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勝算なんかない。あそこに奥名先輩がいる。絶望的な状況で諦めずにいる。なら俺が諦めてどうする。ただそれだけ。
「とうとう頭がおかしくなったと見える。このわしに勝負を挑むとはな」
「さようで。まああの状況を見せられたらおかしくならないほうが無理ってもんで」
また神と悪魔が笑ってやがる。チクショウ。確かに人類は神の暇つぶしの道具かもしれねえ。でも決して神のおもちゃじゃねえんだ。
「神と悪魔が賭けをする、それは別にいい。大いにやってくれ。でもそれでどうして人類が滅亡しなきゃいけないんだ。人類は関係ないだろ!」
そうだ、人類は関係ない。それでも人類を滅亡させるというなら人類にもいっちょ噛む権利がある。
考えろ。考えるんだ。先輩を、奥名先輩を助けなきゃ。それができるのは俺ひとりなんだ。
神のやつがフフッと笑った。
「どうやら言葉で説いても無駄のようだな」
「そのようで。よろしいではないですか。なにで勝負するつもりか知りませんがひとつ相手をしては。ちょうどいい暇つぶしになるのでは」
メフィストフェレスがニヤリと笑う。この野郎、俺をバカにしてやがるのか。
神の乗る雲がゆっくりと降りてきた。俺の手前数メートルのところに着く。そして神は静かに地面へと歩を進めた。
「さあ、貴様と同じ高さまで降りてきてやったぞ。ありがたく思うがいい」
上から目線が妙にむかつく。でもそんなことはどうでもいい。奥名先輩を助けなきゃいけないんだ。正直勝てるとは思わない。でもひと泡くらいなら吹かせられるかも。こんなボンクラな俺にひと泡吹かせられたとなれば、いくら神であっても人類を認めざるを得まい。
「てめえらの賭けに人類は関係ない。もし人類を滅亡させたいのなら人類と、すなわち俺と勝負しろ!」
「いいだろう。だがまともにやっても結果は見えておる。よってハンデをやろう。勝負の種目、ルールは全部そちらが決めよ。好きにするがよい。まあそうであっても何も変わらんがな」
ホッホッホッと神は笑った。今はその笑いかたさえも癪に障る。ダメだ、今年のクリスマスからサンタが大嫌いになりそうだ。もし今年のクリスマスがあれば、だがな。
周りを見回す。美砂ちゃんの姿が見える。おどおどしている。そうだよな。彼女の主様である神とこの俺が勝負するんだもんな。彼女はどっちの味方だろう。また「分かりません!」って言うのかな。でももし美砂ちゃんが味方をしてくれなくても俺は彼女を恨まない。だって彼女は天使なんだ。俺の味方をしたら堕天使になっちまうかも。
後ろを見る。久梨亜がいる。そういえば俺が割り込んでから彼女は鞭打たれてないはず。ならよかった。こんな俺でも少しは人の役に立てたってことだな。あっでも彼女は人じゃなかった。悪魔の役に立てたなんて不思議な気分だな。
彼女はどっちの味方だろう。メフィストフェレスが神の軍門に降った今となってはやはり神の側か。でも俺が勝負する相手は悪魔じゃなくて神。せめて中立だと助かるんだけどな。
「じゃああっしが審判を務めるといたしやしょう。公正にやりますぜ」
メフィストフェレスが宣言する。よし、これで久梨亜は中立だ。
神は頷いた。そして俺の方を向いた。
「ではなにで勝負するつもりか言ってみよ」
神のでかい鼻が見える。見てろよ、その鼻あかしてやる。
ひとつ深呼吸をした。そして大声で言い放った。
「勝負は……、大食い競争!」