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499:動き出す黒幕

 盗賊のアジトからそのまま貴族の屋敷へ踏み込んで行けば、制圧する事は容易だろう。

 しかし、それでは『秘密裏に問題を解決した』事になってしまい、事情を知るのが自分達だけになってしまう。

 対外的に見れば、自分達が一方的に貴族を襲撃して壊滅させたと取られかねない危ない橋である。


 桜さんはそうなる事を見越し、一旦引き下がってギルドに依頼達成を報告する事に決めた。

 そうすれば、自分達の息がかかっている者が倒された事を知った貴族やギルド上層部――つまり盗賊団の上に居た者達が動き出す。

 十中八九俺達の口封じを狙ってくるハズだ。それを徹底的に返り討ちにした上で、ギルド上層部や貴族を捕らえに行く。


 やはりこういう悪行は大々的に公表しておかないと、改善に向かって動き始めないからな……。

 悪事を働こうとすれば手痛い制裁が待っていると思い知らせるのだ。今も昔も『見せしめ』というのは抑制になる。

 正義の味方を気取るつもりはないが、関わってしまった以上は解決するまで付き合うくらいはするつもりだ。


「この裏切り者! 自己保身のために身体まで売るなんてアンタは最低最悪の神官よ! 言いなりになって拷問の手助けまでして!」

「やめろ! そいつは俺達を助けるためにそうしたんだ! なんで命を助けられたお前が責めてるんだ!?」

「アイツが言ってたもの! 自分の命惜しさに身体を売ってきた……って」

「馬鹿野郎が。長年付き合ってきた仲間の言葉よりも、自分達を貶めた盗賊の頭の言葉を信じるとは堕ちたもんだぜ。そんなの仲間割れさせるためにデマカセ言ったに決まってんだろうが」

「苛烈な拷問を受けはしたが、生きていられるのはそいつのおかげなんだぞ。生き残りさえすればどうとでもやり直しは出来るんだ。そいつが必死だったのは自分の命がどうこうじゃない、俺達の命を守るためだったんだ」

「私はもう死にたかった! あんな拷問を何度も何度も繰り返されるくらいなら、治療なんてしないで逝かせて欲しかった!」

「そ、それでも死んでほしくなかったんです! 死んでしまうよりも生きている方が絶対にいいから……」


 桜さんや離れた仲間達と打ち合わせをしていたら、後方からギャーギャーとわめきたてる声が聞こえてきた。

 盗賊団に捕らえられていた冒険者達だ。俺達の目の前に居た女性冒険者二人と、他の場所で救出された男性冒険者達。

 どうやら同じパーティメンバーだったようで、認識の違いから口論になってしまっているようだ。



 ・・・・・



「い、依頼を達成してくださったんですか!?」

「証拠が必要なら見せよう」

「ひぃっ!?」


 ギルドに戻った俺達は、『龍伐』のスラーンを代表の報告役にして受付嬢に依頼の達成を報告していた。

 スラーンは討伐の証拠として、ドンッと遠慮なくシンドロの首をカウンターに置いて見せたため、受付嬢が悲鳴を上げてしまった。

 同時に、彼女の後方でその様子を見ていた男性職員の一人が顔面蒼白となり、すぐに奥へと消えていった。


「どうやら貴族の息がかかった職員の一人みたいだな。奴から辿っていくか。フォルさん、お願いします」

「大丈夫です。既に私の一人が監視に入っています」


 ◆


「大変ですギルドマスター! シンドロが討伐されてしまいました! 龍伐のスラーンが奴の首を持ってきて……」

「龍伐のスラーンだと!? 何故そんな大物がこの町に……いや、大物だからこそネグニロスに用事があるとも言えるか」

「ネグニロスの武器は世界一ですもんね。大物にこそ需要があると言えるでしょう……って、そんな呑気な事を言っている場合では!」


 フォル・エンデットは『いつでもどこでも存在している』と言っても過言ではない、この世界そのものと一体化した特異な存在である。

 故に、気になる箇所へ意識を向けるだけでその場の様子を容易に窺い知る事が出来る。当然、その場にいる者達には気付かれる事すらなく――


「しかし、依頼ランクは低めかつ報酬も安めに設定しておいたハズだが、高ランク冒険者にとっては何のメリットも無い依頼を何故受けたのだ……?」


 冒険者ギルドにおいて、高ランク冒険者はランクが高い依頼と報酬が高い依頼を受けるのが当たり前という認識になっている。

 難度の高い依頼をこなす事はステイタスであるし、高ランクともなると各種出資も馬鹿にならず、加えて収入の多さから生活基準が贅沢になってしまっており、一度の依頼で多くを稼げるものが好まれる傾向にある。

 ランクの低い依頼などこなしても何の自慢にもならないし、金銭面で見ても大赤字になる場合がほとんど。依頼を受けるメリットなど皆無。


「何処の界隈にも変わり者は居るという事でしょうか……。どうしましょうね、この件」

「あの方に報告するしかないだろう。我々の今後にも大きく影響する出来事だぞ」


 そう言ってギルドマスターは通信用の魔術導具を取り出し、何処かへと繋いで話を切り出した。


『なに? シンドロが討伐されただと!? 馬鹿者が、そうならぬようにするのが貴様らの役目であっただろう』

「……申し開きのしようもございません」

『自ら率先して罪を背負おうとするその心意気は称賛しよう。だが、それで失敗した原因を伏せてしまっては意味が無い。何があったのかを明かさねば、次に繋げる事すらままならぬだろう』


 連絡を受けた貴族は意外にも寛容であり、失敗を責めるのではなくその内容から次に向けた改善策を打ち出す事を提案した。


「はっ、ネグニロスに『龍伐』のスラーンが現れました。有名な高ランク冒険者である彼が、何故か低ランクに設定し報酬も抑えていた盗賊団討伐の依頼を受けてしまったのです。当ギルドでは末端の者にまでは内部事情を知らせておりませんので、そのまま受注してしまいました」

『予期せぬ高ランク冒険者の来訪か。しかも、採算度外視で動く変わり者……。それに関しては、もはや不運と言うしかないな』

「如何致しましょうか。おそらくシンドロから背景事情は漏れてしまっているはず。その後、あの者達がどう動くか……」

『シンドロめ。手足としては有能だったが、聞かれてもいないような事をベラベラと喋ってしまうような馬鹿者でもあったからな。手間を掛けさせてくれる。こうなった以上、事情を知ってしまったであろう者達を消すしかないな』

「消す……って、あのスラーンをですか!? Aランク冒険者の奴を消せる程の刺客に宛があると……」

『闇ギルドを使う。奴らは見合う金さえ出せばどんなに困難な依頼でもやってのける。裏の世界には表に知られぬ強者が潜んでいると言うしな。強敵に心を躍らせるような変わり者くらい居るであろう』

「我らギルドにとっては怨敵とも言える闇ギルドですか。しかし、現役冒険者の抹殺など表で出せるような依頼ではない……ぐぬぬ」


 闇ギルドとは、依頼者が依頼を貼り出し、ギルドに所属する者がそれをこなすという点では通常のギルドと同じである。

 しかし、闇ギルドは『見合う金額さえ出せばどんな依頼でも可能』である。それが要人暗殺であろうが、私怨による殺人であろうが、目も当てられないような残虐極まりない凶悪犯罪であろうがやってのける。

 ギルド側からすればギルドという概念のイメージダウンになる事から、闇ギルドからすれば甘ったれた温さへの不快感から、互いに敵視し合う関係である。


『ギルドが闇ギルドに依頼するとは前代未聞だな……。まぁ、それは冗談だ。私自身で無いと利かせられないコネもあるからな、依頼に関しては私の方でしておこう』

「ありがとうございます。後は、我々がすべき事は何かございますでしょうか?」

『冒険者達をこの町に留めておくのだ。早々に余所へ流れてしまわれては、刺客を差し向けるのが難しくなる』

「わかりました。困難な依頼を達成したねぎらい――と言う名目で、特定の宿へ誘導しましょう。数日間はゆっくりして頂けるように最大限もてなします」

『我らの計画を邪魔した怨敵を『最大限もてなす』と言うのも皮肉なものだな。この屈辱、決して忘れるで無いぞ』

「ははっ!」



 ◆


「……と、言った感じですね」

「なるほど。闇ギルドから刺客を放ち襲わせる作戦か。で、刺客が来るまでの間俺達を町に足止めしておくと」


 フォルさんからすれば『黒幕が自分の前でベラベラと全て話してくれた』に等しいため、相手側の計画は何から何まで筒抜けだ。

 こちらとしても刺客を返り討ちにして相手の望みを全て立った上で仕掛けたいからな。宿に招待してくれると言うのは願ったり叶ったり。

 あえて誘いに乗ろう。となれば、後はギルドマスターがバックヤードから出てくるのを待つのみだ……

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