表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/134

110

 圧倒的だった。人が足もとのアリに対して感じるよりも数段超えて差があった。

 神からしたら人類など人にとってのアリ未満の存在だったのだ。


 神にとって人類は道具、しかも単なる「暇つぶしの道具」でしかなかった。しかし神は暇を持て余した。人類は役に立たなかった。なので滅ぼすことにした。無茶苦茶だ。身勝手だ。でも神からしたら当然なのか。


「どうじゃ、分かったか」


 空から降る圧倒的なパワー。遂に俺はガックリと膝をついた。


 チクショウ、どうすればいいんだ。このまま人類が滅亡するのを指をくわえて見ていろって言うのか。


「メフィストフェレスよ、そちはどうじゃ。もうあきらめはついたのか」


 神の言葉ももはや俺の耳を素通りするだけ。


「しょうがありませんな。あっしが賭けに負けたことは事実。もう動かせますまい。それより神様、先ほど『古いのを捨てて新しいのと取り替える』とおっしゃいましたな。それはつまり……」

「うむ。わしも『暇つぶしの道具』がなくなるのはつらい。であるからこの出来損できそこないを滅ぼしたならばその後で新たな『暇つぶしの道具』を創ることにしよう。おぬしら悪魔はその新しい者たちの魂を取るがよかろう」

「そいつはいいことを聞いた。これでサタンの旦那にも顔向けができるってもんでさあ」


 遂に悪魔メフィストフェレスが神の軍門にくだった。人類滅亡の阻止に協力してくれるかもって期待していたのに。もはや味方はいない。人類滅亡の阻止に動けるのは俺ひとりしかいない。でも俺ひとりでなにができる?


 俺は今俺にできるたったひとつのことをやった。すなわち神の野郎をにらみつけることを、だ。


「ほう。この状況でまだあきらめておらぬと見える」


 いかにも余裕しゃくしゃくといったようすの神の声が降ってくる。


「いかにもそのようで。まさか人類がこれほどおろかだったとは、この悪魔メフィストフェレス、すっかり忘れておりました」

「うむ。まあよかろう。どうせ『暇つぶしの道具』として創った人類だ。最期までその役割をまっとうさせてやるとするかのう。せめて最期だけは楽しませてもらいたいものよのう」


 神と悪魔が笑ってやがる。くそっ。ほかならぬ人類の命運がどうして神と悪魔だけで決められなきゃいけないんだ。なんで蚊帳かやの外なんだ。人類の命運は人類それ自身に決める権利があるんじゃねえのか。


 神が宙に手をかざしたのが見えた。するとその先の空間が揺らぎ、たちまちのうちに立体映像が浮かび上がる。巨大な立体映像だ。


 街に水が渦巻いていた。轟々(ごうごう)と風がうなり、次々と電柱が倒れ火花が散っていた。濁流に車が飲み込まれていた。ノアの箱船の大洪水が再来しようとしていた。


 映像はカメラがパンするかのように横に振られた。大きめの建物があった。病院だ。その入り口の高さの半分を超えるほどにまで水が押し寄せていた。


 映像が病院へと迫った。壁を通り抜けた。ロビーが海のようだ。濁流に長椅子がいくつも流されぶつかり合っていた。


 映像は病院の階段を上った。上階へ避難した人たちが身を寄せ合って震えていた。いやおびえていた。窓ガラスが割れて雨風が吹き込んでいた。


 そして俺はその中に見たんだ。そうやって怯えている人たちを必死に励まそうとするひとりの存在を。ひとりの女性を。


 間違いなかった。奥名先輩がそこにいた。


 俺の中でなにかが音を立てて切れた。思わず叫んでいた。


「おい神、俺と勝負しろ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ