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白い結婚 1

「君とは白い結婚になる」


 それが旦那様と初めて会った時に言われた言葉だった。


 けれど旦那様は、私に優しく接してくれた。

 「君には苦労をかけてしまうけど、幸せになろう」と言ってくれた。

 その言葉だけで十分だった。

 白い結婚でも構わないと思った。

 私はこの人の側に居られるだけで幸せだと思ったのだ。


 でも、実際は思っていたのと違った。

 私が知る限り、白い結婚とは婚姻後の閨がないことを示すはず、それなのに初夜はあったしその後も……こほん。


「奥さん、ただいま」

「おかえりなさいませ」


 旦那様のお帰りだ。

 ふわりと微笑む貴公子が腕に抱くのは白い花で埋め尽くされた花束。


「今日は朝一で新しい花が届いたから、君にも見て欲しいなと思って」

「はい」

「あとで一緒に飾ろう。それから……あぁ、これも見せたいと思っていたんだった」


 そう言うと旦那様は腕の中にあった花束を私に向かって差し出した。

 10本の白い薔薇の花束。

 白い薔薇なんてあったんだぁ、へぇー。


 届けられたのは白のコスモス、白のチューリップ。

 白で統一された部屋に飾っても映えないわねぇ。


 そう、旦那様の言う「白い結婚」は世間一般と意味が違ったのだ。

 建物も白、屋敷を囲う塀も兵の装備も白、意味が分からない。


「旦那様」

「うん?」


 使用人達だけでなく、長年この屋敷に勤める執事長に白で埋め尽くされている理由を聞いた。

 旦那様が白が好きなだけで呪いとか一族の決まり事とか、特にそういった厳かな意味はなかった時はずっこけましたわね。

 ただ先祖代々、一色に統一する癖があるだけとか何とか。個人的趣向ですか、そうですか。


「他の色の花も植えましょう」

「そう言われても、花は白の物と決めているから他に何を飾ればいいのか分からないんだ」


 ……聞いた私が馬鹿でしたわ!


「でしたら庭に私の好きな花を植えてもよろしいでしょうか、あと内装も変えたいですわね」

「え」

「よろしいですね?」


 にっこりと笑顔で迫ったら小さく「はい」と返事が返ってきました。

 旦那様のお小遣いは没収、そのお小遣いでお屋敷に色を入れますわ!


 一先ず執事長と協議をした結果、内装は少しずつ色を塗ることにしましたわ。

 私の好きなラベンダーを植えて、花柄の壁紙や家具で飾りつけましょう。

 カーテンやテーブルクロスも明るい色にして……。

 あぁ、旦那様のお小遣いじゃ足りませんわね、仕方がないので不足分は来月に回しましょう。


「あの、奥さん」

「何ですか?」

「この執務室だけ内装も何もかも白いままなのは何か理由でもあるのかな?」


 旦那様は執務机に肘をついてこちらを見ます。


「別に……一室ぐらい旦那様の好きな色で統一した部屋があってもいいと思っただけですわ」


 そう言うと旦那様が顔を真っ赤にさせて、手で顔を隠して俯いた。


「旦那様?」

「奥さんは、狡い」

「はぁ?」

 

 顔を赤くしながら言われても分かりませんわ。

 私何かしました?


「とりあえず、内装は少しずつ変えていきますので楽しみにしていてくださいね」


 当然旦那様のお小遣いを使ってですけれども。


「うん……あの、奥さん」

「はい?」


 「ありがとう……」と微笑む旦那様に私は何も言えなくなったのだった。

 旦那様の笑顔を見る度に胸が高鳴るようになったのは、いつからだったでしょう。

 この笑顔のためなら真っ白な空間の一つぐらい許して差し上げませんとね。


 それに、ほら、真っ白な空間に私という色が一つくらいあってもよろしいでしょう?




END

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