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バトルロイヤル

 しばらく森を進むと、角の生えたウサギのモンスターに遭遇した。レベルが低い内はいかにも手頃な相手だ。攻撃を仕掛けると、見た目に似合わず好戦的で突進で応戦して来た。逃げられるよりはずっと良い。突進して来るタイミングに慣れると簡単に倒す事ができた。矢印のアイコンが出たので触れてみると、ウサギ肉を獲得できた。この辺りは普通のゲームと変わらない。

 少しダメージを負ってしまったが、どうやら傷は時間で回復する仕様であるらしく、しばらく待ったら完全回復した。魔力の方は使い方が分からなかったけれど、きっと魔力も同じ仕様だろう。時間で回復すると思う。これなら問題なく探索を続けられそうだ。

 その後もイノシシやオオカミっぽい姿をした手強そうなモンスターは避け、弱そうなモンスターばかりを狙っていく事で、僕は順調にレベルを上げ、アイテムを増やす事ができた。毛皮とか肉とか牙とかばかりだけど。

 お礼の品はこれくらいで充分だろうと、僕は判断する。

 後は人間のプレイヤーを見つけるだけだ。ただ、いくら歩いても街らしきものはまったく見えては来なかったのだけど。

 めげずに森の中を進んでいくと、不意に「サンダー!」という声が聞こえ、それからいかにもゲームの中の電撃魔法の効果音っぽい音も響いて来た。

 “おお!”と僕は思う。

 誰かが闘っているのだ。人間のプレイヤーかもしれない。

 僕が喜んで声が聞こえて来た方に向うと、そこには人間の男の姿をしたキャラクターがいて、オオカミの姿をしたモンスターと闘っていた。魔法剣士といった装いだ。多少苦戦しているようだったので加勢することにした。背後から僕がオオカミを斬りつけると、挟み撃ちの形になり呆気なく倒せた。

 「大丈夫ですか?」

 と、“助けてもらうのだから”と僕は出来る限り友好的に話しかけたのだけど何も反応がない。そこで気が付いた。その魔法剣士風の恰好をしたキャラクターの頭の上辺りには“NPC”の文字が浮かんでいる。どうやら人間のプレイヤーではないらしい。ゴーストが操作しているのだ。

 それでも折角会えたのだからと僕はその魔法剣士に必死に話しかけてみた。けれど、やはり何も反応がなかった。ゴーストには会話する能力が与えられていないのかもしれない。

 僕は「はー……」と溜息を漏らした。

 どうやら無駄足だったようだ。肩を竦めて僕はその魔法剣士の傍を通り過ぎた。ただ、ここでメンタルをやられては駄目だと、前向きに捉えることにした。

 “NPCではあったけど、少なくともゴーストが操作するキャラクターに遭遇できたのは良い事だろう”

 それはきっと人間のプレイヤーがいるエリアに近付いていることを意味しているのではないだろうか?

 「よし! 取り敢えず、こっちを目指すか」

 僕はそう独り言を言って気合いを入れた。ところが、そうして歩き始めた瞬間だった。突然、僕は背後から斬りつけられたのだ。

 “――え?”

 見ると、さっきの魔法剣士が僕に斬撃を入れている。僕は慌てて距離を取る。クリーンヒットだったのか、体力が4分の1ほども削られてしまっていた。

 “なんだこれ? こいつ、どうして襲って来たんだ?”

 魔法剣士は再び剣で襲いかかって来る。僕は後方に飛び退きながら、彼の斬撃を剣で受け止めた。勢い余って後に転びそうになったけどなんとか堪える。

 もし受けたダメージに応じて動きが鈍くなるようなリアリティのあるゲームシステムだったなら既に終わっているところだけど、幸いにしてまだ機敏に動けた。

 猛然と魔法剣士が攻め続けて来る。まるでバーサーカーだ。これはきっと元人格の所為だろう。血の気が多い奴が、ゴーストのコピー元なんだ。

 しばらくは防戦一方だったのだけど、やがて魔法剣士の動きが単調である事に僕は気が付いた。

 ゲームをあまりしていない人間が、滅茶苦茶に攻撃ボタンを押しまくっている感覚に近い。きっと、コピー元の人間はゲームを趣味にしていないのだろう。少なくともアクションゲームはやった事がないに違いない。

 僕はタイミングを見計らって魔法剣士の斬撃を躱すと、その隙に攻撃を入れた。弱い攻撃しか入らなかったけど、それでも相手を怯ませるのには充分だった。彼が僕を恐れているのがよく分かった。

 僕を警戒したのか、彼は距離を取ると今度は魔法発動の準備をし始めた。僕はそれを見て“やはり相手はゲームの初心者だ”とにやりと笑った。魔法攻撃は威力が高くて射程距離も長いがその分隙も大きいのが普通だ。

 「チャーンス!」

 と、声を上げると、僕は思い切り地面を蹴って突進をした。風が起こる。魔法発動の準備をしている魔法剣士の能面のような顔が迫って来て通り抜ける。強烈な斬撃が、彼の胴体に入ったようだった。僕の魔力が減っている。ほぼ無意識だったけれど、これが僕の魔力を消費して行う攻撃の一つであるらしい。多分、風の魔法の類だ。

 振り返ると、彼はその場に倒れていた。まだ体力は残っているようだったけど、止めの一撃を入れるとモザイクが消えるようなグラフィックが現れ、後には何も残らなかった。

 どうやら倒せたようだ。魔法剣士だけあって僕よりも体力は低めに設定されていたらしい。或いは、その前のオオカミとの戦闘で既にダメージを負っていたのかもしれない。

 魔法剣士が消えた辺りに矢印が現れていたのでクリックしてみると、彼が今までに手に入れていたのであろうアイテムと金が手に入った。経験値もそれなに入り、レベルも上がっている。

 “なるほど。NPCの間でも略奪行為は可能なのか……。こりゃ気を付けないと駄目だな”

 多分、あの魔法剣士は僕のアイテムと金が欲しかったのだろう。だから襲って来たのだ。このゲーム世界からの脱出は簡単にはいきそうにもない。僕はまた溜息を漏らすと先に進もうとした。

 が、そこで再び異変が起こったのだ。

 魔法発動の効果音が聞こえる。振り返ると、後方からつむじ風が迫って来ていた。恐らくは風の魔法だ。目を凝らすと、木々の奥の方に魔導士の姿をしたキャラクターがいるのが見えた。多分、さっきの戦闘の音を聞きつけてやって来たのだろう。僕らの戦いが終わるまで待って弱らせた上で生き残った方を倒すつもりだったのかもしれない。

 僕はその風を防御したが、防ぎ切れず、弾き飛ばされてしまった。体力が半分以下になる。完全にピンチだ。相手は魔導士だから、近付ければなんとかなるかもしれないが、仲間が何人いるのかも分からない。いや、そもそもヒーラーなしで連戦なんて無謀過ぎる。

 “まずい! これ、下手したら死ぬぞ?”

 もしこのゲームの中で死んだらどうなるのかは想像もできなかった。強制ログアウトになってくれたのならむしろ有り難いが、そうじゃないのなら……

 ――死ぬ?

 “……いや、流石に現実世界でも死ぬなんて事にはならないとは思うけど”

 取り敢えず、僕は無難に逃げる道を選択した。死にはしなくても何が起こるかは分からないんだ。NPCと誤認されている人間が、ゲーム内で殺されたケースなんて恐らく世界初だろうし。

 僕はできる限り森が険しい方に向って駆けた。木々が障害物になって魔法攻撃を防いでくれると思ったのだ。後方で魔導士は既に次の魔法発動の準備をしている。雷鳴が聞こえた気がしたので、空を見上げてみると、黒雲が沸いていた。

 “これ、雷撃系の魔法か? まずい! 離れても意味がない気がする!”

 それでも逃げるしかない。思い切り駆けると木々が険しい部分を抜けた。少しだけ開けた場所だった。それを見て瞬時に警戒する。“こういう場所って、もしかしたら狙い撃ちにされ易いのじゃ?”と思った瞬間、近くの岩陰から重装備タイプのアタッカーが飛び出して来た。が、警戒していたお陰でその攻撃はなんとか躱せた。ただし、“躱せただけ”だ。こっちは体力が少ない上に魔法で狙われている。圧倒的に不利で大ピンチだろう。

 そこで雷撃音が聞こえた。さっきの魔導士の雷撃魔法が発動したのだ。

 “死んだ?”と思ったのだが、落雷は僕ではなくなんと幸運にも重装備タイプの上に落ちていた。だが“助かった”と思うのも束の間、今度はオオカミ達の吠える声が聞こえて来た。前方から迫って来ている。しかも、重装備タイプはまだ生きていた。

 オオカミ達を避けて横に逃げると、上手い具合にオオカミ達は重装備タイプを狙ってくれた。なんか重装備タイプに申し訳ない気持ちになったけど、とにかくラッキーだ。これなら逃げ切れるかもしれない。

 が、今度はそこに何本もの矢が降って来たのだった。少し離れた場所に弓矢使いがいるらしい。重装備タイプの仲間なのか、オオカミ達を射ているように思えた。いや、或いは、重装備タイプごと殺そうとしているのかもしれない。問題なのは、その矢が僕にも当たりそうだという事だった。しかも、先の魔導士もまた魔法の準備をしているようだった。雷鳴が聞こえる。

 “とにかく、逃げるぞ! 逃げるしかない!”

 僕は泣き出しそうになりながら、ただただ走り続けた。

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