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 愉快そうに笑う神様。その姿に俺の中に再び神様への怒りが沸き起こった。


「どういうことだ!」


 思わず神様に向かって怒鳴っていた。いや、神“様”なんかじゃない。ただの“神”だ。怒りがやつへの敬意などというものをどこかへ吹き飛ばしてしまっていた。


「あのふたつの選択肢がどちらも“正解”だとはどういうことだ! あれはどちらを選んでも死人が出るんだぞ! しかもけが人も大勢だ。そんな選択肢を神ともあろう存在が“正解”とするだなんて、いったいなにを考えているんだ!」


 神をにらんだ。睨みつけた。そいつは果たして“神”と呼べるのか。人類に不幸をもたらす存在なんかを“神”などと呼んでいいのか。


 だが神は顔色ひとつ変えず俺に向かって言い放った。


おろかなり人類。おぬしもやはり勘違いしておるようじゃのう」


 変わらず荘厳な声。それほど大きくはない。しかし俺はそこにすさまじい圧力を感じた。圧倒的な神のパワーを感じた。


「勘違い、だと」

「そうじゃ。おぬしら人類は神が人類のためにあるように考えておる。だから神の行いが人類に不幸をもたらすと『なぜ』と言う。しかしそれが間違いなのじゃ」

「間違い……」

「そうじゃ。神が人類のためにあるのではない。人類が神のためにあるのだ。神の行うことは全て正しい。たとえそれが人類の考える“正しい”に反することであろうと。人類を不幸にすることであろうと」

「なんだと」

「そして神の意思に反することは全て間違っているのだ。たとえそれが人類のためになることであろうとも」


 高らかに言い渡された神の言葉。そのパワーに思わずくじけそうになる。しかし間違ってる。神の言うことは絶対に間違ってる。


「だが神が人類を創ったんだろ。創造主なんだろ。なら神が人類の幸せを願うのは当然のことじゃないのか」

「まだ分からぬのか。ならおぬしら人類は自分の作ったものの幸せを願うのか? たとえばハサミ。ハサミは間違いなくおぬしら人類が作ったもの。おぬしらはハサミの幸せを願うのか? 切れなくなったら捨てて新しいのと取り替えるのではないのか」

「ハサミと人類は違うだろ。ハサミは単なる道具に過ぎない」

「そう、“道具”だ。そして神にとっては人類も“道具”に過ぎぬ。単なる“暇つぶしの道具”にな。そしてその道具はその存在理由である暇つぶしの役に立たなくなったのだ。なら古いのを捨てて新しいのと取り替えるのは当然のことではないのか」


 神のパワーに膝をつきそうになる。チクショウ! 道具だと! 人類が神の道具だと! そんなの絶対認めるもんか!


「人類は道具じゃない! 心もあれば意思も、感情だってあるんだ!」

「それがどうした。それはわしがそのように創ったからだ。人類という道具の持つ属性のひとつに過ぎない」

「なら苦しむことも知っているだろ! そしてその苦しみから逃れるために神にすがることも知っているだろ! それを無視するのか!」

「それも勘違いだ。神は人の願いを聞いてやっているわけではない。幾千万にも及ぶ人の願いの中で神の意思に沿うもの、そういうものだけが実現する。なぜならそれらは元から神がそうあるべきと意思したものだからだ。人の願いで神が動いているわけではない。人は神を信じると幸せになれると思っているようだがそうとは限らん。それはあのウツの地のヨブの物語を読めばおぬしにも分かるであろう」

※ウツの地のヨブの物語:旧約聖書の『ヨブ記』のこと。

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