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498:盗賊団のボスを討て

「ぬぅうううううううああぁぁぁぁっ!!!」

「うぅおおおおおぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁっ!!!」


 ガキィン! と激しい衝突音と共に、開けた空間内に衝撃波が吹き荒れる。

 竜一とシンドロは同時に弾き飛ばされるが、何とかその場に踏ん張ってもう一度剣をぶつけ合う。


「やるじゃねぇか。剣も良いが、お前自身もなかなかのパワーのようだ」

「そっちこそ、見た目に違わぬ剛力で感心するよ」


 剣をぶつけては弾かれ、再びぶつけ合う――それを何度も繰り返した二人は、このままでは埒が明かないと判断。

 シンドロは大剣を地面へ突き刺し、そこを起点に岩盤を隆起させ竜一の方へと仕向けてきた。


「遠距離に切り替えて来たか。だったら――」


 竜一は瞬時に手元へ銃を召喚し、横っ飛びで岩を回避しつつ実弾に魔力を込めた上で連続して放つ。

 向こうも遠距離攻撃の手段を出してきた事に驚きながらも、シンドロは大剣を抜きとっさにシールドのように前方へ構えた。

 銃弾は次々と大剣にヒットし、同時に次々と爆発を起こす。普通の銃弾ならあり得ない、魔力を込めたが故の現象だ。


「ちぃっ、良く分からんが小賢しい技を……なっ!?」


 爆発を防ぎ、自身の視界を塞ぐようになっていた大剣を退けた途端、そこに飛び込んできたのはほのかに赤く光る剣を構えた竜一の姿。

 シンドロが盾を構えた瞬間から既に銃を消して走り出しており、刺突する構えで可能な限り接近していた。

 射程内で剣を振ろうとすると、その分攻撃までの隙間時間が生じてしまうが、突きであればその分の時間すら短縮出来る。


 そのわずかな時間差でシンドロの間近にまで迫る。向こうも気づいたが、表情には焦りが見えている。

 しかし、向こうも幾人の冒険者を返り討ちにしてきた男。可能な限り回避を試みて、何と右脇腹を切り裂かれるだけで済ませる。

 竜一は回避と同時に反撃が来るかもしれないと警戒し、シンドロを切り裂いた直後に前へ飛び跳ねつつ身体を回して受け身を取った。


「やってくれるじゃねぇか。ちょっと裂かれただけとは言え、なかなかにヒリヒリしやがるな」

「地味に嫌だろう? あともう一つ、オマケで細工してあってな……。それもそのうち効いてくるんじゃないか?」

「テメェ、まさか――」


 竜一は再び剣を手に取って構えた。そして、相手が動揺している隙に刀身へ力を注ぎ込む。

 オリハルコンはあらゆる『力』との相性が良い。物理攻撃向きの闘気、魔術攻撃向きの魔力、回復や補助向きの法力。

 どんな力でも刀身に込めて、その力の効果を付属させる事が出来る。先程斬った時も、実は魔力を込めていた。


「さぁ、仕切り直しと行くか!」


 先程と同じように剣をぶつけに行く。シンドロも同じく大剣で迎え撃つが、今度は弾かれてしまった。


「(キズの痛みで踏ん張りが利かねぇ……。いや、それだけじゃねぇか)」


 竜一の持つ剣が淡く黄色い輝きを放っている。シンドロはそこで相手の剣の特異性に気が付いた。

 打ち合っている時は特に変化が無かったが、不意を突かれた時は赤色、そして今度は黄色。何かしら違う効果を発現している証だ。

 早く姿勢を戻さなければ、先程よりも重く致命的な二撃目を受けてしまう。シンドロはそう考えるも、予期せぬ邪魔が入る。


「ぐあっ!?」


 剣を構えなおした所で、先程斬られたキズがさらに抉られたかのような強い痛みを発した。

 大男でも平常ぶる事が出来ない程の激しい痛みに思わず姿勢を崩し、そこへ竜一の振る剣の刃が迫った。

 もうどうやっても回避も防御も間に合わない。オリハルコンの剣は容易くシンドロの首を刎ねた。


『……残念ながら不合格ですね。どの道、その程度の実力ではかの犯罪都市ゼタスを生き抜く事は出来ません』


 ヴァローナが裁定を下す。シンドロはこの状況を打破して生き延びる事が出来なかった。

 もしスカウト出来たのであればそれで良し、出来なくても抹殺さえされればこの世から悪が減るので良し。

 中途半端に情けを掛けたり、助命を乞うような事があれば話は別だが、結果としては悪くなかった。


『リューイチさんと仰いましたか。せっかくなので、この機会にこれを』

「うぉっ! ビックリした」


 ヴァローナが一瞬にして竜一の目の前に出現し、何処からか取り出した一枚のカードを手渡す。


『これはゼタスへの招待状です。一見の来訪者でも入る事は出来ますが、これがあれば色々と優待を受けられますよ』


 再び一瞬で移動し、リチェルカーレの隣へと戻り、深々と一礼する。


『それでは、私はこれにて失礼いたします。リチェルカーレ様、この度はお世話になりました』

「あぁ、いつかリューイチを連れて挨拶に伺うよ」


 リチェルカーレは右手をヒラヒラさせてヴァローナを見送っていた。



 ◆



 俺が手渡されたのは、鴉のような意匠が描かれた黒いカードだった。曰く、ゼタスへの招待状だったか。

 ゼタスに招かれる資格があるのは『稀代の悪』と認められた者だけと言っていた気がするが、俺は稀代の悪だったのか……?


「安心するといい。君はそういう観点からの招待じゃないよ」


 相変わらず俺の心を読んだかのような返答だ。


「簡単に言うと気に入られたのさ。世界中を旅するというのなら、ゼタスも候補地に入れておくといい。きっと刺激的な体験が出来るハズだよ」


 せっかくの第二の人生だしな。命尽きるまでに異世界中のありとあらゆる場所を巡りたいとは思っている。

 例え犯罪都市ゼタスとか言う物騒な所であろうが、俺にとっては巡るべき場所の一つでしかない。

 そもそも、カメラマン時代に戦場のみならず、そういうヤバい所の取材だって腐る程やっていたしな。


「無事生き残れましたね、竜一さん。相手を考えると、さすがに剣のみでの勝利は難しかったでしょうし、乗り越えた事自体を試練達成の証としましょう」

「ありがとうございます」


 剣術について教えを乞う身だし、今後は桜と呼び捨てるのではなく『桜さん』と呼ばせて頂こうか。

 見た目的についつい同年代のような感じで読んでしまいそうになるが、リチェルカーレと同じく人間を辞めた存在――剣聖なんだよな。


『こちらハル。私が進んだルートの先には宝物庫があったわ。見張りは倒しておいたけど、どうします?』

「宝物庫――盗賊達が盗んできたものですか。さて、どうす――」

「あぁ、アタシが行って回収するよ。持ち主が分かるものは返却して、分からないものは寄付でもしてやろうじゃないか」

「分からないものは懐に収める……とでも言うかと思ったぞ」

「そんなみみっちぃ事はしないよ。わざわざ盗らなくても金に余裕はあるんだ。じゃ、行ってくる」


 そう言ってリチェルカーレは空間転移でこの場から消え、魔術導具を通じて見えるハルの所へ姿を現した。


『こちらスネイデン。俺の進んだルートは最終的に別の出口へ辿り着いた。おそらく複数の出入り口を用意していたんだろうな』

「洞窟を根城にしていて出入口を一つにするのは無謀極まりないですからね。襲撃にしろ災害にしろ、手早く脱出できるようにしてあるのは当然の事でしょうね」


 何事も無く終わると言うのは、ある意味では一番の当たりだな。厄介事に遭遇せずに済む訳だし。

 言い換えれば何事も起きないからつまらなくもある。俺のように何かしら起こるのを求める身からすればハズレだな。


『こちらレミアです。途中から舗装された通路に出ました。間違いなく人工的に作られた建造物と繋がっています。この先の調査はどうしますか?』

「そう言えば盗賊の頭が貴族と繋がっているような事を言っていましたね。依頼主に奴隷を引き渡していたようですし、おそらくそこを通じてやり取りしていたのでしょう。ですが、踏み込むのは待ってください」


 桜さんはそれ以上の進行を止めた。レミア程の実力があれば一人でも全く問題ないだろうが、おそらく狙いがある。

 このまま襲撃しても問題解決にはなるだろうが、それはあくまでもベターだ。ベストな解決を狙うなら踏み込むべきではない。

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