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「やっっっと追いつけたぁ」
街から少し離れた小高い山の中腹に、ルック君は立っていた。
「畜生!見失った!」
罵倒を吐きながら、じだんだを踏んで。
「ルック君落着かないで質問に答えて!」
ルック君の腕を掴み、僕に気付いて貰ってから頼んだ。
「どうでも良いけど、傍から聞いたら変なお願いよね。落着かないでって」
「仕方ないだろ。落着いてたら滅多に口開きやがらねーんだから」
二人は複雑な顔をした。ルック君は切れてる時の方が弁達者だからだ。
「僕の何がそんなに気に入らないの?」
『違うだろうが!』
トリプルで突っ込まれた。
「まあ強いて言うなら、そういう変な方向に脳味噌動くとこが気に入らないけどな!」
「うわあああん!僕そんなに変~?」
「変だな」
「変よ。思いっきり」
「わあああん!ライ君はまだしもティルまでぇ!」
「ていうかそうじゃねえだろう!」
ルック君のキレ度が増した。じだんだの踏みが大きくなった。
「じゃぁなんなのぉ?」
「怪しい術やってる奴が居やがったから、側行ったら逃げやがったんだよ!」
最後に地面が揺れるほど強く踏んだ。そして暫く息を切らしてから、いつものだんまり~太君に戻った。
ライ君とティルが互いに見つめて頷きあった。
「そいつがどっち行ったか分かるか?」
ライ君の問いにルック君は明るくなった東を指した。もう朝ごはんの時間だ。
「あっちか」
「街の方の術は切れた様だし。追ってみる?」
「うん。よし。取り敢えず。街に炎龍爆獄衝何発か放っとけ」
「うん」
僕は空中に炎と書こうとして、はっとした。
「って、何でそうなるの!?」
あまりにも真面目な顔で東を見てるから、何か流れに乗っちゃったよ。
「ちっ。気づいたか」
心底残念そうに言わないでぇ!
「気づくよ!」
「放ちそうになったけどな」
ほくそ笑まないでぇ!
「絶対やんないからね!」
ライ君は、「へーへー」って軽口言って街に歩を向けた。
「行かないの?東」
「東に行ったのが分かったんだ。なら先にアークとリア片付ける」
目がキラーンて光った様な気が。ああ。気の所為にするって、便利な言葉だなぁって、心に沁みちゃった(遠目)。
ライ君がどんどん先に行っちゃうから、置いてかれない様に駆け寄る。
「でさ。実際にあの二人が旅するのって、どう思う?」
ライ君に追いついた辺りで、ティルに聞いてみる。
「アークは論外だな。したいなら止めねーけど、野垂れ死ぬな。ありゃ」
ライ君が答えた。
ティルが軽く息ついて頷く。
「そうね。リアの方はまだまだ初期レベルだけど、飲み込み早いし、それなりに応用力もあるし。旅をすればする程伸びそうね」
ライ君とルック君もそれに同意する。僕も頷く。実際この短期間でレベル上がってるし。
「やっぱ、リアだけ出るってのが妥当」
「そうかな」
ライ君が最後まで言い切る前に、言っちゃった。ちょっと失敗。おかげでライ君の目が怖い。
「えとねっ。確かに馬鹿力だけに見えるけど、強運も並外れてると思うのっ(汗)」
ちょっと早口で言うだけ言う。それが良かったのか、ライ君が目を見開く。
「ええ。私も思ったわ。リアさんという仲間と出会え。私達と出会え。旅初めにこういう事を体験でき、領主と見知れた事」
「うん。そうなんだよね。初めはリアさんの運かと思ったんだけど。それならそもそもアークさんに会わないだろうし」
思い返しながら言う僕に、納得顔で頷くライ君。
「成る程。強運だけでどんな旅も乗り切る奴が居る。逆にどんな力があっても悪運なだけでとんでもない目に会う奴が居る」
僕はそれに頷く。
「なら黙ってたって、やりたい事やってたんじゃ」
ライ君の言葉に、初めてその事に気付いた僕達は、自然遠い目になる。
もしかして。またこのパターン(悲)?
「力があるだけに、厄介事に摑まっちゃう。て事もあるわね」
ボソッとティル。
「だあ!もー知らん!迷惑料だけ取って、さっさとづらかる!」
ライ君の競歩が速まった。進むに連れてキレ度が増し、歩がどんどん速くなる。そして遂には、走ってしまった。
えーと。
「お腹が空いてイライラしてるのかな?」
置いてかれない様に僕達も走る羽目になる。ティルは飛んでるけど。
「・・・」
拳を作って何か言いかけたティルが、ふと何か考えた。
「それもあるかもね」
腕組みをして、ライ君をじっと見た。
やっぱり。もう朝ご飯の時間だもんねぇ。
かくいう僕も、さっきからお腹が鳴ってるんだよねぇ。いっぱい力使ったしねぇ。
全力疾走になってすぐ、ライ君がピタッと止まった。スピードを落としながらライ君に近づく。
「どうしたの?ライ君」
見たライ君の顔は、完全なキレ顔だった。
嫌な予感がしてライ君から離れようとして、摑まった(汗)。
「トニー飛べ」
声にドス入ってます(泣)。
この状態に入ったライ君に、何を言っても無駄だから、仕方なく連れて飛ぶ。ていうか言ったら余計大変な事になる。
最速で飛んで、皆が朝ご飯食べ終わる時間に街に着いた。
街は人で溢れていた。
ていうか結界の中で気絶している生贄の人を囲んで困惑していた。
「アークさん。リアさん」
二人を見つけ、その側に降り立つ。
「皆さん」
リアさんが答え、何か言おうとした所をライ君に口を塞がれる。更に二人を人々から隠れられる場所に連れて行く。
そこで初めてリアさんの口を開放してあげる。リアさんは軽く息づいて、
「あの結界はトニーさんですね」
「うん。守らせてもらったの。ライ君は残念がってたけど」
ああ。いかにも。って呟いてアークさんがこくこく頷く。ライ君は「悪いか」ってアークさんの頭をグリグリする。
「貴方方の事だから絶対無事だと思いました。そしてあの結界は魔法ではなく、龍術。夜、戦闘が行われていたのを見ました」
見られてたんだぁ。照れちゃうぅ。
頬が火照って、自然に手で押さえちゃう。
「初めから。デイノールで私達が二人で行こうとしても」
「関係ない僕達が二人に付き合ったか?」
リアさんが頷く。
「そして、この街に力を貸したかね」
更に頷く。
側ではライ君とアークさんが取っ組み合いをしている。
「お前等に付き合ったのは成り行きだ。俺は嫌だったがな」
アークさんにコブラツイストをしながら会話に加わる。
「ついでだったし。関わっちゃた以上、ほっとけなかったから。多数決で決めたの」
僕達は行動を起こす時、必ず多数決を取る。そして少数派の意見を聞きつつ、多数派の意見に従い行動する。
「ついでという事は、此処には来る積もりだったんですね」
「うん。デイノールに寄ったついでにね」
魚のおいしい町に向かってたら、ライ君がこの街の噂を聞いて。近くだしついでに行こうって事になったんだ。
「馬鹿面拝みたかったんだよ」
仏頂面で言うライ君。今度は海老固めをしている。アークさんが悔しがって逃れようと暴れてる。
「素直じゃないのよ」
「そうみたいですね」
僕達は兎も角、ライ君は何とかする積もりだったみたい。
「でだ。また莫迦な事しない様に、お前らからそれらしい説明しろ」
アークさんが逃れる瞬間に、ライ君の方から離れる。勢い余っていろんな所を打つアークさんを尻目に、リアさんの肩に腕を回す。
「何故私達が?」
自然な疑問だが、ライ君の場合キレてたら人任せになるから。
「王族に助けられる癖は作らねー方が良い。自立心が薄れるからな」
ちゃんと理由あったんだぁ。関心だ。
「それで下僕と称し、私達が行う形にした」
「別にそんなんじゃねーよ。面倒事は御免被りたいだけだ」
腰に手を当てて、そっぽを向く。
「そうなんですか。
ああ。因みに私達に会わなかったらどうしてたのですか?」
それとなく聞く。
「莫迦やった所為で、王族に迷惑を掛け、王族に依存した結果の街崩壊」
自慢気に言って、はっとする。あまりに自然に会話されたので、つい答えてしまったらしい。
ライ君の言葉に納得したのか、ニッコリ笑って頷く。
「分かりました。それらしく伝えます」
「で、領主はどうなんだ?」
アークさんの尤もな質問。こういう事態だとやっぱり、領主辞任かな?
「莫迦はするが領主としての力は良い。今回は懲罰・謹慎だけで、領主としては据置き。監視は付くだろうがな」
ライ君の王子としての顔を久し振りに見たなぁ。
「これだけの被害を出したのにか?」
アークさんは不満を体全体で表した。
「これだけの被害になったからこそだ。
この街を復旧するのに、あいつの力が必要だからだ。それに、こうなったのは、人々脅かす魔物を倒したいから。人々を助ける為に館も開け放した。人を思えばこその結果だ」
王子顔が続いている。仕草や口調まで王子になってる。それは自分を押し殺しているという事。ライ君が尤も嫌う、ライ君の顔。
普段との違いに、アークさんが怯んだ。
「これで均衡を崩す恐怖も解ったろう」
遠目に領主さんの方を見る。人垣で見えないけど。
「自己満足でやっていたなら、即効で牢屋入りだったろう」
アークさんが押し黙るのを見て、王子顔が消えて、胸糞悪そうな顔になった。一瞬でも王子に戻った自分が許せないんだろう。
空を仰いで、ルック君、そして僕とティルを見たライ君は、もういつもの顔だった。
「それはそれとして、お前は迷惑だった。迷惑料払え」
突然アークさんを見て、手を差し出した。金よこせの合図だ。その顔は守銭奴の顔だった。
「な。王子なら金は腐る程有るだろうが!」
『無い』
僕達の声がはもった。
「ライ君家出中だもん」
「それに城のお金は使えないわよね」
「あれは国を護る為の金だからな」
口々に言う僕達に、意外そうな顔の二人。
『そういうのは、ちゃんと考えてるんだ』
ライ君をじろじろ見る二人に、
「当たり前だ」
ハリセンで叩いた。二刀流だ。
本当に何所に持ってんだろう(汗)?
「兎に角出せ」
盗賊顔負けの脅しに怯む。関係ないのに僕まで怯んじゃう。
「今は無いので、デイノールで」
リアさんがアークさんの影に掛けれながら言った。
「お前はなかなか役立ったからお前は良い。アークが出せ」
アークさんの襟首を掴んで凄む。
「俺だって色々役立ったろうが!」
負けじと言うアークさんだが、
『どこら辺が?』
僕達は兎も角、リアさんにまで言われて、涙ぐむ。
「リ、リア~。お前まで・・・。邪魔だったか?邪魔だったのか?」
涙ながらにリアさんに縋る。
「冗談よ」
ニッコリ笑うリアさんだが、さっきのは本気で言ってたと思う。顔が真面目だったもん。
「其れは其れとして、ここまで付き合って頂いたんだから、お礼位はしないと失礼よ」
アークさんの肩に手を置いて、説得する。
リアさんの説得に納得して、アークさんは謝礼金として払う事を了承した。
「うし。じゃー、俺達は港に居るから」
「此処を片付けたら来てね」
そして僕達は、港に向かった。