表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類滅亡の可否を背負わされるなんてまっぴらごめん  作者: 金屋かつひさ
第9章 人類滅亡の可否を背負わされるなんてまっぴらごめん
131/134

131

 先輩の予想外のひと言。思わず大きな声が出た。


「とんでもない!」


 花見客の視線が一斉いっせいにこっちに突き刺さる。


「ちょっと、声が大きい」


 先輩に小声でたしなめられる。周りからクスクス笑いが漏れる。うわあ恥ずかしい。

 こそこそと逃げるようにその場を離れた。


「すみません。でも絶対そんなことないです。俺が好きなのは先輩だけです。これは変わってません」


 少し歩いてからできるだけ力を込めて言った。これは本心のはずだ。


「そう。じゃあなんでお昼誘いに来てくれなくなったの」

「えっ、先輩、誘ってもいっつも断るじゃないですか」

「ふうん。だからあきらめたんだ」

「違います。諦めたんじゃありません。ただ……」

「ただ?」

「親しい友人と別れたんです。それもふたりいっぺんに。そいつらは頼りになるやつらで。俺はいっつもそいつらを頼ってばかりだったんです。ここだけの話ですが、そいつらに先輩と仲良くなれる方法を相談したことだってあるんです」


 ゆっくりと、言葉を選びながら話した。ほんとは全部言いたかったけどそうはいかない。ふたりのことは友人だと言って。ふたりのことが美砂ちゃんと久梨亜だとはばれないようにして。


「そうだったんだ」


 先輩がぽつっと言った。しばらく無言で歩いた。


「その人たちとはどうして別れたの? ケンカでもした?」


 ふと思い出したかのように先輩が言った。横顔の向こうを風に舞った花びらが横切った。


「違います。急な転勤……、だったかな」

「『急な』って。前から決まってたんじゃないの?」

「違うんです。ずっとこっちにいるはずでした。それがあの日……。病院に先輩を訪ねたあの日、アパートに帰ったら手紙が届いてたんです。『地元に帰ることになった』って」


 涙が出そうになる。少し上を向こう。太陽で乾かそう。


「『地元に』かあ。そこは遠いの?」

「そうですね。時間はずいぶんかかりますね。俺も行ったことはありません。たぶん当分行くことはないですね」


 そう、当分()くことはない。先輩を悲しませられない。俺は人生をまっとうしてやるんだ。大往生してやるんだ。そして寿命が尽きてあの世に逝ったらふたりにこう言ってやるんだ。「よう、待たせたな」って。

 美砂ちゃんは歓迎してくれるかな。まだ俺のことが大好きかな。他に好きな人ができたりしてねえだろうな。

 久梨亜のやつは皮肉のひとつも言いそうだ。ふたりともあのままの姿だろうな。俺も魂だけだから一番カッコイイ姿で逢えるよな。楽しみだな。どんな話をしようか。


 先輩より俺の方が早くあの世に逝くだろうな。そしたら3人でたわいもない話をしよう。たぶん俺が突っ込まれてばかりだろうな。でも楽しいだろうな。

 で、先輩が後から来たらタネ明かしだ。ビックリするだろうな。なんせ自分のすぐ近くに天使と悪魔がいたんだからな。どんな顔をするだろうな。「なんで教えてくれなかったの!」って怒られそうだ。でもそれもいい。やっぱ俺Mだわ。今確信した。


 着信音。先輩がiPhoneを取り出す。どうやらしびれを切らした他の連中からのようだ。


「先に行ってください。俺、桜を見ながら後からゆっくり行きますから」


 先輩をうながす。実は涙がもう限界なんだ。先輩には気づかれたくない。真上を向いて乾かしたい。


 先輩が離れたので真上を向いた。青い空が見えるはずだ。ところが違った。黒い点が見えた。見る間に大きくなる。人だ! 人が落ちてくる!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ