クリスマスの前に
「愛、手元見て。」
「愛、早く洗いもの片付けよ!」
最近のなつは、愛に少しきつく言う事が多く同僚達から、「ケンカしたの?」と問われる。
「そんなんじゃないのよ。」と応えていた。
愛が悩み込んでいる事をなつは、充分知っているし、それを口に出せないことも痛いほど分かっていた。
だから、仕事の手が、いつもより遅い。なつが声をかける事でいつもの手際の良い愛に戻る。
自分の過去を他人から聞かされ果たしてどんな気持ちだろう。自分には、記憶がない過去を受け入れられるだろうか。
子供の頃の私は、どんな性格だったのかしら? 姉とは、仲良かったのかしら? おままごとなんてしたのかな? 両親は? と次々疑問が浮かんでくるが、何一つ答えが無い。
「なっちゃん、私は、やっぱり村木愛かな?」
「なっちゃん、やっぱり横浜にいる親戚に会ったら何か思い出せるかな?」などなつに相談したいが、まだ口に出していない。
私は、誰なのかしら?
等々考えているとなつの声がする。
「手が止まってるよ!」
そして愛が我に返ると
急になつから優しい声で
「今夜、一杯行こうね。」
慌てて振り向く愛に
「ビール一杯だけだよ。」といつものなつの笑顔があった。
少し残業をして職場を出た。
「一杯だけね。」
「ビールじゃなくてワインが、いいな。」と言ってみると
「あぁ、ファミレスのグラスワインね。」となつは、言いきった。
注文したパスタと一緒にグラスワインが運びれてきた。二人いつもの笑顔で乾杯をしてパスタを食べ始めた。
「お腹空いたよね。」
「今日、休憩無かったよね。」
「まだ12月になったばかりなのに、忙しいよね。」
「身体もつかな?」
「みんなピリピリしているね。」
「今年は、去年より注文多いね。」
「インスタ映えしたからかな。」
「そうそう、スマホで見た写メ持ってきて『こんなデザイン出来ますか?』って言われるね。」
勤め先のケーキ屋には、クリスマスケーキの注文が連日入ってくる。たまに細かい文字入れの注文が入ったりするのでが、さらに嬉しい悲鳴であった。
パスタを食べ終えたなつが真顔になってそっと言った。
「愛ちゃん悩んじゃだめよ。木村愛でも、村木愛でもいいの。
どちらも同じ愛ちゃんでしょ。
新聞で読んだよ。
インフルエンザで高熱だして、治った瞬間記憶が甦った人いるよ。」
「そうなの?」
「愛ちゃんにもそんな日が来るよ。」
「そうかな。思い出せるかな。不安なの。」
「なる様になる。」
愛からの返事は、無かった。
「悩まないの。
それより、移住してどうしたいかを考えようね。
キッチンカーでどう売っていこうか?
それともネット販売にするか?」
なつが話題を替えても愛からは、
「やっぱり横浜にいるという親戚に会った方が良いかな。」
と愛は、話題を戻してしまう。
「愛ちゃんが会いに行きたくなったら、一緒に行くからね。」
「なっちゃん気遣いありがとう。」
するとなつからユニークな提案があった。
「みっちとのりちゃんとやっちゃんと集まって行こうね。」
愛がびっくりしていると
なつは、
「いっぺんに会って、
『誰が愛でしょう』って愛を当てられたらホントでしょ。何となく面影が残っていたりしたら、判るかもね。」
「なっちゃんって面白い発想するね。
もう何年も会っていなくても私の事判る人ってありかもね。
5人で行って当てられたら嬉しいね。」
いつもの愛の笑顔なった。
遅れ気味で、すみません。
もう少し続きますのでよろしくお願いします。




