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-異変-


(何なんだこれ……)

「どうしたの和輝? 顔の色が真っ青よ」

「い、いや……何でもないよ」

「そう? だったらいいけど……」


 この恐ろしい状況を素直に話せる訳が無い。

 全ては疲れから起きる見間違いなのだと、そう自分に言い聞かせながら、和輝は窓に映る美佳を見続け、そしてある事に気付く。

 窓に映る美佳は只こちらを見ている訳ではなく、悲痛な表情で何かを訴えているようであった。


(何て悲しそうな顔なんだ……俺に何か言いたい事でもあるのか……)


 たとえ信じられないような光景であろうとも、どれほど恐ろしい現象であったとしても、愛する者の悲しむ顔は見たくない。

 和輝は悲しみの原因を探るべく、窓を凝視する。


(唇の動きをよく見ろ、何を言ってるのか読み取るんだ……お・お・あ・あ・あ・い・え?……)


 窓に映った美佳は同じ言葉を何度も何度も繰り返し、大きな声で泣き叫んでいるようだった。


(分かったぞ……『ここから出して』だ)


 それはとても不思議な光景だった。

 目の前に愛おしい彼女が優しい笑顔で座っている……なのに窓には助けを求める彼女の姿が映っている……。

 常軌を逸した状態が正常な思考を奪っていく。


「なぁ……変な事を聞くけど……美佳は美佳だよな?」

「え? 何それ?」


 美佳の表情が明らかに曇った。

 だが一度違和感を言葉にしてしまうと、後は堰を切ったかのように次々と疑念が沸き起こって来る。

 和輝は話している途中にも後悔の念を抱きながら、それでも尚、話す事を止められなかった。

 今朝、和輝の家へ来た時に、何度も訪れている筈の部屋の位置に戸惑った事……。

 笑う時に口に当てる、その両手の重ね方がいつもとは違っていた事……。

 今日になって急に左利きになった事……。


「大丈夫和輝? 疲れてるんじゃないの?」

「そうかもしれない……だから変な考えが頭を埋め尽くしてるのかもしれないけど……」

「だったら今日はもう帰りましょ! 早く休まないと私……」


 和輝の事を心配する姿に偽りは感じられない。

 ただ、それでも聞かずには居れない事が一つあった。


「さっきから無意識に落書きをしてるんだと思うけど……どうして……文字を全部左右逆に書いてるんだ?」


 美佳は指摘されるまで気にも留めていなかったのだろう。

 驚きの表情と共に落書きと文字の書かれている紙を握りつぶし、店を出て行ってしまった。


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