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おっぱい大きく育ててくれてありがとう

 とにかく味方を集めないことには多数決は勝てない。そもそもとして僕はこのクラスに仲のいい人間がオデコをのぞいていない。喫茶店のプレゼン相手の地井崎女チイサキオンナは学級委員長もやっているから、まあまあのヒエラルキーを持っているし、権力ももっている。太刀打ちできる相手ではなかった。だから味方を作るのは諦めて、プレゼンで生前葬のポジキャンと喫茶店のネガキャンに重点を置くことにする。ただ味方が多いほどいいのでオデコをとりあえず仲間にしておこうと思う。そこで僕は考えた。オデコのための感謝の歌、オデコに家族に向かって感謝を伝える歌をプレゼントして、歌ってもらう。そう、生前葬は感謝をしめす場所なのである。やっぱりヒップでポップな感じを出すために『家族に感謝』うんたらかんたらみたいな歌詞が必要なのだ。僕はこういったJPOPは嫌いだけど。そして考えた歌詞がこれ。


 平らなわたしに 波打つの それは恵みの風

 光合成で たくさんの呼吸をつくったら やっとわたしはわたしになれた

 おっぱい大きく育ててくれてありがと~♪ パンケーキみたいにふくらんで 木星よりも超重力 運命という ちぶさ まろびだす~♪



「あのさぁ……」


 オデコは歌詞の書かれた紙をきれいに真っ二つにちぎった。そのうえぐちゃぐちゃに丸めて廊下の窓から、ひゅんと飛ばした。


「馬鹿じゃないの!」

「いや、お父さんに捧げる歌だよ。これをみんなの前で歌ってほしい」

「自分の気持ちを歌詞にすればいいでしょ! なんでわざわざあたしがこんなの、歌わなきゃいけないの! 気持ち悪いでしょ」

「いや、だってさ、僕の独りよがりになってしまうじゃん。それだと。生前葬代表として頼む!」

「絶対イヤ」

「でも、どうしてもというなら?」

「言わない。やらない」

「でも?」

「でもじゃない。これセクハラよ、わかってる?」

「お父さんに感謝の気持ち伝えられるチャンスなのに」

「感謝してない。以上。じゃね」


 オデコは振り切って行ってしまった。


「待って~。僕を見捨てないで~」


 僕は床につっぷして懇願した。


「見捨てるわけじゃないわよ」


 オデコはうでを組んでバツが悪そうにした。いまが攻め時!


「むしろ、歌いたいって思わない? 生前葬vs喫茶店のディベートの前にこれを歌えるって名誉なことだよ」

「そうかしら」

「そうそう、しかも僕が作詞作曲したわけだし。いずれ伝説となる僕が作曲作詞したわけだし」

「そうねぇ……」


 あと一押し!


「オデコもその伝説のひとりの主人公だよ」

「しょうがないわね。歌ったげる。曲はできてるの?」

「よかった。これで断られたらどうしようかと思っていたんだ。まだ曲はできてないよ。これから軽音部で作る」

「そう、じゃあ出来たら教えてね」

「まかせときな!」


 というわけで、軽音部部室。作曲なんてしたことないからどうしよう。とりあえず歌詞はできているからこれにメロディーをつければいいか。おっぱいを大きく育ててくれてありがと~。ふんふんふ、ふふーふふ、ふふふふふふふ、ふふんふー。みたいな。これをスマホのアプリで録音しながら楽譜を作っていく。床にあぐらをかいてスマホとメモ帳にシャーペンを置いて準備完了。


「あらめずらしい。なにをしているの?」


 水瀬先生がのぞきにきた。前かがみになったせいでシャツのすきまから胸の谷間が見える。まあまあ大きいから乳首は見えなかった。下着のいろはスカイブルー。


「作曲です。先生も手伝ってよ」

「いいわよー。なにすればいい?」

「先生ってたしかギターひけるんですよね。それで僕の楽譜を弾いてもらえませんか」

「弾けるわよ、ちょっと待ってね」


 水瀬先生は古いギターをひとつ手に取って、胸にたすきかけた。シャツの上からおっぱいが二つに別れる。こうやって敬虔な男子高校生を誘惑しているんだな、と僕は感心した。


「じゃあ、いくわよー」


 意外としわくちゃな手で水瀬先生は弦に細い指をからめた。


 ぽろろん ぼぼん


「あれ、おかしいわね」


 ぽろろん びん


「ちょっと待ってね。弦の調子が悪いのかしら」


 ギターを担ぎあげ、するどい目でギターの調子を見ている。僕は何も言わずじっと見ている。先生はどこかへ行ってしまった。


 そしてなんやかんやあって10分が過ぎた。僕はめんどくさいことになったな、と思いながらどう先生を慰めようか考えていた。『若いころならできたでしょうね』『もうおばあちゃんだから弦より糸の方があってますよ』『この世から消えてください』とげのあるいい方しか思いつかない。

 そんなうちに先生は新しいギターをわしづかみにしながら帰って来た。


「いやー、おまたせおまたせ、ちょっとギターがね」

「そうですか」


 僕はすでに冷めていた。きっとどこかで練習してきたのだろうな。先生は微妙に汗ばんでいる。


「じゃあ、いくわよー」


 先生は足を組んですわり、ギターを弾き始めた。でもメロディーがあきらかに僕が依頼した曲とは違う。なんなら完全にミスチルのイノセントワールドを弾き語り始めている。(https://www.youtube.com/watch?v=rfVhsgCqG0I)かなり熱の入った歌いようで、学生時代にギターをやっていたのは本当のようだった。しばらくリサイタルが続いて、気持ちよさそうに歌う汗がほとばしる水瀬先生を僕は見つめていた。

 歌い終わった先生はドヤ顔でこちらを見てきた。


「どう、上手だったでしょ?」

「そうですね」

「これで私が学生時代ギターやってたって認めてくれる?」

「たしかに。おみそれしました」

「うむ。くるしゅうない」


 そんな趣旨だったっけ? でも先生は満足げだし、まあいいか。


「なんか青春してるわねー。なんだか高校生に戻った気分!」

「そうですかね」

 

 ニコニコわくわくしてる水瀬先生に僕はドギマギした。

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