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第十六話:猫耳に悪い奴はいない?


リカはPCに表示されたシャルからのメッセージを何度も見返していた。


――ただのシステムではない。


長く《レギオン》を遊んできたリカにとって、シャルは単なる管理AIではなく、まるで人間の如くふるまう“NPC”だった。

猫耳としっぽが特徴の目のくりくりとした可愛らしい少女のアバターが特徴。クリスマスなどのイベントではプレゼントを配って回る“看板娘”。

登録した誕生日にはメッセージカードを送ってくれる天使のような存在。

極まれにゲーム内の障害物に挟まって身動きが取れなくなったときも、シャルはすぐ駆けつけて救出してくれた。

そのため、シャルに会うためにわざと自分をスタックさせようとするプレイヤーまで出るほど熱烈なファンがいる。


しかし、彼女のメッセージの内容は異例だった。


……あなたにしか見えません。真実を知る鍵は、あなたに託されました――そんな秘密めいた言葉に、リカは不安を隠せなかった。


「みるちん……これ、どうすればいいの?」

画面越しにそうつぶやき、同じゲーム仲間に向けてボイスチャットをつなぐ。


『うーん……私も正直、わかんないよ^^;』

みるちんは首をかしげながら答えた。

『でも、弾道計算くんなら!SOSに気づいたのも彼だったし☆彡』


早速みるちんは配信の中で弾道計算くんに呼びかける。

『さっきの事でちょっと聞きたいんだけど……いいかな?☆』


最初は声を聴かれるのが恥ずかしいとゴネていた弾道計算くんだったが、なんとか説得し、ボイスチャットでつなげることに成功、リカはシャルからメッセージが来たことを話した。


弾道計算くんは甲高い声を震わせて叫ぶ。

《シャルたんとつながったってマジ!?ぱねぇ。俺もつながりたい!!!》


そう、彼はゲーム内コミュニティの【シャル大好きクラブ】に入っているほどのシャルファンだった。


慌ててみるちんがたしなめる。『落ち着いて!今は興奮するところじゃないよ☆彡』



《おっと、我を忘れてしまった、すまん。でも、猫耳に悪い奴はいない。》

などと意味不明なことをブツブツ呟きながら頭をフル回転させている。


ようやく落ち着いたのか弾道計算くんは頷きながら言葉を続けた。

《まとめると、まずダイがSOSを発信し、リカさんの問いかけにうなずいた。この時点で、ダイには何らかの意思があると見ていい。》

《さらに、SOSと同時に“Low Profile(目立つな)”という意図も示されていた。だから、対応は慎重であるべき。》

《んで、その直後にシャルがリカさんに接触してきた……これらは無関係とは思えない。》


リカとみるちんは固唾をのんで次の言葉を待つ。


少し間を置き弾道計算くんは深く息をついたあと、二人に向かって言った。


《現時点でシャルたんがダイの味方かどうかは精査できない。まずはリカさんがシャルたんの真意を探ることが大事だと思う。》


三人の声はボイスチャット越しに静かに響き合い、揺れる想いを繋いでいった。



──そのやりとりは、PCの向こう側、《レギオン》のフィールドに立つダイにも届いていた。

本来、三人の音声チャット情報は、ゲーム内に直接反映されることはない。だが、リカのPCとレギオンの世界に介在している彼には、はっきりと聞こえていた。

言葉のひとつひとつが、霧の奥から差し込む光のように、心に触れてくる。


希望の光が、指先に宿るような気がした。

(けど……シャル、お前は……本当に味方なのか?)


管理AIといえば簡単にいうとゲームの上層部側。つまりオギノ側と考えられなくもない。

いやむしろ、そう考えるほうが自然だ。

とはいえ、自分がシナガワだとわかっているなら、すでに消されているはずだ……


(どういうことだ……)


――ダイにはまだ読みきれない。



シャルへの懸念は払拭できない。だが、リカは……俺に問いかけてくれた。なら、次は……俺の番だ。



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