普段使いする宇宙船
「なんじゃこりゃー」というラミちゃんの声。
僕はキララと一緒に自分の部屋で昼寝をしていたが、目がさめた。
「ユキ君。うさぎっ子達が帰ってきたみたい。そしてラミちゃんはさっき自分の部屋へ戻ったところだよ」キララが教えてくれた。ちょっとだけ僕より先に目がさめたみたい。
ラミちゃんが、鼻息をあらくして、僕の部屋に入ってきた。
「ねえ。これ何。食べることができる本物?」ラミちゃんは、でっかいニンジンをかかえて、僕の部屋に入ってきた。
ふんふん。とニンジンのにおいをかいでいる。
「あ。ラミちゃん。お土産。キララと旅行に行ったときに買ったんだよ。ちなみに。そのニンジンの種も一緒に買ったんだよ…」
「まじでー」ラミちゃんは、ニンジンをかかえたまま僕の部屋を出て行った。
ほんとだー。という声が聞こえた。
また、ラミちゃんが部屋に入ってきた。
「そんなにうれしかった?」僕は寝起きだったけど、ラミちゃんのうれしさは良くわかる。
「それはもう… 一生ユキ君についていくから…… ありがとー」ラミちゃんは、僕に向かってとびかかってきた。そして上にどすんと乗る。
うぐ。…… 重さに声が出る。すりすりすり。ほおずりしてくるラミちゃん。
ほおずりするたびに、うさ耳が僕の顔にあたる。
どたどたどた。ララちゃんが廊下を走る音。ラミちゃんの部屋でニンジンを見つけ。僕の部屋に戻ってきた。
「なにこれー。あのにんじん。ほんものー?」ララちゃんも興奮している。
「うんそうだよ。ちなみに、付け根の太いところは大味で、さきっぽにいくにしたがっておいしくなるって…」
「まじでー。1本食べきれないぐらいのにんじん。夢かと思ったー」ミアお姉さん呼んでくる。とララちゃんは家を出て行ってしまった。
ラミちゃんは、思う存分僕にすりすりした後、起き上がってミアお姉さんを迎えに言った。
「うう。ラミちゃんもあんなに、すりすりしてくるなんて…」僕はキララに言った。
「あはは。あんなに喜ぶなんて、私も予想しなかったよ。でもネコミミっ子達も帰ってくるよね…」
「あ。そうだ…」ミミちゃんには厳選された高級煮干しの袋をお土産に買ったのだった。
☆☆☆
「あ。にゃんだこれー」ミミちゃんが、自分の部屋で声をあげる。
どたどたどた。と足音。そして僕の部屋に鼻息を荒くしたミミちゃんが入ってくる。
「これ。何。おみやげ。ひょっとしてユキ君?」
「う。うん。そうだけど… 気に入った?」
ミミちゃんは、もうすでに煮干しの袋を開けていた。そしてにおいをおもいっきり吸い込み。
「いいわぁ。これ、このにおい。これだけでも。ごはん5杯はいけるわね… そしてこの煮干し。絶品。高かったでしょ。これ…」
ミミちゃんの目が変になっている。目にはにぼしマークが浮かんでいる。
「えーと。日本円換算ではよくわからないんだけど。高級品みたい… 宇宙旅行で買ったものだから、地球にはないよ…」
ミミちゃんがこっちを見る「ユキ君ありがとー。一生ユキ君についていくわね」と言い、ミミちゃんは僕に向かってとびついてきた。
ミミちゃんは自分の頭を僕の胸にすりすりしてくる。非常に甘えてくるクロネコのようだった。
「やっぱり、こうなったね」キララは僕の隣で言う。
☆☆☆
うさ耳っ子達が戻ってきた。ラミちゃん。ララちゃん。ミアお姉さん。そして、いつのまにかララお姉さんまでも僕の家に来ていた。
「ユキ君。こんにちは。昔の私の日記にね。巨大ニンジンのことが書いてあったから、未来から来ちゃった。明日は仕事休みだから泊まっていくわね。きっと。巨大ニンジン料理がでてくるわね…」
ララおねえさんはよだれが出そうになっているが、夕食を想像していた。
☆☆☆
その日の夕食は、おばあちゃんも戻ってきていて、お鍋になった。巨大ニンジンは先っぽと、根元のほうを均一に使って、お鍋の材料に… 全部は使えないので、ちょうどいい大きさに切って保存することにした。にぼしはちょっとだけ、おばあちゃんにあげて、粉末にしてにぼしのだしとして使った。
お鍋のおつゆは、煮干しのだしにより絶品となり、ミミちゃんはあまりのおいしさに、最初の一口を食べてから気絶しかかっていた。
夕食後。
ラミちゃんは、巨大にんじんの種を畑にまき、巨大ニンジンを量産するかということをウサギっ子達で相談をすると言って、部屋にこもってしまった。
今日は静かだ。喧嘩することもない。
ミミちゃんは、煮干し入りの袋を抱っこしていた。
このままだと袋ごと学校にも持っていきそうだ。
「うふふ。みんな喜んでいるね…」キララは僕の隣でソファに座ってテレビを見ながら言う。
「うん。キララだったら油揚げとか?」僕は聞いてみた。
「油揚げ。狐っ子の場合、良く言われるけど、そうでもないよ。普通」キララは好物ってないのかな?僕はキララに「ねえ。好物ってないの? 夢中になるような…」
「うん。あるよ。それはユキ君。食べちゃいたいぐらい…」キララのしっぽが僕の太ももをびたんと叩く。
「食べ物のことだよ…」僕は少し恥ずかしくなりながらキララに聞いた。
「そうだね。塩ラーメンかな… 各種産地の天然の塩を使ったもの。宇宙にもあるよ。ラーメン。未来では地球から各地にラーメンが広まったんだよ。その中でも各地の惑星の海の塩を使った塩ラーメンめぐり。いつか行きたい…」
「そうなんだ。じゃあ。また今週の週末の休みの日にでも行く? 今度はみんなで…」
「うん。いいね。そうしよう… あ。じゃあ。どうしようかな。ちょっと前に考えたんだけど、僕。
いや。私も宇宙船購入しようかなと… キラの宇宙船を見ていいなあと思ったんだ。
何回も宇宙に行くんだったら宇宙船を持っていてもいいかなと思って…」
「そうだね。近いうちに見に行く?」
「うん。今週末。学校が早く終わるから、2人でまた見にいかない?
2人で…」とキララ。
「じゃ。そういうことで…」
僕とキララは2人でソファに座って、仲良く話をしてテレビを見ているところをおばあちゃんは微笑みながら見ていた。
「あれ。できているわね。ユキにも恋人ができたんじゃないかしら」…小声で言った。
☆☆☆
金曜日。学校が早めに終わると、僕とキララは先に教室を出た。そしてキララと僕は学校の裏へ行き、TMRで壁にドアを開ける。誰も見ていないことを確認してドアをくぐった。
ドアをくぐると自分の家。カバンを置いてから小さいポーチをキララは持つ。そしてまた自動ドアで入り口を開けた。
☆☆
「あれ? ユキ君とキララ。もう帰ったの?」ラミちゃんはミミちゃんに言う。
「そういえば、さっき2人で出て行ったわね。用事があると言って…」
「ふーん。あの2人。できているんじゃないの? 一緒にいることが多いし…」ラミちゃんはウサ耳をぴこぴこうごかしながら言う。
「そうかも。確かにね… さいきんは巨大ニンジンとかにぼしに気をとられて気が付かなかったけど、あやしいわね…」ミミちゃんは猫のしっぽをくねくねさせながら言う。
一緒に帰りましょ。とラミちゃんとミミちゃんは帰ることにした。
☆☆☆
クロの時代からほぼ200年後の西暦2440年。この時代になると、昔業務で使っていた宇宙船の型落ちモデルが中古で安く出ていて購入しやすい値段になっている。キララと僕は未来の町に来ていた。
「ねえ。図書館で個室を借りてゆっくり検索する?」キララは僕に聞いてきた。
「図書館で個室? 借りることができるの?」
「うん。この時代になると、昔みたいに田舎が過疎化して都会に密集するということも無くなっていて、地球自体が微妙に過疎化しているからね。土地は余っているんだよ。だから図書館も広いんだ。
でも温暖化で海面が上昇しているから、陸地は限られるんだけど、地下に生活スペースを移して。地下に図書館があって、ほかにもいろいろな施設があるからね」
僕は天井を見る。うん。青空が見えるけど、ところどころに格子模様がある。切れ目というか。この空も人工物。地下100メートルに都市ができていた。
道路を歩き、図書館っぽい建物に入る。
静かな廊下を進み、本棚がある場所の横にある個室に入った。キララはTMRをかざして利用登録をする。
壁際に机がある。棚には表示デバイス。タブレット型のもの。ゴーグル型のもの。そして球体のものが棚に置いてあった。
キララはタブレット型のものと球体のものを手にとった。そしてスイッチを入れる。
「えーと。中古。宇宙船。価格はこの範囲内で…」キララは古風にキーボードで検索条件を入力する。キーボードは仮想インターフェースになっているけど、キーボードの配置は昔と同じ。変わらない。
タブレット型の端末に検索条件を表示してから、いくつかをピックアップする。そしてボタンを押して、映像を球体のデバイスへと転送させる。
球体のデバイスがセカンドモニターのかわりになり、立体映像で検索結果の宇宙船がいくつか表示される。
「見やすいね。これ」僕は手をのばして検索結果で表示されている宇宙船に触ろうとした。
立体映像で表示されている宇宙船にふれると、宇宙船の表示位置が、奥側に移動した。
「動くよ。手でさわって、かかえてくるっと裏側に回転させると、宇宙船の反対側が見えるよ…」とキララは教えてくれた。
僕はキララに教えてもらったとおりに、宇宙船を両手でかかえてくるっとまわした。すると、宇宙船の反対側がみえた。
「へー」この立体映像さわれるんだ。と思った。
「いくつかピックアップしたから一緒にみよう。まずはこれ…」キララはオーソドックスな宇宙船を表示させた。
スペースシャトルをもうちょっとずんぐりさせたような感じの宇宙船。全長30メートルぐらい。内装は前方に操縦席。後ろに生活スペース兼コンテナ。普通のタイプらしい。
じゃ次と。キララは検索した宇宙船のものを次に切り替えた。
丸い円盤タイプ。小ぶりで全長10メートル以下。内装を考えるとせまい。
次。キララはさらに次のものを表示させた。
細長いタイプ。大型バスのような形。全長50メートル。
これは大きすぎ、細長いタイプより、やっぱりレンタルした宇宙船みたいに円盤のところがあったほうがいいかな…
次。キララはさらに次のものを表示させる。
超小型。Yの字を逆にしたもの。Y部分の下の2つは折りたたんで、上側にたたむことができる。『遠い昔、遥か彼方の銀河系で...』で始まる映画に出てきた逆Y字型の宇宙船とそっくりだ。着陸用の小型艇としてはいいんだけど…
キララは僕の顔を見てから、検索キーワードを変更した。円盤… それと追加のキーワード。
いくつか出てきた。
レンタルした宇宙船に似たタイプがいくつか出てきた。そして小ぶりながらもよさそうな物。
円盤状の展望室兼居住スペース。真ん中にコンソール(操縦席)、円盤の下の階には個室と、キッチン、シャワー室、トイレ、ハッチ、荷物入れがあるものだった。展望室には椅子やソファが置ける場所がとれそうだった。コンソールは展望室の真ん中にあるので、いちいち階下に降りなくてもいい。
「これにする?」キララは僕に聞いてきた。
「キララが好きなものにしていいよ」僕はキララが買うんだしと言った。
「なんか、あのレンタルした宇宙船のタイプが気に入っていてね。あとは内装をちょっとだけリフォームして、外観をもうちょっとあの宇宙船に似せようと思うんだけど…
あ。そうだ下の個室。1つを改造して転送室にするのはどう?」
「あ。いいねえ。といってもTMRとかでの移動だけど…」キララはデバイスを僕に渡してから別のデバイスを棚から手にとった。
キララはリフォーム業者を探すらしい。僕は検索した宇宙船を表示させているデバイスを操作しながら、いろいろな記載を見てみた。
あ。デバイスの横に仮想現実というアイコン表示があることに気が付いた。
「ねえ。キララ。仮想現実のアイコンがあるんだけど…」僕はキララに聞いた。
「うん。あるよ。そのデバイスを持って個室を出て仮想現実の部屋があるから、デバイスをカプセルにつないだ後に、カプセルに入って蓋を閉じると宇宙船の内部を動き回れるよ…」
そう。じゃあ行ってくる。と僕はキララに言い、部屋を出た。
僕は廊下をまっすぐ進み、仮想現実の部屋のプレートがある部屋に入る。
デバイスをカプセルの前にあるスロットにセットしてから靴を脱いでからカプセルの中に入る。
そして、蓋を閉める。
☆☆☆
お。宇宙船の中。ここは仮想現実だ。
自分の手を見る。簡易型の仮想現実のカプセルなので自分の姿は簡略化されている。身長と自分の体形はカプセルに入ったときにスキャンされて目線の高さは同じになっている。
僕は目の前に見えるハッチから中に入った。
円盤の下の階層。順番に見ていく。ハッチの扉。個室。シャワー室。トイレ(男女別)。台所。物入れ。そして上の階に続く階段。
階段を上がると、レンタルした宇宙船よりは小ぶりなんだけど、まわりに展望用の窓がある。それに窓にはフィルター機能が備わっていたボタンを押すと、フィルターをかけたときの見え方のイメージが表示された。
「あ。なんか違う…」この宇宙船はレンタルした宇宙船よりは未来のものなので、窓にいくつかの表示が追加されていた。
サンプルのアンドロメダ星雲の映像表示。ちょっと下のほうに、「ロメア星系」という表示。特産物。観光名所の表示。などができるようになっていた。
宇宙船の展望室の片隅に置いてあるソファに座った。うん。この位置。いいね。
僕は展望室のまわりを歩き、距離感をつかむ。大きさもいい。みんなで来てもいいね。ベンチも複数あるし…
そして、コンソール。この宇宙船はコンソールが展望室の真ん中にある。画面は展望室の中心から外に向かって付けられている壁に映し出される。映像を映すので、窓が宇宙船の外に面してなくてもいい。コンソールへの入り口は3か所あった。
いいかな。僕は宇宙船のハッチから外に出てみた。
すると、宇宙船の外側が見えた。
ところどころは少し古びてきており、会社のロゴが書いてあったと思われるペンキをはがして別の色で塗りなおしたあとがあった。
まあ、いいか、キララがリフォーム業者を探しているみたいだし…
僕は目で見える片隅に表示されているExitアイコンを手で押した。
すると、カプセルが開き、現実へと戻ってきた。
僕はカプセルから起き上がる。その後にスロットに入れたデバイスを回収して、キララの待つ個室へと戻った。
☆☆☆
「どうだった?」キララはおかえりと言ったあと、聞いてきた。
「うん。期待通り。良かったよ。外装はちょっと古ぼけていたけど、あと会社のロゴを消したあととかもあったよ…」
「うん。わかった。じゃあ購入手続きと、リフォームの依頼をするね。内装もキラの宇宙船を思い出して、住みやすそうな内装を見つけておいたから…
外装はかっこよくしよう」キララはボタンを押した。
キララは『宇宙、それは人類に残された最後の開拓地』であるから始まる宇宙船に似たイメージを伝えた。
☆☆☆
僕とキララは図書館を出て、TMRによって自動ドアを開けて自分の家に帰ってきた。
「あ。2人ともどこに行っていたの? ねえねえ。2人で…」ミミちゃんが一緒にいる僕とキララに声をかけてきた。
「えーと買い物。買いものに行っていたんだよね」キララが説明をする。
「うん。そうなんだ。ちょっとした買い物… キララにつきあってた…」
「ふーん。そう。ところであんたたち付き合っているの?」ミミちゃんが聞いてきた。
「あ。あー。えーと」キララは悩んでいる。
「うん。実はそうなんだ。」僕はミミちゃんに言った。
「やっぱり、なんかあやしいと思ったのよね。にぼしに気をとられていて最初はわからなかったけどね。ラミちゃんも気が付いているわよ… まああたしから言っておく…
ララお姉さんに知られたらがっかりかも… あ。まあ。でも知っているか…」
ミミちゃんは自分の部屋へと戻っていった。
「はなしちゃった」僕はキララに言った。
「いいよ。ユキ君ありがと。言ってくれて…これで、みのるお兄さんに負けないぐらい、らぶらぶできるね…」
「いや。さすがに、みのるお兄さんを超えることはできないなぁ」僕は言った。




