♪17楽章 少女たちの夏祭り
暁の光が消えた頃。希良凛は友達と、歩行者天国の入り口で合流した。
「わぁあ!希良凛ちゃん!めっちゃ可愛い!」
「桜、ありがと」
蓮巳桜。希良凛の友達だ。
「てか、本当にお囃子大丈夫?」
「大丈夫!さっき逃げてきたから」
――数分前
「昼の巡行が終わったので、あとはお願いします」
「はいはい、どうぞ!」
――運営に許可を貰ってきたのだ。
「それ、逃げたとは言わないよ」
希良凛が笑いながら言う。
「…確かに希望通りにしてもらっただけだからね」
そう言いながら希良凛と桜は、歩行者天国へと突っ込んで行った。
「何たべよう?」
「私、太鼓やってお腹空いたー」
「お疲れ様でーす……」
その時、希良凛は誰かを見つける。
「ぐっ…!」
それは弟の莉翔と後輩の秀麟だった。ふたりはそんなに仲が良くなっていたのか。
「…あれ?希良凛の弟くんだよね?」
「そ、そうだよ…」
「ピンクの浴衣か〜。何度見ても可愛いよね」
「う、うん…」
桜は賞賛しているが、希良凛は少し不満そうだった。
それと同時、行列の並ぶ露店が目に飛び込む。りおごきか…その文字をみた時、桜の表情に華が咲く。
「…あっ、かき氷食べよ!」
「えー、しょうがないなぁ」
希良凛は露店に特に興味がないようで、はしゃぐ桜を見守るように歩き出した。
一方、秀麟と莉翔も動きがあった。
「…あれ?希良凛先輩?」
先ほどの2人を見た秀麟が頬を赤らめた。
「…」
しかし手を振ったって気づいてくれない。秀麟は今、希良凛に気づいてもらうことは得策ではない。そう思った瞬間だった。
「ねぇ、秀麟ってさ、希良凛姉ちゃんのことが好き!?」
莉翔が真実に触れた。刹那に彼の頬は意志とは、無関係に火照ってしまう。
「ちょ…!莉翔!誰にも言わないで!」
「…ふぅん。図星なんだぁ?」
「お、お願い!誰にも言わないで!」
「…誰にも?まぁ、希良凛姉ちゃんは、恋愛興味ないみたいだし、圧倒的年上が好きらしいから、諦めた方がいいと思うよ」
しかし莉翔は冷たく言い放った。
「…ま、頑張れ」
そのせいで、最後の言葉も慰めにすらならなかった。
希良凛と桜が歩きながら、話しで盛り上がっている。
「そいえば、桜って、どうして占い始めたの?」
「占い?ああね、小学校の時ね、私ずっと1人ぼっちだったから。図書室で占いの本を読みまくった」
「そ、そうだったんだ」
ひとりぼっち。希良凛も何となく、その寂しさは分かる気がした。
「…んん、おいしーっ」
かき氷の氷粒が、舌に触れて静かに溶ける。桜は交わるシロップの甘さに、頬を綻ばせた。
「…占い、よく当たるよね」
「まぁ、本格的な占い勉強したしね…」
桜は吹部内唯一、占いができる。その正確さは恐ろしいくらい、目を見張るものがあるようだ。
「…希良凛にも、今から簡単な占いする?」
「簡単な占い…?今から?」
希良凛は、桜の言葉に首を傾ける。
「そそ。蓮巳流占い方法!」
「いつもやってるのも、オリジナルなの?」
「いつものはオリジナル!小学校までは、本の真似してたんだけどね」
「そうなんだ…」
占いなんて、迷信に過ぎない。殆どの人からはそう言われているが、桜の占いを見ていると、そんな疑念すら吹っ飛ぶ。
占おうとした桜だが、そこで部活の同僚たちを見つけて、動きが止まってしまう。
「あ、霞江くん、土谷さん!」
「…蓮巳さん」
「蓮巳先輩」
それは同級生の霞江遥翔と後輩の土谷菫玲だった。
「…指原さんと蓮巳さんはふたり?」
「ふたりだよー」
「そっか」
すると菫玲が、彼の腕を引いた。
「…あっ、じゃあ。楽しんでー」
「ありがと」
そう言って、遥翔と菫玲に別れを告げ、ふたりは再び歩き出した。
「いいよね。カップル」
しばらく歩を進めていると、希良凛が羨ましそうに言う。
「…そうだよね。でも、希良凛は今年中に…彼氏ができそうな気がする」
「…そ、そう?」
希良凛が慌てる。桜はそれにも平然と頷く。
「…なら信じてみようかな」
希良凛がそう言った時だった。
どーーーんっ!!
花火が漆黒の空を彩る。物凄い轟音と共に、花火の光が影を作る。ふたりは足を止めて見る。
だが、希良凛の目が、見覚えのある人物を捉えた。
「ん?あれは…?」
「ん?誰かいたの?」
「うん。春の合同練習で知り合った先輩が…」
希良凛はその名を容赦なく呼んだ。
「小倉先輩!」
すると少年は歩を止めて、こちらを見てきた。
「あ、指原さん」
その人物は小倉優月だった。ちなみに優月と何度も会って話している。だが、隣の桜は全く知らなかった。
「…こんにちは。市営でドラムやってましたよね?」
希良凛が優月に詰め寄る。彼は必死に頷き返した。すると桜が突然、口角を上げた。
「…あなた、恋愛の女神が纏わりついてますよ」
つい、占い師のように言ってしまった。
「い、いや、占い師みたいなこと言うね…」
優月は困惑したような顔をしてしまう。それにも気付かず、希良凛がはしゃぐように、
「この人、占いできるんですよ」
と言った。
「へ、へぇ…」
優月が納得したように目を丸めた。
すると桜が前へ立つ。そして名乗りだした。
「私、トロンボーンパートリーダー兼占い師の、蓮巳桜って言います!」
すると、優月もまさか、他校の生徒に自己紹介されるとは思わなかったのか、少し困惑した様子だった。
「…先輩、今年は1人ですか?」
去ろうとした優月に、希良凛が訊ねる。
「ううん。友達を探しているよ」
友達か、希良凛はひとつ助言する。
「なら、華幽山とかどうですか?結構人いますよ」
「な、なるほど。い、行ってみるね」
「…では、また会う日まで」
希良凛や桜と別れた優月は、花火の上がる川とは反対方向の山を見つめていた。
(…行ってみるか)
ふたりと別れた希良凛と桜は、闇夜に咲いて散る花火を見つめる。
「…来年は彼氏と行きたいな」
「まだ言ってる」
「花火は…自然と本音を引き出してくれるから」
「…急にポエムっぽい」
「ポエムだよ」
希良凛がそう言うと、桜は柔らかい笑みを浮かべる。
「私は来年も…希良凛と行きたいな!」
「…っ!」
桜は天使のような笑みを浮かべていた。
来年もふたりで行く。だが、桜の願いは叶わなかった。
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