午後は青児にドクダミ茶
豪雨の被害がとんでもなかった、今年の夏のある日のこと。
ハザマが光を膝に乗せ、優雅に午後のドクダミティーを飲んでいた。そして飲み終えると、ふと神妙な面持ちでこんな情報をくれた。
「青児が今度は屋敷の南側の壁で、女子どもを誘惑している。そのうち、屋敷の壁が崩落するのではないかと心配しているんだが」
俺たちが住むこの屋敷は、界隈では割と有名である。町並み保存地区に指定されており、特に屋敷を囲む立派な白壁は、観光名所にもなっている室生家自慢の壁なのだ。
「今年の豪雨でただでさえ壁が緩んでるってのに、あいつの『壁ドン』が連発されたら、ひとたまりもねぇな……」
壁の表面は漆喰でコーティングされてはいるものの、古い家ゆえに小さなヒビがあり、そこから中の赤い土――「中塗り土」に雨水が入り込んでしまっているのだ。物理的なダメージは深刻である。
そんなことを考えていた矢先、連絡網アプリ『LIME』の通知で俺のスマホが激しく震えた!
画面を確認すると――『小梅さんがヤバい!』という従業員からのSOSだった。
急いで屋敷の南側へとすっ飛んでいくと、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
自慢の白壁際に小梅を追い詰め、あろうことか彼女の顔の横で、両手を『恋人繋ぎ』にしている雨宮青児の姿があったのだ。
小梅は頬を染めながら「み、御影様、助けて下さい!」と叫んでいるが、その声色や表情からは、まったく困っている様子が感じられない。
「おまえ、母親みたいな年の小梅を何たぶらかしてんだよ! さっさと放せ!」
俺が怒鳴り込むと、雨宮は小梅を逃すまいとその腰にすっと腕を回したまま、こちらを振り向いた。
「あぁ、御影さん、こんにちは。その節はお世話になりました」
礼儀正しく俺に挨拶しながらも、息をするかのように自然な動作で小梅をホールドし続けている。
「雨宮、お前いくらなんでも守備範囲広すぎるだろ。お前みたいな節操のない女たらし、今まで見たことねぇよ」
俺が呆れ果てて抗議すると、奴はふっと妖しく笑いながら、低く甘い声で言った。
「女性って……みんな可愛いじゃありませんか」
「ふーん。それは心の底で『自分の言うことをよく聞く犬みたいで可愛い』と思ってんじゃねぇか?」
俺は毒づいて深々とため息をついた。
「まぁいい、あがれよ。ドクダミ茶でもご馳走してやる」




