最強プレイヤー誕生?
――ひとつ、学業では5位以内を維持すべし
――ひとつ、文武両道であるべし
――ひとつ、それらをクリアしたならば好きに遊ぶべし
これらを家訓とする、崎原家に生まれた崎原美菜の朝は早い……。なんてね。
「はっ」
崎原家は、全員が崎原流古武術の使い手だ。
巻き藁は、スパンッと軽快な音を立て、二つになった。本日の断面もなかなか美しいと思う。
「ふむ。今日の調子もなかなかだな」
振り返ると、朝日を背に、長身の男性。
私の兄だ。
「克也兄さん」
「最近楽しそうだな? ゲームというやつか」
「うん!」
しかし、私は今自分が熱中しているゲームが、コンチネンタル・フロンティアということを、家族の誰にも言っていない。
悪役令嬢ロールプレイングを楽しんでいるなんて、ちょっと家族には知られたくない。
小林君? 小林君は良いのだ。彼は彼で、多分魔王様ロールプレイングを楽しんでいるのだから。
「実は、しばらくの間、在宅勤務になってな」
「へぇ……」
「VRゲームの本体と、近くのショップでおすすめされた、コンチネンタル・フロンティアというゲームを買ってきたんだ」
「へ、へぇ……」
背中に流れる嫌な汗を感じながら、素知らぬふりをする私。近くのゲームショップといえば、小林君の姉で、悪役令嬢ギルドのギルマス、プリシラ様が勤めるお店に相違あるまい。
まあ、確かに、コンフロは初心者から楽しめるバランスのよいゲームではある。
まだまだ、操作性に癖があるほかのゲームとは、一線を期した、現実そのものの動き。
選べる豊富なアバター。
初心者から上級者まで、幅広く遊べるシナリオと世界観。
うん、素晴らしいよね。コンフロ。
――ひとつ、仕事では最前線を維持すべし
――ひとつ、誰よりも働くべし
――ひとつ、それらをクリアしたならば好きに遊ぶべし
「崎原家の家訓は、わかっているな?」
そう、家訓は学生バージョンだけでなく、少しだけ形を変えて大人バージョンもある。
「遊ぶぞ。早く帰ってこい!」
「は、はいっ!」
兄、崎原克也は、崎原流古武術の師範代である。
そして、有名IT企業で働くエリート社員だ。この間も、雑誌に載っていた……。
つまり、プレイヤースキルと装備がものを言うコンフロの世界で、本当に強くて、さらに課金し放題のお財布を持つ兄は……。
最強プレイヤー誕生?
だがしかし、私が悪役令嬢ギルドで、悪役令嬢ロールプレイング生活を満喫していることは、兄には決して知られたくはない。
もちろん、兄のことだ。馬鹿にしてくることは決してない。
でも、私の心が穏やかじゃない。
家に帰ったら、素知らぬ顔で新キャラを作らねばなるまい。
私は、それだけを心に決めて、制服に着替えるのだった。
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