最終回
最終回にて大増量一万文字突破!!
どうか根性入れて読んでやってください!!!
誤字脱字修正しました。
この日、現王と王太子が捕縛された。
主国であるフラワー国が我がアメリ国とスラーエ国との仲裁を買って出て二国の話を公平に吟味した上での結論だった。
投獄されたアメリ国国王イーグ=カロオは何故こうなったのかひたすら自身に問い詰めていた。
「何故だ? 何故………こんな事になったのだ………余は国王なのだぞ…………」
茫然自失状態でブツブツ呟いている様は、とても一国の王であったとは思えないほどの落ちぶれようだった。
そう、ユリウスの養子にして自分の実子であるエドガーが、フラワー国から帰国してからすべてが始まった。
ノモ=カロオが数多の国を束ねる、宗主国フラワーの跡継き姫たるマーガレットに対して荒唐無稽極まる罵倒と冤罪を被せて投獄した事を詫びに…………イーグ=カロオは実子でありながら王弟たるユリウスの養子にしたエドガーを向かわせた。
イーグ=カロオからすれば一国の姫に対する無礼を目障りな息子の首を差し出すことで解決するならば安い対価………いや、エドガーを始末出来るならばむしろ好都合と思っての決断だった。
アメリ国がフラワー国の従国に下っているということを、イーグ=カロオはしっかりと理解していなかった。
幼き頃より偉大な先代国王の面影を色濃く継いでいたイーグ=カロオは先代に心酔仕切っていた多くの臣下達によって、それはそれは甘やかされた。
何でもかんでも肯定され
願いは全て臣下達が叶え
欲しいものは必ず与えられた
どんな存在よりも尊く、どんな存在よりも偉く、どんな存在よりも優先され、どんな存在よりも力があり、どんな存在よりも護られる。
それが、イーグ=カロオが周りから言われてきた言葉であった。
それが原因なのだろうか………イーグ=カロオはユリウスから従国になることの説明を散々されていたが、それでも己こそが至高、己こそが貴き為政者だと信じて疑ってはいなかった。恐らく、フリティラリアがその国々独自の統治を認めていたことも、イーグ=カロオの思い違いに拍車を掛けていたんだろう……。
だからこそ、主国たるフラワー国に対して自国の王族の首を差し出すだけで事足りると思っていた。
いや―――、むしろ立て直しのための資金援助をされたことにより自身に媚び諂う格下と侮っていた。……ユリウスが知ったら、あれだけ説明したのに何を聞いていたんだ貴様はぁ……!! と額に青筋を浮かべてヤケ酒でもしただろう。
イーグ=カロオはユリウスが疎ましかった。
偉大なる父王は世継ぎのイーグ=カロオではなく、ユリウスを殊更可愛がった。自分には普段の振る舞いに関する叱責ばかりだったのに……。母王妃はイーグ=カロオもユリウスも等しく愛してくれたが、イーグ=カロオが勉学や鍛錬をサボれがその都度小言を漏らしていた。そして何時も。
『イーグ=カロオ……そなたは次期国王なのです。今から数多のことを学び、その知識と経験を国の為、臣下の為、民の為に使わなくてはならないのです―――――――――双子のユリウスがあれほど真摯に取り組んでおるのに……どうしてそなたは……』
そう言って嘆いていた母王妃は僅か一年後に流行病に罹り呆気なくその命を落とした。その際にも最後まで母王妃の側に居ることが許されたのはユリウスのみ。イーグ=カロオと父王は病がうつっては大変だと母王妃と離された。
父王には可愛がられ、母王妃には期待され。
ユリウスはイーグ=カロオが欲しかった父母の愛を独り占めしていた。
そしてそれは父王と母王妃だけに止まらず、臣下達にも期待と羨望の眼差しを送られていた。
だからこそ、父王が急死し、国王となったイーグ=カロオは気分が大変良かった。大っ嫌いなユリウスの手に出来ぬモノを確実に手に入れられるから。ユリウスは自分の家族を持ちたいと夢見ていた。イーグ=カロオが隣国から王妃を娶ると決まった時はどこか羨ましそうな顔をしていたことを知っていた。
嫁いできた王妃エリスはとても美しい少女だった。
恥ずかしそうに微笑む姿にイーグ=カロオは今まで近くにいた女とは違う初々しい空気を纏うエリスにすぐに夢中になった。しかし、エリスがユーグ=カロオの子を産んでからすべて変わってしました。
エリスはイーグ=カロオとユリウスと同じく双子の兄弟を産み落とした。
イーグ=カロオは双子の弟であるエドガーを見た瞬間、脳裏にユリウスの顔がチラついて離れなかった。エドガーもいずれ、ユリウスのようにノモ=カロオを差し置いてエリスの愛情も臣下達の期待も一心に注がれるのかと思うといても経っても要られなくなり、殺すことに決めた。もっとユリウスに邪魔されて未遂で終わったが………。
エリスにエドガー殺害未遂を知られ、詰られたが、イーグ=カロオからすれば産まれたエドガーが悪い。イーグ=カロオやノモ=カロオを差し置いてでしゃばるかも知れない産まれ方をしたエドガーが。
だからフラワー国から帰国したエドガーを息子のノモ=カロオと共に玉座から見下ろしたイーグ=カロオは心底忌々しく思った。
エリスの意向でユリウスの下に養子に入ったエドガーは益々養い親のユリウスに似てきているように見えた。
エドガーに気を取られ、イーグ=カロオは玉座の間に新たに入ってきた入室者に一瞬、気が付かなかった。
「誰ぞ…………!?」
入ってきたのは女のような……いや、女よりも麗しく妖しげな色香を纏った美貌の男。
あまりの桁外れな美貌に、イーグ=カロオは見入ってしまった。隣にいたノモ=カロオも同じく呆然と男を見入っていた。
「お初にお目にかかるアメリ国国王イーグ=カロオよ。私はフラワー国国王フリティラリア。貴殿らの犯した罪状を主国の王として裁く為にこの度はやってきた」
フリティラリアが名乗りを上げれば騎士二人が玉座の間に流れ込みイーグ=カロオとノモ=カロオを拘束していった。
「うぬ?!」
「なんのつもりだ! 貴様ら!!」
抵抗虚しくあっさりと拘束された二人は何時の間にか入室していたユリウスに気付かなかった。
「貴方は遣りすぎたのですよ陛下………いや兄上」
「お前は……ユリウス!! 貴様の仕業か!!」
憎々しげに睨み付けてくるイーグ=カロオにユリウスは軽く首を振るった。
「言ったでしょう。この度の原因はすべて貴方と王太子の所為ですよ。兄上がスラーエ国から嫁いだ侯爵夫人に横恋慕したあげくに逃げ出した侯爵家夫妻を執拗に追い回し………挙げ句の果てには侯爵を罪人に仕立て上げて、それ程までに欲した夫人も『可憐なる華姫』の頃の容姿では無くなったからと夫共々公開処刑する始末………。そして王太子殿下に至っては交わしてさえいない婚約を、主国の跡継き姫たるマーガレット殿下に公の場で破棄を宣言するばかりか罵倒を浴びせ投獄するという愚か極まりない行為を行って…………本当に無事に済むと思っていたのですか?」
「そして男爵家の庶子の出でしかないツジム嬢と婚約を結ぶと寝言を言うし………ホント、救いようが無いほどの馬鹿さかげんぷりですよ、王太子殿下」
冷たいユリウスとエドガーの視線がイーグ=カロオとノモ=カロオに突き刺さる。
「此度はアメリ国の宰相ユリウスと、スラーエ国の国王双方の話を聞き、宗主国の王たる私が公平に吟味した結果、アメリ国国王と王太子にこそ罪有りと断じるに至った。故に、裁きを下すためわざわざ私自らアメリ国を訪れたということよ」
「何故貴様に余を裁く権利がある……!! 余はアメリ国国王イーグ=カロオであるぞ! 他国の国王が余の国のことに口出す権利なぞないわ………!!」
明らかに呆れた風情になるフリティラリア。ユリウスも頭が痛いといったようにこめかみを揉んでいる。
「は~~………。フリティラリア陛下が陛下を裁く権利が無い? んなわけ無いじゃん。バッカじゃねーの?」
もはや取り繕うことを止めたエドガーが侮蔑を込めた眼差しを向けながらイーグ=カロオに吐き捨てた。
「なんじゃと?! 王たる余に向かってなんたる口を……!!」
「だって事実だし。あのさ、アメリ国はフラワー国の従国っつー意味、あんたホントはわかってないでしょ? アメリ国は国単位でフラワー国に従っている立場なの。主従関係を結んでいるの。でも自国の統治をフリティラリア陛下がお許しになっていらっしゃるからこその弊害が今、起こってる。アメリ国は未だに絶対王政で国を治めている。だからこそ国王であるあんたを本来ならば誰も裁くことは出来ないはずなんだけど………今のアメリ国はフラワー国の従国。フリティラリア陛下のみがあんたを直接裁ける。だからフリティラリア陛下はわざわざアメリ国までお越ししてくださったんだ。あんたを、罰する為に」
ポカーンとするイーグ=カロオの様子に改めてやっぱり分かっていなかったのかとエドガーは心底呆れたと同時に情けなくなった。
どうして───こうもユリウスとは違うのだろうか?
「ど、どういうことだ! よ、余はそのような話聞いておらぬ「────お伝えしましたよ。兄上」……ぞ…………?」
今更ながらの狼狽っ振りにユリウスが口を挟む。
「私はきちんとご説明しました。何度も。兄上がやけにあっさりと受け入れられたので私も、まさかご理解していないのではと、不安になりましたので……国の為、民の為に私は護りたかった………」
どうやら無駄な努力みたいでしたが………。
どこか疲れたように呟くユリウスに、それでもイーグ=カロオが怒鳴りつけようと息を吸い込んだら────。
「それは違います! 宰相様!!」
何故かこの場に男爵家令嬢────いや、元侯爵家夫妻が一人娘、ツジムが飛び込んで来た。ツジムを目にしたイーグ=カロオは目を見開いた。
可憐なる華姫?!
「嗚呼……ツジム! 無事だったんだね! 男爵家の者共々行方不明になったと聞いて心配したんだよ、私の愛しい人よ!!」
ノモ=カロオが高らかに叫ぶが声が玉座の間に広がった。
場違いな台詞に、玉座の間に居る皆が呆れきった顔をしていた。唯一、ノモ=カロオに恋人と呼ばれたツジムが王太子を見て一瞬、怯えたように体を震わせたが………それでも気丈に真っ直ぐとした眼差しをユリウスに向けた。
「宰相様は今まで一生懸命、国を護る為に尽力していたのを私、知っています! お父さんが教えてくれたんです………お母さんと一緒に、今も居られるのはお父さん達に手を貸してくれた人がいたことを。お母さんが、その人が居たから………私を産んであげられたんだと、言っていたんです…………お父さんとお母さんが王様から逃げ出せたのは、宰相様、貴方が助けてくれたんですよね?」
この言葉にフリティラリアとエドガー……イーグ=カロオは弾かれたようにユリウスを見た。
ユリウスは固く瞳を閉じて何も答えようとはしなかった。代わりにユリウスは開いた目でイーグ=カロオをキツく睨み付けた。
「兄上………私は、あの時、貴方が侯爵家に不敬罪の罪を被せて一族諸々殺そうとした事を知りませんでした。私はあの時、あの夜会の日に。二人に逃げるように警告することしか出来なかった。あの二人の行動が早くなければ侯爵家は無くなっていたでしょう」
「ユリウス! 貴様……やはり余から華姫を奪ったのはお前だったのか……!!」
いきり立つイーグ=カロオに、ノモ=カロオは目を白黒させて困惑していた。取り敢えずイーグ=カロオとノモ=カロオを腕を拘束したまま立ち上がらせた。
「奪った? 彼女は最初から兄上のものでは無かったでしょう? 彼女は侯爵家当主の妻だったのだから………それに、私はあの二人を助けてなどいませんよ。私は結局、警告以外何も出来なかったのですから………」
悔恨が尽きることは無い。
ユリウスの態度はそう物語っていた。
「………なんの話か知らないが………ツジム! 君がここに現れたということは私を助けに来てくれたんだろう? さあ! 早く私の下に!!」
まるで役者のような大仰な台詞に、もはや脱力感しか感じるしかないエドガーは嫌悪に顔を歪めるツジムに同情の視線を送った────その時、
「何をふざけたことを抜かすノモ=カロオ!! あの娘は、余の『可憐なる華姫』だ! 長年探してやっと見つけた娘を、貴様………父たる余から奪う気か?!」
「何を言っているのですか?! 彼女は………兄上の求めた『華姫』は兄上自身の手で夫たる侯爵諸々処刑したのでしょう!!」
「違う違う違う違う違う違う!! アレは余の求めた『華姫』ではない! 実際に本物が余の目の前に居るではないか!? 貴様が隠したのだろうユリウス! 余の求めた『華姫』を!!!」
「?!」
イーグ=カロオが何を言っているのか、ユリウスには分からなかった。いや───理解かりたくなかった。
───まさか、本当にあの時、イーグ=カロオは彼女を『華姫』だと分からなかったとでも言うのか?
「余から『華姫』を奪おうとするならば弟も息子も関係無い!!」
どこからそんな力があったのか?
イーグ=カロオは拘束している騎士の腕を振りほどき、腰に差している剣を強奪したと思ったら………その剣を隣で拘束していた騎士共々、ノモ=カロオに向かって振り下ろした────。
バシュ………ン
鮮血が、ノモ=カロオの首筋から吹き出した………。
「かっ………はぁ………………」
息を吸おうとしたのか吐こうとしたのか…………ノモ=カロオはツジムに向かって手を伸ばすもその手もイーグ=カロオが切り落とす。そしてノモ=カロオはそのまま床へと倒れ込んだ。
「ぁ────いっゃやあああああああ!!!」
ツジムの絶叫が、響く。
ノモ=カロオを拘束していた騎士は肩をやられたのだろう。赤い命の証をしたらせていた。イーグ=カロオを拘束していた騎士が目の前の惨劇に血の気が引くも、すぐにイーグ=カロオを捕らえようと動いたが、呆気なくイーグ=カロオに斬りつけられてしまう………。
「───なんと」
予想外の事態に初めてフリティラリアの顔色が変わった。まさかイーグ=カロオが剣を扱えることも、仮にも騎士である、拘束していた二人を退けたこともそうだか、自身の息子であるノモ=カロオを斬り捨てるとは思わなかったのだ。
「はぁ、はぁ………『華姫』。余の『華姫』!!」
血濡れた剣を滴らせてイーグ=カロオはツジムに向かって走り出した。
すぐにユリウスとエドガーがツジムの前に出るも、丸腰の二人では恐らくイーグ=カロオを止められない。
「クッソ……! なんで、アイツ! 剣なんて使えんだよ?!」
「………兄上は玉座に着く前までは剣術の鍛錬を為さっていた。確かに真剣に取り組んでこそいなかったか………だからと言って決して弱い方では無かった。兄上が真面目に剣の道に取り組まれれば、きっと一角の人物にはなっていただろう」
「初耳ですよ?!」
「………知っている者自体、少ないからな。実際、私も今の今まで忘れていた」
そんな大事なこと忘れるなよ父上─────!!!
心の中で盛大にユリウスに突っ込むも今はそれどころではない。
「『華姫』!!!」
「ひぃ……!!」
目を血走らせて走ってくるイーグ=カロオにビクッと震えるツジム。
剣を携えて向かってくるイーグ=カロオにユリウスもエドガーも緊張に体が強張るも、予想外の人物によって現状は覆されることになる。
「ツジム様に、何をしようというの? この畜生は?」
ツジムをフッと抱き寄せたのはこの場に居ないはずのマーガレット、その人だった。
「マーガレット王女?!」
「うふふ……皆様? 息を止めて素早く離れてくださいな?」
言うや否や、マーガレットはイーグ=カロオに向かって小瓶をなげつける。イーグ=カロオはその小瓶をすぐさま斬り捨てるも、斬り捨てた瞬間に小瓶から大量に気化した煙が小瓶を斬ったイーグ=カロオを中心に瞬く間に広がった。
「グッ……ぇえ゛え゛え゛?!」
煙を大量に吸い込んだイーグ=カロオはその場で苦しみもがき出す。フリティラリアや、ユリウス、エドガーはマーガレットの指示に従って息を止めて素早く非難したが怪我をしていた二人の騎士は間に合わず、少し煙を吸い込んだのか盛大に噎せ返していた。
「良き様ですわね? 陛下…………」
無様に転がるイーグ=カロオに、向かって冷ややかな言葉を掛ける女性がいた。
「お初に御目文字つかまります………フリティラリア陛下。わたくしはこのアメリ国王妃エリス、この度は夫と………亡き息子の犯した罪状を裁くために、はるばるこのアメリ国までようこそお出でくださいました………此度の一件は、王妃であるわたくしも同罪、一切の嘆願も助命も致しません………どうぞ、正当なる裁きを」
エリス王妃はもがき苦しむ夫と、既に事切れている嫡子の姿を見ても動じること無くフリティラリアに向かって優雅な礼をとって見せた。
「エリス!?」
何故か驚いているイーグ=カロオ。
「ふむ、そなたがエリス王妃か。先に王城を制圧する為に放った我が騎士達からそなたの姿が見えなんだと報告を受けていた故、どこぞに消えたのかと思っていたのだが………」
「お父様、エリス王妃はソコにいる畜生と────何故か事切れている愚者の手によって王都の外れの離宮で軟禁されている所をわたくしの“影”が探し当てましたので………勝手とは思ったのですが、わたくしが騎士達より早く救出致しましたの」
フリティラリアの疑問にエリスの代わりに答えるマーガレット。しかしその内容は物騒だった。
「兄上! 王妃様を軟禁していらしたのですか?!」
「王妃様を!?」
これにはユリウスとエドガーも驚きを禁じ得ない。
まさか王妃たるエリスを、いなか理由を持って軟禁などといった愚行に走ったのか?
「───既に死した我が嫡子、ノモ=カロオはそちらにいらっしゃる男爵家庶子との婚約及び婚姻をわたくしに反対されたのが気に入らなかったようですわよ? 嗚呼……夫たる我が陛下は若さも初々しさも無くなって口喧しい年増になった目障りなわたくしを始末するのに丁度良いと思われたようですよ? 陛下が、ご自身で、そうおっしゃっていました」
実にくだらなさ過ぎる理由だった……。
ところどころでエリスの口調が強くなっているのは気の所為ではないだろう。
「それはまた……」
「……なんと、愚かな………」
「うわぁ……マジ?」
「そんな理由なんですか?!」
「愚かすぎて、ため息も出ませんでしょう?」
既に事情を聞いていたマーガレットも、初めてエリスから話を聞いた時はイーグ=カロオのあまりの愚行に言葉を失った。
「…………まれ。だまれ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇええええ―――――――――!!!!!」
突如、怒声を上げてイーグ=カロオが滅茶苦茶に剣を振り回し始めた。まだマーガレットの投げた小瓶の煙が効いているのか、体が痙攣したように小刻みに痙攣していた。
「いい加減になさいませ!! 一国の王ともあろうお方が、いつまでも駄々をこねた幼子のように振る舞うのはおよしなさい!!」
怒鳴りつけるな否や………エリスはイーグ=カロオの元まで走るとその助走を利用してイーグ=カロオの股間に鋭い蹴りをお見舞いした。
グッシャァアア!!
何かが潰れた音がした後、声も上げず白目を剝いて気絶する夫に姿に、エリスはフン! と鼻を鳴らして勢いで舞ったスカートを直した。……………………イーグ=カロオの股間辺りが、赤い気がするのはキットキノセイダ……………………
(;゜д゜) ×四
その姿に、男性陣は青ざめた顔で僅かに内股になって腰が引き気味になっている。女性陣は――――、
「随分と、溜まっていたのですね……」
「見事な蹴りですわ。心に染みる……想いを感じました………」
感慨深げに二人して頷き合っていた。エリスは気絶したイーグ=カロオを冷たく見下ろすとそのまま事切れたノモ=カロオの元へと向かった。
「───────この、愚か者がぁ!!」
ノモ=カロオの側で腰を下ろしたエリスはその頬を力一杯ひっぱたいた。
パァァァァンという子気味の良い音が響き渡る。ノモ=カロオの頬を叩く一瞬、その面差しに苦しみと哀しみが混じったような顔をしていたように、その場にいた者達には見えた。
しかし立ち上がったエリスはどこまでも毅然とした態度と空気しか纏っていなかった。まるで先ほどの表情は幻であったかのように………。
イーグ=カロオは新たに遣ってきたフラワー国の騎士達の手によって王城の最奥にある貴人用の牢屋に軟禁されることになる。
そして、冒頭に戻る。
「何故なのだ………何故なのだ…………どうして、誰も余の命令を聞かぬのだ…………余は、国王なのだぞ…………………?」
ブツブツ、ブツブツブツ呟いているイーグ=カロオの姿に、見張りの兵士は気味悪る気に顔を歪めるもそれでも黙って職務を全うしていた。
しばらくすると、イーグ=カロオが捕らわれている牢に向かって足音がコツコツコツ、と聞こえてきた。まさか未だ絶対王政を謳う貴族達がイーグ=カロオを奪回しに来たのかと兵士は身構えた。
事実、イーグ=カロオとノモ=カロオが捕らわれた方を聞きつけた地方貴族達が慌ただしいという話をこの兵士は聞いていた。幸いにして、反乱が起こる前にフリティラリアとユリウス、エリスとエドガーの手によって未然に防がれているが油断は出来ない。
密かに覚悟を決めていた兵士の前に現れたのはなんと、今まさにアメリ国を建て直そうと奮起しているはずのユリウスがやってきた。
「!? これは……閣下!!」
「いや、いい……楽にしてくれ。それよりも兄上………イーグ=カロオ前陛下と話がしたい。少し、離れてくれないか? 嗚呼……許可ならもらっているから大丈夫だ」
そう言って、兵士にフリティラリアから貰った許可証を兵士に見せた。確かにフリティラリアからの許可証と確認した兵士は………少し気に懸かるも大人しくその場を離れた。
「…………」
去っていく兵士の背を見届けて、ユリウスは投獄されているであろうイーグ=カロオのいる牢獄の前へと進んだ。
「―――兄上? 聞こえていますか?」
「……ユリウス? ユリウス……貴っ様あぁぁ!! よくもヌケヌケと余の前に現れたなぁ……! この、裏切り者ぇ―――……余の権利を返せぇ……余の玉座を返せぇぇ……余の、『華姫』を返せぇええええ!!!」
ガタンと大きな音を立ててイーグ=カロオがユリウスと自身を隔てる扉を打ち付ける。
「兄上、貴方の処刑が決まりました。先に亡くなったノモ=カロオ元王太子につきましては……今はまだ生きている事とし、獄中の中で亡くなったことにいたしました。地方貴族の説得に手間が掛かりましたが、フリティラリア陛下とエリス元王妃の説得を受けて皆なんとか頷きました。流石の彼らも貴方と元王太子のやらかした失態を聞いて庇えぬと理解したのでしょう……むしろ、父王の代から仕えていらした古参の方々は幼き兄上を甘やかし過ぎた事を悔いて自ら爵位を返上して残った財産を国へ寄付してくださっています。最も全員の爵位を返上されては地方が成り立ちませんので多くの方は爵位を親類の方に譲渡されています。――――――兄上が処刑されると同時に、彼らも自害するつもりのようです……」
怒り任せに扉を打ち付けているイーグ=カロオに向かってユリウスは現在の国の様子を語って聞かせた。しかしイーグ=カロオはユリウスの言葉を聞いてさらに激昂する。
「余を処刑だと!? ふざけおってふざけおってふざけおってふざけおってふざけおってぇぇぇええええ!!! 余を誰と心得るか!! アメリ国国王イーグ=カロオであるぞ!! 救出する為に尽力するどころか余の処刑に賛同するなど……!! そのような者共なぞ、全員処刑だ!!処刑だぁぁぁあああああああああ―――――!!!!!」
「――――いい加減になさいませ! 兄上!! 貴方は……自ら兄上に最後まで殉じてくれる臣下に対して言うことはないのか!? 彼らは、確かに過ちを犯した。だが国を思う心に嘘など無かったのだ!! 甘言に甘え、諫言を嫌い、自ら正道を逸れること為さったのはそれでも兄上でしょう!!! 自身が真の王であると自負しているのならば国を傾けた罪を認め、潔く刑に服さずにどうするのです!!!!!」
「黙れぇええユリウスぅううう! 貴様如きの指図など受けぬぅうううう!! 余が王だぁあああ余こそが唯一至高の王なのだぁあああああ!!!」
喚き散らすばかりで、少しも改めようとしないイーグ=カロオの姿に、ユリウスは両手を握りしめて耐えた。
「最後まで………省みてはくださらないのですね。…………兄上、刑の執行日は改めてフリティラリア陛下から告知されるでしょう。もう、貴方と話が出来るのも今日限りです。─────さようなら、兄上」
去っていくユリウスに向かってイーグ=カロオが罵倒の限りを浴びせるが、ユリウスは黙って去って行った。
そしてイーグ=カロオが処刑される日がやってきた。
この時になってようやく自分は本当に殺されると自覚したイーグ=カロオはみっともなく泣き喚いてはフリティラリアやユリウスに命乞いをし始めた。共に逝こうとしていた古参の臣下達はあまりにみっともなく、無様な姿に情けなくなって滂沱の涙を流していた。
無理やり跪かされ、その首を落とそうと執行人が剣を振り上げれば─────
「頼む! どうか命だけは助けてくれ!!! 土下座でもなんでもするゆえ!!!!!」
涙でグチャグチャになった顔で叫ぶも、
「今更遅過ぎる。赦されると思うな」
こうして、絶対王政を敷いていたアメリ国はイーグ=カロオ前陛下を最後としてその法律を変えた。
残ったエリス元王妃もイーグ=カロオ前陛下の暴走を止められなかった罪を問われ蟄居を命じられた。
そしてユリウス宰相も王族であり王弟でありながらイーグ=カロオを諫められなかった罪を問われ国が平定したのち、宰相位を辞して領地にて蟄居の身となった。
イーグ=カロオの実子にしてユリウスの養子であったエドガーはマーガレットを救い出し、フラワー国に従事したことを高く評価されて後のアメリ国国王に即位。フラワー国の貴族令嬢を王妃に迎えて見事国を治めた。
無辜の罪で断罪された元侯爵家にして現男爵はイーグ=カロオの処刑後、その名誉を回復させて再び侯爵位を授けられるもその爵位を庶子と偽っていたツジムに相続された。現男爵は男爵位のまま居ることを望み、ツジムはスラーエ国の貴族から婿を取って睦まじく暮らした。
マーガレットはフリティラリアの補佐に付き、時期女王としての采配の腕を磨いた。ただし、フリティラリア(の美貌)を義父に持つことを恐れた王侯貴族からの縁談は遅々として進まず、マーガレットは二十歳半ばでようやく婚約者が出来たそうな。フリティラリアはやってこないマーガレットの求婚話に気を良くしてマーガレットを構っては愛ある鉄拳制裁を喰らったそうな。
´∀`)=⊃)`Д°);、;∵グッハァアア!!
それでもみんな、自身の役割をしっかり果たしつつそれなりに幸せに暮らしたそうな。
めでたし、めでたし───。
これにて最後となります。
読者の皆様には永らくお付き合いしてくださりありがとうございます。