表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【特別版】 吹奏万華鏡 青春(アオハル)の茂華楽章  作者: 幻創奏創造団
古叢井瑠璃世代
23/23

♪22楽章 指原希良凛 タムタムソロ

 引退式の直前、瑠璃はパーカッションパートだけでの音楽室の掃除を手伝っていた。

「…瑠璃先輩、ありがとうございます」

希良凛が最初に礼を言った。

「ううん。ふたりきりで掃除なんて大変でしょ」

すると秀麟も、彼女へと歩み寄る。

「瑠璃お姉さん、ありがとうございます」

「ううん。本当に大丈夫」

すると、彼女は何枚かの写真を見せる。


「ついでに、他の写真も持ってくつもりだったから」

 そもそも、瑠璃が音楽室掃除に来たことは偶然だった。元々は、ソロコンやアンコンの個人写真を回収しに行くつもりだけだった。


「…昼休みなのに、ふたりだけで本当に大変でしょ?」

瑠璃が言うと、希良凛と秀麟は同時に苦笑した。

「ま、まぁ……大変っちゃ…大変ですよね」

「そうだよね……」

瑠璃はその反応を聞きながら、自己負担で買った楽譜ごと、胸へ抱え込んだ。

「これでよし!あとは楽器の片付けかな?」

「はい!!」

 楽器室は打楽器を使えば使うほど、汚れてしまうものだ。部屋自体、それほど綺麗ではない。


「……よし!終わったあ」

瑠璃がそう言って、気を抜いた瞬間、今度は写真をばら撒いてしまう。

「う、うわぁあ!写真が!?」

「わぁあ!早速、恩を返すとき!!」

そう言って、希良凛は複数枚の写真を、拾い上げた。だが、そこで表情を変えた。

(…か、可愛い!?)


 その写真は打楽器ソロコンテストでの、瑠璃の写真だった。だが、あまりにも可愛い。そして『やり切った』という感触が、表情から直に伝わってくる。

(…ソロコンテストって楽しそう)

憧れが伝染した希良凛。彼女はつい、瑠璃のソロコンの写真に見入ってしまった。


「さっちゃん!何見てるの〜!?」

「あっ!すみません。これ、ソロコンの写真っすよね?」

「あ、そだよ」

すると瑠璃は、懐かしそうに希良凛から、写真を受け取った。

「先輩、1番楽しかった本番…って、全国大会以外で……なんですか?」

そう訊いてきた希良凛に、瑠璃はふふっと笑う。

「……やっぱり、思い出に残ったのは……ソロコンかなあ。優愛お姉ちゃんと、思いっ切り叩けて楽しかったから」

屈託のない笑みで言った彼女。希良凛は写真を見つめた。

(…去年もスネアのソロコンに出たっけ)

懐かしい、と思った。


すると瑠璃がこう言う。

「……さっちゃんも、今度はスネアじゃなくて、やったこと無い楽器をやってみたら?意外と刺激になって楽しいよ」

嘘など、どこにもない一言。希良凛は、瑠璃の瞳の光に伝染した。

「…そうなん……ですね」

去年のことを刹那で思い出す。


去年――。

 無機質なスネアの音が響いた時、観客席は何も音を立てなかった。難しいロールも危うく乗り越えたとはいえ、特に大した熱も与えられなかった。

―――特に感情の起伏も表現できず、何の感動も感じられなかった。



 あんな感覚を、今度も繰り返すのか。希良凛は心の中で疑問を持ち始めていた。

「……さっちゃんも、今度は激しめな曲をやってみたら?絶対、涙が出るほど楽しいよ」

経験者は語る。希良凛は、瑠璃の絶やさない笑顔に、こくりと頷き返した。

(……瑠璃先輩)

後悔の波が、希良凛の記憶へ大きく押し寄せた。


今度は本気になってやってみたい。

(確かに……東関東大会のときみたいに、涙が出るまで本気でやってみたい……)

希良凛は、悔いと同時、新しい目標を芽生えさせた。

誰かに、自分の演奏を評価されたい……。




――数日後♪

 瑠璃が引退し、希良凛は、ついに秀麟と2人きりだ。そんなある日、希良凛は大切な話しを、持ち掛けた。

「秀くん、アンコン出たい?」

「えっ?アンコン…?」

「うん。私、今年は私、パーカッションソロでコンテストに出たいから」

その言葉はまさに青天の霹靂。秀麟は目を丸めた。

「……えっ?それで…僕がアンコン…ですか?」

「うん。ホラ、来年から私は3年生だから、色んな楽器もできるようになった方がいいかなぁ、って」

「立派な考え…ですね」

「でも、笠松先生には相談してないんだぁ」

「は、はぁ…」 

秀麟は思った。

流石にそんな理由で、笠松に通るはず……


「ああ、別にいいですよ」

「やったぁあ!!」

 その希望は、なんと通ってしまったのだ。それは秀麟も度肝を抜かれるレベルで驚いた。

「…末次くんにアンコンは出てもらっても、いいしね」

「…えっ?本当にいいんですか?」

秀麟が訝しげに訊ねると、笠松はにやりと悪そうに笑った。その笑みは何だか怪しかった。

「ええ!だって……ソロコンの方が、メンタルも技術も鍛えられるでしょう?"ひとり"なんだから」

「……」

希良凛はそれを聞いて、頬を青く染めた。

「う…あ…!」

「ちなみに、今年はタムタムを使った打楽器ソロが、課題曲なので…すごく難しいですよ」

そう言って、笠松は去っていった。



「……き、希良凛先輩。これ、マズくないですか?」

「う、うん。でも……」

しかし希良凛は、引くに引けなかった。

今こそ、無機質な自分を超える時だと分かっていたから。



――翌日 ♪

 それから希良凛は、中北から技術を伝授された。1からの基礎打ちから始まった。

 タムタムのソロは、相当な難易度で、ある日の夕方に瑠璃にも相談した。

「タムタムのソロかぁー。私も中1のとき、やったなぁ。やっぱり…難しい?」

「はい。色々…叩くものが多いし、強弱とかも少し難しいです」

そう言うと、瑠璃はふふっと笑う。

「…だよね。私も同じことを中北先生に、相談したんだよね。そしたら……」


『…手首を使うことと、叩いた瞬間に、打面から離すことかな』


「……って言われたよ」

「やっぱり…難しいですね」

しかし瑠璃はフフンと鼻で笑う。

「まぁ、でも……私は、腕を使って、思い切りぶっ叩いてたけどね」

可愛らしい顔で、随分と怖いことを仰る……。希良凛は困惑しながらも、瑠璃の意見に苦笑を返した。

 希良凛は、自身の実力の向上の為にも、何倍もの努力をした。何度も失敗(ミス)をしたが、それでもやり直し、頑張り続けた。

 終わった瞬間の、あの達成感をもう一度、感じてみたかったから。





――1ヶ月後 ♪

 そして12月の初旬に、ようやく本番が始まった。ソロコンテストは、茂華町から少し離れた場所で、行われた。

「うーっ…!寒ぅい!」

「今日って、午後の部なんですね。希良凛先輩」

秀麟は、楽器運びの為に付いてきた。希良凛は真っ黒なジャンパーを着ているも、寒くて寒くて仕方がなかった。

「は、早く中に入りたい…!」

「そうですね」

そうして、ふたりは会館の出入り口へと歩く。


 秀麟も灰色のジャンパーを着つつも、かなり寒がっていた。寒さには強いはずなのに、茂華町が暖かすぎたせいか、ここは少し寒かった。

「…いやぁ、去年ぶりだなぁ」

「そうなんですね…」

 すると、中北がこちらへと手を振ってきた。

「あ、希良凛ちゃん!秀麟くん!」

「…中北先生〜!」

「中北先生…」

ふたりは、中北の方へと合流した。

「…寒かった?じゃあ、早く用意しちゃお!」

「はい!」

ふたりは、中北の指示のもと、ソロで使用するタムタムを、トラックから降ろし始めた。


 トラックもトラックで、荷台の中は寒かった。冬の空気が針のように突き刺す。

「ひぇー!寒ぅい!」

「毛布かけてあるけど、楽器駄目になってないよね?」

「それは致命的ですよ」

秀麟が青ざめるように言うと、希良凛はタムタムの側面を、慌てて撫でる。

「……タムタムさん、どうか……!どうか〜〜〜!!」

(……)

祈る希良凛が可愛い、秀麟はついそう思ってしまった。

希良凛と付き合って、2ヶ月近く経つ。まだ……2人の関係は良好だった。




――ステージ裏 ♫

 時は過ぎ、ついに、本番を迎えた。希良凛は、ステージ裏で深呼吸をする。

(…すぅ、やっぱり去年より緊張してきたぁ)

去年は、慣れているスネアドラムで、そこそこ簡単な曲をやっていた。

 だが、今年は違う。慣れないタムタムで、全く知らない曲だ。この未開の感覚が、緊張とプレッシャーをこの上なく、高めていた。

(……行こう)

 全ては自身の技術の向上に繋げるため。希良凛はそう胸に刻み、黄昏色の舞台へと歩き出した。


 そして、ステージへと立つ。目の前には4つのタムタム。叩けば音が鳴る。本当に楽な構造だ。

(……)

だが、実際は違う。叩く角度や強さで、その音の鳴りは大きく変わる。本当に難しい。

「……スゥ」

小さく深呼吸をして、メープル色のスティックを握りしめる。ぎゅっ、と耳を撫でるような音がした。


『プログラム8番、茂華中学校吹奏楽部、打楽器ソロ……曲は……』

希良凛は、楽譜を凝視する。

今、自分を変える。その決意しか頭になかった。


 だから…彼女は構えて、スティックを振る。透明な結界が、音を立てて震えた。

……ドコドコドコドコ!

クレッシェンド。4つのタムタムへ、クレッシェンドの演奏を繰り返す。ホールの空気が僅かに揺れた。

 それからは覚えていない。必死に叩いていると、身体が熱くなるのを感じた。

面を叩いて、淵を叩いて、足踏みで難しいリズムを取って、何とか乗り越えた。

 鳴り響く力強い音色が、大きく跳ねるスティックの先端が、蒼天へと飛び立つ(はやぶさ)のようだった。


 音は最高、気分は上々。希良凛は緊張も、後半につれて忘れていく。音は自分自身を彩る絵の具だ。そう感じられた。

全力で鳴らすフォルテシモ。それも、ついに終わる。


 身体がびりびりと震える。喉の奥が熱くなってきた。その感動を、希良凛は歯を食いしばって耐えた。

叫びたい。全ての音色が、そんな彼女の感情を、鮮やかに彩っていた。

 海原のような、闇に包まれた、静かなホールは、今、希良凛の鳴らすリズムが支配している。

ドドドンッ……!!!!

そして最後の1音が鳴り止む。


ぱちぱちぱちぱちぱち……!!!!!!

 刹那、闇を切り裂く拍手が湧いた。人が多いからか、彼女の演奏に感化されてなのかは、分からない。

それでも、完璧な演奏ということだけは、確かな事実であった。



 ステージ裏へ戻った希良凛は、感動で目元を赤く腫らしていた。それを細い指で拭う。

「…先輩、お疲れさまです」

中北たちと楽器を運ぶ秀麟に言われ、希良凛は笑顔で頷いた。やり切ったという、その気持ちだけが、彼女の心の中だった。

「……ありがとう」

希良凛は優しい表情で、そう言った。


【パステル☆パーカッション】

作詞:Yuyu

Feat:小倉(おぐら)優月(ゆづき)&榊澤(さかきさわ)優愛(ゆあ)&古叢井(こむらい)瑠璃(るり)&指原(さしはら)希良凛(きらり)


『1A』

これから私は それぞれの音を

鳴らしていく 失敗できない


『1B』

振りかぶる スティック見ると

蒼天へと飛び立つはやぶさのよう


『サビ』

心震わす フォルテシモ

刺激は憧れさ

ミスしたってやり直す

愛があればやり切れるさ

全ての音 パステルカラー

迷いを忘れる

さぁ、最後の一打が響く

熱い感動噛み締めて

未来へ行く私 色塗るよ



『2A』

これから私は 心の本音を

叫んでいく 心配いらない


『2B』

唸りゆく リズム鳴らせば

蒼天へ飛び放つ拍手はくしゅのよう


『2サビ』

あなた賑わす フォルテシモ

リズムは完璧さ

未来だって変えられる

夢があれば笑いあえる

全ての夢 パステルカラー

世界を包むよ

さぁ、最初の一打が響く

最高の音噛み締めて

未来へ行く私 彩った


『2間奏』

海原のようなホール

すべて 鮮やか

もう失敗はできないや

暗闇を切り裂く拍手はくしゅの為


『ラスサビ』

心震わす フォルテシモ

世界は憧れさ

転んだってやり直す

君がいればやり切れるさ

全ての音 パステルカラー

未来へと響いた

さぁ、最後の一打が響く

熱い感動噛み締めて

未来へ行く私 色塗った




※吹奏万華鏡 青春の茂華楽章より

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ