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「えー! うそ、地毛なの? すごい綺麗なプラチナブロンドってやつだね! うわぁ少女マンガの王子様みたい、いいなぁ!」
「え、えっと、はじめまして…鈴木、陽太です…?」
「はじめまして、次男の弦です、えっと、月子ちゃんのお友達…?!」
「ちがう」
「ちがう」
綺麗にハモったのは、月子ちゃんと朔夜くんだ。
ふたりしてそんなハモってまで否定しなくてもよいのにと思ったけれど、目の前の弦くんのキラキラした眼差しに若干圧され気味で、それどころでもなかった。
家にお邪魔したぼくは、やはり失礼だと思いフードのパーカーは下ろしたままにした。伊達メガネだけは外せなかったけれど。
家の中に居た弦くんは帰ってきた月子ちゃんを見て、少し涙ぐんでいた。
ぼくは心の底から反省した。自分の後先考えない行動とワガママが招いた結果を目の当たりにした気がした。実際そうなのだけれど。
「弦、ごめんね、心配かけて」
「もう、ホントだよ、びっくりしたんだから。携帯何回かけても出ないし」
弦くんの言葉に、あ、と月子ちゃんとこっそり目を合わせる。すっかりその存在を忘れていたのだ。
「じゃあどうやって朔夜に電話したの…? 共用のはあたしが持って行っちゃってたのに…」
「あ…、えっとね……お母さん、帰ってきてるんだ。あ、でも、心配かけちゃ悪いし、月子ちゃんのことは言わずに携帯だけ借りたから! 今は部屋で寝てるよ。夜勤明けだしね」
言いながら弦くんが、少しだけぎこちなく笑うのがわかった。
朔夜くんは最後まで聞かずにその場を離れてしまって、月子ちゃんの表情はよく見えなかった。月子ちゃんはいつもと同じ声音で「そう」と一言だけ返していたけれど。
少しだけ空気の読めるようになったぼくは、月子ちゃん達姉弟とお母さんの僅かな距離感を感じた。…自分だって人のこと言えないくせに。しかもぼくの場合は距離どころか、ぼくという存在の可視化さえ認められていないのに。
だけど月子ちゃんが少し哀しそうに見えた気がして、とてもとても気にかかったけれどぼくにできることも口出す権利なんてないことを解っていたから…何も、言えなかった。ぼくには何も。
また下らないことを考えていた思考を振り払うように、月子ちゃんから視線を逸らしたその先に今度はふたりの男の子が居た。物珍しげにぼくをじっと見上げている、同じ顔がふたつ。
「うわー! すっげーハデな頭!」
「生まれつきなんですか? 本当に? へー…興味深いな」
好奇心に満ち溢れた目と怪訝な眼差しとをそれぞれに向けられて、思わず一歩後ずさる。チキンなぼくはすぐ後ろに居た月子ちゃんの影に慌てて隠れた。
月子ちゃんの体に入れ替わった際にちらりと姿を見たことはある。だけど大体がすぐに逃げ出してしまっているせいで、ほぼ初対面に等しいのだ。
「満、望、挨拶」
月子ちゃんの一声に、ふたりはぼくに姿勢を正して向き直る。つられてぼくも姿勢を正した。
「ちは! 山田満、小学3年生です!」
「はじめまして、山田望です」
「うちの三男と四男ね。一卵性なのよ、こう見えても。まぁ顔はそっくりだけど中身は正反対なの」
「す、鈴木陽太です…」
以前家族の話をした時に聞いてはいたけれど、実際に会うと想像していたのと違った印象に思える。 双子の兄弟を見たのも初めてで、月子ちゃんの後ろに隠れながらも、思わずまじまじと見つめてしまう。
顔は同じでも性格は違うみたいで、満くんは顔や膝のバンソーコから見ると、やんちゃな性格のようだ。望くんはメガネをかけていて、読みかけなのかハードカバーの本を手に持っていた。
「一応お客様だから、あんまり失礼のないようにね」
「月子の友達?」
「ちがう」
「ちがう」
またもや絶妙のタイミングで、はっきりと否定されてしまった。なぜか先ほどまで姿の見えなかった朔夜くんにまで。どこから出てきたんだろう…またすぐに姿を消してしまったけれど。
月子ちゃんの家はうちと違って、広い庭付きの1階建てだった。襖とスライド扉で区切られたほとんどの部屋が開け放されていて、どこに誰が居るか見回せばすぐに目につく。あえてそうしてあるのだろうと思った。
今はひとつだけ扉の閉まった部屋があって、そこで夜勤明けのお母さんが休んでいるらしい。
「瑠名は今お母さんの部屋でお昼寝してるみたい。まぁ起きた時に居たら紹介するわ」
「えー珍しい、月子ちゃんいつも真っ先に瑠名を自慢するのに」
弦くんの言葉に、あ、紹介する気全くないな、と悟る。やっぱりちょっとショックだったけど、何も言わないでおいた。
「月子ちゃん、今日大収穫だねぇ」
「人手もあったから。お肉冷凍庫に入りきるかしら」
台所のテーブルに買い物袋の中身を取り出すのを手伝いながら、きょろきょろとあたりを見回す。部屋にひきこもりのぼくは台所に立つなんてこと自体ほとんど無いので、見るものすべてが新鮮だった。
台所は月子ちゃんと弦くんとぼくが立つと、それだけでいっぱいになった。
「月子、先におやつにしよーぜ、お前のこと探し回ってちょー腹減ったぁ」
満くんがバタバタと台所に駆け込んでくる。その後ろから望くんも続いて来た。
台所にある時計を見ると、もう3時。確かにおやつの時間だ。
「満は家の中しか探してないでしょ。その後朔夜くんに任せきりだったし」
弦くんが呆れたように笑いながら、買い物してきた戦利品を選別し、月子ちゃんに手渡す。月子ちゃんはそれをテキパキと決められた場所にしまっていく。
「おれだって庭とか探したし! なー望」
「ぼく庭で大根の収穫してたから。来たっけ? 満」
「探せよお前も!」
「満、急場の時っていうのは、焦らずいつもと同じことをして過ごすのが良いんだよ。 その証拠に月子ちゃんだって無事帰ってきたし」
「一応焦ってはいたんだなお前。んで収穫した大根は?」
「あ、庭に忘れてきた」
「んもー! 月子おやつー!」
「大根でもかじってなさい」
賑やかなふたりを置いて月子ちゃんはあくまで月子ちゃんのペースで答える。ぼくは会話についていくのがやっとだった。
「まぁでも今日の買出しで冷蔵庫いっぱいだし、夕飯まではまだ少し時間あるし…入りきらなくて消費期限ギリギリの食材で何か作るか…」
言って月子ちゃんが冷蔵庫を半ばムリヤリ閉める。満くんと望くんは再び庭に向かってばたばたと台所を出て行ってしまった。
テーブルの上には卵と牛乳とかぼちゃの半分、封の開いたヨーグルトとバナナが残っていた。これが消費期限ギリギリの食材のようだ。
じ、とテーブルの上の食材を台所に残った3人で見つめる。
それから月子ちゃんが一番に口を開いた。
「このままでもいけそうね」
「ま、待って月子ちゃん…! ぼく、レシピ調べようか…!」
確かにバナナとヨーグルトならそのままでいけそうだけど、かぼちゃは流石に調理してもらいたい。あくまでぼくの希望だけれど。
ぼくはポケットから携帯を取り出し、目の前の食材ですぐに作れるレシピを検索した。何の役にも立たないぼくだけど、調べたり探したりすることだけは得意だった。
ネットの中にはたくさんのレシピがある。ぼくは検索結果に並ぶレシピの材料と作り方を確認しながら、おずおずと口を開いた。
「…あの、砂糖とか、あるかな…」
「調味料ならたくさんありますよ」
「じゃあ、プリンなんてどうかな…電子レンジでもすぐにできるし、かぼちゃとバナナとヨーグルト…それぞれ3種類の味もできそうだし…」
おそるおそる言ったぼくに、弦くんがぱぁ、と顔を輝かせた。とても嬉しそうな笑顔だった。
「月子ちゃんの、好物だね! 月子ちゃん風邪ひいて食欲なくても、プリンなら食べれるもんね」
「弦、余計なこと言わないでいいから」
弦くんの言葉に、月子ちゃんはわかりづらく照れているようだった。少しは役に立てたようで、なんだかぼくも嬉しかった。




