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ひとりぼっちの勇者たち  作者: 長月イチカ
教室の隅のブレイバー
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45/53

◆2


 失わないよう、奪われないよう、傷つかないよう。

 そうする為に、守る方法はカンタンだった。


 失うものなどなければいい。

 奪われるものなんて最初から持ってなければ、なんにも、どこも、傷つかない。


 ――ほら、痛くない。


◇ ◆ ◇


 あの日は赤い夕暮れが、残酷なほどに綺麗だった。

 呼び出された屋上。またいつもの遊びだと思ってた。きっとすぐに、終わるって。

 だけどその日は…いつもと違った。


『…傷ついた…?』

 日向さんが訊いた。あたしはふるふると首を振る。

 屋上は段々と、暗闇さえ失っていった。

『…だって、いちいち傷ついてたら、キリがないじゃない…これから先だってずっと、大人になったってきっと…苦しいことも辛いことも、たくさんある…それらすべてに傷ついて、立ち止まってたら…前に、進めない…大人になんかなれない…割り切って、ぜんぶ受け入れてやり過ごすのが、一番賢いじゃない…! だって…』

 堀越恭子たちと、それからあまりよく顔は見えなかったけど、桜塚たちだったのだろう。数人男子もいた。

 男子に殴られるのは苦手だった。痣がいつまでも残って、消えないから。

 それからそこであの人と、八坂昴流とも初めて会ったんだ。

 忘れもしない、最悪の出会いだった。

『だって誰も助けてはくれなかったじゃない…!』


 捨ててしまいたかった。こんな、体。

 せめて男に生まれてたら、ちょっとは楽だったのだろうか。それもおかしな話だけど。

 哀しいのかもよくわからなかった。気がついたとき、あたしはひとりで。

 頭上には星が瞬いてたし、月も綺麗だった。

 どんな気持ちでも、どんなことが起こっても、変わらずこの世界は美しくて、あたしに起こる出来事になんて無関心だ。きっとこの世界にあたしが在ようが居なくなろうが、どうでもよいのだろう。


 じゃあ、あたしがここにいる意味は?

 あたしじゃなくてもいいのなら、誰か代わってくれたらいいのにと思った。

 そんな最低なことを平気で思った。

 ―――誰か、


 そしたら目の前に彼が現れた。


『――…月子ちゃん』


 ああそうだあたしが。あたしが彼を、呼んだんだ。



 ふと顔を上げると、そこは変わらず屋上だった。

 だけど先ほどまでと違うのは、そこには“あたし”が居て、そしてあの人も、八坂昴流も居るってこと。

 その光景はまるで、あの日のよう。

 夢でも、見ているのだろうか。

『さっきからずっと、きみを呼んでた。きみには聞こえなかったみたいだけど、ずっと。だけどついさっき、その呼び声も止んだ』

 あたしは今、“ここ”に居る。ここがどこかもわからないけれど。だけどこれが夢ではないのなら。

『きみが決してやらなかったこと…できなかったことを、陽太はやろうとしているみたいだよ』



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