9(最終話)
そして気づいた時
私の隣で眠るアルキシン様の姿が目に入った
「アルキシン様・・・」
私の声にアルキシン様は気付き私を見る。
「気づいたのか。」
そう言って私の頭をなで、優しく口付けを降らすアルキシン様。
私は戸惑いながらも大人しく口付けを受けた。
そしてその日のお昼。
ベッドに横になり休んでいた私の元へノエルじい様が訪れた。
「さて、やっとわしはお主を治療できるわい。」
ノエルじい様がニコニコと笑いながら言った言葉に私は目が点になる。
「え、何言って・・」
「大人しく治療を受けろ。お前は俺のものだからな。命令に従え。」
ノエルじい様の後ろからアルキシン様があらわれ、私の言葉をさえぎり言った。
「そうじゃぞ。ユエ。お主はアルキシン様の愛する人じゃ。お主はアルキシン様に助けを求める権利があるんじゃよ。のぉ?アルキシン様や。」
ノエルじい様が面白そうに私とアルキシンを交互に見る。
「ノエルじい様・・・何言ってるの?愛する人だなんて・・・」
私は訳がわからずアルキシン様に視線をやると、なんとアルキシン様は顔を赤くしていた。
「アルキシン様?え、どうしたの?」
「1度しか言わないから、よく聞け。」
アルキシン様はまじめな顔をして私に近づき、私の手をとって私をベッドに座らせた。
「俺はお前を縛り付け、失わないように必死なだけで1度も肝心な言葉を告げることは無かったな。俺は・・・知っていたんだ。補佐官に任命され、いつも頑張るユエを・・・そして遠目から俺を見ているだけで、近づけばすぐ怯えるかのように距離をおくお前を・・・あの日、扉をぶつけてしまった時も俺だと気づいた途端、お前は壁を作った。なぜだか分からなかったが俺にはそれがとても不快に感じたんだ。そのあとは気づいたらお前を側室にしていた。」
そこで言葉を区切ったアルキシン様は、唖然とする私の両手を握ると、膝をつき私の顔を見つめてきた。
「ユエ・ナハル嬢・・・我アルキシン・ダーフォンはあなたに一生の愛を誓い、必ず幸せにする事を約束する。どうか我の手をとり我と共に歩む人生を・・・。ユエ・・・愛しています。」
最後に私の手に口づけをし、また私を見つめるアルキシン様。
私は咄嗟の事に理解できなかった。
ただただアルキシン様をみつめる私に、アルキシンはまた私の名を呼んだ。
その瞬間、頭よりも先に・・・これが現実であることを認識したかのように体が動いた。
「・・・っ・・・アルキシン様!!!」
私はアルキシン様に感情のまま勢いよく抱きつくと、首に腕をまわし、初めてアルキシン様の前で泣いた。
泣きじゃくる私にアルキシン様は優しい笑みを浮かべると「返事は?」と言ってきた。
もちろん私の返事など決まってる。
「私もアルキシン様を愛してます・・・っ!」
私は今まで言えなかった想いを隠すことなく口に出した。
アルキシン様はそんな私に向かって、私がずっと求めていた本物の幸せそうな笑みを見せてくれた。
私はその笑顔を見てもっと泣いてしまったせいで、ノエルじい様が微笑みながら静かに涙を流していることも、扉の向こうでマリアと何人かの侍女が「正妃様の誕生よ!」と頬を赤らめはしゃいでいることに気づかず、ただただ泣きじゃくりながらアルキシン様と抱き合っていた。
しばらくするとアルキシン様が「ユエ、体にさわるからもう寝ろ。」と言い、私を寝台の上に横にさせ離れようとした。
それを私は止め、アルキシン様の腕を力いっぱい引っ張り、傾いた体に自分の顔を寄せ、そのままアルキシン様の唇に自分の唇を重ねた。
アルキシン様が驚いたように私を見つめる中、私はにっこりと笑うと大人しく寝台に横になった。
「初めて・・・私からする口づけのご感想は?」
私がふざけたように問うと、アルキシン様は愉快そうに笑ったあと・・・濃厚な大人の口付けを私にしかけてきた。
ノエルじい様の前でそんな口付けをされた私は、たっぷりと自分の行いを後悔するはめになったのだった。
そして余命1年と宣告されてから1年と半月・・・治療を開始してから半年と半月・・・私は無事に生きている。
頭の中にできていたシコリは高い薬によって消え去り、頭痛や耳鳴り、そして吐き気に悩まされる事もなくなった。
最近ではベッドの中で過ごす事も少なくなり補佐官の仕事にも復帰する事ができた。
でも、アルキシン様の一言で私は転職するはめになってしまった。
「俺の妻であるお前が何故いつまでも父上の補佐官をしているんだ。」
不機嫌なオーラを発しながら私が働く王の執務室に入ってきたアルキシン様。
そんなアルキシン様に私は唖然としたが、王は溜息をつくと「ならばお前の補佐官にするがいい。ユエや、わがままな息子の世話をしてやってくれ。」といった。
私は慌てて膝をつき、最上礼を返し命令に従った。
アルキシン様は満足したかのように不敵に笑うと私の腰を抱き執務室から私をさらった。
あとに残された王と同僚の補佐官たちはそんな私たちの姿をみて苦笑をもらしていたのだった。
それから1ヵ月経ったある日、私はまた部屋を移ることになった。
それもまたアルキシン様の命令によってである。
「何故俺が自分の妻を求めて後宮まで来なければいけない。お前が俺のそばにこい。」
その一言により私はアルキシン様の隣の部屋に移った。
部屋を移動する際、箪笥の中に閉まってあった家族への手紙とアルキシン様への腕輪を思い出した。
「これどうしよう。手紙はもう捨ててもいいけど腕輪・・・渡す機会逃しちゃったし・・・。んー、とりあえずまだ渡さずとっておこうかな」
私はあまり考えずにそれを自分の鞄の中に押しやった。
「さてと、これで大切なものは全部もったし、あとはマリア達がやってくれるから・・・終わりかな?」
一通り部屋を見渡した私は、住みなれた後宮を後にし、新しい部屋へと向かうのであった。
そして新しい部屋に入ると、すでにアルキシン様が待ち構えていて目ざとく私の鞄に目をつけた。
「その鞄・・・お前が服を売りに行ったときに服を入れていったものだろう。」
アルキシン様は私に近づくと、私から鞄を取り上げた。
「・・・っ・・・返して・・・!」
私は中に入ってる手紙と腕輪の事を考え焦る。
そんな私の様子に何かを察したアルキシン様は「また何か俺に隠してることがあるのか?」と、少しばかり不機嫌に言う。
「違います!何もないわ!返してください!」
アルキシン様が私に断りもなく鞄を開けようとしたので、私は必至になって止めた。
でもそんな抵抗は軽く無視され、とうとう鞄の中身をアルキシン様に見られてしまった。
「何だこの手紙は。それとこの腕輪・・・。まさか俺の他に男でもつくったのか!」
とうとう本気で怒りだしたアルキシン様に私は呆れてしまう。
もう見られたなら仕方ない・・・
「何でそうなるの?その手紙はいわば遺書みたいなものよ」
私の言葉にアルキシン様が固まる。
「まさか、まだどこか体が悪いのか!?」
怒りを鎮め、私の顔色を窺うようにアルキシン様は私の肩を掴んできた。
「違うわ。治療するなんて思ってなかったから・・・余命1年ですって言われて4ヶ月目かそのぐらいの時に書いたものです。」
安心したかのように私の肩を掴む手の力を緩めるアルキシン様。
「それとその腕輪は・・・アルキシン様に買いました。私の髪の毛を売ったお金で。」
アルキシン様はその言葉に目を見張り、私と腕輪を交互に見やる。
「これを俺に?ユエの髪の金で?」
「えぇ。そんなに高いもんじゃないですが・・・それを見たとき私の金色とアルキシン様の黒で、なんていうか、その・・・」
段々と恥ずかしくなって言葉を濁らすと、私の言わんとしてる事に気づいたアルキシン様は目を輝かせ「ユエ!!俺は初めて人からの贈り物を嬉しいと思ったぞ!俺もお前に何か買おう!楽しみに待ってろ!」と、嬉しそうにほほ笑みながら私を抱きしめてきた。
私はそんなに喜んでもらえると思っていなかったので驚いたが、喜んでくれたことがとても嬉しくて・・・あんなに悩んでいた頃の自分が馬鹿みたいで・・・過去の自分に苦笑を漏らしながら、今ある幸せを噛み締めるかのように、そっとアルキシン様を抱きしめ返すのであった。
「・・・アルキシン様、大好きですよ」
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それからアルキシンは決してその腕輪を外すことなく、とても大切にしているのを王城で働く何人もの人々が目撃していた。時にはその腕輪に口付けを落とすアルキシンの姿も目撃されており、瞬く間にアルキシンのユエに対する溺愛ぶりは王城では有名な話となった。
そして、色とりどりの美しい花々と共に真っ白なカスミ草も咲き乱れる頃
王城の庭園を訪れる一組の男女の姿があった。
「アルキシン様 見てください!ほら こっちのお花も満開ですよ」
「ああ、わかったからそんな走るな」
朗らかに笑い合いながら庭園を歩む2人
それはまるで幸せの象徴であるかのように、見るものを温かな気持ちにさせる美しい光景だった
「ユエ、また来年も・・・再来年も・・・ずっとこうして俺のそばで笑っていてくれ」
「・・・ならアルキシン様もずっとそうやって幸せそうに笑っていてくださいね」
そっと重なり合った2人の心は、離れることなく幾年もの年を刻む・・・いつまでも・・・いつまでも・・・
END
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