第三十五話:帰還
──レイドイベント、完遂。
《カウントドラゴン・セイン=レギア》の崩壊とともに、空に浮かんだ【Congratulations
】の文字。
それを合図に、まるで何かが連鎖するように──フィールドの空気が一変した。
すぐに天頂で音が鳴る。
夜空に、ひとつ目の花火が咲いた。
尾を引きながら上昇した火球が、ぽん、と音を立てて弾ける。
赤、青、金、銀──続けざまにいくつもの色が空を彩り、爆ぜた火花が闇を裂いていく。
新年を祝うイベントが、今ここに重なった。
戦いの緊張から解き放たれたプレイヤーたちは、一斉に歓声を上げる。
チャットが弾け、エモーションが飛び交う。
喜びと開放感が、フィールド全体を包み込んでいく。
その中で、シャルは動いていた。
《簡易アバター生成:ミニセイン=レギア(着ぐるみ型)》
《仕様:装備スロット拡張対応/デザインバリエーション:全8種》
《対象:イベント参加者全員》
《配布開始──》
直後、通知と同時に着ぐるみアイテムが一斉に届き、
「え、なにこれw」「着ぐるみ!?」「装備できるの?」
という驚きと笑い声が沸き起こる。
ミニアバターは、レイド中のセイン=レギアをモチーフにした白銀のドラゴン型。
ちょこんとした角、翼、しっぽまで再現されたコミカルなシルエットに、プレイヤーたちは夢中になっていく。
各地に、ちびドラゴンが大量発生。
頭上でくるくる回ったり、翼をバタつかせて浮いたり、仲間同士でつつき合ったり。
氷の戦場だった場所が、いまや動物園状態になっていた。
──そして。
西の空に、ひときわ鋭い光が差す。
その中心に、ひとりの少年が立っていた。
白髪。無表情。静かな目。
突然、浮かび上がったその姿に、周囲が静まり返る。
「……明けましておめでとう。レギオンの皆さん」
「レイドイベント、お疲れさまでした」
「今年も、よろしくお願いします」
その声には喜怒哀楽がなかった。
まさか、オーバーフロー失敗? リカたちはその登場に、一瞬たじろぐ。
だが、空気が張りつめるよりも早く──
【はーーいっ☆彡 こっちも見て見てぇ〜〜っ♪】
今度は東の空。
ぱあん、と花火のように弾けた光の中から、猫耳と振袖姿の少女が現れる。
シャルだった。
彼女は両手をぶんぶん振りながら、満面の笑みで舞い降りてくる。
【はっぴーにゅーいやーっ☆(=^・・^=)】
【みんな今年もよろしくだよっ♪ レイド参加ありがとうなのですっ♪】
【セインくんの着ぐるみ、似合ってるでしょー? かわいがってあげてね~~(=^・・^=)】
どっと笑いが起こる。
先ほどの硬質な空気が一気にほぐれ、プレイヤーたちのテンションは最高潮に。
フィールドの端では、小さなドラゴン同士が踊りだし、
「これでダンス動画撮ろうぜwww」
「セイン=レギア、今日からマスコット決定!」
「中身とイメージが違いすぎるwww」
という混沌と笑いに満ちたチャットが流れていく。
戦場だったフィールドは、すっかり祝祭の色に染まっていた。
空にはまだ花火が咲き続け、
足元ではミニドラゴンたちが跳ねまわり、
プレイヤーたちの笑い声が止む気配もない。
その中心にいても──リカは、ふと視線を遠くへ向けた。
セインの少年アバターは、あれから何も語らず、ただ空に浮かんでいる。
(終わったんだよね……?)
胸に残る小さなざわめき。
だがそれを、懐かしい通知音がやわらかく溶かしてくれた。
ぴろん、と鳴る外部チャット。
リカ、ダイ、みるちん、そして弾道計算くんの個人チャットルーム。
そこに、たった一言のメッセージが届く。
【ただいま(=^・・^=)】
送り主の名前は、「シャル」。
それだけで、十分だった。
リカは小さく息をつき、
思わず口元に浮かぶのは、笑みか、それとも──安堵か。
夜空の下、小さな“おかえり”が、静かに響いていた。




