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二人目の仲間

 しばらくヒーラーの彼女と一緒に歩いていると、重装備タイプが倒れているのを見つけた。まだ体力は残っているようだが瀕死だ。スタンしている。さっき僕を襲った奴と同じかどうかまでは分からなかったけど、どちらにせよ助けてやる義理はない。回復させた途端に襲って来る危険もあるし。

 ……それに、倒した後で手に入るアイテムやなんかも欲しいし。

 そう思って僕はその重装備タイプに止めを刺そうとしたのだけど、それよりも早く彼女が彼を回復させてしまっていた。

 “なにしちゃってるんだよ……”と、少し思ったけど、彼女のそれはほぼ条件反射的な行動に思え、“きっと元人格が優しい女の人なのだろうな”と、僕は思わず和んでしまった。

 重装備タイプを回復させると、彼女は彼のお腹の辺りを摩った。そう言えば、僕の時にも似たような事をやっていた。きっと元人格の人の癖かなんかなのだろう。

 そして、癖だと思った瞬間に僕は思い出したのだった。

 

 ……あれ? そういえば、長谷川さんにこんな癖がなかったっけ?

 

 同じクラスに長谷川沙世という名前の女生徒がいる。彼女は保健委員をやっているのだけど、怪我の手当てをした後に傷の辺りを軽くマッサージする癖があるのだ。

 「なんか、気になっちゃうのよねー」

 なんでそんな事をやっているのか理由を問うたら、なんかそんな事を言われた。特に深い理由がある訳ではないらしい。

 今まで彼女の事を思い出さなかったのは、きっと彼女は気が強いので“優しいヒーラー”という印象とはあまり結びつかなかったからだろう。

 手当した箇所をマッサージする癖がどれだけ一般的なものなのかは分からないから、まったくの別人という線もあるけれど、そう言えば彼女が小遣い欲しさにゴーストを提供したという話を聞いていたような気もする(学生は経済力がないのが普通だから、ゴーストを売るのはそんなに珍しくない)。

 それに、少なくとも僕の印象では、長谷川さんとヒーラーの彼女は別人としか思えないのだけど、そもそも僕は長谷川さんの事をそんなに深くは知らないんだ。長谷川さんをよく知る村上アキという友人は、

 「――沙世ちゃん、優しいよ?」

 彼女をそう言っていた。

 彼が長谷川さんと付き合い始めたと聞いて、“恋人ができた、だあ?”と、ちょっと彼を羨ましく思った事もあって「僕はもっと優しい女の子の方が良いけどな」と言ったのだけど、その時に。

 正直、“恋は盲目”の類だと僕は思っていたのだけど、疑わしそうな目を向けた僕に彼は「本当に、アホほど、優しいよ」と念を押すようにそう訴えて来たのだった。彼は悔しさから嘘をつくようなタイプではない。少なくとも本人は“長谷川沙世は優しい”と本気で思っているのだろう。因みに、彼女の将来の夢は看護師らしい(それで保健委員をやっているのだろうか?)。もちろん、だからといって優しいとは限らないのだけど。

 

 回復した重装備タイプは、ヒーラーの彼女にちょっと引くくらいに感謝を示した。「ありがとうございます。ありがとうございます」と何度も繰り返し、ペコペコと頭を下げている。重装備タイプはフルフェイス型の兜を装備しているから、表情はまったく分からなかったのだけど、へつらうような顔が容易に想像できた。コピー元の人の姿がなんとなく見えた気がした。苦労をしている人なんだろう、きっと。

 「いえいえ、大丈夫ですよ」と彼女が返すと、それから彼は「良ければ、パーティを組んでいただけませんか?」と卑屈な感じでお願いをして来た。

 “パーティ!?”と、それを聞いて僕は驚く。

 考えてみれば、それくらいの機能はあって当然だ。なんで思い付かなかったのだろう?

 「以前は別のパーティを組んでいたのですが、戦闘に巻き込まれて壊滅してしまいましてね。やはり、回復役がいないときついですな」

 “それは基本中の基本だよ”と心の中で応えながら、僕はヒーラーの彼女の身体付近、彼女の視点から見てウィンドウが出るだろう辺りに触れてみた。すると、『パーティ申請をする』というポップアップが表示された。

 “おー なんだよ、あるじゃんか”と僕は誰に向けてのものなのかよく分からない愚痴を心の中で呟く。

 きっと、女性だからってことで無意識の内に遠慮していたのだと思う。そもそも相手はゴーストだから気にする必要もないっていうのに。

 なんとなく重装備タイプには先を越されたくなかったので、僕は早速パーティ申請を彼女に出した。僕が出した申請に直ぐに気付いたのか、彼女は僕を見ると軽く微笑み、直ぐにオーケーを返してくれたようだった。申請が通ったというメッセージが表示される。

 重装備タイプに向けて「構いませんよ」と彼女が言うと、彼は彼女のウィンドウに触れてパーティ申請を出したようだった。彼女とパーティを組んでいる僕の所にも申請が来た。彼女はやはり直ぐにオーケーを出したようだった。

 “こんなに直ぐに相手を信用して、この子は大丈夫なのかな?”

 と、少し心配に思いつつも、僕もその申請にあっさりとオーケーを出した。いつ襲われるか分からない点を考えるのなら、今は仲間はできる限り早く増やしたい。

 それに、この重装備タイプは誰かを騙せるほど器用には思えなかった。

 パーティを組むと、メンバーのある程度のステータス内容と名前が確認できるようになった。重装備タイプの名前はアーサーとなっている。アーサー王を連想した僕は“なんだか大層な名前だな”とつい思ってしまった。そして、ヒーラーの彼女の名前は“サヨ”となっていた。それを見て僕は思う。

 “うーん…… やっぱり彼女のコピー元の人格は長谷川沙世なのだろうか?”

 大いに気になったけど、尋ねてもどうせ彼女は覚えていないだろうし、個人情報保護の観点からも分からない方が良い。僕は忘れる事にした。

 「これから何処に行くのです?」

 重装備タイプ…… アーサーがそう訊いて来たので、「街を探しているのですよ」と僕は返す。

 「街? どうして?」

 「人間のプレイヤーを見つけたいんですよ。協力してもらいたくて」

 「人間のプレイヤー?」

 アーサーの元人格はこういうゲームの経験者っぽく思えたのでそう言ってみたのだけど、どうやら何の事か分からないようだった。人間でも明確には覚えていなくても、無自覚に動けてしまうみたいな事が起こるらしいけど、似たようなものなのかもしれない。

 「とにかく、街を探しているんですよ。何か知らないですか?」

 アーサーはそれを聞くと、山を背にした森の向こうを指差した。

 「あっちの方に街があるって聞きましたね」

 僕は「なるほど」と頷く。その情報が正しいかどうかは分からないけど、険しい山から離れた平野に街がありそうだとは思っていた。トリッキーな設計のゲームでないのなら、普通はそういう風にするだろう。もちろん、険しい山の近くにだって村か何かはあるだろうが、始まったばかりのゲームだ。プレイヤーが辿り着いているとは限らない。

 「じゃ、あっちに行きましょうか」

 そう僕が言うと、二人とも頷いてくれた。

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