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船長と私。  作者: 御影 優一
黒き真珠の城
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盲目の少女と漆黒の烏 後編

次にセシルが目を覚ましたのは、辺り一帯が常闇に包まれた深夜だった。いつの間にか、隣の布団では、小さなリオンの寝息と影が見えた。セシルは片目をつぶり、暗闇に眼を慣らしておき、そっと寝床を出て荷物を取る。服のまま寝たのは正解だった、もし着替えでもしてリオンが置きだせば、計画は白紙に戻るだろう。部屋を出れば、廊下には明かりが灯っているはずだ、片目だけを瞑って慣れさせれば、外に出る際暗闇には困らなくていい。

セシルはそっと、部屋の外へ脚を踏み出すと案の定、廊下には明かりが、灯っており眩しかった。物音を発てない様に静かに歩き、正面玄関に辿り着いた。セシルは預けていた靴を、カウンターに常にいる使用人に、夜の散歩をするからと言って、返してもらい、難なく外へ出ることに成功した。閑散とする夜の町は、灯りも無くセシルの予想通り片目を瞑らないと、この闇の道を走るのは時間が掛る所だった。

「ごめんなさい・・・ありがとう」

未だ少し明かりが灯る、大きな旅館を振り返り見上げ、セシルは小さな声で呟いた。

それからもう、セシルは暗い道へ、脚を踏み出し振り返る事も無く、走り出したのだった。

上弦の月明かりが、雲で隠れ辺りはもう深き闇が広がるばかり。

冷たい水に似た風が、剥き身の手に、首に、頬に、触れ、白く熱い息を吐いた。



己の心臓の鼓動すら聞こえぬ無音、己を形作る輪郭さえも見えない暗闇、この世に生まれ出でる前の、己と言う者を構成する前のゆりかごの闇。

あぁ、心地いい・・・と思うと同時に、アイツを思い出す。神魔文字を読み上げた声に、ぐらりと俺の本質の本能を汲み取られ、体が、思考が、思わず本能へ惹き寄せられた。あの声は、俺にとってはこの闇と同じで、とてもとても心地いい・・・。その場に居た見知った者達が、人間という肉の塊に視えるほど、思考が侵食される。抑え込んでいた飢えや乾き、魂の根底から、その肉の塊を引き裂きたい衝動に駆られる。それらの中で、一番眼が、耳が、思考が惹かれ、喉から手が出るほど欲しいのは・・・・・・あの存在。アイツの命、魂・・・か?あの白い細い首に、爪を立て血が噴き出すさまを、軽く想像してしまう。その血肉を浴びて、血肉を命ごと喰らえば、どんなに幸せだろう、どんなに満たされれるだろう、どんな命でさえも、喰らえなくなるほど、己は苦しまずにいられる。

けれど・・・どうしても、こびりついて離れない、()の記憶。

俺であって俺ではない、()の記憶・・・。幼少の頃から視ていた夢、その記憶はとても優しく残酷、だがそれがなければ、俺は本能のままに従っていただろう。

白い花と緑、藍色の空、臙脂のリボン、甘いもの・・・・・・私は、わたしは、オマエが好きだったモノ、すべて憶えている。俺の本質を蘇らすのも、満たすのもあの存在。


「ごめんなさい・・・ありがとう」


ゆりかごの闇の中、アイツの声がして俺は眼を覚ました。

備え付けの簡素な置時計に、目を向ければ、早朝の二時頃。頭の中も目も妙に冷め、胸がざわつく、嫌な予感が泥水を流し込んだみたいに、肺にわだかまる。本能の命ずるままに、闇に同化させてこの辺り一帯の、人の気配を探れば、先ほど夢にまで想っていた者の気配がなかった。クロウは大きく溜息を吐き、いつも通りの服装に、乾いたばかりのロングコートを羽織った。刀を腰にさし正面玄関に早足で向かい、預けておいた靴を履き、空を仰いだ。雲に隠れた月明りが、頼りなげに町を照らす。

セシルが俺を恐れるのは、理解できなくはない。本能的にアイツの命を喰らいたいと、殺したいと、純粋にそれを求めてやまないのも自覚はしている。けれども・・・それと同時にアイツを視ていると、手を差し伸べたくなる。それは幼少より視てきた、夢のお蔭ではあるけれど。できるだけ幸せにしてやりたい、優しくしたい、これも自己満足ではあるし、アイツには失礼な事だと思う。それでも心の奥底から、アイツなら同情もできるし、憐れだと、それこそ嘘偽りなくそう思えた。俺の中のどちらにしてもドス黒い思いは、方向性が全く違うのだから、おそらく俺はとうの昔から狂っているのだろう。

あぁ・・・それでも、俺はアイツの傍に居たいのだ。

ここに居る様に聞こえてくる、覚束ない小さな足音を追って、クロウは闇を走り出した。



ばき、ぱき、草土に落ちた枝を踏みしめ、セシルは睡蓮園の近隣にあった森に脚を運ぶ。

このまま真直ぐ、進めば墓地にさしあたり、もっとさらに奥へ進めば山間に入る。山間に入り、そこから左へ進めば海岸沿いに小さな集落があるのを、昼間墓地に行った時に警備兵が話していたのを聞いたのだ。山間から集落まで丸一日、なんとか野草など食べて凌いで歩き続ければ、やってやれない事も無い。もとは小高い山の付近に暮していたのだから、これしきの事は・・・・・・うん、きっと大丈夫。大丈夫、大丈夫、近所のいじめっ子達に山奥まで連れられ両手首を縛られて、置き去りにされた時、自力で山から下りた時よりマシだ。あの時は丸二日飲まず食わずの持久戦で、無事に家に帰れたのだ。だからきっと、あの頃より自分は年もとったし、今回も大丈夫だ、だから頑張れば生ける!!セシルは半ば、過去を思い出し、情けなさにより半泣き状態で、脚を必死に動かした。肌寒い夜ではあるが、動いていれば体も次第に火照ってくる、眼の前を情けなくなって潤む視界を、瞬かせながら鼻を啜る。墓場が見えてきてさすがに、昨日今日の事もあり墓場を避けて、森を突き進む事にした。大丈夫、大丈夫、もう不死者は出ない筈だし・・・ね?襲われたりしても、僕には術があるし・・・うん、もう少しで山間が見えて目印に小屋があって、・・・あぁ、あった小屋だ!さわり、と冷たい風が木々を揺らした先には、月の仄暗い灯りに白く浮かびあがる小屋が見えた。セシルは安心し、ほぉーッと息を吐いて薄暗い森を走り出そうとしたその時。

「おい。」

聴き慣れたセシルがもっとも恐れる、抑揚の無い低い声が暗闇の木々の上から降って来た。

セシルの呪文の様に心の中で叫んでいた、大丈夫、その言葉は、その声とその存在に脆く崩れ去ったのだった。

「こんな早朝に、迷子になったか。」

セシルが恐れる闇より漆黒のその存在は、太い木の枝からひらり、音も無くセシルの目前に降り立った。セシルは今まで自分の周辺に、人の気配が無かった筈だと、顔に驚愕の色を隠せない。そして瞬時に、逃げた事に対して、これには完全にクロウが怒り、自分はココで殺される!と、家に帰れない絶望に打ちひしがれた。

「な、な、なんで・・・・・・・気配なかったのに」

震える声でそう言えば、もう目前に立ちはだかる副船長が、恐すぎてセシルの足が力を失くした。その場に恐怖により、へたり込んで、涙で視界がもう見えない。

もう、もうだめだ・・・僕、ここで殺されちゃうんだ。そうだね、ここ墓場の近く・・・、っていうか真横だし、殺した後ちょうどいいしね!一石二鳥!お得感ってヤツですよね!!!本当に空の彼方まで、ぶっ飛んだセシルの思考とは裏腹に、当の副船長クロウは、そんな事は露ほどにも思っていなかった。震えて小さい声のセシルの質問に、彼は本当に律儀に答えた。

「何故って。俺の属性は闇・影・魔だからだろ。オマエの気配を追って、闇に同化すれば一瞬で辿り着いた。」

「そ、そう、そうですか・・・」

淡々と感情が無い声で言われてしまえば、もう・・・そうですかと言うしかない。暗闇と涙で、クロウの顔色が見えない為、セシルにとって生きるか死ぬか、機嫌を損ねたか、そうでないか、最早分からない。一方、クロウは自分を見上げて、涙をいっぱいにしたセシルを見つめ、また何かコイツ誤解しているな・・・大方の所。俺がコイツ殺して、真横の墓に埋めるとか考えてンじゃねぇーかコイツ。とほぼクロウは、セシルの思っている事を的確に理解していた。空の彼方までぶっ飛んだセシルの思考が理解できるほど、彼は懐がデカイのか、それともただのセシル馬鹿なのか。

溜息を吐いて、座り込んだセシルが立ち上がるよう、クロウは手を差し出した。

「ほら、宿に戻るぞ。安心しとけ、殺して真横の墓場には埋めねーから。」

暗闇の中で白い手を見つめ、セシルは不思議そうに首を傾げる。瞼に涙が溢れ出ているせいか、熱くて視界がぼんやりする。そして同じく、頭も泣きすぎた所為か、どこか痛い。

「うぇ?殺さない・・・?」

「殺さん。殺さん。」

「真横のお墓に入れて、一石二鳥、お得感は?」

ぼんやりとした眼でそう言われて、クロウはセシルの目線まで屈んで手を振る。

「ない。ない。つーか、セシル、オマエ・・・そこまで思ってたのかよ。」

一石二鳥、お得感って何だよ?!市場の安売り販売じゃあるまいし。クロウは半ばセシルの思考に呆れ、またもや溜め息が出た。これ以上は、埒が明かないと思い、クロウはセシルを、無理やり立たせようとして服越しに右腕を掴む。すると今度は、セシルがキッとクロウを睨みすごみつつ、至極強い口調でクロウに問いかけた。

「どうして・・・副船長さんは、僕を殺したい・・・よね?」

硝子の淡い緑がクロウを捉えた。水膜が張って尚、透明度を増し瞳は、何者の本性を映す水面に視える。クロウはその本質を映す瞳に、言葉が詰まった。ここで是と白状すれば、何もかも満たされるだろうが・・・望む事願う事は別にある。かといって、否とも言えない己が居た、クロウは押し黙って固まってしまった。

「どうして!早く殺せばいいでしょ!!苦しいなら、殺せばいいじゃないか!!殺せよ!!殺せ!」

普段では聞くことも難しい、大きな声と金切声。その沈黙にじれったくなったのか、クロウに腕を掴まれたセシルは、ぶんぶんと腕を振り回し滅茶苦茶に暴れ始めた。

「ちょ、ちょとまて、落ち着け?!どうした?!!」

普段おとなしい物静かなセシルでは、考えられない暴れように、クロウは眉を寄せた。いつになく、情緒が不安定な様子だ。

「うるさい!うるさい!うるさい!殺せ!・・・殺せばいいだろ!!」

頻りに自暴自棄にでもなったのか、殺せと言って、クロウを叩いて暴れまわる(といっても、力が弱いためクロウは全然痛くはない)セシルの両腕を再度掴んだ。

「ちょ、暴れんな!!げっオマエ、熱あるじゃねーかっ!!!」

するとかなり腕が熱い事に気が付き、もしや・・・と思いセシルの額に手を当てて見れば、かなり熱があった。クロウはロングコートを脱ぎ、嫌々と駄々をこねるセシルにかぶせる。そしてその体に腕を伸ばして抱き上げれば、湯たんぽ並みに熱く、かなりその体重は軽かった。

「帰るぞ。」

一言きっぱりそう言うと、クロウは影法師(シャドウ・ウォーカー)を使い、木々の影に脚を踏み入れる。その腕には、すすり泣く声が木霊する。

「うぅ~・・・ぐずっ・・・ぐずぐずっ・・・太らせて殺して食べる気なんだ・・・」

ぐずぐずと鼻をすすり、泣いて弱弱しく吐く言葉に、クロウはガックリと項垂れる。

「違う。違うぞ。とりあえず、その市場の卸し思考を捨てろよ。俺より怖ェーぞ。その思考回路。」

ポンポンとクロウが、丸まって大人しくなったセシルの背を撫で、闇に溶け込もうとしたその時。

「う~すんぐずっぐず・・・母さん、父さ・・ん・・・」

クロウの耳に、セシルの消え入りそうな本音が、その時微かに聞えたのだった。闇をひた走り、旅館の玄関に辿り着けば、そこには料理長と航海医師が、二人を出迎えていた。



「やっぱりねぇ~今日の夕食時から、セシルちゃんの様子が変だったから・・・もしかしてって、思ってたのよ」

「セシルさんが居ないって、リオン君が大泣きして、副船長の部屋に入ったら貴方も居ないから、さらに大泣きして今、疲れて私達の部屋で眠ったところですよ~」

モーリスにセシルの着替えを手伝ってもらい、セシルはもとの部屋で今、気を失って眠り続けている。この宿に帰った時は、すでにセシルはかなりの高熱を出しており、正直言ってモーリスやミゲルが待機してくれていた事は、かなりクロウにとってありがたかった。

「すまん。迷惑をかけた・・・。」

セシルの眠る隣に敷かれている空の布団を見つめ、クロウは二人に頭を下げた。リオンの火がついたように泣き叫ぶさまが、目に浮かんでくる。

「どうだ。ミゲル。」

セシルに聴診器を当て、喉を探る航海医師は、その低い声に的確に症状を伝えた。

「慣れない環境からくる疲労、それに加えて今日の過激な術使用による体力低下、そこへの菌の感染と言う名の感冒です・・・つまり、只の風邪ですねぇ」

畳の上で正座し直してクロウに、向き直るミゲルはふふっと微笑んだ。

「そうか。」

「おそらく、完治するまで一週間ぐらいですか」

んーと顎を擦り、黒蒼い髪と同じ瞳をクリッとクロウに向ける。

「あぁ。わかった・・・しばらく、予定変更して治るまでここに留まる。」

「その方が良いでしょうね、あとリオン君は、セシルさんと同室にはしない方が良いでしょう、風邪がうつるかもしれないですし」

「そうだな。俺と一緒の部屋に寝泊まりさせるとしよう。」

幼いリオンが一緒に居ては、風邪もうつるし、セシルが気を使い負担になるだろう。クロウは空の布団を畳み、部屋の隅に静かに積み上げた。その襖を開いた隣の居間では、モーリスが桶に濡れタオルを絞り、セシルの額にそれを乗せる。

「ねぇ・・・船長、アタシ思うだけどねぇ、セシルちゃんを一度、里帰りさせた方が良いんじゃないかしら」

セシルの傍まで来て座り、乱れていた襟元を直しながら、モーリスが気使わしげにクロウをみる。

「・・・それは。」

そのモーリスの諭すような言葉に、クロウの言葉が詰まった。そのクロウの横で、すっと静かにミゲルの手が上がる。

「あ、それ、私も同感です。副船長、セシルさんは出稼ぎに出ていて、里帰りの途中で、この船に乗る事になったんです、残してきた家族に会いたいと思って当然ですよ」

観察眼に長け、尚且つ相手の心情を理解できる、ミゲルやモーリスの意見は尤もな事だった。クロウにとっても、先ほどセシルから決定打と、思われる本音を聞いたところだ。

「セシルちゃんの場合、アタシ達の事を悪く思ってないだけど、たぶん、あの子、長男で男手が自分一人だし、余計家族の事が心配なんじゃぁない?」

セシルと一緒に居る事が多い、モーリスは日常的に、それとなくセシルの事情を聴いている。それが故に一番の理解者ではあるし、セシルの性格もだいたいは分かるので、自分たちの事は憎くはないのだろうが、やはり家族が一番セシルの中で大切なのである事も理解していた。

「それにセシルさんには、ユージン船長の事情とは全くもって無関係ですしねぇ・・・ふふふっ」

ミゲルも何かと言って、セシルと話をしている為か、モーリスの発言に黒い含み笑いを浮かべ賛成の意を述べる。クロウから思うに、この自分たちの事情を知るミゲルは、バルナバスと同じく、セシルの事にはやたら過保護なる。この人間に関心を持たない、このやぶ医者の、心境の変化にクロウは少し意外に思った。そんなクロウの複雑な顔を見てとって、料理長と航海医師は、苦笑いを浮かべる。

「セシルちゃんの事だし、ねぇ・・・先生」

「そうですよねぇ・・セシルさんの事ですし」

お互い含む笑顔を見合わせて、クロウをじーっと見ている。クロウとしては大変、居心地が悪い事この上ない。

「何が言いたいんだ。オマエ等。」

クロウはぎっと睨み、眉を寄せ、腕を組む。

「セシルちゃんが里帰りしたら、もう会えないって事はねぇ・・・」

はぁっと息を吐いて、頬に手を当てながらモーリス。

「えぇ、さすがに無いような・・・っていうか、副船長それが恐いんですよね?」

肩を大げさに竦ませ、黒い笑みを浮かべるミゲル。

「・・・・・・・・・・。」

二人の指摘に完全に不機嫌な顔をして、クロウは押し黙った。・・・図星である。

(図星だわ・・・)

(図星ですねぇ・・・)

押し黙って微動だにしない副船長を、観察しながら料理長と航海医師は、寄り添いヒソヒソと『奥さん観ましたぁ~?』『えぇ~・・・図星よねぇ』とご近所の奥様会議(別名:井戸端会議)を開きだした。そんな二人の背後から、

「デモねークロウ、一旦、お家に帰してあげないト、セシルのココロが、死ンジャウと思うノ~♪」

クロウにとってさらに厄介な幼馴染の声が、奥様会議に加わった。

居間の机の下から、いつから居たのか、鬼のお面を付けた楽士が、にゅっと顔だけ出してこちらを観ている。声は可愛らしいが、その光景は軽くホラーだ。

「げ。お節介がきやがった・・・。」

よっこいしょ~♪とワザとらしく、机から這い出してきたペルソナに、クロウの眉間の皺は先ほどの二倍に増えた。

「あら、ペルソナちゃんいつからいたの?!」

「ツイさっき~♪」

驚くモーリスに、ペルソナはエへへと笑う。

そしておまけにコテンと首を傾けつつ、キツネ人形を掲げ、浴衣の裾をパンパンと払った。

「まぁ・・・と言う訳で、副船長、分かってますよねぇ・・・」

思わぬ仮面の楽士の登場に、ミゲルは虚を突かれたが、ごほんっと、咳払いをもってクロウに、ギラギラとした蒼い視線を向ける。

三人の強い視線、それに加え幼馴染の鬼の面が、クロウに突き刺さり、かなり精神的に痛い。里帰りはもとより、クロウはセシルときちんと話を付けてから、ガンダルシアに向かうつもりだったのだが、如何せん会話が出来ていないのが現状で・・・。ここまでずるずる来てしまったのだ、セシルを追い詰めたのには、責任があるのも重々承知している。

「はぁ―――――・・・分かっている。次の進路はガンダルシアだ。」

重い溜息を吐いてクロウは、ガンダルシアにセシルを里帰りさせることを決意した。


「まぁ、まぁ、船長気を取り直して、セシルちゃんの親御さんに、挨拶してきたらいいじゃないのぉ~」

モーリスが、エライ、エライよく言ったわ~と、クロウの肩を軽く叩きながら、なんとか前向きに話を進める。

「そうですよ、いい機会じゃないですか」

そのモーリスの発言に、ぽんと手を撃ったミゲルも、飄々と備え付けのお茶を入れ始めた。

「ワタシは、ガンダルシアのお土産がカエテ楽しミ~ダシ?」

続けてペルソナは、備え付けの茶菓子、『温泉せんべい』を頬張り、差し出された茶に手を伸ばしている。クロウの事など、気にかける素振りは微塵も無い。

「おい。最後。土産物かよ。ペルソナこの野郎。」

完全に居間で寛ぎモードに入った幼馴染に、クロウはさらに眉間の皺を寄せた。これで眉間の皺は、ミゲルが密かに数えると五本になった。老いてこの皺は絶対残りそうだと、ミゲルは少しこの副船長が心配になったのだった。



セシルを寝かせている部屋を襖で区切り、安静に寝かせて隣の居間では、航海医師と仮面の楽士が何故か居座り、副船長が一晩看病をする事になった。

「ミゲちゃんハ、大陸戦争の時ノ、クロウとセシルを知ってるノネ」

早朝のまだ日の出ない闇の朝。蝋燭の灯りが揺らぐ居間には、面をずらしお茶を啜るペルソナが、正面に座るミゲルを見据え口火を切った。その二人の間に、クロウも胡坐をかいて座り、静かに茶を啜る。あまり自分から話を切り出す事はない幼馴染に、ミゲルの事をいつ知ったのか・・・クロウは意味深にペルソナへ視線を向けた。

「ペルソナさんもですか?私はこの副船長の事は良く知っていましたけど、セシルさんの事は、あの最後の戦争の時、観ているだけでしたからね・・・直接会って話した事はないんですよ」

ペルソナの話に、少しだけ眼を丸め、ミゲルは意外そうに本当のことを話した。

本当に、あの頃の自分は、“あの頃のセシル”をあまり知らない。直接会えど、それはもう息絶えた後だったからだ。直接言葉を交わした事も、ミゲルには無いのである。

「へーソウなんだー」

ミゲルの言葉に嘘が無いと、常に相手の心の声を聞き入れている魔術師ペルソナは、のほほんと、それを聞いて合打ちを打った。普段とは変わらない楽士の、物言いにクスリと微笑んで、ミゲルはクロウの方を見る。あの大戦争の逸話に残る人物は、今も変わらず不機嫌そうに顔を顰めていた。

「もうこの眼の前の人に、殺されてましたしね」

「うるせぇ。ほっとけ。」

肩をすくめそう言えば、クロウはミゲルを睨んでそっぽを向いてしまった。ふて腐れた副船長の姿に苦笑いを浮かべれば、正面に座るペルソナが物言いたげにミゲルを見つめる。

「ペルソナさんは、違うのですか」

その様子を察してミゲルが、ペルソナに問いかければ、コテンと首を傾ける。何か思う事があるらしい、普段物静かな楽士にとって、今夜はおしゃべりだった。

「うーん、ワタシハ、最近思い出したのだけど。セシルと会った記憶はネ、別の時代デ、クロウと私で二人旅してた頃カナー・・・デモ、セシルは憶えてないかも」

考える様に口元に手を置いて、ペルソナはそう話すと、クロウがそれに横槍を入れる。

「二人旅と言うより。オマエのお蔭で、国外追放されたんじゃねーか。コノヤロウ。」

「アハハ~そうだったネ~♪」

クロウのツッコミに、悪友と言う名のドス黒い笑い声で、さらりとかわす。この幼馴染二人は、ミゲルの知らない所で、何かと因縁があるようだった。

「どういう風に、セシルさんに会ったんです?」

話の本題を戻す様に、ミゲルがそう尋ねれば、仮面の楽士は声のトーンを少し落として、ミゲルに話し始めた。

「私もクロウも、その時ハ、直接会話した事もナイ、通りすがりに見つけたノ。アレはとても衝撃的な出会いダッタかな・・・」

「・・・仮面(ペルソナ)。オマエ。」

クロウも、ペルソナが話そうとしている内容が、理解しているのか、顔をさらに顰めてきつく幼馴染を見咎めた。クロウの顔はかなり凶悪な顔で、ペルソナを睨んでいるが、どこか痛切な表情もあり、ミゲルはどういう話なのかと、表情が曇った。

「言っておいた方が、イイコトモあるよ、クロウ。ミゲちゃんは、特ニクロウと似てるでしょ?だから早いうちに、釘をウッテ置かないとイケナイよ」

しかし仮面の楽士は、そんなクロウの制止や睨みも、まったくお構いなしに、クロウに強くそう言い主張する。ペルソナのその発言に、居間には重たい沈黙が降りた。

「どういう意味です・・・・それ」

その沈黙にミゲルが、乾いた口で訝しげに口火を開く。ゆらゆら、揺れる灯りが三人を照らし、影と光の境界がはっきり浮き彫りにされる。

「ウーン、あの子の眼ハ、本質を浮き彫りにスルカラ、時としてそれは、あの子自身の命さえ奪われてしまう事も少なくナイノネ・・・、あの子に悪気は無いのだけれど。ソレガ現実。ワタシハ、丁度その瞬間をミタ。」

静かに、ぽつぽつ話すペルソナは、ミゲルの眼を捉えて離さない。

「・・・・・・。」

ミゲルはその話に、耳を傾け聞き入った。そんなミゲルの横で、深く溜息を吐きながら、クロウも当時の事を語り出した。

「寒い冬の日だ。コイツと雪が積もる町に入って、宿を探していた時の事だ。」

それはクロウも憶えている、いくつかの記憶の中の一つ。

ペルソナの旅に付き合わされ、各国の土地へ旅をして巡っていた時の事。クロウは何時に、この記憶を思い出したのか、それは分からないが、あの記憶はこの仮面の幼馴染の中で、衝撃的な記憶として、残っている事は確かだと思った。

「アノトキ、あの子は丁度今のリオン君ぐらいカナ、その年齢で孤児ダッタみたい。建物の路地で蹲って空をミテイタノ、そしたら酔っ払いが来て、眼が合っタ。ワタシハ、その時アマリノ突然の出来事で動けなかっタ。だってね、眼が合っただけで酔っ払ってた男のヒトは、半狂乱ニワメイテ、・・・・・・あの子は首をわし掴みサレテ、蹴られて寒い川にホウリダサレタノ。」

雪がチラつく寒い、夕暮れの街の片隅。その子供は、狭い路地にボロを纏って座り、空を見上げていた。クロウは遠目に一目見て、その子供が“アイツ”だと分かった。その時である、酒場から出てきた二人組の酔っ払いの男が、その子供に視線を向けた。後は思い出すのも、腸が煮えくり返る思いがする程、酷い光景だった。連れの男が、止めるのも聞かず、男は子供の首を片手で締め上げ、罵声を浴びせた後、蹴り上げ川に落としたのだ。あっという間の出来事に、クロウは即座に助けるべく、川に飛び込み凍える水の中から、引き上げたのだが・・・・・・。

「俺はアイツだと気が付いて、川から助けた。」

「ケド、間に合わなかったノ。死因はあばら骨が折れて、心臓に突き刺ササッテタ。引き上げた時は、まだ息はアッタケド、すぐに死んじゃっタ」

子供は口から血を吐き、虚ろな瞳を空に向けたまま、クロウとペルソナの目の前で息絶えた。リオン程の年齢で、大人の力で蹴り上げられれば、骨も折れるだろう。どこにでも戦争が絶えない、貧富の差が激しい世の中で、孤児が無残な最期を遂げるのは、珍しくもない。それでも二人の心には、その何とも言えぬ虚しさが残った。

「酔っ払いは。俺が殺した。」

静かにクロウは、ミゲルにそう言い放った。酔っ払いの男は、気が触れてもうおかしくなっていたのは事実だった。その男はクロウ達に襲いかかり、クロウが止めを刺した。

「・・・・・・そうですか、そんな事が」

仮面の楽士の話を聞き、ミゲルはその蒼い瞳を伏せた。

「ミゲちゃん、ミゲちゃんハ、セシルと一緒に居る時、気を付けてホシイノ・・・クロウはあの子と色んな想い出ガあるから、ダイジョウブだけど。ミゲちゃんハ、違うから。ワタシハ、今回セシルにハ、普通のヒトの人生を生きて欲しいナと思ってるノネ」

そんなミゲルを見つめて、ペルソナは真摯にミゲルの心に語りかけた。長い両手を合わせ、ペルソナはコテンと首を傾ける。お願いねのポーズだ。

「苦もあり。楽もあり。笑いあり。怒りあり。とな・・・。」

そのペルソナの言葉に、クロウも淡々と付け加える。ミゲルは二人の黒を見つめ、ふっと息を漏らした。ミゲルはセシルの事に対しては、もう自分なりに決着をつけていた。

あの怪談肝試しの、セシルの言葉を聞いたその時から。

人間(・・)こそ(・・)が(・)一番(・・)恐ろしい(・・・・)ですよ』

その言葉を言える相手は、一体何を視て来たのか・・・ミゲルはセシルに少しだけ亡き妹の影を視た。そんな相手に、どうしてその狂気をぶつける事が出来よう、否出来ない。

「えぇ、私はもう大丈夫ですよ、この前、この黒いお人に、説教された所ですから、肝に銘じています」

にっこり微笑みミゲルは、そうきっぱり言い切った。

「ワーイ、よかっター♪」

そのミゲルの心の声を笑みに、ペルソナはほっと安心して、心の底から喜んだのだった。

クロウももう、いつも通りに無表情に茶を啜っていた。

そこへ襖の向こうから、セシルのくぐもった声が居間に響いた。

「う~ん、卵の中から、小さなおっさんがぁ・・・こっち来ないでぇ・・・」

一瞬会話を聞かれたかと、三人とも焦ったが、どうやら違ったらしい。背後に面する襖をそっと開けたクロウは、セシルを覗き込んだ。

「・・・・・・卵の中からおっさん?寝言なの・・・か。」

顔を顰めクロウは、セシルの額から落ちた、濡れタオルを再び乗せる。何とも奇天烈な夢を見ているようで、その内容が大変気になるところである。

「ふふ、セシルさんは面白いお人ですよねぇ、和みますよ、本当に。」

「和むよネ~♪」

お茶と煎餅をそれぞれ楽しんで、のほほんとミゲルとペルソナは和んで、そう二人は頷いて話している。クロウは、そんな二人を睨んだ。

「つーか。オマエ等。イツ部屋、戻るンだよ。」

セシルが寝ている真横、桶の中、変えの濡れタオルを握り、クロウがそう言えば、

「いつか戻りますよ」

「ソウそう♪」

病人の居間で呑気に茶を啜り、『まだまだ居座るよ!二人きりに、なんかさせないからな!!』と筆で書かれたスケッチブックを、無言で二人に掲げ上げられた。

此処の旅館に来てから、クロウは己が周囲にどういう目で見られているか、よーく、よーく理解できた事柄だった。


日が柔らかく差し込む窓には、木組みの格子に紙が貼ってある。そこから届く日差しにセシルはぼんやりと何も考えずただ見つめる。ただ体が重く、喉がひり付いて変な感じだった、全身が汗ばんでどこか熱く苦しい、そんな事を緩慢に意識し始めた頃、節々に鈍痛が襲ってきた。セシルは何処なのだろうか、思考が回らない脳内に、首だけでも動かせば、濡れたタオルが掛けられた桶が、敷布団の真横に置いてあった。

水を含んだ濡れたタオルを見ると、冷たくて気持ち良さそう・・・セシルは朦朧とした意識の中、未だ布団の中にある、鈍痛がする腕をゆるゆる動かして、桶の方へ手を伸ばす。

しかし、セシルが手を伸ばすも、桶の濡れたタオルには、あとちょっとと言う所で、手が届かない。ならば起きようとするも、セシルは身を捩り、頭を持ち上げようとすれば、ぐらり、ぐらり、眩暈がして視界に広がる畳の部屋が、反転して気分が悪くなった。仕方なくセシルは、そのままぐったりとその身をその場に落とす。一つの行動を、起すたびに体から汗出て、熱いと感じる。もうちょっとで、冷たい物に触れられるのに、悔しいなぁ、とセシルは恨めしげに身を伏せて桶を見つめる。まるで子供に頃に、いじめっ子達に、取り上げられた大切なウサギの人形を、ぐちゃぐちゃにされた気分だ。いつもあとちょっとで届かない、自分の欲しい物。努力して手に入れれば、壊される自分の欲しかったもの。

「冷たいのが欲しい・・・な」

ポツリとセシルが一人、渇いた口で呟く。そのセシルが誰とにもなく吐いた言葉に、意外にも返事が返ってきた。

「なんだ水が欲しいのか。」

セシルの頭上にその低い声は、セシルの予想外に近くに降って来た。その淡々と抑揚の無い、低い特徴のある声は・・・セシルはその声の主に、恐る恐る頭上を見上げる。

ゴクリと生唾を飲み込んで、見たくもないのに、しっかりと見れば・・・。そこには、居間と寝室を隔てた境目に座り、壁を背にもたれ掛かって本を持った。こちらに目を向ける、黒い浴衣を着こんだ副船長の姿。

「うぉわほぎゃあああああああああああああああああああああああああ!」

その姿を見た瞬間、セシルの恐怖心は一気に浮上し、盛大な枯れた叫び声を上げた。

ついでに、昨日の事も精神的衝撃によって、全部丸ごと、思い出してしまったセシルだった。当の叫び声を上げられたクロウは、耳を塞いでセシルを驚愕の眼差しで見ている。

クロウにしてみれば、そこまで悲鳴を上げられるとは、かなり痛切な心の傷である。しかも、クロウが耳を塞いで、精神ダメージを受けている間にも、セシルはガバッと起き上り、渾身の力を振り絞って、障子窓を開け放ち脱走を図ろうとしていた。

「うわぁあああああああ!!!太らせて、スープにして食べられるぅ――――――――!!いやぁあああああああ!!」

「待て待てマテぇええ――――――――っそんなことするかぁあ―――っつ!!」

高熱に浮かされて、涙もボロボロでているセシル。そんなセシルは、昨日の副船長のやり取りを思い出して、必死に逃走しようと無い力を全力投球で、窓枠に脚を駆け、腕も窓を掴んで、ぐぎぎぎぎぎ・・・と歯を食いしばって叫んでいる。クロウはその素早い行動力に、神業級の確率で、なんとか抑え込んで、セシルの逃走を必死に阻止しにかかった。

「じゃぁ!生肉燻製でおいしく頂かれるんだぁ!!そんなのヤダァ・・!!まだ死にたくないよぅ!!!!」

セシルにしてみれば、昨日は逃走を副船長に見つかった訳で、あれだけ失礼な事を最後に言ったのだから、証拠隠滅のため自分が食べられるという、答えが導き出されていた。クロウにしてみれば、大変な誤解である。しかし、凄く真面目にそう考えており、セシルは必至だったのだ、このままでは殺されて食べられる!そうなれば助かる方法は、もう逃げるしかないと。

「だから殺しもしないってぇ~~~聴けよ!!だぁああああ!!!なんでオマエは、逃げ足だけそんな素早いんだよ!!!いっそ、感心するわッ!!!!」

クロウはそう叫んで、セシルの浴衣の帯と腕をひしと掴んで、なんとか耐える。

「いやァあああああああああああああ!!食べられるのイヤ!イヤ!イヤ!おっかさ―――――んッ!!いやァ―――――――――――!!!!」

それにセシルは負け時と、ひっきりなしに叫んで、外へ出ようと窓枠で踏ん張った。高熱で唸っていた体だが、それにしても、かなり根性がある。

「ちょ!落ち着けぇっ!オマエ高熱あるんだぞ!!あああコラ!暴れんな!!!!」

「じっくり煮込まれるのも、カルパッチョになるのも、焼き肉になるのも、嫌ァアア――!!」

「だーかぁーらぁー!!そんなコトするかぁああああああああ!!!!」

お互いがお互い、窓を境に反対に引っ張り合い、かなり噛み合わない、言葉の応酬が飛び交っている。赤の他人から見れば、かなり朝から凄い光景であった。

朝からはた迷惑な二人の叫び声に、運悪くも庭を隔てた真正面の部屋に泊まっていた、観光客の新婚夫婦は、その光景に二人で溜息を吐いていた。

「・・・海賊の船長、じゃない副船長っていうのも、大変そうですね」

「ええ、ニコラス・・・ホントにそうよねぇ」

ポリポリと頬を掻いて、セシルとクロウを観察し、ニコラス将校は苦笑いを零す。その妻、アリッサも同じように二人を見ていた。一体何時になったら、この騒動は収まるのやら・・・。

若い夫婦は穏やかに、今日セシルへお見舞いの品をどれにしようかと、朝日を眺めながら話し合っていた。

そんな向いの新婚夫婦に気が付きもしない二人は、とうとうセシルの熱による力負けから、ずるりと窓枠から滑って、そのままバタンと後ろへ見事陥落してしまった。

「うぉわぁあ―――――――――――――――ぁ?」

「うぎゃぁあ―――――――――――――――っ」

ドスン!バダン!!派手な音を発て、悲鳴や叫び声を上げる。そんな朝の珍事をニコラスは窓から消えて行ったクロウとセシルをのんびりと眺めていた。

本当にあの魔物を倒した者達だとは、露ほどにも思えない・・・。

ニコラスは、金の猫に似た眼を細め、昨日のブッラクパール海賊団の仲間を思い出す。マライト国の陸軍将校という位に着いた、四年前・・・ジェーダイト国との休戦協定により、ジェーダイト国王が直にマライト国王の下へ訪れた際、その頃クロウは海軍大佐としてマライトを訪れていた。ニコラスも当然、王宮に部隊を率いて警護に当たっていて、相手国の宰相、軍人の動向に目を光らせていたのだ。敵国であるジェーダイトの者が、自国の王室に不穏な行動をとる可能性は高いと、ニコラスも他の者達もそう思っていた。が、それはそのマライト国側の杞憂だった。


休戦条約が結ばれる朝方、ジェーダイト国王は、観光じゃ!お土産買うんじゃ!と親衛隊大将と王宮から逃げ出したからである。

マライト、ジェーダイト両国の臣下の者を置いて。

ジェーダイトの臣下の者は、自国の国王を捕まえるのに必死になり、マライト国の者は、その有様を見ていっそ憐れ、これでは不穏の動きも出来やしないと思ったのだ。なんせ宰相の魔術師リーストが、マライト国王に泣いて詫びて、許しを乞うていたからだった。そんな事態に逸早く、国王と親衛隊大将の首根っこを摑まえ、マライト国の国王に、二人を連れて来たのが、あの海軍大佐のクロウだった。


ニコラスも当初、相手国の国王と臣下を捜索すると言う、特殊な命令が下されたので、それに携わっていたのだが、無事に身柄を拘束できたと、連絡が入り謁見の間に参じるよう声が掛けられた。ニコラスが急いで参内すれば、海軍大佐のクロウは、かなり魔物の様に恐ろしい形相をして、自国の国王と親衛隊大将の二人を縄で縛り付けて謁見の間に入って来たのだ。ニコラスも他のマライト臣下もこれには唖然としてしまった。親衛隊大将は別として、国王を縛り引きずって敵国の王者に、合わせるとは・・・重臣でもしないであろう。たかだか、海軍大佐である者が、国王を縛りつけて引きずるとは、一体ジェーダイト国はどうなっているのか・・・。ニコラスは当時、口をポカンと開けて、見守り傍観するにすぎなかったが、クロウの印象はかなり強かった。なんせこの後、彼は自国の国王と親衛隊大将に、反省しろ!と一括し、ゲンコツをそれぞれ喰らわせたからである。

ニコラスもこの光景に、国王と臣下と立場とはなんだろうか、と少し考えてしまった。マライト国王も、クロウの怒りの形相、相手国の国王が子供の様にしょぼくれる様、宰相が嘆きに泣いて謝罪の言葉を尽くす有様に、思わず情けの心をかけてしまい。この失礼極まりない一件は嵐の如く過ぎ、無事に休戦協定は終わった。

なので、ニコラス達、マライト国ではクロウの印象は強く、(ジェーダイト国王とその重臣達もしかり)また過去戦に関しても彼の功績は、マライトの脅威でもある為、下手な事をすれば殺されると、自然と脳に刷り込まれる程、恐ろしい存在だと知られる有名人だ。そんな彼が海賊になったと知らされ、さらに恐怖の対象として、マライトではその存在を高めて行った。


しかしニコラスから見れば、クロウは他の海賊より善良だと見える。なぜならマライト国はもちろん、他の国の情報も従事していれば分かる事なのだが、一度も港町を襲ったなどと言う事件はないからだ。町を襲い、人を攫い、食料を強奪するのが、一般的な、ならず者集団それが海賊だ。たしかにブラックパール海賊団は、商船や海軍船、海賊船を襲い、その名声を保持しているが・・・陸での争いは避けている節がある。しかも自国アルバの港町の町民には、銭の羽振りが良い、一般市民には危害を加えられた事がなく、町のゴロツキをやっつけた陽気な集団として英雄視されている。ニコラスは昨日の魔物襲撃の一件にしても、クロウは町の者達に避難を促していた事を直に見聞きしている。偶然に居合わせただけのニコラスだが、彼も含め部下の金髪碧眼の男や、仮面の魔術師、少年の魔術師は、町の人々を救い魔物を倒す為、最前線で戦っていたのである。マライトの驚異と言わしめる、賊と言われる彼らだが、国と民草の見解はかなり違う。ニコラスにとって、クロウとその仲間の印象は、実にちぐはぐ過ぎた。

国に帰れば敵同士、だがニコラスはそんな彼らの実態を、自分の眼で見極めたいと思った。

まぁ、あんな魔物と渡り合える猛者達が、本当に自国の脅威になるか否かを、見極める為でもあるのだが・・・。目の前で繰り広げられている、副船長と少年の珍騒動を見ていると、ただ単に面白いもの見たさの方が、ニコラスの心には勝ってくる訳で。

「本当に面白い人たちだなー・・・」

ニコラスは溜息交じりに、朝日を仰いでそう呟いた。その隣では、妻のアリッサが、お見舞いなら、果物の詰め合わせよね~と、のどかにお礼の文をしたためていた。

お昼前にお見舞いとして、普通に彼らと話をしてみよう、ニコラスはアリッサに微笑みを向けて大きく伸びをしたのだった。


窓から消えた、クロウとセシルはと言うと・・・。

盛大な叫び声を上げて、二人は体勢を崩し派手に敷布団へ転げ落ちていた。

運悪くクロウの脇をすり抜けて、滑り落ちてしまったセシルは、そのまま強かに後頭部を強打。副船長クロウは、なんとか頭部衝突を避けようと、セシルの腕を取って抱き込み庇おうとしたのだが、そのままこちらも運悪く足を滑らせ、セシル共に額を布団に打ち付けてしまった。双方、後頭部、前頭部にそれぞれダメージを受け、傍から観れば大変まぬけな図が、出来上がっていたであろう。

「いたたた・・・」

セシルが目を開けると、視界がぐらぐらと揺らぎ、板目の天井が歪んで見えて気持ち悪い。しかも眼の前が、チカチカとしているので、自分がどういう状態なのか今一つ分からない。

「イッテ・・・」

そんなセシルの真横で、くぐもった声が上がる。痛む頭を動かして、視線を向けると艶のある長く癖のない黒髪が見えた。セシルがぎょっとして、目を見開くと、どうやら同時に、布団に恐怖の副船長を、セシルは道ずれにしてしまった事を確認する。セシルの首には相手の腕がホールドされている、下手をすればこのまま首を絞められて、殺されるかもしれない・・・とセシルは恐怖に身を縮こませた。そうこうセシルが、恐怖の思考回路に陥っている間に、クロウは額の痛みをこらえながら、片手でゆっくり上体だけ、起き上がる事に成功する。

「オマエ・・・なんで熱出てンのに、そんな行動力あるんだよ。いっそ賞賛ものだぞ。」

眼を細め自分の下で、涙目のセシルを見れば、先ほどの騒動のお蔭で、また熱が上がったのだろう、首の辺りがかなり赤くなっている。

「うぅ・・・」

一方、セシルと言えば、そんな事をクロウに言われ、唸ってクロウを見上げる事しかできない。恐怖心により混乱状態、朦朧としてきた頭の中で、『殺される!!』とテロップが上がっていた。殺されては家に帰れないと、セシルは息も絶え絶え、クロウの胸を熱で震える腕で根性にて押し返した。

「あー、熱がかなり上がってんだ。大人しく寝てろ。いま水持ってくるから。」

「う~!!」

クロウがそう言って、セシルの腕を取り寝かしつけようとすれば、クロウの気持ちとは反対に、セシルは無理やり起き上ろうとする。クロウは眼を向いて、慌ててセシルを押さえつけた。

「コラ!大人しく寝てろっ!熱四十度超えてンだぞ!!」

声を荒げてセシルを抑えれば、当のセシルはこのままでは本当に家に帰れない!!と、滅茶苦茶に暴れ出した。

「大丈夫だもんっいや!嫌い!嫌い!嫌い!僕は行くところがるんだもん!!」

「馬鹿!死ぬ気か!!」

バタバタと脚をバタつかせ、クロウの髪を引っ張ったり、蹴ったり、とにかくあらん限りの力を振り絞って、セシルは暴れるに暴れた。セシルは気が付いていないが、言葉使いが熱によるものなのか、どことなく退行している事にクロウは気が付いた。これでは、リオンと何ら変わらない、子供の駄々である。とにかくこのまま暴れれば、熱もさらに上がる、クロウはそう思い、セシルを無理にでも寝かしつける様にすれば、

「大丈夫ったら、大丈夫です!大丈夫なんだから!!!今までだって、そうやって生きて来たんだからっ」

火が付くように、そう叫んでセシルがクロウを睨み付けた。

クロウはこの言葉に、頭の中が急激に冷える。

「オマエ・・・・・・」

ギリッと腕を握る力を、強めてセシルの瞳を覗き込む。

「離してよ!いやっ!!」

腕を敷布団に縫い止められ、さらにセシルは恐怖心を煽られる。逃げられない、殺されると、すでに脳内にはその言葉しか出てこない。そんなセシルの眼と鼻の先では、クロウの無表情な顔が迫っていた。

「限界はそこなのか・・・」

低い、少し怒りを含んだ声音が、セシルに落とされる。

「うぇ?」

まったくもって、言われている意味が理解できない。セシルは一瞬きょとんとなり、少し首を捻る。そんなセシルを、冷たい視線で見降ろすクロウは、少し溜息を吐くともう一度言い直した。

「セシル。オマエの限界はそこなのか。」

「・・・・・・どういう、こと。」

無意識に震える声で、セシルがそう言葉を絞り出せば。クロウは、きゅっと眉を寄せる。

クロウはこの時想った、眼に映るこの存在は、本当に哀れだ・・・と。無自覚に、己さえ真直ぐ愛せないのかと。

「死ぬまで大丈夫だと言うつもりか。」

突き刺すような黒い視線に、至近距離で見つめられ、セシルは逃げられない恐怖を知る。まるで死刑宣告を言い渡された様な、断罪された者の気分だ。

だってしょうがないじゃないか、そんな事言っても、どうにもならない。どんなに理不尽な事でも、悲しい事でも、痛い事、嫌な事も、どうにもならない。

重たい沈黙が、部屋に充満する。

「・・・それは」

心の奥の本音が、喉に詰まったセシルが言いよどむ。クロウの言葉の意味に、セシルは自分の暗い思考がせり上がって来て、落ち入りそうなった。自分が傍に居れば、魔物を呼ぶ、自分の意志に拘らず。それは時として、周りの人を巻き込んで、傷つける事もある。

こんな自分を産んだ、母親は自分を責めなかった。父親を殺したかもしれないのに・・・。


そんな折、セシルとクロウの真横から、場違いな可愛らしい声が響いた。


「ぺるそなぁ~~~~~~キック――――――――――!!!!」


突然の綺麗に胴に嵌った、ダークスーツの長い脚に、吹っ飛ばされるクロウ。吹き飛ばされた速さは、音速を超えて壁にブチあたり、クロウが壁にめり込んでいる。

「うぇええええ!!」

その衝撃映像な現場を眼前にしたセシルは、当然の如く眼を見開いて叫んだ。一言で言うなれば、『心臓に悪い』これに限る。

「ふぅ・・・。危なかったネ~」

ワザとらしく、汗を拭いながら、しゅたっ!と般若の面を被ったペルソナが、畳の上に片膝をつき格好よく降り立った。セシルが飛び起き、呆然とする頭上では拍手の音がする。

「ナイスキックですよ~ペルソナさん~」

パチパチと拍手を送る先を見れば、ミゲルが居間に立っていた。しかし、そのミゲルは笑顔なはずなのに、雰囲気が何処かどす黒く感じるのは、セシルの気のせいだろうか。

(えぇえええ――――――――?!!副船長さんが壁にめり込んでますけど?一応、この人達の上司じゃないの?)

セシルはミゲルに助け起こされつつ、青褪めながら内心叫んだ。あの恐ろしい存在を、躊躇もなく蹴飛ばし、壁にめり込ませられるなんて、さすが幼馴染である。それにしても、宿の壁の弁償は、誰がするのか・・・。

「セシルさん?!」

ミゲルが突然声を上げる。

セシルがそんな事を思っていれば、セシルの目の前がぐらりと傾き、暗闇に堕ちたのだった。



再び高熱により倒れてしまったセシルを、超不機嫌な副船長とペルソナ、ミゲルの三人は床を整えて安静に寝かせた。ミゲルがよく見れば、障子窓が開け放たれており、それを静かに閉める。

仮面の幼馴染が、居間で事情聴取を真剣にし、話を聞けばセシルがまた脱走をしようとした所、クロウが止めに入ったのだ、不機嫌に腹を押さえクロウがそうペルソナに、包み隠さず語る。その副船長の言葉に、てっきり無理やり病人のセシルに、クロウが迫ったのだと思っていた、二人は安心して胸を撫で下ろした。クロウとしては、勘違いされ失礼な話だった。そのためか副船長は話終えて早々、居間の机に突っ伏してふて腐れる。


しかし、ミゲルやペルソナとしては、勘違いしてもそれは仕方が無かったと、二人は二人で不機嫌に思っていた。なんせミゲルとペルソナが、セシルの着替えの浴衣を貰い、バルナバスにしばらく滞在の意を伝え、自分達ももうそろそろ、着替えを置いたら一旦自分の部屋に戻ろうと話していた。そんな時、部屋に戻ればセシルの叫び声が聞こえ、慌てて踏み入れば、クロウがセシルを組み敷いている状態が目に入った訳で・・・。布団は乱れているわ、セシルの浴衣ははだけているし、セシル本人は涙目。

一瞥して二人が、無理やり迫ったと思っても仕方がない。

ペルソナは日頃からクロウがセシル相手に、並み以上の執着を持っているのを、知っているし理解もしている。だが、ペルソナだってセシルの事を、友達として好きだし大切な存在だと想っている。なので、いくらクロウが好きだろうと、セシルを悲しませるような事をすれば、見過ごす事はできない。そんな事が起きれば断固阻止、ちょっとぐらいクロウが怪我をしても、良いぐらいの心持ちを持っている。もとから、そんな気の遣う間柄でもなく、幼い頃からクロウとは喧嘩三昧の毎日だったのだ。なので、勘違いだった事に関して安心はするが、クロウが大事な友達に熱を上げさせるような止め方に対しても、どちらにしても腹立だしかった。ペルソナはふて腐れて机に突っ伏すクロウに、今度ハどうやって、コイツを苛めてやろうカナー・・・と不穏な考えを巡らせていた。

「しかしまぁ・・・セシルさん、よっぽど副船長の事、苦手なんですねぇ~熱があるのに逃げ出すだなんて」

こぽこぽ・・・熱い緑茶を白磁の急須で、三つの湯呑に入れながら、ミゲルは飄々とセシルの方へ視線を向ける。障子窓が放たれていたのは、セシルがその窓から逃げ出そうとしていたからだと、後で知り素直に納得できてしまった。

「うるせぇ。」

ミゲルの言葉に、クロウは心にかなりダメージを受け、お茶だけ受け取ると、ミゲルにそっぽを向ける。

「まったく、どうやって戦争の折、夫婦になったのやら・・・」

「ソウダヨネ~、セシルはクロウの事、かなーり恐れてるモノね♪サッキモ、嫌いって言われてタシィ~♪」

その様子にミゲルは肩を竦め、ペルソナはここぞとばかりに、クロウへ精神ダメージの言葉を選んで茶化した。その二人の追打ちに、クロウの心はズッタズッタのボロボロである。本来クロウは他の者には心動かされないが、これが身内やリオン、しかも一番と言っていい程、異常な執着があるセシルの事になると、かなり繊細で機微な心の持ち主であった。顔には出さなくとも、仕草や行動に出てしまい、その心の動揺がまるわかりだった。現にクロウはミゲルとペルソナにそっぽを向いて、茶を飲んでいるが、湯呑を持っている腕が微妙に小刻みに揺れている。もっと言えば、無表情だがその黒い瞳には、薄ら水膜が張られているのである。

「うふ♪クロウ泣いてル~・・・」

「ちょっと、笑ったら悪いですよ~」

実にミゲルやペルソナには、分かりやすい動揺っぷりであった。二人はうぷぷぷ・・・と笑いを押し殺して、クロウの背中を見ていた。

「うるせーよ!!オマエ等!聞こえてんだからなっ」

ダン!と机を拳で叩き、涙目でクロウが二人を一喝。

しかし二人には、それがクロウの強がりだと、知っているので効果は皆無だった。そのクロウの言葉に、とうとうミゲルとペルソナは爆笑して畳に蹲ってしまう。だってあのクロウが、あの魔物の化身と言われ、人々から畏れられるクロウが、ブッラクパール海賊副船長のクロウが、ひ弱な少年に嫌いと言われただけで、本気で泣いて参っている!!二人は可笑しくてしようが無かった。ペルソナに至っては、仕返しはうまくいきすぎて、心の底から笑える。今まで生きていた中、クロウにこんな事が無かったので、尚のこと面白い、リオンでさえこんな表情させた事はなかったのだ。クロウの弱み、握ったり・・・幼馴染と航海医師は、共に悪そうな笑みを湛えた。

「お・ま・え・ら~・・・人の傷心がそんなに、おかしいかぁ~あぁ?!」

「ぶ!!ぶアハハハハハハ!!!!」

「駄目ですって、そんなに、笑っちゃ・・・ふふふふふ!」

ガンダルシアの少年セシルは、やはりクロウ対策には、もってこいの存在だと二人は思った。この調子ならクロウは、セシルに無理意地はしないだろう。これでは余計にセシルに元気なってもらい、早くガンダルシアに里帰りさせなければ、これ以上に面白いクロウが、もっと見られるかもしれない。なんせクロウのこんな生きた表情は、滅多にみられないのだ。そんな事を思っていたペルソナとミゲルは、顔を見合わせ立ち上がった。背後からクロウのそろそろキレそうな気配が、居間を漂っている・・・。

その気配を敏速に察し二人は、にこやかに退室したのだった。




爽やかな秋の朝。

せわしなく囀る小鳥の声より、賑やかな声が響くセシルの宿部屋。

仲間達の想いを知らず、セシルは未だに眼を瞑り、自身の心さえも盲目に、暗闇の中眠り続けていた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




父さん、父さん、ねぇ・・・どうして人は魔物を嫌うの?

そうだね・・・どうしてだろうね。たぶん、私達を襲うからだろうね。

どうして、魔物は人を襲うの?

神様に選ばれなかった人が、羨ましくて、憎くてどうしようもなかったんだよ。

え・・・でも僕には、みんな優しいよ?

うん、そうだねぇ・・・父さん、それが困りものなんだけどなぁ。

???でも羨ましいとか、憎いとか、そんな気持ちは、人が好きじゃないと出てこないね。

うーん、セシルは小さいながらに、難しい核心を突くね。

たぶん、好きだったから、許せないの・・・?

セシルの言うとおりかも知れないねぇ、だからセシルはそれを知っているから、“みんな”から好かれるのかな。

わかんない。父さんは“みんな”が嫌い?

ん~そうな事はないけれど、町の人は嫌いだから、あまり人には言っちゃいけないよ。

はーい。

いい子だねぇ、さ、早く寝なさい。母さんが呼んでるぞ


病気に臥していた父のそれが、最期の言葉だった。

ひっそり親族や、町でも懇意にしていた人々だけで葬儀を行い、父は新たな旅に出た。

ただその時、あまり父の事を好く思っていない、母方の親族に言われた事は、衝撃的で、忘れたくても忘れられない。その時僕は、嘘だと思っていたのだけれど、決定的な出来事が出稼ぎに行った場所で、起こってしまった・・・。

酒に酔った宿の客が、僕を娼婦か何かと勘違いして、部屋に連れ込もうとして、揉み合っていれば・・・たくさんの(バー)(ゲスト)が、僕を守ろうと、宿の客に襲いかかった。

宿の客は滅茶苦茶に短剣を振り回して、(バー)(ゲスト)が一匹倒れて、次に錯乱した客は、僕を刺した。倒れた先には、宿の廊下にあったランプが落ちて、ガラスの破片と炎が舞っていた。騒ぎに気が付いた、宿の人々が駆けつけてくれたけれど・・・血に酔った(バー)(ゲスト)が暴れ出して、今度は僕以外の周りの人間が襲われることになった。結局、町の警備兵によって、(バー)(ゲスト)はすべて殺されてしまった。周りの人にも命の危険にさらしてしまった。


『あんな、魔物に好かれる、呪われた子がいるからっ』


父が亡くなったのは、僕が呪われているからで、病魔が家をうろついていたからで。

僕は母と妹から、父さんを奪った。

魔を惹きつける、不吉な人間で。

それでも、母さんと妹を放っておくなんてできなくて。

遠い地で、働いて、働いて、時々家族に会う。

それだけでいい。

母と妹に、贖罪の念。後悔。


ねぇ、父さん。

僕本当は、人も、魔物も、“みんな”好き。

だから・・・だから、

あまり僕は家族以外、接していてはいけないの。

忘れていた・・・此処の人達は、あの真っ黒な“ひと”以外、普通の人で、魔物の事を知ってくれて、僕の話を聞いてくれる、良識のある温かい人たちだったから。


薄い白乳色の優しい、父との夢から覚める。瞼を緩慢に開けると、セシルの目の前には、自分より明るく濃い緑の双眼、太陽に似た前髪が覗き込んでいた。

「あ!起きた☆」

お気楽航海士は、嬉しそうに笑ってセシルを見ている。

・・・・・・太陽かと思った。あと、近いです、近すぎます、ルーヴィッヒさん。セシルは眼をパチパチ、瞬かせそんな感想しか持てなかった。

「お早よう!セシル☆」

「おはよう・・・ございます・・・」

そう言うや否や、ルーヴィッヒは自分の鼻とセシルの鼻を着けて、鼻同士を擦り合わせる。

挨拶なのか、セシルには全く理解不能な行動だが、いつもの様に航海士は、楽しそうに目を輝かせている。

「良く寝てたな~、もうそろそろ起そうかと思っていたんだ☆昼飯!用意してあるから、持ってくるな!」

くるっと身を翻し、ルーヴィッヒは居間の方へ、用意してあった御粥を取りに襖を開けた。その背中をセシルは、ぼんやりと見つめて、現状を理解できずにいた。

「え?僕・・・・・どうして」

ゆるゆると辺りを見回すと、何故か壁が少し崩れていて、枕元には昨日無かった筈の、花瓶に白い花が活けてあった。その白い可憐な花に、思わず見とれ体を起こした。たしか・・・森の墓場まで行って・・・副船長に見つかって・・・えーっとそれから、それから、それから・・・思い出せない。

「うん???どうしてって、セシル、四十度の熱出て、ぶっ倒れたんだろ?センチョーだと、セシルが暴走するからって、今は俺が看病当番な☆」

セシルの言葉を聞いていた、ルーヴィッヒは居間から小鍋とレンゲをお盆に乗せて、寝室へウインクをして入ってきた。案に副船長はいないから安心しろ!と言っているようだ。

「ええ?僕、熱があったの?!」

ルーヴィッヒの言葉に、素っ頓狂な声を上げた。自分が高熱を出していたなんて、気が付かなかったからだ。今初めて説明されて、セシルは自覚した。そういえば、体の節々が痛いし、視界が涙でぼやけている・・・。

「そうだけど?セシル気が付いてなかったのかぁ?!ウケる~☆」

驚いて布団に座り固まるセシルの姿。どうやら、本当に本人自覚なしかぁ~と、破顔するも、ルーヴィッヒは直ぐにそれもセシルらしいなぁ~っと笑顔になった。ミゲルと交代に看病に当たる際、部屋の廊下で副船長クロウが、『アイツ、死ぬまで大丈夫って言うつもりだ。』と、不機嫌に毒吐いていたのを思い出した。ルーヴィッヒから見れば、たぶんクロウはセシルに、本気に怒っている訳でもないんだろう。クロウはセシルの今迄取り巻いていた、人間に対して、腹を立てているのだと、ルーヴィッヒはそう直感で感じていた。

ミゲルがクロウにセシル面会謝絶と、言い渡していた原因を考えて、それもこのことに繋がるのだろうなぁ~、船長って言葉足りないからなぁ~と航海士は、セシルの驚愕に染まった顔を見て、内心苦笑いを浮かべた。

「ささっ☆冷めねー内にどうぞ!」

「あ、どうも・・・」

コトリ、お盆の上で、湯気が沸き立つ鍋蓋を、開けられ、中はおいしそうな玉子色が広がっていた。セシルが、おいしそうな御粥に見惚れていれば、するりと、航海士がレンゲを持つ。

「はい!セシルあ~~~~~~~~ん☆」

湯気が立つ、おいしそうな玉子粥をすくって、航海士が満面の笑みでレンゲを、セシルの口元に向ける。

「いや・・・ルーヴィッヒさん、僕自分で食べれるから」

ふるふると首を振って、遠慮するセシル。

できるなら、それをするならモーリスさんだけにしてほしい。セシルはその航海士の調子(テンション)の高さに、溜息を吐きたくなった。何故だろう、この航海士といると非常に疲れる。だが、やんわりと断るセシルを、明るい瞳をめい一杯、見開いてルーヴィッヒは声を上げる。

「何言ってんだ、セシル自分の腕見て見ろよ~☆熱で震えて持てねーと思うけど?」

金の髪が揺らし航海士が、セシルにそう指摘する。指摘されたセシルは、ルーヴィッヒの言葉に、唖然として自分の両手を確認する。布団に置いていた手を、ゆっくり動し、握ったり開いたりを繰り返せど、腕に力が入らず奇妙に震える。

嘘・・・セシルは自分の両手が信じられなくて、小さくそう言葉を零した。そのセシルの様子を航海士が、困った顔で見守りつつ、レンゲを持つか?とセシルに渡せば、案の定。

「あ・・・。」

試しにレンゲを持たせてもらったが、震えて指先に力が入らなかった。レンゲもカチャンと、お盆の上に落ちる。

「ほら、持てないだろ☆」

「ホントだ・・・。」

愕然とするセシルに、ニヒッ!と笑い。大げさに肩を竦めルーヴィッヒは、セシルをまじまじと見た。航海士はこのセシルの状況に、表情は笑顔で対するも内心、これではクロウが怒るのも分かる気がした。この色素の薄いガンダルシアの青年は、無意識に恐ろしく自身に関して命を軽んじている節がる。セシルの心の事態は、ルーヴィッヒの予想より深刻だった。

「と言う訳でぇ~、ここはお兄さんにまっかせなさーい☆はぁい、あ――ん☆」

動揺するセシルの頭を撫で、なるべくセシルの精神の負担にならない様に、空気を明るくさせる。そして落ちたレンゲを、もう一度手に取って、ルーヴィッヒは御粥をすくった。

「すみません・・・」

セシルは一人で食事もできないと知り、恥ずかしくなった。途端に迷惑を周囲にかけていると知って、申し訳なくて、ここは大人しく航海士に従う事にしたのだった。お腹もぐぅ~と盛大になっているので、さらに恥ずかしい。

「いいって!いいって!遠慮せずに、はい、あーん☆」

申し訳なさそうにしていれば、今度は航海士がセシルの口に、半ば強引にレンゲを宛てる。

お腹もすいていて、いい匂いもすれば、自然に体も栄養を欲していたのだろう、セシルが思うより先に、口が開いて玉子粥を受け入れた。

「よしよし!」

熱いから、ゆっくりな~と、セシルの反応を見て安心したルーヴィッヒは、内心胸を撫で下ろした。食べるのを拒否されるかもしれない・・・と、ミゲルから聞いた早朝の出来事と現在のセシルの状態を見て、ルーヴィッヒは密かにそう思っていたからだ。

本当は仮面の楽士が、精神衛生上セシルの食事に付き添うと言っていたのだが、それをミゲル達に頼み込んで、ルーヴィッヒは今回セシルに付き添う役を譲ってもらったのだ。

他の仲間達は、自分が騒がしい性質だと知っているので、散々大丈夫か、セシルに負担かけるな、などと・・・ルーヴィッヒにとってかなり心外な言葉を投げかけられたが、礼を言いたいと言えば、あっさり副船長であるクロウから許可が下りた。


自分でも騒がしく楽しいのは好きだ。けれどそれにセシルは静かで大人しい性格、またはこの船に生活を強いられているセシルを考えれば、自分に対してやんわり拒絶するかもしれないと、ルーヴィッヒは少し不安だったのだ。しかし、それも杞憂だった、セシルは現在もごもごと、自分を信頼して食事を食べている。雰囲気もルーヴィッヒを、嫌っている風でもなければ、こわばった表情でもない。おずおずと恥ずかしそうに、差し出した玉子粥を咀嚼している。

「セシル・・・ありがとうな。」

半分程、ゆっくり時間をかけて食べた鍋。その鍋に、レンゲを入れて粥をすくう。そしてセシルの口に運んで、ルーヴィッヒは声の調子をいくらか落とし、セシルに礼を述べた。

「何がです?」

セシルは突然零された、感謝の言葉に、首を傾げる。僕は何か礼を述べられる事を、僕はしただろうかと、考えるも思いつかない。セシルはむしろ今、食事に付き合って貰っているは、自分の方なので、礼を言うのは自分の方だと思った。

そんな不思議そうに首を傾げた、セシルに対して航海士は、静かに話し出した。

「うん、俺が魔物に襲われてる時、助けてくれただろ。あと、町にいる皆とか。正直言って、あの睡蓮お化けも、セシルが居なかったら、俺ら全員殺()れられた。」

そこまで言うと、息を呑んでルーヴィッヒは絞り出すように再度口を開いた。

「船長が本気出していたら、船長を・・・・信じてない訳じゃないけど、どっちにしろ魔物と一緒に俺らも()れられた・・・と思う。船長には色々あって、うまく説明できないけど・・・そういう気性があるから」

背筋を伸ばして、グッと両手を握りしめ、ルーヴィッヒは絞り出す様に言葉を紡いだ。

「ルーヴィッヒさん・・・」

思いもよらない航海士の言葉に、セシルは眼を見張った。

普段陽気で、お気楽に構えている航海長ルーヴィッヒの、それはセシルにとって意外な一面だった。セシルはこの航海士は、副船長や周囲の事を、かなり的確に理解し、行動を共にしている事に驚いた。クロウの本質を理解し、行動を共にできるこの航海士は、セシルの眼には、表面上は幼く童の様だが、その実、中身は年齢よりかなり大人の、老成した器に似ていると映ったのだった。

「それに俺は魔物に対して、セシルのおかげで、正しい見解が持てたと思う。今まで魔物はみんな、悪だと思ってたけど、今回の事で違うって理解できた。」

淡い緑の瞳に、己を映したままに、ルーヴィッヒはセシルの手を取った。

「人間の心が、あんなモノを生み出すんだってわかった。セシルの話を聞いていて、知識として理解していたけど、結局、心で理解してなかったんだ。コインの件とか、不死者、泥のお化け、睡蓮のお化けも、人間の心であんなことになったんだ。」

セシルが見つめる、ルーヴィッヒの濃い緑の眼差しは、どこまでも澄んでいる。

「あんなのと、純粋な魔物を一緒にしちゃ悪い。俺はそれが知れて、良かったと思う。だからそのきっかけを作って、教えてくれたセシルに、俺は礼を言いたいんだ。」

ルーヴィッヒは、セシルの両手を握って、淡い瞳を見据える。

魔物には本当に、初めこそ抵抗があったし、セシルに出逢う前までは、人間を襲う化け物だと思っていた。セシルの話や、副船長クロウの研究も耳に入っていたし、魔物にもイイ奴はいるんだなとしか思えなかった。狂った人間の魂の話も、半信半疑で信じられない部分もあった。そしてもし、それでも彼らが襲って来る様になれば、こちらも剣を振るうしかない、そう考えていた。けれど・・・今回の一件にて肌で感じたあの狂気、殺気、生への渇望。あれはセシルを慕い、周りにいつも付き従う、魔物達の雰囲気とはかけ離れていた。ルーヴィッヒは、人間の暗い部分を見せつけられ、ようやく心から理解できた。セシルの話も、副船長が魔物を研究する訳も。知らない事と、知っている事は断然違う。そして、頭で知識として理解するのと、心から物事を理解するも、かなり違う。これは自分が生きてきた中で、常に念頭に置いている考えだ。ルーヴィッヒは、心の奥で自分を恥じていた、そして純粋な魔物達の生き方を、孤高で誇り高い者達だと感じ、素直に今までの己の見解に謝罪の念を抱いたのだ。だから、それに気付かせてくれ、尚且つ仲間を守る為、高熱が出るほど頑張って、命を張って闘ってくれたセシルに、心から感謝したかった。

「あと俺は・・・船長が、“人”を捨てるような事にならない様に、セシルが居てくれた事、頑張ってくれた事、心から感謝してる。」

もしも、あの場にセシルが居なければ、クロウはきっと暴走する。永い付き合いで、ルーヴィッヒはよく理解していた。あのクロウが本気を出せば、魔物も殺せるが、それは自分達も見境なく殺されるのと同義だった。彼は人より、魔物より、殺人衝動が激しい。

「え、でも・・・僕はそんなつもりじゃ・・・」

真摯な表情で感謝を述べられ、セシルは狼狽えた。セシルは礼を述べられるとは、思ってもみなかったからだ。

「それでも!それでもっ俺にとっては大事な事なんだ」

そう言い募るセシルに、ルーヴィッヒは姿勢を正し、ガバリと正座をする。

クロウが本気を出し、魔物を、人を、手にかければ、彼は堕ちる処まで、堕ちてしまう。

そんな事には、絶対なって欲しくはない。ましてや、自分達が発端になるのは、クロウにとって、取り返しがつかない。あってはならない。ルーヴィッヒはそうなっては、自分は死んでも、死にきれないという思いを抱いていたのだ。

だからこそ、それをくい止めてくれた、この眼前の自分より小さく消えそうな存在に、心から感謝の言葉を、思いを、伝えたかった。

「セシル、俺やみんな、船長を守ってくれて、本当にありがとう」

静かに、礼儀正しくルーヴィッヒはセシルに、頭を下げ土下座をした。

「うぇぇ!!ちょ、ルーヴィッヒさん!頭上げてくださいっ」

突然の航海士の土下座に、セシルは驚いて、声を上げルーヴィッヒに、頭を上げてくれるように懇願する。あの時、セシルは無我夢中で、そんな航海士が言うほど、気にも留めていなかったのだ。それでも尚、航海士は深く畳に頭を下げる。

「ありがとうっ・・・」

深い感謝の言葉には、普段聞かない航海士ルーヴィッヒの、涙交じりの声だった。

「ルーヴィッヒさんだって、僕を守ってくれたじゃないですか!おあいこです、おあいこ!」

セシルはその声音に、慌ててルーヴィッヒに頭を上げてもらうよう、言葉を投げかけた。

自分が寧ろ魔物を惹き寄せる体質なのだ、この航海士に礼や感謝を言われる身で無い。

これではセシルは、非常にたたまれない。震える手で、セシルはルーヴィッヒの肩に、手を置いて、必死に説得する。

「・・・そっか!うん、うん☆ありがとうセシル!じゃ!続き続き~」

それに納得したのか、ルーヴィッヒは顔を上げると、パッと表情を明るくさせた。

涙目でにっこり笑うと、すくっとレンゲを持ち直す。

「そ、そうですよ・・・ってルーヴィッヒさん、そんなに盛らないでください、食べれません。」

いつもの航海士に戻った事に、セシルはほっとする。そうすれば、満面の笑みで、ルーヴィッヒは食事再開とばかりに、大盛りにレンゲの中に粥を口へ運ぼうとする。

「そっか~☆そっか~☆はい、あ~~~~~~~~~~ん」

「いや、だから・・・ね」

それでも、聴いていないのだろう・・・山盛りの粥をセシルの口へ運んだ。

ルーヴィッヒは、セシルの『おあいこ』の言葉に、またこのガンダルシアの青年を、理解できたと幸せを感じたのだった。



セシルがルーヴィッヒと食事をとる二時間ほど前。


「おはようございます。クロウ副船長」

「貴殿は・・・コルベリー将校。」

勝手知ったる宿の裏庭、そこにはチェスターやその使用人たちが、手入れの行き届いた花々が咲いていた。庭師の許しを得て、白い小ぶりの花を摘んでいれば、背後からのんびりとした声が降って来た。その声にクロウが振り向けば、先日の金眼のマライト将校が立っている。

「お見舞いのお花ですか?」

ニコラスはクロウの手元を見て、にこやかに話しかけた。黒い着流しに白い花を持った姿は、まるで葬式の様で、これでは死の使いかなにかだと、ニコラスは自分の思った事に対して内心苦笑いを浮かべる。

「あぁ。何か用か。生憎俺は、今回はココで貴殿と争うつもりはない。」

ニコラスがそんな事を、思っているとは露知らず。クロウは溜息交じりに立ち上がり、将校の方へ向き直った。賊と軍人となれば、一悶着起きるのが普通だが、自分の実家の別荘地まで来て、争い事は止めにしたい。

「あー違います。違いますよぅ、私もあの少年のお見舞いに来たんです」

ほら、お見舞いの果物詰め合わせですぅ♪と、クロウの言葉を聞いて、慌ててニコラスは手を振り、持っていた藤籠いっぱいの果物詰め合わせを、クロウの前に掲げた。クロウはその果物詰め合わせに、視線を向け眉間に皺を寄せる。

「次に会う時。敵同士だと聞いたが。」

たしか、魔物を倒した折、この眼の前に立っている将校は、敵だと宣言していたのではなかったか・・・?クロウは金眼の将校を胡散臭そうに見つめる。何か裏があっては、今は困る。病人が居るのだし流血沙汰は本来、クロウは避けたい。

・・・・・・が、相手の雰囲気を見ればどうやら、違うという事が分かった。

「今は新婚旅行で、休暇中です~だから、私は軍人でもない」

「そうか。なら、好きにしたらいい。」

にこやかに言う、将校を一瞥したクロウ。殺気や闘気が無いと分かると、興味を失くし、無表情に宿の大広間へ足を向ける。それを見てとったニコラスは、飄々とした雰囲気で、クロウの横に並んでついて行く。クロウの言葉通り、好きなように行動へ移した。

「あ、そうそう、コルベリー将校はやめてください♪ニコラスでイイです」

ほぼ背丈はクロウと同じのニコラスなので、クロウを顔に笑顔を前面に押し出した。

ニコラスとしては、相手を自分の調子に巻き込むとき、交渉する時のこちらが有利だと、相手に錯覚させための笑顔の策戦なのだが、クロウに対してはそれも効果が無かった。

「貴殿は、俺らより年上だと見受けるが。」

きっぱり、無表情で正論を言いきられた。大抵の賊者なら、ここで自分との会話に、和気あいあいと話し相手になるか、そそくさと逃げるかなのだが、どうやらこの黒い人は違うらしい。ニコラスは、そのクロウの態度にますます、好奇心が湧いた。

「え~それじゃ、親しみが無いじゃないですか」

大げさに肩を竦め、残念だとニコラスはクロウを見る。

「無くて当然だろ。」

クロウは低い声で、斬る様に言いきる。クロウにとっては、何が楽しくて敵と、親しみを持とうとするのかが分からなかった。長い廊下を付いて来る将校と共に、歩いていれば大広間が見えてきた。

「あ、ほらほら、クロウさんお仲間が、集まって待ってますよ」

飄々と言う陸軍将校。その金眼に視線だけを向け、クロウは言い放つ。

「食えん奴だな。」

「おいしく頂かれては、困りますね」

満面の笑みでそう返すニコラスは、おいしく頂いてもらうのは、果物だけですぅ♪と、藤籠をクロウに手渡したのだった。


琥珀石月 八日 晴


今日、クロウの奴が、ま~た癖のある奴連れてきた。

しかも、昨日のマライトの陸軍将校だ。

クロウの周りは、なんだかんだ言って、いつも賑やかだよなぁ・・・。

なんでもセシルの見舞いだといって、果物詰め合わせをくれたらしい。

それを素直に、受取る辺りがクロウの良い所でもあるけどよ?

そういう所が、相手にとって付き纏われる原因じゃねーかと、俺は思うぞ。

いやいや、そんな目で睨むなよ。

ルーヴィッヒが、懐いちまったし、いいんじゃねぇーの。

自業自得じゃねぇのか。


うん、だからな・・・クロウ。


喩え、昼飯に危機感無く将校の奴が、奥さん連れて一緒に飯食っても、

クロウが好きにしろって態度取ったんだから、しゃぁーねぇんじゃねーのか。


だから、そんな目で俺を睨むなよ。


                               水夫長 バルナバス

                            ブラックパール号航海日誌



「いや~お昼ご飯まで頂いちゃって、悪いですな~」

「えぇ、本当にいいのかしら~」

のんびりした将校と、上品な女性の声が、ここブッラクパール海賊団の昼食場に響く。

いつも賑やかな、海賊団の食卓だが、今日はいつもにも増して賑やかになっていた。クロウは大広間に集まっていた、仲間の下にニコラス将校を連れて、バルナバスが驚く中、現われたのだ。敵国の将校が居れば、用心するに越したことはないのだが・・・。

「いいのよぅ、気にしないで、ダーリンや副船長がお世話になった人ですもの」

「そうソウ、気にしないデ」

魔物の一件もあり、少なからず面識がある料理長と仮面の楽士は、その将校夫婦と一緒に、用意された昼食に手を付け、箸を進めていた。

大広間に集まり、クロウの今日の指示を聞こうとしていた矢先、ニコラス将校の姿を見た航海士は、バビュンと飛んでゆき率先して挨拶をして、全く警戒心無く話ている。

それから、未だ眠っているセシルに副船長と将校は、それぞれ見舞いをし、航海士の陽気にして巧みにな話術により、ニコラス将校が昼食を一緒にする事になったのだ。その間、バルナバスが様子を窺っていれば、副船長クロウの眉間に、皺は何本も増えて行ったのだが。(簡潔に言ってしまえば、不機嫌。)

「クロウ、お前いいのかよ、マライトのお偉いさんだろ?」

茶碗を持ちながらバルナバスは真正面に座り、静かに味噌スープを啜るクロウに、確かめる様に聞く。その応えにはクロウは、眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに言い放つ。

「今は休暇中だそうだ。バルナバス。」

ちらりと、空席を見つめクロウは溜息を吐いた。

その不機嫌そうな物言いに、バルナバスはこの状況において、将校夫婦に対して不機嫌なのかと思っていた。だがどうやら、二人分の空席を先ほどから気にして、クロウが少し溜息を吐いているのを見て、バルナバスはセシルが居ないから不機嫌なのかと、気が付いてしまった。セシルが居ねぇから、不機嫌ってクロウ・・・お前。半ば呆れる水夫長の横から、気怠そうな青年が割って入って来た。

「とは言ってもねぇー、船長マライト国では有名っしょ」

そう言いって、会話に入って来たのは、尻尾髪のルシュカだった。

「まぁ。そうなのだが。こちら(・・・)も(・)聞きたい事があるんでな。」

カチャンと箸を置いて、食べ終わったらしいクロウは手を合わせている。

クロウの言葉に、狙撃手と水夫長は顔見合わせた。

「なるほどね、じゃ、俺は納得」

「クロウがそう言うなら、しゃーねぇな」

訊きたい事が双方ある、そうなれば話は別だ。大方麻薬ルートと、昨日の魔物の一件に関してだろうと、二人は納得する。

「すまんな。」

その二人にそう静かに言えば、クロウはリオンの下へ歩いて行った。幼いリオンには、モーリスが付いているが、モーリスは客人の接待など任せているので、クロウがやはり食事の面倒を、見たほうが良いだろうと思ったのだ。

「おじちゃん、ごはん!」

「はいはい。」

茶碗を持ち、にっこり笑うリオンの口元には、やはり米粒が付いていた。クロウはリオンを抱き上げて、自分の膝に座らせ口元を拭ってやる。

「クロウや~儂の箸はどこいったかのぅ」

斜め向かいでは、老人船長がクロウに、ふにゃふにゃ・・・とボケた問いをしてきた。

「じいさん。アンタの浴衣の懐に落ちてるぞ。」

滅茶苦茶、分かりやすい場所に落ちているので、そう指摘すれば、

「おう、あったじょい。すまんな~」

老人船長は、また口をもごもごさせ箸を使い、魚を食べ始めた。膝の上ではリオンが、漬物が好きなのか、物凄い速さで食付いている。はっきり言って、消化に悪い。

「あぁ。リオン・・・よく噛むんだぞ。消化に悪いからな。」

「あいっ!」

頭を撫でそう言うクロウ。彼が下を向けば、やはりリオンはまたもや、ご飯粒や、漬物を零している。斜め向かいには介護老人、膝元には幼い我が子。これが母親の苦労なのか・・・とクロウは密かに溜息を吐いて思った。


琥珀石月 八日 晴


今日は、セシルが居ないから、つまんない・・・。

おじちゃんが、ご飯食べさせてくれるけど、

むずかしい話をしているので、やっぱりつまんない。

むぅ・・・。


あ、ミゲちゃんに遊んでもらおうっと♪


                                雑用係り リオン

                            ブラックパール号航海日誌


育児と介護に追われた昼食も終わり、食後の茶を飲みつつ、皆がまったりしている昼下がり。

「なんだか、微笑ましい光景ですねぇ・・・あっと、そう言えば、あの金髪碧眼君はどうしたんですか?」

さっきまでいましたよね?のんびり窺うニコラス将校と、副船長クロウは向かい合わせに座り、ミゲルが二人に緑茶を入れる。

「あぁ。アイツなら今セシルの所で、看病担当に当っている。」

白い湯気が立つ、緑茶を静かに口に含む。そのクロウの眉間には、皺が寄せられて不機嫌丸出しだった。

「このお人だと、セシルさんの精神負担になりかねないですからね」

副船長の横から、そう言ってミゲルは静かに緑茶を啜る。そのミゲルの隣で、何時の間に来たのか、ペルソナもうんうんと頷いていた。

「・・・・・・・・・・。」

そのミゲルの嫌味に、ギロリとクロウは睨むが、ミゲルにしてはどこ吹く風。

その副船長の不機嫌オーラにも、屈しない航海医師と将校は穏やかに微笑んでいる。

遠くの方で、リオンの遊び相手になっている、バルナバスとルシュカは、その不穏な風景に不気味なものを感じて、言いようもできない恐怖を感じたのだった。早くも水夫長は、副船長が抜刀しないように、創造神に祈りを込め始めた。

そんな外野の心配などお構いなしに、ニコラス将校はのんびりと話し出した。

「あぁ、あのお見舞いに行った、ガンダルシア人の少年君ですか。セシル君って言うんですね、あの子は面白いですね~カルパッチョになるのも、焼き肉になるのも、嫌だと言ってましたね」

にこやかにそう言えば、クロウが驚いたように目を見開いた。

「ニコラス将校、・・・何故それを。」

「やだな~気が付いてなかったんですか~、丁度私達が泊まっている部屋は、庭を挟んで真正面だったんですよ」

金の眼を細め、蜂蜜色の短い髪を掻きながら、ニコラス将校は笑った。早朝のクロウとセシルの珍騒動を思い出してしまい、またニコラスは吹き出してしまう。

「それは。早朝から、騒ぎ立ててすまなかったな。」

一方、クロウと言えば、至極真面目にその言葉を受け止め、素直に謝罪した。

ニコラスはその真面目なクロウの態度に、さらに笑いが止まらなかった。あのマライト国の脅威海軍大佐、恐怖の使者クロウ・ユーインが、彼が歩いた跡には屍しか残らない、海賊クロウが、素直に謝って、しかも申し訳なさそう!そして育児と介護をしていて少し疲れている!世間の噂の彼と実物の彼がこんなにも違うという事に、腹を抱えて笑い出したくなるニコラスだった。

「いえいえ。それにしても、セシル君は凄いですね、私が負った魔物の傷も、完全に治癒させましたし。知ってます?あの子、今この町では有名人ですよ」

手を口にそえ大爆笑を堪えながら、ニコラスがセシルの事を話題にすれば、クロウはめんどくさそうに、溜息を吐いた。

「だろうな・・・。ここではガンダルシア人は珍しい上に、術者となれば相当だろうな。」

セシルの噂を聞き付けて、病人や失せ者探しを頼み込んでくる輩が、この宿に押し寄せる事になりそうだ。そう簡単に予想でき、クロウは追い払うその面倒さに頭痛がする。

今の所、従弟であるチェスターがうまく立ち回って、セシルがこの宿に泊まっているという情報を漏らさないでいてくれている。だが、それも時間の問題だろう。もって、三日。クロウはそんな予想を立てて、一人、深い溜息を心中で盛大に吐いた。


クロウの応えに、ニコラスも察したのか、咳払いをし今度は本題に入った。

「マライトでも魔術師は居ますが、セシル君や仮面君、クロウさんの様に、突出した魔術師は居ない。そこで、私は魔術師として貴男方の意見をお聞きしたいんです」

「今回の魔物の件か。」

金の瞳をスッと細め、鋭利にクロウを見つめれば、黒曜石の瞳がそれを冷たく受け止めた。

「えぇ、そうです。ここ最近マライト周辺、フルブライト山脈からの魔物の活発な動きに、自国軍は度々出動命令が出ています。それも、真昼間に。」

「今回の件も、真昼だったな。」

普通、魔物と言う者は日が沈みそうな夕方から、夜にかけて出没する者が大半である。昼に出現したとしても、行動も鈍く再生能力がある物でさえ、その能力は活かせないのが通常である。だが今回の一件では、クロウが相対した不死者(アンデット)の首は斬っても、その首はまだ生きていたし、食人(マン・)(イーター)にしても昼間に姿を晒していた。この偶然に出くわした出来事に、ニコラスは自国で起こっている共通点を見逃さなかった。

「私の部隊も、そのフルブライト山脈の魔物退治に、携わっていました。初めこそ、自然界のバランスが崩れたのか、魔物の大量繁殖なのかだと、思っていたんですがね。偶然今回の一件にて、あの銅円が眼に留まり、私はある宗教を思い出したのです。それでも、私にはその宗教がどういった物なのか、はっきり言って、さっぱり。なので・・・魔術師の三人にお話を聞いて頂きかったのですよ」

とつとつと語るニコラスは、クロウが魔術を使える者だと、先の戦いでも気が付いていた。しかも、クロウと仮面の楽士には一般の魔術師とは違う、実戦にして実力を見ていたし、極めつけはセシル能力の高さ、この三人ならばニコラスは、何かしら情報が得られるのではないかと踏んでいたのだ。

「クロウ・・・ソノ宗教って、もしかシテ」

ニコラスの話を聞いていたペルソナは、ゆっくりと幼馴染を見上げる。

「魔王信仰か。」

クロウも眉間に皺を寄せ、低い声でぽつりと言葉を零す。

ミゲルも聴き慣れないその宗教の名に、クロウへ視線を向ける。クロウの一角だけ、凍りついた様な緊張が張りつめた。

「そうです。」

その張りつめた空間に、そう言い放つ。ニコラスは表情を引き締め、漆黒の怒りが滲む瞳を見つめた。

仮面(ペルソナ)。聞きたくないなら、セシルの所に行ってもいいぞ。」

「・・・・・・大丈夫。ワタシも、一緒にキク」

重い沈黙の後、クロウはペルソナにそう言えば、仮面の幼馴染はコクンと頷いて応えた。

応える声は、いつもと違い、若干声が強張っているようにミゲルの耳には届いた。ペルソナが、居住まいを正したのを一瞥し、クロウはニコラスに視線を向き直り、口を開いた。

「魔王信仰とは。三千年前の大戦争の折、倒れた北の魔王を信仰し。魔物からチカラを得て、北の魔王の成しえなかった世界征服を、成し遂げると言う、馬鹿で愚かな連中の邪教だな。神魔術を以て魔物を従わせ魔王の様になりたがる奴もいれば、全くもって真逆に、人体実験を催し魔物血液を体に取り込み、魔王の下僕だとほざく者もいる。統率性もない、暇を持て余した貴族連中や、魔術師の幻想思考に生み出された滑稽で陳腐な宗教だ。反吐が出る。」

珍しく少し感情を乗せた声音に、ニコラスは片眉を上げる。

「副船長・・・。」

事情を知るミゲルも、そんな邪教があるとは知らなかったが、その内容に眉を潜める。

仮面の楽士も、一ミリだって動かない。ニコラス将校は、この三人の尋常じゃない緊張した雰囲気を肌で感じ、違和感はあったが、三人ともが邪教に対して、明らかに嫌悪感を抱いているのは見てとれた。なので、ニコラスは邪教信者ではない事に安心し、とりあえず先へ話を進めることにした。

「そうですか・・・なんとも馬鹿な宗教があったもんですね。それでここからが、本題なのですが、よろしいですか?」

手を組み前かがみに、クロウを見れば、見られた本人は小さく息を吐く。

「あぁ。あの銅円がその邪教と関係がるかだろ。」

「ええ、その通りです。まだ確証がないですが」

遠くの方で、猿のアルキデルや、リオンが戯れている声が木霊するが、大人達はクロウ達の話に聞き耳を立てて静かだった。

「さぁな。それは分からん。魔術師でも駆使できるのが難しいと言われている神魔文字だ。俺にはあの銅円には神魔文字を駆使できるほどの、心無い高等魔術師が居た事しかわからんぞ。まぁ、可能性が無いとは思えんが。」

古代の人々はこの世界にある自然を、神から与えられた力によって、少なからず操る事が出来た。これを術と言う。しかし、これには古くから伝わる神の文字(スフィア)を読む事で、術を行使することができるものだった。神の文字(スフィア)は古代エルラド大陸に住まう人々が、術を行使する際の用いたとされる、神に等しき力を込めたとされる神の文字の事。魔術師が一般的に、術行使の為の術詠唱呪文も、この神の文字(スフィア)による物で、エルラド大陸の古代人が残した書物や遺跡によって、今日まで広く知れ渡っている。それとは別に神魔文字とは、これは神の文字と違い、古代の魔術師達が作り上げた文字である。この神魔文字は普通の術よりも、魔物に多大な影響力を与える事から、神魔文字と古くから魔術師達が書物に印し後世の人々に伝えた物だった。現代ではその強力な文字を駆使する事も出来ない者が多く、あまりにその文字の持つ力が強いため、滅多にそれを己が物として使用する魔術師はいない。『エルラド魔術歴史 著:リーンハルト・アーベントロートより抜粋』

・・・・・・とクロウが説明する横で、ペルソナはニコラス将校に、筆にスケッチブックへ書いて説明補足を掲げている。

「一度。フルブライト山脈に、今回の一件と同じ物が無いか、調査すればいい。」

温くなくなってしまった緑茶を飲みほし、クロウは目を伏せた。

「ふぅー、なんだか、魔術となると頭使うなぁ、まぁでも、魔術師の話を聞けて良かったですよ。情報の大収穫です、ありがとうございます。」

二人の魔術師の魔術講釈を、しっかり聞き込んだニコラスは、汗をかいて天井を仰ぎ見た。

生粋の生身人間のニコラスは、世間の魔術師達の持つ、力や概念の違いに辟易する。腕は立つが、自分には見えないチカラを駆使する者が相手だと、ニコラスにとって困難であった。マライトでも魔術師は少ないので、どちらかと言うと機械文明が進んでいるのである。

この暗黒副船長と仮面の魔術師の情報は、ニコラスにとって貴重なモノだった。

「こちらも。将校に聞きたいことがある。」

「なんでしょうか?」

伏せていた瞳を再び開け、クロウは黒い視線を金眼に向ける。

「マライトの港に停泊する、ゴーゴン家縁の小舟、私船、と手引きしている者が、そちらの貴族にもいるか?」

無表情に問い詰めるクロウに、ニコラスは瞬きをして応えた。ゴーゴン家は確か、ジェーダイト国での有名な貴族だ。先の休戦条約や、平和条約に置いても、マライト国にも貿易面で交流を持つ貴族だ。自分も何度か当主ユリウス・ゴーゴン卿とは面識がある。

「おそらく、いると思いますよ?先の休戦から平和条約で、仲を取り持つ貴族も多いですし」

「そうか・・・。ならば、気を付けろ。特に、感情の起伏が激しく、健康状態が不安定な奴にはな。」

ニコラスは首を傾げ、クロウの質問の真意を探ろうとすれば、クロウはあっさりと次の言葉でもって応えた。

「まさか・・・麻薬ですか。」

クロウの忠告を受けニコラスは、はっと我に返った。

「あぁ。しかし麻薬、主になる阿片は芥子種類、抽出される物によって違う。マライト国領フルブライト山脈より先のペール山脈で取れる阿片は、中毒症状も出にくいが、薬の効果も遅い。これは、貴族層のボンクラ馬鹿がよく手を出す。そして、南のガンダルシア領、アシッダ島に咲く芥子から取れる阿片は、幻覚作用、及び中毒性も高く、微量に服用しただけで、効果が出始める。ジェーダイト国より南に下り、ノールエンド砂漠での乾燥させた薬草に、オズエル領内の芥子との合成された麻薬は、中毒症状が著しく、一週間にして死を迎える。」

これはクロウが独自で、芥子の実や出回っていた麻薬を、調べ研究した結果分かった事であった。

「これらはガンダルシア、ジェーダイト、マライトの海域に主に密輸として出回っている。商船を使ってな。しかし、最近その麻薬密輸の商船も、海賊も顔を出さない。それでも麻薬は町に出回る。何故だかわかるか。」

裏切りのアーチャーを追う為、調べていたのだが、麻薬船を襲うが目当ての人物は未だ見つからない。それが・・・どういう意味を指すのか。クロウはふっと嗤った。

「おそらく、ある権力層の貴族が、後ろ盾にしている。」

ニコラスも眉を潜め、自国の貴族達を思い浮かべた。

「そうだ。御貴族様の私船となれば、軍部も手が出ない。それが軍部、政治家の上層部の貴族となれば、なおさらだな。」

ハッと鼻で嘲笑うクロウを、ニコラスは冷や汗を流し見つめた。まさかと思うが、この眼前の黒い人物が、海軍大佐を辞め賊になったのは、これが目的だったのかと。もしそうならば、たしかに国の膿を出すには、軍人より賊の方が遙かに動きやすい。

「いやはや・・・マライトの忠臣達も堕ちた物ですね」

恐怖の使者クロウ・ユーインの名は、伊達じゃなかった。さすが大国ジェーダイト、こんな切れ者を抱えて、裏で立ち舞わせるとは・・・肝が冷える、平和条約を結んで本当に良かった。ニコラスは、そう思わずにはおれなかった。それと同時に、自国の腐った連中がいる事に、純粋に嫌気がさしたのだった。

「それは、ジェーダイトも同じだな。」

眉を潜めた将校を、眺めてクロウも肩を竦める。

いつだって腐った連中はいるもんだ。己もその部類なので、クロウは余計この現在状況が滑稽に思えた。暗い嗤いを湛えたクロウ、それに深刻な顔をしたミゲルとペルソナ、遠巻きに子供の相手をしながら見守る仲間。ニコラスはこの一見バラバラな、多種多様の人種で結成された海賊団の本当の姿を、少しだけ垣間見た様な気がした。

時刻はすでに午後二時。ニコラスは遠くの座敷で楽しそうに、料理長と笑っている妻の姿に手を振って、この平穏を噛み締めた。



全て玉子粥を食べ終わり、他愛無い魔物達の話を聞きながら、ルーヴィッヒはセシルに薬を飲ませた。セシルは未だ熱が高い所為もあって、すぐに眠ってしまい、ルーヴィッヒはミゲルや副船長に状況を伝えるべく、食べ終わった食器と共に部屋を出ることにした。寝室の襖を静かに閉めて、居間を横切り、部屋の扉に手をかける。セシルの自覚が無い命への危機感のなさを、どうしたものかなと、ルーヴィッヒは考えながらドアを引けば、そこには漆黒の上司が廊下に立っていた。

「うお☆船長!」

まさかそんな所に居るとは思ってたなかった、ルーヴィッヒは思わず驚いた声が出る。

「容体はどうだ。」

廊下の壁に寄りかかり、立ち尽くす副船長は、航海士に淡々と問いかけた。ルーヴィッヒとしては、セシルが余程気にかかるのかと、自身の上司に少し辟易する。セシルの気持ちと副船長クロウの気持ちの温度は、ルーヴィッヒが観ていてかなり差があり過ぎるのは分かっていたが、此処までだとセシルが受け止めきれないのも当然だと思った。

セシルとクロウが会話のキャッチボールをするなら、セシルが普通のソフトボールを投げれば、クロウは大玉ころがしの球を剛速球でセシルにぶつけてしまうという感じだろうか。

ルーヴィッヒは、そんな事を脳内で考えて首をゆるく振った。

「ん~粥は全部食べて、食欲はあるみたいだし、このまま熱も下がると思う。」

とりあえず、今の考えを白紙に戻して、何食わぬ顔で質問に応えて報告する。

「そうか。」

「ただセシル、いまは熱で腕に力が入らない状態っかな☆」

「あぁ。」

ニヒッ!と笑って報告すれば、クロウは無表情にその報告を聞いているだけだった。けれども長い付き合いから航海士の眼には、クロウが少し息を吐いているので、安心しているのが分かった。

「せんちょ~ぅ☆セシルに今度落ち着いて、里帰りさせるって言わないと!じゃないと、また逃げられるぜ!」

クロウを覗き込みルーヴィッヒが、首を捻りそう言えば、

「今まで、言おうと思っていたんだが・・・。会話がな。それが出来たら苦労はしない。」

心底参ったという珍しい声音で返事が返ってきた。航海士の中で、白紙に戻したはずの、セシル&クロウ会話のキャッチボールの図が舞い戻って来る。

「あー・・・、会話ね。たぶん、リオンが居ればセシルも安心して聞くと思うけど☆それにしても、船長。」

要は今二人だけの会話はできないので、第三者が必要である。セシルが落ち着き、クロウが容認する相手を置けばいい。そんなトライアングル会話法を、ルーヴィッヒは提案しつつ、漆黒の副船長を見つめる。

「なんだ。」

クロウは珍しく真面目な、航海士の瞳に意識を向けた。

「セシルは、イイ奴だな・・・」

「なんだ今更。改まって。」

お盆を持ってクロウの前に立つ、航海士の表情は笑顔が消えて神妙な顔つきだ。

「ホントはさぁ、俺はセシルが船に乗るの反対だったんだ。だって、船長が好きな奴なら、船は安全じゃないないし、もしもの事があるだろ。それにセシルは消えそうなぐらい大人しいじゃん、海賊船は合わないじゃないかて思ってたんだけど・・・今回の件でやっぱりその考えは間違ってたと思って。セシルは船長と一緒が良いい。船長を心から助けてくれるのは、セシルしかいないと思う。」

始めこそルーヴィッヒは、セシルの事を面白い、魔物に好かれる少年だとしか思えなかった。しかし副船長に好かれるだけで、この海賊船に乗せ続けるのは正直、航海長として反対の気持ちがあったのだ。セシルの気持ちだってある、性格も合わないかもしれない。

それと同時に、航海長という立場を置いて、ルーヴィッヒを言う立場で考えれば、ルーヴィッヒはセシルを船に乗せるのは、クロウの為になるという思いもあった。何事もクロウは執着を示さない、それは物でも人でもある。航海長として傍に居る自分ではどうする事も出来ない、クロウの心の問題にルーヴィッヒは少し寂しい思いもしていたのだが、訓練生から見ていたルーヴィッヒとしては、クロウが唯一、執着を示したセシルは貴重な存在だと思った。何故?と疑問だったが、先ほどのセシルとの魔物の一件や会話で、ルーヴィッヒはその疑問が解消された。

「それにセシルは、俺がさっき魔物の一件で助けて貰ったの、ありがとうって言ったら、『おあいこ』だってセシルが言ったんだ。高熱まで出すぐらい、命張って俺らを助けてくれたのに、俺はあんま何もできなかったし、セシルにとって俺らはそんな関係でもないじゃん。普通はあそこまでしないし、他人にそこまでしない。だから、セシルは情が深くてイイ奴だ。けど危なっかしいから、船長が居ないとセシルは自分をないがしろにすると思う。」

ルーヴィッヒにとって、今回のセシルが魔物を退けた件は、本当に心から感謝していた。クロウの事を想えば、セシルが存在しなかったら、クロウは“人”を捨てていたと思うし、自分達の命も危なかったのだ。ルーヴィッヒはセシルの、存在とその心の広さに心底完敗した。なにより己の見識までガラリと変えてしまう、少年の見解は衝撃的だった。

ルーヴィッヒとしては、やはりクロウとセシルは互いに一緒にいたほうがいい、直感的に今回の件でそう悟ったのだ。あとは、二人の仲がこじれる様なら、自分が何とか間に入りなんとかすればいい・・・ルーヴィッヒはそう思うがままに行動しようと決めた。

金髪碧眼のお調子者だが、仲間の中でも冷たいほどの意見と観察眼を持つ航海士だ。しかし、それを表に出す事は滅多にしない。それがクロウの知る、ルーヴィッヒと言う男である。それをこんな、誰か聞くとも知れない廊下で、クロウに話すとは、ルーヴィッヒにとって余程の事なのかとクロウは眉を寄せた。

「オマエが、そこまで(真面目に)言うとは珍しいな。」

「(真面目に)は余計ですぅ~☆」

副船長クロウが、淡々とそう言えば、航海士ルーヴィッヒは口を尖らせ、いつものお調子者へ早変わり。お盆を持つ航海士の様子を見つめ、クロウはふとした疑問が脳内によぎった。

「ルーヴィッヒ。あとオマエ。セシルが腕の力入らない手で、どうやって粥食べたんだ。」

確かこの金髪碧眼は、腕に力が入っていないと言っていた筈である。ならば。どうやってこの小鍋の中は空なのか。クロウの心中に、嫌な考えが浮かぶ。

いや、まさかな。コイツはモーリスがいるし。そんな気はない訳だ。まさかな。ンなこたぁしてないよな!!オマエ!ルーヴィッヒ!

などと、クロウがどす黒い考えを巡らせる中。

「もっち!俺が、はいアーンをして食べさせまし・・・うおぉおおおおおお!!!」

この航海士の言葉は、クロウの地雷であった。

あっ軽い声で、馬鹿正直にルーヴィッヒはそう言い終わらない内。しまった!と最後は走り出した。とんでもない殺気が、航海士の背後から全身を襲う。

「ルゥ~ヴィッヒィ~~~~テメェ。待ちやがれぇええええええええええええええ!!!」

地響きの如く、低くどすの利いた声が、航海士の背後に響いた。ルーヴィッヒはその声の持ち主に捕まれば、殺される!!と必死に(器用にお盆を持ったまま)廊下を駆ける。

航海士と副船長、ブラックパール海賊団お馴染み、恐怖の追いかけっこが、始まった瞬間であった。

「ちょ、ちょっと待った!タンマ!船長!!男の嫉妬は見苦しっうぎゃぁあああ――☆!!」

高級宿の離れから、航海士の断末魔の叫びが響いた。

「ほぉう、ほぉう、クロウさんは、セシル君にゾッコンねぇ・・・」

クロウを尾行していたニコラス将校は、顎に手を置いて面白そうに金眼を細めていた。ニコラスは、面白い玩具を見つけたと、悪い笑みを浮かべている。

「おや、まだ居たんですか将校さん」

それを一瞥し、半ば呆れつつ見守っていた、航海医師ミゲルは溜息を吐いた。セシルの容体を診に来たのだが、副船長と航海士の会話があったため、今まで待っていたのだ。将校が居るという事は、二人の会話も聞いていたのだろう。

うちの副船長は、癖のある人物に好かれる傾向があるらしいですねぇ・・・ミゲルは呆れ顔に、眼鏡を押し上げた。

「いや~宿部屋が近いものでぇ~ははははっ♪」

今度はニコラス将校の笑い声が、廊下に響いたのだった。


そんなこんなで、その日一日が過ぎ。面会謝絶令がだされた副船長クロウを除く、大方の面々がそれぞれ自主的に看病担当に回って三日間。高熱が出ていて腕に力が入っていない状態だと、ルーヴィッヒが仲間に伝えた直後、ミゲルは顔色が険しく変わり、仮面の楽士は副船長を蹴り飛ばし、水夫長と狙撃手以下仲間の皆は肝が冷えた。なんせ、常日頃からセシルの体格からして危ない、その上、体力のないセシルがそこまで熱に浮かされているとなれば、洒落にならないと思ったからだ。三日間の間、幼いリオンと老人船長の介護、事件の一件を聞き付けて集まる、町の人々の牽制は副船長に任せ。ある程度、観光しつつも、セシルの見舞い品を買って、その日一日、一日を仲間の皆は過ごしていた。

「セシル~お前ってば、本当に腕に力入らなくらい熱出してんだからさー、気ぃ遣わなくていいんだぞ?」

「ずみまぜん・・・ルシュカさん。でも、僕の所為で皆に迷惑かけちゃって・・・」

林檎をすり潰したモノをスプーンで掬い、ルシュカが口に運んでやると、セシルが鼻声でいつもの如く眼が死につつ返事を返した。そう言うセシル周囲、寝室、居間には、御供え物の様に他の仲間とチェスターや、今回の事件で助け出した人々から、花やら果物の見舞い品が置かれていた。殆ど足の踏み場がない程に・・・。

「まぁ、セシルの気持ちは分からんでもないかねぇー・・・この量はすげぇと思うよ。俺も。」

ルシュかもセシルの部屋の状態を始め見た時、見舞い品に埋もれるように、布団に座っていたセシルに、少し同情した。この状態で気を遣わなくてもいい、と言うのはいささか酷のようにも思えたのだ。セシルの性格を考えれば、沢山の豪勢な見舞い品に、恐縮しない訳がない。

「気持ちは嬉しいんですが、僕なんだかとっても、いたたまれなくて・・・ううん。果物も結構高いし、花とかも」

申し訳なさそうに言うセシルの眼は、死んだ魚の様な眼だ。

「う、うう・・・うん。セシル~今は林檎食べようぜ?なっ?余ったら皆で食えりゃいいんだし、ほれ、口開けな?」

「うぅ・・・。申し訳ない、です。ずびッ」

磨り潰した林檎を咀嚼し、セシルは明後日の方向へ思考を飛ばした。

お見舞い品で、心が病むって不憫すぎるぜ・・・セシル。亜麻色の尻尾髪を、背に揺らしルシュカもセシル同様、明後日に思考を飛ばしたのだった。

そうこうして、セシルの高熱はやっと下がり、後は病み上がりの体調を整えるだけに回復していった。


琥珀石月 十一日 曇


正直に言っておく、これは夢じゃない。

すり潰した林檎を食べさせた後、セシルと一緒に見舞い品を見ていたら、

奇妙な人形を見つけた。

黒髪の長い女の子の人形だった。

セシルも人形に興味を示して、二人で誰からの見舞い品だって見ていたら・・・。

俺の手の中の人形の首が、ひとりでに回って、作り物の瞳が瞬きした。

二人で叫んで、

俺が人形を放り投げちまったら、見舞い品の山にぶち当たって、雪崩が起きた。


だから、俺はセシルを庇おうっと思った訳であって。

別にやましい気持ちなんて、もっちゃいない。

・・・だから、だから、俺は無実だって!!信じてくれよ!


                                狙撃手 ルシュカ

                            ブラックパール号航海日誌


琥珀石月 十二日 晴れ


午前二時。

昼間、ルシュカの言ってる事が本当だってわかった。

俺はな。お化けとか魔物とか、信じてはいるがなぁ・・・

昼間のルシュカの奴ぁ、疑ってたんだ。


けどよぉ・・・今まさに俺の目の前で、

セシルの寝てる寝室の天井に、ルシュカの言ってた人形が浮かんでるんだよ。

今まさに、俺の目の前で!!


始めこそ、居間でセシルの事見てたんだがよぅ

視界の端に黒髪が、映るんだよ!!


何だこの状況。はっきり言って俺でも怖ェーんだけど。

あ。落ちてこっち見てやがる・・・。


                               水夫長 バルナバス

                            ブラックパール号航海日誌


琥珀石月 十三日 快晴


朝起きて、セシルの部屋行ったら。

扉の前にルシュカが喚いて、俺らに訴えていた人形が立ってた。

始め、嘘だと思った。

けど、何故か廊下のセシルの部屋の扉前で、ぽつんと立ってる。

どうせ、ルシュカの嫌がらせだろうと思って、退かそうと手を伸ばしたら、

人形の首がひとりでに回った・・・。


うん、バルナバスの兄貴ぃ~~~~~~~~~~~!!

助けてぇええええええええええええええええ


                              双子の兄水夫 アンリ

                            ブラックパール号航海日誌


琥珀石月 十三日 快晴


昼間セシルさんの診察に向えば、呪われた人形の話でもちきりでした。


本当なんでしょうかねぇ・・・

皆さん、セシルさんお部屋の居間で、蒼い顔してますけど。


診察の為、セシルさんの寝室を開ければ、

セシルさんと一緒に、布団の中で女の子の人形が寝かされてました。

ん~セシルさんは男の子なのに、こんな事をしたら可哀想ですよ?

こんな人形は、ぽいっしちゃいましょう。


とりあえず、人形を窓から捨てて、診察しました。ふふっ。

え?なんです??

バルナバスさん、ルーヴィッヒさん、ルシュカさん、アンリさん???


                                航海医師 ミゲル

                            ブラックパール号航海日誌


精巧に作られた小ぶりの人形の怪事件と、見舞い品雪崩にうずもれた日から、二日後の昼下がり。セシルは熱もすっかり引き、風邪はすっかり治りかけていた。また、セシルが見舞い品に埋もれる事が無いよう、ミゲルを筆頭に話し合った結果、他の仲間達が見舞い品をそれぞれ各自で食べ、宿の使用人に配ってくれることになった。ガランと何もなくなった寝室には、誰からの見舞い品か分からないが、小さな可憐な白い花だけ花瓶に活け置いて、そのままにして貰っていた。香りも無く、華やかでもないが、どこか道端や森にひっそり咲いていそうな、控えめな花だが、セシルはそれが気に入っていた。多くの見舞い品を貰った中で、美しい花々に見惚れもしたけれど、セシルはこのいつの間にか添えられていた花が、一番見ていて飽きなくて好きだった。


セシルは見舞い品が無くなった寝室に一人、敷布団の上でぽつねんと座っている。井草の香りがする畳は、新鮮でその匂いを嗅いでいると、何とも落ち着く。しかし、ずっと籠りきりだったので、少し息が詰まるのも事実だった。セシルは敷布団から横、窓の障子を開けた。窓を開ければ、するりと秋の風邪が頬を撫でた。障子を開け放った先には、緑広がるよく手入れされた庭があった。結局・・・逃げられなかったな、しかもかなり迷惑かけちゃった・・・。セシルはぼうっと、その庭の緑を見つめながらそう思った。

窓の縁に腕を乗せ、枕替わりにセシルは庭を眺める。あ、あの花だ・・・セシルがよくよく眺めれば、庭の隅にはセシルに今部屋に活けてある白い花と、全く同じ花が咲いていた。

寝室に花瓶に活けてある花は、いつの間にか萎れてしまった花が無くなって、新しい物にかけられてあったり、活けてある本数が多かったりと、綺麗に活けられていた。

そっか、あの庭に咲いているんだ・・・もしかして、船の人達の誰かが、わざわざ摘んできてくれたのかな?ぼんやり耽るセシル、爽やかな午後の風が吹き込んだ。セシルは薬が効いて来たのか、心地いい風に、睡魔に誘われるそのまま、白い花を映した緑の瞳を伏せた。物心つけば、好きだった白い花。どこか懐かしい。霞む意識の中、白と緑、広がる藍色の空に、盲目の少女は懐かしい想いを馳せた。




セシルの風邪薬の効果が、効いているであろう時間帯を見計らって、クロウは先ほど何本か摘んだ庭の白い花を持ち、長い廊下を進む。何の変哲もない野生に育ったらしい花だと、庭師に言われたが、クロウはこの花の方が、セシルが好きそうだったので、この花を生ける事にした。見舞い品の雪崩に巻き込まれたので、大方引き揚げさせたと、ミゲルが言っていたが、セシルの寝室には変わらず自分の見舞いの花は残っていたので、クロウはあの花がセシルのお気に入りだったと分かった。それからと言うもの、クロウはその花の手入れと、新しく毎日摘んだ物を花瓶に活けた。もちろん、ミゲルや仮面の幼馴染に、セシルの寝ている間だけだと、許可を貰ってだ。リオンを伴って話をしようかと、一度は思ったのだが、幼いリオンに風邪がうつってはいけない。なので二人で今は話せないクロウは、セシルの精神負担にならない様に、寝ている合間だけ見舞いに来ていたのだった。

怖がられる理由を考えれば、いくつも幼馴染に挙げられ、クロウとしては理解している。だが、こちらの気持ちとしては、怖がらすつもりもなければ、只普通に傍に居たいだけであり、セシルを精神的に追い詰めたくはないのが本音である。クロウは理想と現実の差の厳しさの事を想い、溜息を吐いた。黒の自前の単衣の着物姿に、白い花を持ったクロウは足を進める。目的の部屋の扉を開き、居間を通って寝室へ向かい襖を開ければ、柔らかい少し冷えた風がクロウの髪をなびかせる。


漆黒の瞳に入ったのは、窓辺で眠りこける、小さな体躯のセシルだった。

おいおい。風邪を引いているのに、窓開けて寝てるって・・・いや、そんなとこで寝れるのも器用だな。クロウがよくよく見れば、セシルは自分の腕を枕に、凭れるよう座ったままに窓の縁に居睡っている。とりあえず、持っている花を花瓶に活け、クロウはセシルをどうしようかと見つめた。相変わらずの、女物の寝浴衣に、これではどっからどう見ても、女だと勘違いされても、しょうがないだろう。従弟にしても、宿に押し寄せた町人に、ガンダルシアの少女へ、と見舞い品を渡してくれと言い募る者が多かった。その見舞い品におかしなものが無いか、水夫長と航海医師共に、厳重に選り分けた物もたくさんあった。果物に薬品が入っている物、指輪が入っている物、中には見合いの文まで、品に紛れ込んでいた物まであったのだ。あの時の事を思い返すと、頭痛しかしないクロウだった。


そんな考えを巡らすより、問題は眼の前の現状だ。ゆるく頭を振ってクロウは、セシルを見降ろす。秋の風が灰色の髪を揺らして、掛布団も架けず眠っている。

眠っているのを、起すのは悪いと思いそのまま抱き上げて寝かせようと思えば。ハタと一瞬クロウは、動きを止める。もしセシルが途中で起きたら、きっとパニックを起こすのは眼に見えて想像できる。ならば、仕方がないが、悲鳴を上げられるのを、覚悟で起したほうがいい。このままでは、下がっているはずの熱もぶり返してしまうだろう。

クロウはまた大きく溜息を吐き、セシルの肩に手を添えた。傍に身をかがめ、セシルの名を呼び、肩を軽くたたいていれば、灰色の睫毛から淡い緑が覗いた。


名を呼ばれて、心地よい眠りから、セシルは頭を上げる。

「ひぃ!」

黒曜石の瞳を捉え、肩が竦み上がった。

「起きたか?」

小さく悲鳴を上げセシルが目開ければ、そこにはここ最近見てなかった副船長の顔があった。クロウとしては、やはり、悲鳴を上げられたか・・・と内心、傷心に沈んでしまう。

「こんな窓を全開にしていれば、また風邪ひくぞ。」

未だ硬直するセシルに、聞こえない様息を吐き、クロウは開け放された障子窓を閉めた。

「すみません・・・ご迷惑かけました・・・」

良く寝ていたせいで、セシルの精神も安定したのか、か細い声で謝ってきた。実際、セシルとしては、もう殺されるのを覚悟で謝罪をしたのだが。

「いや。・・・・・・俺も悪かった。」

そう言えば、セシルの首がコテっと傾げた。表情もよく分からないと、言った風だ。風邪薬の所為なのか、セシルの思考も緩慢で、ゆっくりしか動かない。なので、セシルはこの暗黒副船長が、どうして謝るのかさえ、見当もつかなかった。

「俺も考えなしだった・・・。次の進路は、ガンダルシアだ。」

言いにくそうに、感情の無い声でクロウが、セシルにそう伝えれば。

え・・・本当?と細い声で、セシルがキョトンと、傍に座るクロウを見上げる。

「里帰りはした方が良いだろ。バルナバスや他の奴らも、家族を残してきた奴ばかっりだ。当然、里帰りもさせてる。だから、オマエだけ里帰り無しなのは駄目だろ。本当はもう少し、早く言うつもりだったんだが・・・。」

はぁ―――っと溜息を吐けば、クロウは自身の頭を掻いた。長い髪が掻き上げられて、バラバラと流れる。

セシルはその傍に座る、クロウの姿にどういう事だと、またも首を傾げた。

「うぇ・・・?」

「オマエはすぐに迷子になりに行くだろう?それに。オマエは俺の話をパニクッて、ちっとも聞きゃしないし。いいか。俺は別にオマエをとって喰いやぁしねぇーよ。」

淡い緑に視線を向けて、クロウはそう半ば投げやりにそう言いきった。

しかし未だよく状況がつかめないのか、セシルは困惑の色を隠せない。けれども、、どうやら家族の下に、会いに行けることだけは、セシルには分かった。

「だって、だってそれは・・・副船長さんが」

「あぁ。あー・・・。俺の命の本質か、それぐらい自覚してる。だから俺は、“そうならないよう”精神修行はしてるんでな。無暗にやたら殺したりしねぇーんだよ。」

分かったか?と聞けば、セシルはとりあえず頷いた。セシルとしては、そこまで自身の気質を理解して、僕に話すという事は、これから殺されるという危険性は、なさそうだと思ったのだ。そのセシルの頷きに、満足したのか漆黒の瞳が少し和らいだ。そうして、クロウは同時に、懐から白い布包みを取り出した。

「セシル。手を出してくれ。」

「な、なに?」

おずおず・・・となんだろうかと、セシルは手を出す。すると、クロウはセシルの手を取って、包み中の物をセシルの手に乗せる。

「これやる。せっかく家族に会うんだ。ちょっとでもイイ恰好して、母親を安心させてやればいい。」

セシルが手の平に乗せられた物を見れば、それは落ち着いた青色の、上等なリボンだった。

光沢ものあり、手触りもいい、高そうな青色リボン。

「え、でもこんな高価そうなリボン・・・僕には勿体ない様な」

純粋に嬉しいが、気後れしてリボンをクロウに返そうと、リボンを持った手をゆるゆると出せば。

「そうか?似合うと思うぞ。っと後ろ向いてろ、髪纏めてやる。」

別の意味に受け取ったらしい。

漆黒の副船長は、リボンを受け取ると、セシルの背後に回った。

「えぇええ?!」

思わぬ事態に、セシルは声を上げる。だが、この唯我独尊のクロウには、聞こえなかったらしい。口角を上げて灰色の髪を素早く纏め、手櫛で梳いて青色リボンで首後ろに縛った。

セシルが緊張しつつ硬直する中、しゅるっと青のリボンを器用に蝶結び。

「あぁ。やっぱり似合う。似合う。」

そう、クロウは満足そうに頷きしみじみ言った。

灰色の髪に青が映えていいし、あの蒼い石のピアスをすれば、完璧お似合いだろ。とクロウはひとり、見栄えに満足して微笑んだ。

「そ、そうですか・・・ありがとうございます」

やっぱり、この人・・・何考えているのか、分かんない。僕なんかに構っても、良い事なんてないのに。家族に会えて、殺されないって分かっただけましだけど・・・。などと、表情が硬いまま、クロウに振り向き、素直にお礼を言っておくことにしたセシルだった。



クロウの要望により、半ば押し切られる様に、セシルは髪の毛を弄られる羽目になった。髪を梳かれるのは気持ちいのだが、ここ数日風呂に入っていないのである。なので一応は断ったのだが、何故か現在自分の髪は漆黒の副船長によって、頭の上で団子を作られていた。断ってクロウの気をそいで、ガンダルシアに戻れなくなって嫌なので、セシルは大人しくすることにしたのだ。

「後、訊いていいか。セシル。」

またリボンを解き、髪を梳かれている途中、クロウが静かに問いかけて来た。

「はい?」

何だろうと、セシルがクロウへ首を捻って見れば。クロウの顔は、寝室の部屋の隅へ向けられていた。

「あの不気味な人形はなんだ。なんだか、先ほどから視線を感じるんだが・・・。」

「あ。」

セシルはクロウの視線の先、部屋の隅を見れば、ポツンと佇む黒髪の人形の姿があったのだった。

「えーと、おともだち?」

「オマエ・・・。ホントか。語尾に疑問符が付いてるぞ。」

首を傾げセシルが無表情にそう応えれば、クロウは無表情にツッコミを入れた。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

何とも言えぬ雰囲気に、思わず沈黙。

「あのな。その友達なんだが・・・。眼を離したすきに、こっちに近寄って来てないか?」

「き・気のせいですよ」

ゴトリ。人形が布団の前で転がる。

「・・・。いや。ぜってぇー気のせいとか。ありえんだろ。」

「目の錯覚とか?!」

「いやいやいや?!もう俺とオマエの真横まで来てンのにかっ」

気が付けば、布団から上がって、セシルとクロウの真横で佇む人形。

セシルは死んだ魚のような目で呟いた。

「残像・・・」

「それこそ気のせいだろーっが。」

徐々に迫りくる人形に、飛び交う珍問答。何はともあれ。

こうして、盲目の少女と漆黒の烏は、なんとか意思疎通ができるようになったようだ。


琥珀石月 十五日 快晴


今日、セシルの見舞いに夕方部屋にったら、

やっぱり、俺が心配する事が無かったなと確信した。うん、だからな。


セシルの横でクロウが添い寝してるのは、いいけどよ。

俺としては、二人が仲良くしてるのはいいけどよ?


なんで、またミゲルが窓から放った人形が、

襖を開けた俺の前に、佇んでるんだよ。だから、怖ェーんだよ・・・。

何だこりゃ、邪魔するなってか?

だから、首を廻すなよ。怖いんだからよ。


つーか、クロウとセシルは、この人形が恐くなかったのかぁ?

(なんか、人形で遊んだと思わしき、二人分の草花で作った皿やら花輪があるんだが)

げぇっ。

とかなんとか、考えてたら人形が居ねぇ・・・。


                               水夫長 バルナバス

                            ブラックパール号航海日誌


「うぎゃぁああああっなんで人形がぁ~~~~~~~~~~~~~~~~?!」

「うおぉおおおおおっ☆ハニー助けてぇ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

バルナバス水夫長の耳に、遠くの方で航海士と狙撃手、お調子者達の絶叫が聞こえた・・・。




「また来るからなぁ~アルキデル☆それまで、強く生きるんだぞぉ~!!」

「キキッツ!ッキ~~~~~~~~~~~~!!!」

「もう、ダーリン!お猿ちゃんが居なくなったて、アタシが居るじゃなーい!」

琥珀石月 十七日 曇時々晴。澄み切った青が覗く空。

ジャパリアの港には、涙ながらに航海士と猿の別れの、抱擁が交わされていた。

「俺はもう来たくないぃ・・・もうヤダ。怪奇現象ばっかりな宿なんてヤダ・・・」

その航海士の横では、彼の相方ルシュカがげっそりとして、打ちひしがれていた。彼はここに来てから、血の池風呂や、不気味な徘徊人形を目撃し、心の傷をどんどん増やしていた、なんとも哀れな姿である。


そんなお調子者より少し離れたところでは、ユーイン家財産管理人が、執事を連れて送りに来ていた。

「セシルさん、こんな無法者の従兄より、私と一緒に宿を切り盛りしませんか?」

赤いバラの花束を携えた、チェスターに片手を握られて、セシルは一気に血の気が引いた。

「いや・・・チェスターさん、僕、それより男なんで。故郷に帰りたいし。手を放してほしいんですけど・・・」

ようやくセシルは自分が女性だと勘違いされたまま、交際を申し込まれたと自覚して、げんなりする。セシルの傍に居たクロウも、顔を顰めて溜息を吐いた。

「チェスター。いいかげん気付け。セシルは男だぞ・・・これでも。」

「これでもは余計です。副船長さん」

女顔で悪かったなぁ!気にしてるのに!!セシルは、クロウをジロリと睨んだ。この副船長とその血縁者は、とことんセシルの地雷を踏んでくるのであった。

「えぇ?!」

クロウとセシルの言葉に、チェスターは素っ頓狂な声を上げて手を放す。

それと同時、バラの花束もバサリッと、石畳の地面に叩き付けられた。

「セシルさんは、男の子ですよ~?」

「俺らと一緒に風呂入ったもんなぁ」

「ふぉふぉふぉ、青春じゃのぅ」

放心状態のチェスターの脇を、ミゲル、バルナバス、ユージン船長が、去り際にそれぞれ止めを刺して行った。各々、大量に買い込んだ酒瓶を抱えて。(水夫長に至っては一樽だ)

「失恋かぁ~まぁ!」

「元気!」

双子のアンリとジョセフが、遂に地面に崩れ落ちたチェスターへ、

『出せYo!』

ステレオで腕を組みながら、励ましてチェスターの周りを踊る。

「・・・うう、うざい男共に励まされた」

全く悪気のない双子だが、これでは傷口に塩を塗りたくれた状態だ。チェスター・リーフ・オールベインは、とうとう泣き崩れてしまった。

(うふ♪お土産イッパイ~これは送ってモラウ用~これは自分用~)

まったく関係ないとばかりに、ペルソナはジェーダイト行き定期便船に、荷物を送りつけてかなり幸せそうだった。

そんな風景を死んだ魚の様な眼で、傍観していたセシルと無表情のクロウ。

そんな二人の下に、トテトテっとリオンが走り寄る。

「セシル!お舟!お舟戻ろう!」

ボスンとセシルの膝に抱きついて、リオンはセシルに先を促した。セシルの風邪も、もうすっかり治り、リオンはいつになくご機嫌だった。今日は、伸びに伸びた出航の日だ。

もうセシルは、逃亡する事に悩む事もない。

「うん、行こっかリオン君」

「じゃ。そう言う訳だ。またなチェスター。」

セシルは幼い手を引いて、リオンと共にブラックパール号へ歩いてゆく。クロウもチェスターに、淡々とそう言い踵を返した。もう大方の仲間は、海に浮かぶ黒い城、海賊船ブラックパール号に乗り込んでいる。

皆それぞれ、別れの挨拶をすませた―――――また自分達の帰るべき場所へ戻るのだ。


「船長~☆次の進路はどうする?」

あっ軽い航海士が近くによって、セシルとクロウを見て笑顔に問いかける。

セシルの後ろ歩き、副船長と航海長は船の懸け橋を渡り乗り込んだ。

セシルの高熱も治り、必要な情報も手に入れた・・・ならば、もうここに居る必要もない。

クロウはリオンを抱いて、船端に遠くの海を眺めている、青いリボンで髪を纏めた術者を見つめた。風が青いリボンを靡かせる。

「進路は南西。ガンダルシアだ。」

「アイ・サー☆」

漆黒の副船長の言葉に、明るい金髪を揺らし、航海士が敬礼して黒き城を駆けた。航海士の伝令に、水夫長バルナバス達も素早く動いて、出航の準備に機敏に動く。海上に浮かぶ黒い城、ブッラクパール号がゆっくり、ゆっくり、セシルはジャパリアの町を離れ行くのを眺める。結局置いて行くはずだった、魔術道具も洋服も、セシルは現在身に着けている。おじいちゃん船長の鼻血事件、僕の逃亡計画も台無し、魔物事件、そして不気味な人形・・・はぁ、なんでこんなに僕の計画って狂うのかな・・・。

ガンダルシアに帰れるのはいいけど・・・。

そう心の中で呟くセシルの肩に、人面(セイレ)(ーン)が乗って来た。セシルはその人面(セイレ)(ーン)を撫で、前を見据える。まだ見えぬ故郷、ガンダルシアに思いを馳せて。


漆黒の瞳を窄め、クロウはそんな海と空の青に溶け込んだ、藍色を纏う術者セシルの姿を見ていた。まだまだ、セシル自身に訊きたい事が多いほど、謎が多いその藍の存在に。

漆黒の烏は、その瞼を静かに閉じ、聞き出したい思いを、振り払って部下達へ指示を下した。

「持ち場に総員素早く着け。サボった奴は―――――置いてくからな。」

こうしてブッラクパール海賊団は、ジャパリアの町を後にしたのだった。

ジャパリアの町に、彼等は血の池風呂、魔物を倒した英雄、不気味な人形が徘徊する宿と言う功績を知らずに残して・・・。




























黒き真珠、海上の城、海賊船ブラックパール号。

次の進路は、魔術大国ガンダルシアへ――――――――――。



『盲目の少女と漆黒の烏』終

『船長と私。』第一章 黒き真珠の城―――――了。



挿絵(By みてみん)




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