向こうから聞こえてくるのは、いつもより落ち着いたぼくの声。なのに、声はぼくなのに、いつもは弱音しか吐かないぼくなのに。中身が月子ちゃんが語るぼくの声はとても落ち着いていて、今度は安堵の涙が零れた。
『廊下の窓から外に何が見える?』
月子ちゃんに訊かれたぼくは、体を低くしたまま窓に近づき、そろりと外を覗き込む。それから情報を得るべく右から左へと視線を巡らせた。
「…月子ちゃん、メガネかコンタクトした方が、良いんじゃないかな…」
『余計なお世話よ、いいからはやく』
「え、ええっと…中庭、かな…あ、ちょうど真下に像があるよ、二宮金次郎っぽいカンジの」
『…実習棟の方にまで行ったの。今日、あいつらが居ないといいけど…』
「え、月子ちゃん…?」
『…なんでもないわ。すぐ行く』
月子ちゃんはぼくの曖昧で適当な情報からぼくの現在地を推測できたらしく、すぐに来てくれるということになった。月子ちゃんの頼もしい言葉に安堵しつつも、慌ててぼくは電話口に付け加える。
「つ、月子ちゃん! 外に出る時、カラースプレーするの忘れないでね、メガネも…!」
『…はぁ?』
う、電話の向こうのぼくの声が、明らかに苛立っている。当然だ。余計な手間ばかりかけて。でもこれは、ぼくだって譲れないんだ。
「スプレーはクローゼットの中にいっぱい買い置きあるから! 髪色が隠れれば適当で良いから…! メガネと定期はカバンの中で…あ、月子ちゃん駅どっちかわかんないよね…」
それから電話越しに駅の場所や路線の説明をし、電話を切る。
最後月子ちゃんは心底面倒くさそうだったけれど、たぶん、大丈夫だろう。…多分。
あとは、月子ちゃんが来てくれるまで、人に会わないようにすれば良い。補講ってことは、全校生徒が居るわけじゃない。もう終わったみたいだし、生徒達もぼちぼち帰路についているだろう。
漸くほっと一息吐き出したとき──
「……あれぇ、山田じゃん」
背後から声が、した。
月子ちゃんを呼ぶ、女生徒の声。気配はひとりだけじゃなく、複数居る。
その声はとても冷たく耳に届き、体が一瞬で凍りそうなほどだった。
「はは! 補講、来てたんだぁ」
「当たり前じゃん、だって山田、特待生だもんねぇ」
ゆっくりと、半ばムリヤリに体を傾けて、なんとか振り返る。体自体がそれを拒否しているかのように、重い。…苦しい。
声は足音をたてて近づいてくる。
「定期テストで一定の基準以上の点数とらないと、奨学金取り下げなんでしょぉ?」
「あらーじゃあガッコ辞めるしかなくね? だって山田ん家、ビンボーなんでしょ?」
3人の、女生徒だった。それぞれみんなスカートは短く、髪色は明るく、制服はほとんど原型を留めていない。もちろんぼくは全く知らない人。
月子ちゃんのことは知っているみたいだけど…だけどわかる。きっと誰だってわかる。
月子ちゃんの友達ではないってことくらいは。
その内のひとり、人工的な金髪の女子がぼくの目の前で腰を落とすと、ぐっとそのやはり人工的な顔を鼻先に近づけてきた。
「今回は補講でなんとか免除してもらえて良かったねぇ。なぁんで特待生の山田サンは、テストで0点なんかとっちゃったのぉ?」
可笑しそうにくすくすと笑う声が、鼓膜のずっと奥でもまだ笑っている。
長い爪、赤い口、濁った目の色、毒を吐く息。裂けた口で笑うその顔は御伽噺の魔女みたいだと思った。
これはなんだろう。息苦しく、重苦しく、指先から冷えてゆく、この感覚は。
その反面で心臓だけがどくどくと、熱い血を絶えず噴き出している。ものすごいはやさで。
「…なに、また得意のだんまりかよ」
すぐ鼻先のその顔から笑みが消え、眉間に綺麗な筋が入る。舌打ちと共に吐き出された言葉に全身がざわついた。
これは、この感覚は――
「恭子、健太達が探してるって」
別の女生徒が携帯電話片手に呼んだ声に、“恭子”さんは再度短く舌打ちし、勢いよく立ち上がった。
それからポケットから取り出した携帯電話を器用に片手で操作しながら、ぼくを見下ろす。ぎょろりとした目玉が、ぼくを逃がさないと言う。
「またさぁ、暇になったら呼ぶから。今度は昨日より、もっとオモシロイこと考えとくから、ま、楽しみにしててよ、山田サン」
言い終わると同時に彼女は携帯電話をポケットにしまい、踵を返したかと思った次の瞬間――
「……っ…!」
鈍い音が廊下に響いた。それは近く、自分の右肩のあたりから。
おそるおそる眼球だけ動かすと、右肩からは細く長い脚が伸びていて、目の前の彼女に繋がっている。ぼくの右肩は、彼女の足の下にあった。
ちがう、ぼくの、じゃない。これは、月子ちゃんの――
「あんたもさ、ちっとは反応してよ、つまんないじゃん。わざわざ相手してやってんだからさぁ」
認識よりも遅れて、鈍い痛みが右肩に集中する。指先までビリビリと痛みが走り、力を入れていられない。でも不思議と痛いという感覚よりも、体は別のものに支配されていた。
声も出ない。涙も出ない。なにひとつ、まともに機能しない。
それから彼女は短くまた笑い、今度こそぼくに背を向ける。その足音が遠ざかり聞こえなくなっても、体はぴくりとも動かなかった。動かせなかった。
…彼女なんだ。きっと彼女が、そうなんだ。
目が離せなかったその顔。脳裏にまで響く声、刻まれる動作。
愉しそうに彼女は笑っていて、その後ろでは別のひと達も笑っていて。ぼくにはどうして彼女たちが笑っているのか、何がそんなに楽しいのか、まったく理解できなかった。
でもそれは当たり前なんだ。
だってぼくと、ぼくらと彼女達とでは。立場が違う。
違うのだから。
流石にぼくも、気が付いていて、だけどぼく自身が触れられたくなかったから確認なんてできなくて。
だってそんなに訊けないじゃないか。訊かれたくないじゃないか。
きみもいじめられてるの? なんて。
だけど昨日あの場所で出会ったことがその証だって気づいてた。彼女の体の、ずっと消えない痛みが、階段から転げ落ちた所為だけじゃないって、気づいてた。
でも心のどこかでそんなの認めたくなかった。月子ちゃんがぼくと同じ立場の人間だなんて、信じられなかったんだ。
だってぼくと月子ちゃんはまるで違う。ぜんぜん、違ったから。
ぼくは家でただひきこもっていた。
月子ちゃんは毎日学校に来ていた。
ぼくが家でただ泣いている間、彼女は学校で戦っていたのだ。
…独りで。
どれくらいの時間が経ったかもわからずただ呆然としていた。校内は不気味なくらい静まりかえっていて、ここにはぼくひとりだけのような、そんな錯覚さえするほど。
少しずつの時間をかけて、体の感覚がゆっくりと戻ってくる。
ぴくり、と指先に神経が伝わったとき、痛いという感覚だけが体に残った。
「……っ、っく」
涙が出た。
だってすごく、痛くて。痛くて痛くて、どうしようもなくて。そして同時に、とてつもなく情けなかった。
ぎゅう、と両腕に顔を押し付けて蹲る。右肩が痛くて上手く力が入らない。
だけど何故か無性に、そうしたかった。痛みを堪えて両腕を抱いた。
きっと、さっきまで涙ひとつ流さなかったのは、月子ちゃんの体だ。そして今泣いているのは、ぼくの所為だ。ぼくの弱さが、泣くからだ。
“身体”が時に主のいうことをきかないように、“身体”にも記憶や意志があるというのは、本当なのかもしれない。本人を差し置いて、感じるものやそれとは逆に封じるもの。
“身体”と“心”は、繋がっている。
今この体の中に居るのがぼくだとしても、この体は“月子ちゃん”として、自らの意思で動く時がある。そう思えてならなかった。
さっきの彼女と対面した時の、あの感覚は、ぼくの意思を置いて、きっと月子ちゃんの体が反応したんだ。
昨日も同じようなことがあったのを思い出した。夜の学校で状況を見ながら時間の経過を待っている間、互いの話をしていた時のことだ。
あの時、事態にうろたえて混乱していたものの、話している内に大分心臓は落ち着いていた。それでも一度だけ、大きく心臓が反応した時があったのだ。
息苦しく、重苦しく、自ら首を絞めているような、そんな感覚。
またいつもの臆病癖が出たのだと思って、その時はそこまで気にならなかった。ぼくがムダにびくびくするなんて、しょっちゅうだからだ。
だけど、違ったんだ。ぼくじゃなかったんだ。
それは、月子ちゃんがお父さんのことを口にした時。その一度きりだった。
「……なに、泣いてるのよ」
突如、声が降ってくる。埋めていた顔をがばりと上げると、月子ちゃんもといぼくが、すぐ目の前でぼくを見下ろしていた。少し呆れたような、困ったような顔で。
月子ちゃんはちゃんと綺麗に髪を黒くしてくれていたし、メガネもしてくれていたし、きっと急いできてくれたのだろう、わずかに息が上がっていた。普段全く運動なんてしないひきこもりの体は、さぞや重たく扱いずらかっただろう。だけど走って来てくれた。こんなぼくの為に。
まだ出会ってたったの2日目だ。だけどそれでもわかる。わかることがあるんだ、ぼくにだって。
月子ちゃんは、優しい子だ。強くて優しい、家族思いの女の子だ。
月子ちゃんはゆっくりと腰を下ろし、そっとぼくの右肩に触れた。ぼくは驚いて反射的に体を退いてしまったけれど、すぐ後ろは壁で、とっさに退いた右肩を思い切り打つ。途端に右肩に鈍痛が走り、思わず声を上げた。
「いだっ!」
「なにしてるの、ばかね」
物言いは相変わらずキツかったけれど、その顔は何故か哀しそうだった。それから再び月子ちゃんは手を伸ばす。
ぼくはなんだか申し訳ない気持ちで、ただ黙ってそれを受け入れた。
彼女達と会ったことを、月子ちゃんに言った方がいいのかわからなかった。どうせ体が戻ったとき、この痛みで気づかれてしまうとわかっていても。
「…肩のところ、制服に足跡が付いてる」
その一言に、ぼくは思わずぎくりと顔を強張らせてしまう。月子ちゃんだったらきっと、こんなバカみたいに何でも顔に出したりしないだろうに。ぼくが余計な気を遣って隠そうとしたって、結局全部バレバレなんだ。きっと余計なお世話だったに違いない。
そう思うと余計に情けなくて涙が滲んだ。咄嗟に俯いたけれど、隠せるわけない。肩も痛かったからもう、仕方なかった。
仕方が、なかった。
「…こっちの実習棟は空き教室が多くて、あいつらが溜まり場にしてるの。今日学校に来てるかはわからなかったけど、先にちゃんと言って、場所を移しておけば良かった。…ごめん、ね。痛い思いさせて…」
月子ちゃんのその物言いが、昨日や今日の朝までと違って申し訳なさそうで、思わずぼくは首を振った。目元に溜まっていた涙がパラパラと飛び散って、肩を優しく撫でていた月子ちゃんの手をも濡らす。
月子ちゃんが謝る必要なんて、ひとつもないのに。月子ちゃんの体を守れなかったのは、ぼくの方なのに。謝らなければいけないのはきっと、ぼくの方なのに。
だけど情けないぼくは嗚咽を堪えるのが精一杯で、言葉にも声にも成らなかった。
そんなぼくに月子ちゃんは少しだけ笑う気配を落とし、それからぼくの隣りに腰を下ろす。こうして並んで座ると、昨日の夜みたいだと思った。
「…けっきょく、完全には戻らなかったみたいだし…もう少しだけ、お互いの話をしましょうか」
その言葉に、ぼくはこくりと頷く。
ぼくも話さなきゃいけないことが、あると思った。
月子ちゃんは泣き続けるぼくが落ち着くまで、何も言わず隣りに居てくれた。触れ合っているわけでもないのに、月子ちゃんから温もりを感じた。
今朝もそうだ。月子ちゃんがくれるものは、温かい。
懸命に生きているひとだ。前を向いて、凛として。ぼくなんかとは違う。
ぼくは時々、どうしようもなく、生きることを放棄したくなる。内側から湧く衝動に駆られ、自分では制御できなくなる。すべて全部投げ出して、楽になりたい。自由になりたい。だけど自分を縛っているのが、死への恐怖なのか未来への未練なのか何なのか、わからない。
ただ気が付くとぼくはカッターを手に持っていて、自分の血脈から流れる血をじっと見つめている。 そして心の底から、安堵する。
たぶんやっぱり、逃げているだけなんだ。死のうとする自分に。
「…月子ちゃんは、殴られたり、蹴られたり、痛くないの…?」
ず、と鼻をすすりながら、漸く吐き出した第一声がそれだった。月子ちゃんの顔は見えない。ぼく自身が見ようとしていないのだから、当たり前なのだけれど。
「…慣れてるから。割り切ってしまえば、楽よ」
月子ちゃんはなんでもないことのように答える。相変わらず冷静な、落ち着いた声音で。声はぼくのものなんだけど、なんだかもうぼくのじゃないみたいだった。
「…ぼくも…痛くない傷が、あるよ。…いつからだろう…そこ以外はちょっとの傷で痛くて痛くて堪らないのに、どうしてかそこだけは、どんなに傷つけても、痛くないんだ」
言いながら反射的に右手首をぎゅっと掴む。そこには細くて白い手首があるだけだった。
「はじまりは…いつだっただろう…」
そっと瞼を閉じて、ぼくはゆっくりと語りだした。ぼくが放つ声は女の子の声で、まるで他人事のようにも聞こえた。