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-帰宅-

 何も無い世界で心が芽生えてしまったら……その地獄は想像を絶する。

 涙で声を詰まらせる美佳に対し、和輝は優しく問いかけた。


「美佳は昨日から入れ替わっていたの?」

「うん……私も昔は心の無い只の幻影だった……でも、あなたと……和輝と出会ってからの私は違ったの」


 和輝の顔を見つめながら話す美佳の瞳には、愛する者に向けられた優しさが溢れていた。


「本当の私はその日あった和輝との思い出を、幸せそうに私に話し掛けてくるの……そんなお話を毎日聞いてるうちに、私も和輝の事が好きになっていったのよ……」

「…………」

「鏡の中の和輝は心の無い幻影だけど、それでも頭を撫でてくれたら……抱きしめてくれたら、それだけで幸せだった! それだけでいいって自分に言い聞かせてたのに!」

「…………」

「なのに本当の私は幸せで溢れている姿を私に真似させるのよ! 苦しんでる私に笑顔を作らせて、幸せそうに笑えと強要してくるのよ! 私は悔しくて! 恨めしくて!」

「…………」

「入れ替わりたいと心から願い、手を伸ばしたら鏡の中から出る事が出来て……でも、ごめんなさい……私の我儘で和輝に悲しい想いをさせちゃって……」


 涙を流しながら話す美佳に対し、和輝の心には愛おしさが込み上げていた。

 だが、この先どうすればいいのか、どうする事が正解なのかが分からない。

 苦しんでいる和輝に、美佳は優しく語り掛ける。


「心配しなくても大丈夫よ、私が鏡の中に戻れば、本当の私は和輝の元に戻ってくるから」

「でも、そんな事をすれば美佳が……何もない空間で苦しむ事になるじゃないか!」

「ううん、私は……本当の私じゃないから……」

「関係ないだろ! 鏡の中の美佳も、今までの美佳も、俺の事を心から愛してくれてるじゃないか! 俺の幸せを願ってくれてるじゃないか……俺にとってはどちらも本当の美佳なのに……なのに、俺には何も出来ないなんて」


 自分の無力さを嘆き大粒の涙を流す和輝の頭を、美佳は優しく包み込むように抱きしめた。


「もう、あなたはどこまで優しいのよ……でもね、あなたが誰よりも幸せにしなきゃいけないのは、本当の私だけなのよ」

「美佳……」

「じゃあ私は帰るわね」


 美佳は泣き崩れている和輝と口付けを交わした後、車の窓に映る自分の姿に手を合わせる。

 すると、ゆっくりと実体と幻影が交差するように、二人の姿は静かに入れ替わって行った……。

 

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